バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫 JA ツ 2-1)

著者 :
  • 早川書房
3.50
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本棚登録 : 518
感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310554

作品紹介・あらすじ

造形家である木根原の娘・理沙は、九年前に海辺で溺れてから深昏睡状態にある。「五番めは?」-彼を追いかけてくる幻聴と、モーツァルトの楽曲。高速道路ではありえない津波に遭遇し、各所で七本肢の巨大蜘蛛が目撃されているとも知る。担当医師の龍神は、理沙の夢想が東京に"砂嵐"を巻き起こしていると語るが…。『綺譚集』『11』の稀代の幻視者が、あまりにも精緻に構築した機械仕掛の幻想、全3章。

感想・レビュー・書評

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  • 感想のための語彙が完全に消失する超傑作。あらすじはシュルレアリスティックな要素を散りばめたようでありながら、読み始めてみると文章も世界観もストーリーも登場人物もガチガチに組まれていることがわかり、全ての要素が収斂していく3章を読み終えた後はさながら美麗な巨大建築を下から上まで順に眺めていったかのような気分にさせられる。人称の使い方も3章で出てくるあらゆる設定も、「これだけで絶対本書けるだろ!」みたいなアイディアが300ページの中にぎっちり詰め込まれるめちゃくちゃ贅沢な1作である。小説ってこんなに面白いことができるんだ!という新鮮な感動に出会わせてくれたことに感謝しかない。この小説の魅力を日本だけに留めておくのは絶対にもったいない、もう翻訳されてるのか?
    一章だけでも今敏が映像化したやつを見てみたいと思ってしまう……

  • 難しすぎる。
    理解しようととするのが間違ってるのかもしれない。

    津原泰水さんが亡くなったから、紀伊國屋でこの本が平積みされてた。
    「バレエ」の文字が気になって読んでみたけど…
    初め、SFだと知らなくて、なかなか入り込めなかった。だがしかし、SFを読みなれない私は最後まで入り込めなかった。

    SFってこんな難しいもんやっけ?!

    あと、津原さん、おそらく自分の趣向であろう音楽とかお酒の名前をチラチラ出してくるのが、村上春樹みたいだった。私そういうのあんまり好きじゃない。

  • 著者の訃報を受けて再読。初読時はまだ『ニューロマンサー』を読んでなかったのでわからなかったけど、この小説は『ニューロマンサー』を逆向きに読むみたいな構成なんだな。最後のシーンが百閒の「冥途」なのも今回初めて気づいた。
    ガスや電気が使われ始めるのと同じく興隆してきた19世紀の心霊主義のように、テクノロジーを信じるがゆえに死後の世界がいつか可視化されると信じる人もいる。日常的にメタバースという言葉が飛び交うようになった今、VR空間で「不死を売る」ビジネスは前より容易にイメージできる。
    津原さんは「電脳空間に幽霊が生まれる」のではなく、「幽霊が電脳空間を生みだす」未来を幻視した。そこがギブスンと比べて人間中心主義だと言ってもいいだろう。都市を神経的に操るのはウィンターミュートでもニューロマンサーでもなく、7歳の少女なのだ。でもはじまりはきっとこうなんじゃないかと思う。そしていつかお互い混じり合って気がつかないうちに人間とAIの主従が逆転するのだろう。
    題名の元ネタになったレジェの映画とアンタイルの音楽をYoutubeで視聴したけど、やっぱりこの小説には坂本教授の同名曲のほうが合っている。人類がかつて幻視した未来のイメージに対するノスタルジア。世紀末に十年遅れてアナクロニックになった滅びのヴィジョンが、逆にこの作品を普遍的なものに引き上げたのではないだろうか。

  • 15:都市が生きているという設定はあれこれ見かけるけど、電磁波が飛び交う都市を脳そのものに見立てた作品は初めてだったように思います。理沙が幼いだけに、それまでの経験は色鮮やかでグロテスクなものとして再現されるのでしょうか。それとも、それを見る木根原や龍神たちが抱えた鬱屈が反映されて、そのように不気味に見えるだけなのでしょうか。
    幻想SFと名付けたくなるような、津原さんならではの非現実。物語が沼澤千夏に収束するのもまた、意味深でぞくぞくします。難しいけど面白かった。

  • 奇妙なタイトルに惹かれる。1920年代の前衛的な人間の出てこないバレエを創造した芸術活動から借りたシュールな作品。

    9年前に昏睡状態に陥った理沙の脳内活動と現実の東京がリンクしてくる。バラードを思わせるタイトル作から第3章までの構成。タイトル作はとてもシュールで面白いのですが、だんだんテクノロジー的なわかりやすいお話になってくる。自分的にはそんな説明的にならなくても良かったかな。

    猛暑のなかでシュールなバラードを読みたくなってきたぞ。

  • こういうのSFっていうのかな?SFの定義ってよくわかんない。ゆーたらガンダムもおジャ魔女も全部SFじゃね?みたいな。でもこういうのSFっていうんだろうなー。サイエンス・フィクション。サイエンス・ファンタジーとかでもいいんじゃないの。

    初っ端からぶっ飛ばしてて最初こそ???だったけど、変調子な雰囲気にどんどん嵌ってった感じ。作中で出てくる絵画やら曲やらはほとんどわからなかったので、わかっている人は尚楽しいのだろうな、とも思うがわからなかったからよかったようにも思う。ビートルズもよく知らないからなあ。そういう諸々キーワードを無固形に受け止めていたからだらだらっと読めたんじゃないかとも思う。

    しかし日本人作家の小説にはわりと木根原みたいな人出てくるよね。フランス人みたいなおっさん。フランス人みたいなおっさんだなって本当に思った(笑)フランスのおっさんの知り合いとかいないけど(笑)
    日本のリアルにこういうおっさんは実在するのだろうかとそこが一番気になりました。おわり。

  • シュールレアリスムに始まりサイバーパンクで終わる。
    発売当初から感想や書評を読んでも、どんな話かさっぱりわからなかったけれど、実際読んでみて、これは読まなきゃわからないな、と思った。
    様々なところでシュールレアリスムとかサイバーパンクとか言われていて、実際各章を取り上げるとそういう分類になると思うけれど、すべて読み終わったときの印象は、綺麗な話だな、ということだった。
    抽象的な表現だけど、私の内にある言葉では具体的に表すのはとても難しい。内側にある言葉で表そうとすると、そういう表現になってしまう。
    たぶん個々のキャラクターについて書けば、それなりに具体的な書き方もできるだろうし、個々のキャラクターにも魅力を感じているけれど、この小説を思い返してみるに、むしろ綺麗な話と抽象的な表現に留めておいていいんじゃないかと思う。

  • 津原泰水のサイバーパンクSF。全3章からなっており各章は独立しているがつながりがある。文章は一文一文考えて置かれている印象。「君」を主語とする二人称の部分もあり読みづらく感じる部分もあるかもしれない。よく考えて、文章であらわされるものを想像しながら読んでいくとおもしろい。

  • 眠り続ける少女の意識が都市に再現される物語。親がその都市で彼女を探し続ける1章が大好きです。
    電波障害とともに幻覚がいり混ざる町で、少女の面影を探し過去を見つめ続けます。そして人物を変えながら1冊を通して描く語りと巡礼も最高。

  • 津原泰水版ニューロマンサー。ようやく読めた。一章が二人称、二章が一人称、三章が一人称複数で書かれているところなども含めて、あらゆる技術を使って遊んでいるような印象の小説。すごい。そもそも幻想とSFの混じったようなこの世界観を人の頭に想起させつつ文章ひとつひとつも美しいのはどういうことなんだと頭を抱えてしまう。多分いろんな意味で理解できていないところもたくさんあるのでまた読み返したい。犬や馬の描写のあたたかみが好き。

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著者プロフィール

1964年広島市生まれ。青山学院大学卒業。“津原やすみ”名義での活動を経て、97年“津原泰水”名義で『妖都』を発表。著書に『蘆屋家の崩壊』『ブラバン』『バレエ・メカニック』『11』(Twitter文学賞)他多数。

「2023年 『五色の舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

津原泰水の作品

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