月世界小説 (ハヤカワ文庫 JA マ 5-7)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 328
感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311988

作品紹介・あらすじ

かつて私たちが話していたのは神の力を凌駕するニホン語という言葉だったのだろうか?

感想・レビュー・書評

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  • 1975年。米国領ニホンの大学院生ヒッシャーは、ジョン・ディーという老人が読めない言語で書いた一冊の本をきっかけに、現在英語を公用語としているニホンにもかつて独自の言語が存在したことを知る。国土回復運動に参加するワクートに誘われ、ニホン語研究を始めようとしたヒッシャーだったが、「警視庁公安課神学対策室」を名乗る黒づくめの男たちに追われ……。言葉を奪おうとする〈神〉との闘いを描いた言語SF。


    面白くなりそうな雰囲気を漂わせながら、そのまま尻つぼみで終わってしまった。リーダビリティが高い文体で、地球人の現実逃避によって生まれた妄想の月が人から言葉を奪おうとするという設定は面白かった。
    小説が言葉によって書かれるものである以上、言語をテーマに掲げる小説はメタフィクションにならざるを得ない。メタ展開には読者がキャラクターと切実さを共有しづらくなるという難点があるが、本書では菱屋=ヒッシャー(筆者のもじりなのかな)が創作世界を必要とした理由付けが最初になされる。だが、逃避先もユートピアなんかではなく、むしろ菱屋の性向をより厳しく規制する世界だという捻り。テッド・チャン「地獄とは神の不在なり」の設定を安保闘争の時代の日本に適応させた感じなのだが、〈我々を許さない神〉が他国の神であるというのも皮肉が効いているところだろうか。
    言葉に宿るイメージを駆使して戦う月の戦争パートもよかったけど、ルィナンが操るポリイや《王女》が語る物語のような詩情を地の文にもだしてくれたら、もっと盛り上がった気がする。

  • 言語SF。このジャンルは初心者だが、とても楽しめた。現実と虚構とが入り混じり、感想としては何を書いたら良いのやら。全然わけがわからないのに、感動すら与えてくれる不思議な本。とにかく素晴らしいので読むべし。

  • ちょっと読みにくい部分もあるけど、SFの醍醐味を感じる読みごたえある作品。
    これだけ大がかりな世界観で、言語そのものやら歴史やら神やらと向き合うのに、最初と最後は、小さな望みしかもたない恋心にぎゅっとフォーカスされる、その落差と、だからこそ感じる、大事なものは何か的な潜在的な問にやられる。

  •  月というのは夜空を見上げるとそこにある黄色い円盤、そしてアポロが画像を送ってきたあの荒涼とした衛星。しかし、それとは別に実は月世界というものはあって、うさぎが住んでいたり、かぐや姫がそこに帰ったり、大砲クラブがズドンと行ったり、ブロウチェク氏が気づいたら到達していた世界なのである。月はその周期性によって正気を示しつつ、他方、その怪しい光で同時に狂気を体現する。

     菱屋修介はゲイだが、密かに心を寄せる啓太に誘われ、LGBTのパレードを見にいったとき、世界が終わる。世界の終わりを拒否して菱屋は妄想世界に逃げ込む。つまり「月世界」に。

     さて、世界n+1は、第二次世界大戦で敗戦したときに日本語が消されてしまい、その事実さえニホン人が忘れている世界。ニホンはアメリカの一州に併合されており、安保闘争の代わりにニホンの独立運動が起こっている1975年。菱屋修介の異本(ヴァリアント)、言語学者ヒッシャー・シュスケットはニホン語がかつて存在したのではないかという疑惑を調べ出す。調査をやめるように恫喝する官憲。その背後には神がいるらしい(ここでは表示できないけど旧字体の神である)。革命家の枠田宗治の異本であるワクートはニホン語再興こそが独立の要と知り、現実に働きかけ実体化させる力としての言語を身につけつつあるのだった。
     ヒッシャーは日本語で書かれたという『月世界小説』に出会い、それを読むことで、世界n−1に移動する。そこは冒頭で菱屋が入り込んだ「月世界」だ。月世界では人間の軍隊が〈駱駝〉というメカのようなものと言語兵器で戦っている。これはどう考えても“月の沙漠を旅の駱駝が行く"というイメージから来ているのだろう。月の沙漠って月じゃなくて地球にあるんだが。

     解説は山田正紀が書いているが、神と言語学者が戦うというのは『神狩り』を彷彿とさせるし、神との戦いが言語戦であり物語戦であるのはこの話がメタフィクション化していくことであって、筒井康隆の影響大ということもできる。『月世界小説』の筆者は実はヒッシャー/菱屋なのだ。また、神と対抗する言語を扱うということからかつてユダヤ民族が神により迫害され、いまやニホン民族が迫害されているといい、ニホン人が流浪の民となる小説への言及は、小松左京へのオマージュだ。
     1975年の過激派による武力抗争の世界は学生運動に乗り遅れてしまった世代の牧野修のノスタルジーのようでもあるし、アメリカ属国となっているニホン民族を特権化するストーリーは優れて同時代的な批判とも読める。

     人間は言語によって世界を認識し、言語によって妄想を紡いで世界を構築する。そしてその妄想世界の登場人物も言語によって妄想を紡いでさらに別の世界を構築する。という具合に無数の平行世界が柘榴のように存在するというのが本書の世界観。神の目指すところはすべての平行世界から言語を消し去ること。
     脚注弾とか落丁爆弾による攻撃に曝されながら主人公たちは物語る力によって戦う。冒頭、主人公をゲイとしたのは何の伏線か気になっていたのだが、一応ワケがある。
     遙か彼方で収束する物語、その遠方感は、小松左京的であり、山田正紀的である。

  • ジャケ買いだったんだけど、神林さんの言壺とか、円城さんの文字渦とか…好きなタイプの仲間だった。

  • 多数の世界線と失われた日本語。多数言語により産み出された無数の妄想世界を壊し統一しようとする神と、物語る言語の力を使い闘う人間達。言語とイメージの力を使った戦闘は同作者の「MOUS」を思い出す

    菱屋(現実)→月世界(妄想世界)→ヒッシャーの居る日本語が失われた世界(パラレルワールド)と重なり、混じり合い神との最終決戦に向かっていく。神の軍勢と累との闘いは怪獣映画のようで興奮するが、世界観の構築と説明が長く力技感があり…ここはもう牧野節と割り切る。後半の闘いは短く物足りなさも感じて残念。もっと色々見たかったな

    最後まで読み切って、最初は必要性に疑問を感じていた菱屋がゲイであるという設定にも納得。菱屋は何故「神」と闘ったのか。己の愛の為、という小さくて、でも大きな理由があったのだ。強烈な牧野節を見せておいて、あんな穏やかなラストを見せられるとは思わず。感嘆のため息が出た。
    「月世界小説」は菱屋の物語の世界線。他の世界線でも闘いがあるとあったので…シリーズ化してそれぞれの妄想世界と闘いを見れたら嬉しい



  • 友人とゲイパレードを見に来ていた菱屋修介に突如その轟音は響いた。空から無数の天使が舞い降り終末の喇叭を吹いている。地面は大きく揺れ、高層ビルは軒並み倒れた。どこからともなく炎に包まれた巨石が降ってきて、裂けた大地から人の顔を持った飛蝗が這い出てきた。人々の悲鳴が聞こえる。眼の前で友人は体を分断された。
    「月へ行こう」
    菱屋修介はそっと目を閉じる。現実から逃れたいときはいつもこうしてきた。幼少の時から積み上げてきた妄想の世界は自由自在だった。月世界の男が話す世界の理、神々との対抗。それは「言葉」の争奪戦だった。

     SFといわれると困ってしまう作品だ。なにせ人と神のガチンコ対決なのだ。創世記のバベルの塔に着想を得ていて、神々が人類から言葉を奪ったのは神々でもコントロールの出来ない人類の発明故と語られる。言葉の普及を神は恐れている。そして打倒神における最重要武器が「ニホンゴ」だというのだ。
     破茶滅茶な粗筋からは想像できない冒険譚。菱屋修介が再び目を開けたとき、目の前に広がるのは神々の残虐なのか否か。

  • 言語によって築かれる多重世界。統一を謀る神の軍団と抗う主人公達の戦いの話、という解釈で良いんでしょうか?結末もよく分からなかったので、後半を読み直してみようかなと思ってます。

  • 長く積まれていた。『夢の木坂分岐点』読みたくなっちゃった

  • 【静大OPACへのリンクはこちら】
    https://opac.lib.shizuoka.ac.jp/opacid/BB19493764

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著者プロフィール

'58年、大阪生まれ。高校時代に筒井康隆氏主宰の同人誌「ネオ・ヌル」で活躍後、'79年に「奇想天外新人賞」を別名義で受賞。'92年に『王の眠る丘』で「ハイ! ノヴェル大賞」を受賞。他に、『MOUSE』、『スイート・リトル・ベイビー』等々著作多数。また『バイオハザード』『貞子』ほかノベライズも多数手がける。

「2022年 『貞子DX』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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