華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
4.10
  • (80)
  • (99)
  • (36)
  • (6)
  • (3)
本棚登録 : 727
感想 : 81
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (458ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310868

作品紹介・あらすじ

青澄は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長・ツキソメと会談し、お互いの立場を理解しあう。だが政府官僚同士の諍いや各国家連合間の謀略が複雑に絡み合い、平和的な問題解決を困難にしていた。同じ頃"国際環境研究連合"は、この星の絶望的な環境激変の予兆を掴み、極秘計画を発案する-最新の地球惑星科学をベースに、この星と人類の運命を真正面から描く、2010年代日本SFの金字塔。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 上田早夕里さんの描く世界は、最後にあなたなら、どうする?どうしたい?どうするべき?と問われているような感覚に陥ります。だから、物語の中で読み手の私は決着がつかないのです。この先の未来の行く末は、あなたたちが選択するのです……と言われているようで。

    まだ『破滅の王』と、この『華竜の宮』しか上田さんの作品は読んでいないのですが、この2つの世界はそんな風に胸にどっしりしたものが流れ込んできて、私はもがき苦しみます。それでも上田さんの世界は、苦しいだけの世界ではなく、水面はキラキラとしていて美しく、希望の光が水底まで差し込んできてくれます。
    絶望的でそれでも美しい世界なのです。
    そして、その中では人間はいつも愚かで、ちっぽけな存在です。

    『華竜の宮』では、人類が滅亡するかもしれない、そんな絶望的な状況が迫っているにも関わらず、人々は争いを続け、各国の政府は利権を得るために簡単に人の命を見捨てます。そんな人間に対して、何ものにも囚われない地球や自然は猛々しく牙を剥きます。更にこの世界には獣舟、魚舟などの異形のものが人間の手によって生み出されています。

    今、何と戦うべきなのか。答えは簡単なのに、それが何故こんなに難しいことになるのでしょう。
    結局どれだけ手を尽くしたところで、地球は滅亡するのかもしれないし、人類は絶滅するのかもしれません。
    それでも、最後まで懸命に人々は生きていく姿を上田さんは見せてくれます。
    「彼らは全力で生きた。それで充分じゃないか」
    と。

    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんばんは。
      nejidonさんの素敵なレビューが読めなく
      なるのは、すごく寂しいです。
      でも、nejidonさん...
      nejidonさん、こんばんは。
      nejidonさんの素敵なレビューが読めなく
      なるのは、すごく寂しいです。
      でも、nejidonさんのお気持ちもよく分か
      ります。何だか、心が疲れた時とかザワ
      ザワと落ち着かない時なんかは、特にそう思います。
      でも、nejidonさんいつでも覗きに来てく
      ださいね。とはいえ、ほんとムリしない
      で下さいね。
      心が疲れると本も読めなくなっちゃいますから。
      本が好きって気持ちだけで、nejidonさん
      と繋がっている……そう思えるだけでいい
      のですから(*^^*)
      2018/12/06
    • 沙都さん
      地球っこさん、コメント失礼いたします。

      ずいぶん昔のレビューを読んでいただきありがとうございます(笑)ただ、初期のレビューは、本当に一...
      地球っこさん、コメント失礼いたします。

      ずいぶん昔のレビューを読んでいただきありがとうございます(笑)ただ、初期のレビューは、本当に一、二行程度のものなので、あまり期待はしすぎないでください……

      さて、SFに興味を持ち始めた時に読んだのが、上田さんの『リリエンタールの末裔』そして『魚舟・獣舟』でした。特に『魚舟・獣舟』の表題作は、読んで衝撃を受けた覚えがあります。

      この短い短編で、これだけの世界を広げ、その上どこからが人なのか、どこまでが人なのか、という問いを投げかけることができるのか、と。

      そこから「魚舟・獣舟」と同じ世界観の『華竜の宮』その続編『深紅の碑文』と読み進めていきました。SFの面白さは上田さんに教えてもらった、といっても過言ではない気がします。


      最近の上田さんはSF以外にも作風を広げていらっしゃる印象を受けています。でも作風がSFであっても歴史であっても、きっと上田さんの作品の根底から問いかけてくるものは、通じるものがあるのでしょうね。地球っこさんのレビューやコメントを拝読してそんなことを思いました。

      それでは、失礼いたしました。
      2020/01/21
    • 地球っこさん
      とし長さん、おはようございます。
      上田さんには知らない世界へ連れて行ってもらいました。
      先が見えない不安でいっぱいなのに、どこかにちゃん...
      とし長さん、おはようございます。
      上田さんには知らない世界へ連れて行ってもらいました。
      先が見えない不安でいっぱいなのに、どこかにちゃんと希望もある……
      読み終えるとそんな気持ちでいっぱいになる、そんな世界です。
      SF以外の作品も書かれてるなんて、とても気になります。
      教えていただきありがとうございます♪
      2020/01/21
  • 50年以内に起こるという次なるホットプルームに備えて動き出した人類救済計画(極限環境適応計画)。狙われた疑似人間(獣舟変異体)ツキソメの遺伝子情報とネジェス(統合アメリカを中心とした巨大国家連合)の権力組織〈プロテウス〉の思惑。青澄公使はツキソメの身柄を〈プロテウス〉から守りきれるのか? そして人類の未来は?

    あくまでも「言葉だけで闘い、決して暴力を振るわない」理想の外交官を目指し、現実とのギャップに苦悩し自分を責め続ける青澄公使が、いかにも窮屈だがそこがカッコよくもあった。

    終末に向かう人類の姿を描いた秀逸なSF長篇だった。あくまで架空のお話だが、うして描かれると人類も捨てたもんじゃないな。

  • 上巻に続いて再読。
    あちこちの思惑が絡んでくると、青澄たちはどうするんだろうと気になって、次へ次へと面白く読めた。

    舞台が25世紀であっても、人間の本質は全然変わっていない。変わらないんだろうなと思う。
    だけど、どうしようもない人間ばかりじゃない。本気でどうにかしようとする人たちがいて、そういう希望があることに安心する。

    エピローグは、これまで以上に未来に思いを馳せた。
    この先どうなるかなんて分からないけれど、これはなんともロマンじゃないか。
    大変な危機に直面した人間の争いや憂いや醜さを思うよりも、可能性を繋ごうとすることに対する感動のほうが心に残った。

  • 下巻は一気に読んだ。面白くなると、読むスピードがどうしても速くなってしまう。だから文庫版を選択して電車で読む作戦にしたのだが、目的の駅を何度通り過ぎたか。

    今年(2024年)に入って直ぐに北陸で大地震が起きた。しかし復興支援は不十分。オリンピック誘致で国の金を湯水のように使ってIOCに賄賂を渡し続けた奴が知事をしているのだから、進むものも進まない。国もただ金を出すだけで、どの様に有効に使うべきかが判らないため非効率的な支援しかできない。とどのつまりが、GO TO トラベルまがいの旅行支援をまたも行おうとしている。これじゃあ、復興なんて夢のまた夢。そのくせ、バラマキキシダこと増税メガネはウクライナにまた兆レベルのお金をバラ撒こうとしている。こいつは日本国を潰す気か?早く総選挙をやってくれ!海外でも、ロシア・イスラエルの侵略は止まらず、紅海では海賊が勢いを増し、アメリカでの「もしトラ」で世界的に恐怖が高まっている。そうそう、志賀原発が無事でよかった、珠洲市に原発を建設しなくて本当に良かった。

    こんな世界の悪政が世界の人々を恐怖に陥れている状況はデフォルトと思わなければならない。人間は悪政の中で生き抜いていく運命にある。平和な社会なんてありえない、なぜなら人間から私利私欲を取り除くことは殆ど無理だから。本作品の主人公の様なタイプの人間はほんの少し存在しているから現実味を帯びている。人間から私利私欲がなくなったら、精神的エントロピーは増大し続け、人間社会は滅亡するだろう。

    エピローグでは予想通りの結末となったが、避難民全員を救出することなんて無理、これまで唯一上手くいったのは小松左京の日本沈没の日本人難民くらいだろう。いくら万全の準備をしたとしても、ある程度の犠牲はしょうがない。だが、生き残った人には未来に向けて頑張って欲しい。人間であるがゆえに間違いを繰り返すだろう。地球上で生きていかなければならないので大小の紛争は避けられないかもしれない。でも、人間には知恵がある。知恵だけが人間を救う。人間が人間であることを捨てても生きたい。全ては生きるために何をするか?に尽きる。この様な観点で人生を見直すと新しい発見が突如出現するかもしれない。しないかもしれない。さあ、どっちだ?

    上田早夕里さん、純文学方面に向かっていますね。それが彼女の現在の選択。いつか、オーシャンクロニクルの世界に再び戻ってきて欲しい。

  • 感想
    人間が作り出した装置に苦しみ、それと戦い、殺し合いながら、しかし何とか生きていく。

    最後の一文、彼らは全力で生きた。それで十分じゃないか。これにこの本の全てが入っているように思えた。

    あらすじ
    青澄はツキソメを調べていくうちに、獣舟が人間の形に変異していることを知る。日本の上位組織のプロテウスは青澄に世界滅亡の情報を知らせ、ツキソメこそが人類の生き残りに必要な情報を持っている可能性があるという。

    プロテウスと青澄どちらが早くツキソメにアクセスし、データを確保出来るのか?

    結果的に終末世界が訪れ、ツキソメのデータが役立ったかどうかは不明。

  • この世界観は初めて。ハリウッド映画か、スピルバーグか…本を読んでこんなに見たこともない映像が自分の頭の中に広がったこと、なかったかも。新しい読書体験でした。とんでも映像の中に、青澄やツキソメをはじめとする登場人物やアシスタント知性体が、しっかりと生々しく生きているのがいいなぁ。終盤、ユズリハの中で繰り広げられたアクションなんか、もう手に汗握って読んでました。マキ好きだ。夢をつなぐあの終わり方、好きだ。

  • SFならではの話の壮大さに、肚の座った登場人物の仕事への意気込みを感じる掛け合い、多くのプレイヤーを動かしながら全体の調和を取る構成力、全てのレベルが高いと感じた1冊です。

    ただでさえヤバくなってる地球が更にヤバくなる!(語彙力ゼロ)という状況となった下巻における序盤のハイライトは、理不尽だったり絶体絶命だったり、とにかく酷い状況に立ち向かおうとする人の気高さだったと思います。
    登場する3者がそれぞれ3様の行動を取るものの、その行動はどこまでも自分のためではなく、所属するグループであったり、それ以上に人類全体であったりを想うがための行動。
    限界の状況における職業倫理、あくまで誇り高くあろうとする意思。相手を思いやろうとする心。熱くて泣ける良い展開でした。
    (ただ、「厳しめ」のストーリー展開は、あぁラノベじゃなくてSFだったなぁと痛感しました。どこまでもロマンチックではあるのですが)

    SFであるからこそできる思考実験だなぁと感じたのは、「人間に似た何か(遺伝子操作の果て)」と「異形の人間(知性ある生命体)」、どう区別をつけてどう順位をつける?ということ。
    AIがより洗練を極めつつある社会において、実際の課題になることもあるんじゃないか。個人的にはSFは尖った未来予測だと思っているので、良い課題提起を貰ったなぁという印象です。

    しかし、自分が海上民をデザインするんだったら、ネットワーク通信機能は絶対につけるなぁ。

  • 「オーシャンクロニクル」シリーズ、初の長編!
    華流の宮です。上下巻まとめてのレビュー。

    前にも書きましたが、舞台は25世紀の地球。
    未来少年コナンみたいな、ウォーターワールドみたいな感じです。

    が、読んでみると、これはプロットがガッチリ出来てる。
    良くある「温暖化の影響により極地の氷が溶けて」なんてヌルいものじゃありません。
    地殻変動により海溝が隆起。海面が260mも上昇した後の世界から物語スタートです!(リ・クリスティシャス)
    そして50年後、地球深部からのアレで「プルームの冬」が訪れる。
    これに人類はどう準備、対応するのか?って話です。

    物語は、青澄の人工知性体「マキ」による”三人称”で語られていきます。人工知性体なので当然、意識も感情も共有されているので、違和感が全く無い。
    これは上手いと思います。

    もちろんSFで、ファンタジー的な要素が多いんですが、少し”池井戸潤”の要素が入ってる。権力争い、共闘、裏切り、利益を貪りあうせめぎ合い。
    「獣たちの海」と「魚舟・獣船」を読んでココにたどり着いたんですが、読み応えありますが、この手の物語は先が知りたくて先に先に。いつもより早いペースで読み終わりました。

    私的には、ツキソメ、ジェイドのタイフォン、月牙(ユェアー)に会って見たいです。
    ちょっと期間を置き、反芻してから続編に挑みます。

  • 人類を含む全ての生物が絶滅する程の危機を前に、人類は何ができるのか。
    それでも、自分たちが生き残る為に他は犠牲にするという政治闘争や連合間権力闘争に明け暮れる政府に対して、青澄やツェン・タイフォン上尉の姿勢が心に残りました。上尉と月牙の最期悲しかった。
    避けられない絶滅に、人間であることを捨ててルーシィとなって魚のようになる人もいる。それでも生き延びられないかもしれない。
    マキのコピーを含む人工知性体は宇宙へ。彼らは地球で生物が生き延びたかを知ることはないだろうけど、「彼らは全力出生きた。それで充分じゃないか。」という言葉はこの物語の締めくくりに相応しい救いでした。

    プルームテクトニクス理論、検索してみたけどよく理解できなかったので、わたしのプルームテクトニクスは「華竜の宮」の描写でインプットされています。
    海上民と陸上民や、政治的な駆け引きの人間ドラマと、どこまでも広がる海と唄う魚舟、何もかもを貪る獣舟が迫ってきて、再読でも圧倒される世界でした。
    「深紅の碑文」も読みます。

  • 黙示録的な展開であるにも関わらず、鬱展開にならないのは青澄を始めとする最善を尽くそうとする人々の奮闘と希望に満ちているからだろう。
    原作版「ナウシカ」のようなニヒリズムが無いところも読後感が良い理由なのかも知れない。

全81件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

上田早夕里の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×