ボニーは自殺や殺人現場専門の清掃業を仕事にしていた。父親が3人の子供を次々に射殺し、自分の頭を撃ち抜いた現場で、彼女は見慣れない、黒色の蝶の幼虫を見つける。彼女はその後も現場でその幼虫を見かけるようになる。学者に調べてもらうと、その幼虫は「人を狂気に陥れ、最も愛するものを殺すように仕向ける、アステカの悪の女神の化身」という言い伝えを持つ蝶の幼虫だという。そんなある日、失業して自堕落になっていた夫と、高校生の息子が家から姿を消す……。
事件の原因は何か、本当に黒蝶(即ち女神イツパパロトル)の呪いなのか……という謎を究明していくストリーかと思いきや、いつしかボニーもまたその謎に取り込まれていく。自棄を起こし喧嘩の絶えない夫、清掃業と化粧品セールスの掛け持ちをこなす生活、そういう現実への疲れや苛立ちが、幼虫の力と相俟って、静かに彼女の中に狂気を醸成していったようにも思える。ここではアステカに伝わる伝承がギミックとして扱われてはいるが、その背後に書かれているのは離婚、失業、セクハラ、そして児童虐待といった現代アメリカに存在する社会問題であり、その中で精神の平衡を失っていく女性を描いた異常心理ものである、と言ってよいと思う。
久々に、後味の悪いラストの作品だった。無論それでいいのですが。