- Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150310363
作品紹介・あらすじ
西暦2083年。人工神経制御言語・ITPの開発者サマンサは、ITPテキストで記述される仮想人格"wanna be"に小説の執筆をさせることによって、使用者が創造性を兼ね備えるという証明を試みていた。そんな矢先、サマンサの余命が半年であることが判明。彼女は残された日々を、ITP商品化の障壁である"感覚の平板化"の解決に捧げようとする。いっぽう"wanna be"は徐々に、彼女のための物語を語りはじめるが…。
感想・レビュー・書評
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SF的な展開と人間的な描写と、そのレベルが双方高く、それでいてちょうど良い塩梅になっている。
ITPという人工的に作られた人格が、この小説のSF的な核。他には、未来社会のテクノロジーとして登場する紙状端末や全自動車、羊水ベッドなどのパーツがもよかった。さらに、SFの名作たちが引用されるのはこれまたSFファンの心をくすぐる。しかも、未来世界での、著作権が切れたフリー蔵書というのがまたメタSF的。
人間描写も良い。ITPというテクノロジーを媒介として、人間とは何かを再発見するような作品。そこでは多面的にテーマが描かれる。信仰と科学。死と生。肉体と精神あるいは知性。人間と人工知能。都会と田舎。科学的真理と世論。死と愛。変わるものと変わらないもの…等。複合的なテーマを多軸で扱う、力量がある作家と見た。
それからシンプルに、文章の醸し出す雰囲気がよい。日本人作家が書いているのに、どこか海外ドラマチック。映像的で、海外的。だけど日本語で書かれたのだから、失敗した翻訳にありがちな読みにくさはもちろんない。
物語の終盤には驚くほど没頭した。広げた世界の収斂のさせ方が巧すぎる。
サマンサは wanna be が解き放たれた様に救われた。そして「過去の自分」に物語を与えることで、自分自身も救った。と読んだ。また、そこでは「人間性の境界」が規定された。それはとても分かりやすく、結末として収まりが良かった。
それにしても、最後まで「物語」で貫いてみせるのは、上手いねぇ。読者もまた「物語」られているというメタ構造。
面白かった。これまで読んできた国内SFの中でも、ベスト5に入るんじゃないかってくらいの傑作。再読必至。数年後にまた読み返したい。
(書評ブログもよろしくお願いします)
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死の物語です。
死に直面し、呪い、足掻き、目を逸らし、誤魔化し、悪罵を撒き散らし、孤立して、苦しむ。
そして力尽き尊厳を奪われ動物のように死ぬ。
そんな物語を単行本1冊費やして描いたSF小説。
強力なAIや脳の編集技術の登場で個性や人格から聖性が奪われ相対化されゆく未来が舞台。
テクノロジーの発達を配置することで可能になった人の死の意味への純化した問いかけを徹底的に突き詰め、残酷なほどに端的に、結論を差し出し作者は言う。
これは「あなたのための物語」だよ、と。
私の、そして君にも、いつか必ず訪れる最期の物語。
心の弱ってる人は読んだらダメな物語。 -
読了するまで、海外作家作品の翻訳本かと思ってしまった。それだけ設定が近未来的(SF久しぶりだからそう感じただけの可能性もある)で、さっぱりとした語り口だった印象がある。
それだけにラストが切ない。 -
面白かった。SF苦手だけど楽しく読めた。
死についてふわっとしか考えられてなかったのかも、と思った。 -
未来設定のSF。SFは頭に余裕がないと設定についていけそうにないような気がして、仕事にバタバタしている間ずっと積んだままになってたのですが。仕事にバタバタしてるのは引き続きにもかかわらず、読みたくなって読んでみました。
面白かったー。予想に反して全編にわたっていろいろな葛藤や、絶望や、エゴイズムに溢れてて、でも読み進めるのがいやにはならなかった。綺麗事にはならないんだけど、自我の芽生え方には心を打つ描写があって、それがなかなか主人公の思い通りにはいかず、わざとらしくなさすぎてよかったです。 -
物語自体は 残酷で エグくて 重い
でも だからこそ主人公の傍でサマンサだけの物語を書き続ける《wanna be》の存在がとても綺麗だった
この物語を読んで感じたよろこびや哀しみをITPに繋いでテキスト化したい -
宗教を否定し、科学の力を持って「生」「死」に抗う主人公・サマンサの人生を、死に至るまで克明に綴った小説。SFというカテゴライズじゃ収まらない気がします。あちこちに鏤められた言葉を拾い始めると、読み手も哲学的にならずには居られません。
「地には豊穣」を読んで興味を持った作家さんです。
情景描写も心理描写も緻密でくどい程にキッチリ描き切る筆力が如何無く発揮されていました。正直、此処まで書かなければ半分の頁数で済むんじゃないかと思う程。その緻密さあってこその、最後の一文の重さ。
読んでいる間はまさに「言葉を奪われ」ている状態でした。
スタンディングオベーション。