警察署長 上 (ハヤカワ文庫 NV 437)

  • 早川書房
3.97
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (311ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150404376

感想・レビュー・書評

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  • アメリカ南部のジョージア州の架空の町デラノを舞台に、1919年から1963年までの3代の警察署長を描く。おもしろい! アメリカ版大河小説。たゆたゆと流れる大河のように流れる時間と人々。冒頭、はだしで逃げる男、次にがけ下の全裸の若者の死体。この謎解きが40余年1本からまる。「ルーツ」とか「リッチマン・プアマン」みたいな昔みたTVドラマみたいな読み心地。

    1919年から1963年、この間、陰謀に斃れる者、殉死する者、登場人物は入れ替わるが、40余年の間登場するのが、町の銀行家ホームズ、郡保安官スキーターだ。・・ずっと存在し続ける人はいるよなあ。そしてデラノという町。これがデラノさんという事業家が作った街なのだ。交通の要所と見込み、区画を割り道を作った。ちょっと西部劇的な感じもする。

    1代目、害虫にやられた綿農家に見切りをつけた正義漢リー。2代目、第二次大戦の帰還兵で一番の戦功者で選ばれた、エキセントリックなサニー。そして1963年、時代の流れか初めての黒人署長となったタッカー。最初は静かに進行するが、2代目サニーあたりからどんどん面白くなり、黒人タッカーは最初から不穏な緊張が走る。

    人間関係もあの人この人が実はこういう関係、因果はめぐる風車的で、少々都合がいい場面もあるのだが、逆にそれが小説のおもしろさとなっている。そして1代目署長ウィル・ヘンリー・リーの息子ビリーが戦後舞台の2代目あたりから登場するが、これが優秀人格者で弁護士で上院議員を目指している。そして、流れの中でルーズベルト大統領、ケネディ大統領もうまく登場させ、するとビリーはカーター大統領がモデルか?と思ったら、解説ではそうだろう、とあった。

    またルーズベルト大統領はFranklin Delano Rooseveltでデラノの町名はルーズベルト大統領のミドルネームからとっているとある。

    2代目サニーは戦争中ドレスデン空爆にかかわった、として描かれている。直前に「スローターハウス5」を読んでいたのでびっくり。黒人署長、議員のビリーも第二次世界大戦で戦争に行った経歴。50-60年代の就職では「軍歴」と「戦功」が重要視されている描き方。60年代は戦争経験者が帰還後現役で社会を作っていた時代だったんだなあ、と改めて感じた。

    1981発表
    1987.3.31発行 図書館

  • 根深い黒人差別が残るアメリカ南部のジョージア州の田舎町デラノを舞台に、1920年を起点として40年以上にわたり移り変わる時代と町の様子、そして殺人事件の謎を3代の警察署長を配して描いた小説です。

    上巻で描かれるのはデラノの初代署長のウィル・ヘンリー。そしてのちに警察署長に任命されるサニー・バッツの章の前半部。

    ひょんなことから署長就任初日からいきなり手柄をあげるウィル・ヘンリー。家族はもちろん住民たちからも慕われる彼は熱心に業務を続けていきます。DVを受ける女性、病気の黒人やその家族にも手を差し伸べる彼の姿は読んでいて清々しい。
    どことなく牧歌的な雰囲気もあるストーリーに影を落とすのは、全裸で見つかった死体と黒人差別の描写。

    当時の文化や雰囲気を映しつつじっくり進む物語は、第一部終盤で急展開を見せます。死体に残っていた警察関係者と思われる尋問の痕の意味。ウィル・ヘンリーに迫る魔の手と悲劇。そして物語は太平洋戦争後の第二部へ。

    第二部からは黒人に対し差別的なサニー・バッツが警察署長に。そしてウィル・ヘンリーの息子のビリーは父親同様黒人差別に苦い思いを抱え、黒人の友人を助けながら自身は政治の道を志す。

    物語はミステリの要素だけでなく、人種差別など政治的な問題を内包してより重厚な群像劇へと変わっていきます。
    変わりゆく時代と町、黒人たちの悲劇、そして殺人事件。様々な登場人物やエピソードがある分、序盤はテンポがややゆっくりに感じます。しかし作品の雰囲気にはまればその重厚さから抜け出せなくなっていく気がします。

    殺人事件の犯人自体は分かるものの動機など不明な点も多く、登場人物たちがそれにどう迫っていくのかも気になるし、デラノの町の変化というものも気になる。

    作中にはルーズベルトなど実在の人物の名前も出てきます。そういうこともあってかミステリなのだけど一種の歴史小説を読んでいるような、そんな感覚もあって下巻の展開が非常に楽しみです。

  • 1920年~1960年代までのジョージア州デラノの3代にわたる警察署長の話。
    初代ウィル・ヘンリー・リー、第二部のサニー・バッツ、第三部のタッカー・ワッツの3署長を中心にデラノという町の人々の歴史が書かれている。
    3人の署長のキャラクターが際立っていて、それぞれ考え方も署長職の取り組み方も三様である。結局は約40年間未解決だった事件が解決する話なのだが、それに関わりあう人間模様や差別問題や政治がからんでくる様子がとてもおもしろかった。
    警察署長を中心に町の様子、そこに住む人々の様子がすばらしい。
    著者の他の作品も読もうと思う。

  • アメリカ南部の田舎町デラノを舞台とした大河警察小説。序盤の主人公は初代の警察署長。
    ミステリというよりは架空の町を歴史を描いた年代記のよう。そこに生きる人々の活き活きとした姿と同時に、過酷な人種差別も克明に描かれる。多彩な人物が絡みあう中、ある事件が未解決のまま下巻へ。

  • 3.96/217
    内容(「BOOK」データベースより)
    『1920年冬、ジョージア州の田舎町デラノの郊外で若者の全裸死体が発見された。就任間もない初代警察署長ウィル・ヘンリー・リーは、秘密結社K・K・Kの犯行と見て捜査を開始する。だが、検視の結果判明したのは、死体が警察関係者の手によって尋問された形跡があるという事実だった。一体、犯人は何者なのか?調査の末、やがて意外な人物が浮かびあがるが、そのときウィル・ヘンリーを思わぬ事件が襲った!南部の小都市を舞台に、40数年に及ぶ殺人事件を多彩な登場人物を配して描く大河警察小説。アメリカ探偵作家クラブ最優秀新人賞受賞作。』

    原書名:『Chiefs』
    著者:スチュアート・ウッズ (Stuart Woods)
    訳者:真野 明裕
    出版社 ‏: ‎早川書房
    文庫 ‏: ‎311ページ(上巻)
    ISBN : 9784150404376

  • 30年近く前に購入し、長い長い積読に(汗)
    読みたかったのに、何故か手がでなかった。
    読んでみて、非常に上手い小説家で話の展開も、
    緩急付けて、飽きが来ない。ともかく面白かった。

    でも、読めなかった理由が分かった。
    僕は、絶対的な権力を持ち、その上で生まれながらの悪人によって、まじめに正直に生きている貧乏でも、幸せに生きる努力をしている人々に対して、大した理由も無く、それこそ己のイライラや退屈しのぎの為だけに残虐な行為を行う話が苦手だ。

    その話の先の展開が読めて被害にあう人々への同情を禁じえず。物語であっても、その残酷な出来事を読み続けるのが苦しくてしょうがない。
    読み始めても、ページをめくれなくなる。辛くて辛くて読めない。自分を騙し騙しやっと第2章を読み終えた。

    その悪魔のような人間が、ちゃんと報いを受けるのが救いだし、そこが面白い所なんだけど、そこまでに辿り着くまでは読んでて辛かった。

  • 名作です。

  • 1920年代から1960年代の40数年にわたる、アメリカ、ジョージア州の架空の田舎町デラノでおこる連続殺人事件、それに関係するデラノの三代の警察署長と町の人々の物語。
    ミステリーというより普通の小説。でも面白い。話の展開もはやいし、各章もちょうど読みやすい長さなので読みやすい作品でした。もっと早くに読めばよかったなぁと
    思います。

  • 子どもの頃にNHKの海外ドラマで観てとても面白かったので大人になってから小説を探しました。
    人種差別問題を背景にある街で起こった連続殺人事件・・・読み応えあります。
    確か主人公はカーター大統領がモデルだったような。
    小説も面白いですが、読んでみて改めてドラマの出来がとてもよいと思いました。ぜひもう一度観たいですね。

  • アマゾンでも5つ☆が付いてますけど、人によっては冗長に思えるかもしれません。
    はらはらドキドキな展開はありませんし、ミステリーというより政治絡みの社会派作品。
    その社会もアメリカ南部の田舎町ですから、狭いと言っちゃそうなんだし。
    でも当たりだったな~
    私の好みに合ってただけかもしれませんが。

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