アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫 JA カ 3-43)
- 早川書房 (2011年3月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (517ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150310240
作品紹介・あらすじ
地球のジャーナリスト、リン・ジャクスンに届いた手紙は、ジャムと結託してFAFを支配したというロンバート大佐からの、人類に対する宣戦布告だった。ついに開始されたジャムの総攻撃のなか、FAFと特殊戦、そして深井零と雪風を待ち受けていたのは、人間の認識、主観そのものが通用しない苛酷な現実だった-。『戦闘妖精・雪風(改)』『グッドラック』に続く、著者のライフワークたる傑作シリーズ、待望の第3作。
感想・レビュー・書評
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うーん、難しい。
筆致力は前2作より更に上がっている、気がする。
だけど内容はより哲学的・形而上学的なものになり過ぎて、理解するのが本当に難しい。メタ認知に次ぐメタ認知。空中戦でも地上戦でもなく、心理戦がメインとなるジャムとの戦争。
特にロンバート大佐の言うこと、本当に訳わからん。
自己、言葉、自意識、潜在意識、仮想、現実、虚構、神、機械、人間、、、これらのキーワードが、それぞれ様々な接続詞や等号で複雑に結ばれて出来上がったものがこの雪風シリーズのテーマなのだけど、残念ながら僕にそれを上手く説明する語彙力は無い。完全に理解できてもいない。
それでも途中で読むことをやめられないのは先述の通り筆致力と、ストーリーの重厚さだろう。
あと読んでいてとてもアニメ的だと思った。「パプリカ」とかみたいな時系列グチャグチャ系アニメを彷彿とさせる。
OVA見てみたいな。
もう少し色々な本を読んで賢くなってからまたいつか読み直したい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
言葉という武器。認識というトラップ。インターフェイスという戦場。
不肖鴨、もぅ20年以上SFを読み続けていますが、これほど過激な(物理的な意味において、ではなく、構造的な意味においてです)戦闘シーンを目の当たりにしたのは初めてです。
シリーズ第一作では、「人間と機械の相克」が主なテーマでした。が、この第三作に至っては、第一作のテーマすら小さいと思えてしまうぐらい、斜め上の世界に到達しています。もぅ本当に、タイトルで損をしている作品。爽快なスカイ・アクションを期待していると肩すかしをくらいますが、それ以上に激しい「思考の格闘」が、壮絶なヴィジョンと共に眼前に立ち現れます。
作品の前半部分は、主要な登場人物が主観的な目線で、ひたすら自己の思考を執拗なまでに克明に詳細に記載していきます。読者としてはかなり冗長なフレーズなんですが、物語が大きな展開を見せる後半部分において、ここまでもどかしいストーリー展開の理由が明らかにされます。
この作品を読むという、その行為さえが世界観に取り込まれているというこの驚愕。
それらの重層的構造を扨措いても、ラストシーンの雪風の美しさよ!続編を切に期待します。 -
人間、ジャム、戦闘知性体、そしてロンバート。各者の思惑が入り乱れる量子論的な世界で翻弄される零がかわいい。今回はドンパチはほとんどなく、禅問答あるいはミステリ的論理パズルのような思考劇が主。なのだけれど、雪風が人間との積極的な接触を開始するところでもう笑いが止まらなかった。来たよ来たよついに!!その意味で『雪風は、会議を望んでいます』がハイライトなわけです。被造物である機械知性体が人間をある部分では凌駕しつつもやはり単独では目的を遂げられないことを知り、協力関係を申し出る。ここに燃えずしてどこに燃えるか。
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作者の主張が溢れ出した雪風シリーズ3作目。
機械知性からみた世界の認識っていう視点は自分にとって新鮮だった。戦闘機に搭載されたAI視点。
前2作と比べて圧倒的に哲学的と言うか、禅問答的な感じが多く、わかるような気がするけどわからん、というのを繰り返していた。やや消化不良。 -
ジャムの存在が神学論とか、哲学的な話題が出てきて、大分こんがらがった。結末は、綺麗な最後のようにも、続きが期待されるようにも感じる。でも、やっぱり深井大尉と雪風にもう一度会いたい。
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中ほどはもたついたけど、後半の種明かしからの展開はやはり面白い。
「言葉」についての思索を展開するだけあって、体言止めと多発してた1作目の「雪風」っぽさは消えて、最近の神林作品になった感じ。
そのせいもあってか、ちょっと丸くなったとも感じるが、1作目ラストの衝撃を求めることは難しいのは当然でしょう。
1作目は主人公と雪風、それぞれについての話、2作目は雪風との関係性についての話、そしてこの3作目は雪風と人類の関係性の話。
とくると4作目はジャムについての話にならざるを得ないか。でもそれは読みたくないな。ジャムが人類に興味を持ってるだけでもちょっと興ざめなんだもの。 -
1作目の『雪風』を読んだ時はまさかこんなストーリーになるとは思ってみず…。いや、私が読み切れていなかったのか?
あちこち変わる視点。作中で起こっている「現実」。
登場人物たちの各視点を飛び、読みながら、私自身がエディスの診察を受けたくなる気分になってしまった。
しかし、雪風が人間との会議を求めているとわかった段階で、何だかすとんと腑に落ちる。
これは人が異性体ジャムに人間という存在を認めさせるための戦い。
そして、ここまで来たら後は戦うのみ!
引き絞られた矢が一体どこに向かって放たれるのか?続編が待たれる。 -
ジャムの代理人による人類への宣戦布告から始まる第三部。
だが中身は戦争ものというよりも“意識”や“世界”、“リアル”という諸認識を探る哲学書の趣――なのだが、これが面白いのだから実に困る、いや困らないか(笑)。
そして、第三部にして、ようやっと、深井大尉は戦闘を宣言したのだな。
「おれは、人間だ。これが人間だ。わかったか、ジャム」
それに応えたかのように飛ぶ雪風は、痺れるほど美しい。
SFの醍醐味だ。