最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
3.71
  • (29)
  • (41)
  • (40)
  • (9)
  • (2)
本棚登録 : 587
感想 : 50
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150313142

作品紹介・あらすじ

「神狩り」以来42年ぶりにデビュー作で星雲賞を受賞した表題作をはじめ、オタク文化と暴走する奇想が脳を揺さぶるSF、全3篇。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • この作品集のノリは何なんだ……と呆然としながら考えていたとき、思い浮かべるものがありました。

    それはネットの掲示板などで書かれていたSSと呼ばれる、簡単な小説のようなもの。
    自分が携帯を初めて手にいれ、アニメやラノベの有名どころを知った時期、夜に布団にもぐりながら、画面をスクロールしていた覚えがあります。

    SSの世界は言ってみれば玉石混交。二次創作ものでは本編のキャラを完璧につかみ、本格的なストーリーから、外伝・番外編的なサイドストーリーを描いたものもあれば、
    エロ・グロ・ナンセンスを徹底的に極めた、悪ノリとしか言えないものもあります。

    でも面白いのは、そんな悪ノリSSでも、キャラを掴んで魅力的に仕上げているものが、あるということ。内容は人に話せるものでは、なかったりするのですが(笑)

    でも、ラジオの深夜番組の、さらに攻めたコーナーを聴いているかのような、アンダーグラウンドな世界の、さらにアングラな世界を覗く楽しみが、SSにはあった気がします。

    この小説を読んだときに感じたのも、その悪ノリの雰囲気でした。この本に収録されている作品は三編。それぞれに取り上げられるテーマは、アイドル・ソーシャルゲーム・声優といったオタク文化たち。

    そんなオタク文化たちを、著者の草野原々さんは、遊び心と悪戯心、愛と皮肉を込めて、徹底的にネットの悪ノリで描きます。

    その悪ノリに拍車をかけるのが、パロディや、オタク文化のお約束の数々。ソシャゲの「実質無料」声優の「百合営業」や人気アニメのパロディ。そして、あまりにも極端な思考の登場人物たち……

    そんな、ネットの仲間内だからこそ通じるノリとお約束の数々を、草野さんは無謀にも(?)各作品にぶちこんできます。

    しかし、この作品のスゴいところは、その悪ノリをハードSFの知識や描写力で、一定の説得力を持たせ、話を成立させてしまうこと。

    地球滅亡の危機や、様々な異性物の描写、壮大なスペースオペラから、時空間や宇宙の創生……

    草野さんは悪ノリの物語たちに、こうした設定を付与し、それにSF的視点を与えることで説得力を持たせ、成立させてしまうのです。

    特に表題作と二編目の「エヴォリューションがーるず」の異生物の描写は、貴志祐介さんの『新世界より』あるいはブライアン・W・オールディスの古典SF『地球の長い午後』に比肩する描写力と、想像力です。

    このノリの面白さを、言葉で説明することは難しい……。実際にオタク文化や、ネット文化に馴染みある人なら「読めば分かるから!」と言えます。でも、そうでない人にこの本を薦める勇気は、自分にはありません。

    ただこの作品には有名な珍味のような、はまれば抜け出せない魅力があるようにも思います。各作品を読み終えたとき、自分は脳の中をぐわんぐわんさせられ、とんでもないところに連れてこられたような感覚を覚えました。

    草野さんの想像力と悪ノリ、そしてSFというジャンルが出会うことでしか、生まれなかったであろう短編たち。それを集めたこの短編集はある意味、現代の奇書ともいえる本になっていると思います。

    しかし果たしてこのノリを未来のSF読者は、理解できるのかと思わなくもないですが……

    でも、もしかするとこの作品が、これからも続くオタク文化と、その雰囲気を伝える古典にもなるのではないか、そんな可能性も秘めているように思います。

    第4回ハヤカワSFコンテスト特別賞「最後にして最初のアイドル」
    第48回星雲賞<日本短編部門>「最後にして最初のアイドル」
    第50回星雲賞<日本短編部門>「暗黒声優」

  • 今までに読んだ本で一番面白かったです。(今日現在)

  • 実にSFらしい作品ですが、個人的にはあまりノリきれませんでした。これを楽しめるのは割と一握りに人かもしれません。
    読んだらきっとほとんどの人が思うはず。「アイドル」とは?

  • アイドルすげえな…アイドルたいへんだな…(『最後にして最初のアイドル』を読み終えてほげぇっとした顔で

    『最後にして最初のアイドル』、おもしろい。オタク文化でSFをやる、という発想だいぶぶっとんでて、しかも細部もある程度詰めてある。長期的にどうやっていくのか、という点はチェックしていきたい。

    『エボリューションがーるず』。いい話や…。ソシャゲフレンズ宇宙創生バロック百合SFだ…。胸が熱い百合…。

    草野原原『最後にして最初のアイドル』。何も言うまい…いや、やっぱり言わせて。萌え絵の表紙にだまされるな!!!

  • 俺の考えた最高の地球滅亡巨大感情百合SF短編集。

    「最後にして最初のアイドル」
    原因不明の太陽フレアによって地球が滅亡しかけている中で、その環境に適応したよくわかんない生命体の技術を使って人間を殺したりなんやかんやして大好きな女の子をアイドルとして蘇らせるにこまき。
    生まれ変わったアイドルは宇宙一のアイドルになるために生命をアップデートしてゆく。
    アイドルとは何か?ファンとは何か?そして人間の意識とは?という話。めちゃくちゃな話だけれど一応なるほどーと納得する。私こそがアイドルである。

    「エヴォリューションがーるず」
    古代生命擬人化ソシャゲにズブズブの中毒者が死んでゲーム世界に転生、転生した先では単細胞生物。命を対価にガチャを回して生命を進化させ、この世界とは何か?意識とは何か?を学ぶハートフル壮大女と女の巨大感情百合。
    ソシャゲ廃人の描写はソシャゲをやったことがある人間には心に深く響くはず。そして王道のトラックに轢かれた先で転生というよくある二次創作小説のストーリーを結びつけるのがすごい。こういうジョークが好きでしょう、とわかって書いているんだろうなあと思うけど、そこがいい。

    「暗黒声優」
    エーテルが充満している世界でエーテルを震わせることによって無限のエネルギーを生成できる存在=声優という話。主人公のアカネは声優をいつか救いたい、最強の声優になりたいと考えていて、そんな中地球の重力が消滅してめちゃくちゃに世界消滅して宇宙に行く。
    よくわからないけどなるほど!人間がたくさん死んで強くなっていって世界は救われます。ちゃんとこの世界でのエーテルが何か?とかの説明をきちんとして終わるのですごい。

    俺が考えた最強の人生終末がメインであり、その中で女(女の意識だったもの)が女(女の意識だったもの)と壮大な感情のぶつかり合いを魅せ、そして宇宙と意識と世界について語るという流れはどれも一緒である。
    そしてその「俺の考えた最強の人生終末」の描写の細かさ、理屈(いやほんとはよくわかんないけど)、筋が通っていてなるほどー!となる人を納得させるめちゃくちゃな世界の描き方が強烈。

    「百合SF」とこの作品について語っている人をたくさん見たけれど、百合とは何か…と考えてしまった。
    確かにめちゃくちゃに百合だけど、出てくる人物は女ではない。アイドルとしてアップデートを続けた最強かわいい異形の化け物と、最強の生物になるために何らかの生き物を殺しまくって合成しまくった何らかの生き物と、最強の声帯を持っていてたくさん人間を殺しまくる声優。どうしてそれらを「百合」だとするのか?一人称が女性だから?
    私は、女と女の感情、愛だったり可愛いと思ったり美しいと思ったり憧れたり、そういう気持ちを抱いた末に相手にぶつけたり自分のうちに抱いたりする、感情のやりとりを百合だと感じるのかもしれない。感情こそ百合である。感情描写は百合である。よくわからないけど。

    あとこの人の作品はテンポが早く、時の流れが速い。一行ではい数万年、はいガチャを回して数百年、はいたくさん人を殺して数十年。
    それがとても好きだと感じた。
    人間なんて古い、身体なんて不要!これからは精神の時代!
    そういうめちゃくちゃな理論に振り回されてえげつないけどたぶん作者おちゃらけてかいてるよね?というグロ描写が好きな人にとてもオススメ。

    でもしょせんバカSFでしょ?百合とかSFとか言って、アニメのよくわかんない考察とかする人間が読むようなふざけた小説でしょ?って思っていたのだが、すごく良かった。めちゃくちゃなのが、良かった。
    最後に前島賢があとがき解説を書いていて、その一文をこの本を読む前の私が見たらすぐに読んだろうな、と思ったので以下に載せておきます。

    『「ただの冗談」と現実のあいだに、精緻な理論と考証でもって橋を架けたとき、その作品はSFとなる。その論理と考証を支点に、「ただの冗談」を、宇宙の彼方まで飛躍させた時、その作品は傑作となる。』

  • 現代のヲタク文化を構成する要素にSFを絡めた3作品。アイドルとは意識をもたらすものであり、ソシャゲは自由意志からエネルギーを収奪しようとする進化の形態のなれの果てで、声優は音を司る量子生命体からエネルギーを収奪するもの、だそう。やたらにグロテスクなのがこの著者の作風らしく雰囲気としては小林泰三感があった。著者は物理が専門のようだが、出てくる内容としては物理の幅広い分野は元より、生物学なども絡んでいる。キーになる要素を巡る展開もさることながら、アイドルの話ではスーパーフレアの来襲とその後の生態系の進化、声優の話では地球重力の消失や、木星とその衛星での生態系など、脇にあるトピックについての記述が興味深いと思った。

  • 「最後にして最初のアイドル」
    アイドルSF。形質変化定義追加のアクロバティック。死体を喰らい、宇宙を制覇するアイドル…ってアイドルじゃねぇ!!でも作者が伝えたいアイドルの強いメッセージには心打たれた。文字の注ぎ足しって面白い。
    「エヴォリューションがーるず」
    ガチャ生物進化SF。現代の社会問題から生物バトル。宇宙に飛び出し、謎の感動。みてないけど、草野版『君の名は』?(みてないけど)
    「暗黒声優」
    声優百合バトルアクションSF。マクロスかと思ったら、そんなことはなかった。また人を喰らうし、作者は好きやねー。「いっけぇーー!!」の勢いで、宇宙まで勝ち残った人間破綻声優コンビ。彼女らの戦いは始まったばかりだ!!

    アニメ化したら、大流行りしそうな、ぶっ飛んだ作品であった。たまにはSFも刺激的。

  •  アイドルもソシャゲも声優も私の知っているそれを大きく逸脱していました。けれど、異形だったり人を殺してたりといった要素は、人を選ぶのかもしれませんが、嵌る人には嵌るのだと思います。
     そして、宇宙規模にまで風呂敷を広げつつも、きちんと論を展開し、過去に遡って全ての謎に説明付けてしまう手法は流石だと思いました。

  • あー
    これ自分には何かダメなやつかも…
    短編なのに最後まで読めなかった
    それなりに自分はオタク成分があると思っていたのに

    それでも評価は高いようなので嵌る人には嵌ることでしょう
    読まず嫌いにならないでチャレンジしてみて下さい

  • https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013790

    【目次】
    最後にして最初のアイドル 
    エヴォリューションがーるず 
    暗黒声優 

全50件中 1 - 10件を表示

草野原々の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×