アルジャーノンに花束を〔新版〕(ハヤカワ文庫NV)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150413330

感想・レビュー・書評

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  • 知的障害者の32歳チャーリイ。幼児程度の知能だけれど、学習意欲は高く、知人のパン屋で仕事もしていた。そんな彼に知能を高める外科的手術とそれに付随する学習の研究参加の誘いがきた。
    この脳手術という事象で、SF作品の範疇になるようです。が、知能が向上し、知識が増え、今まで気が付かなかった周囲との問題に苦しみ、過去の自分との乖離に悩み、知能によって得られたもの失ったものが描かれる物語です。研究の限界により、チャーリイは、情緒不安定となり、同時の知能は退行していきます。
    日本でもドラマ化され、ストーリーは大まかには知っていたつもりでしたが、この作品は、経過報告とされる日記形式で構成されています。初期の日記は、幼児の様な文体で、知能の向上に伴って文章が変化していきます。そして、退行も悲しくも表現されます。読み辛いと感じた初期の日記を、退行期には、一日でも多く書き残して欲しいと思うようになります。是非、活字で作品をお楽しみください。

  • 以下ネタバレ含みます。注意。



    途中、ページを捲りながら、結局これは「変わらなければ良かった」話にしかならないんだろうか?と憤りながら進めていた。

    利口になりたいと願う無垢なチャーリィに、脳の手術実験を行った結果の物語。

    チャーリィにとっては分からないなりに「しあわせな世界」だったはずが、知能指数が上昇するにつれ、「それ」は自分の無知を貶め、嘲笑う世界だったことに気付き、孤独に陥る。

    利口になったが、友達はいなくなった。

    知識が極大に達しようとする中、ネズミのアルジャーノンと交わす、不思議な交流シーンが切ない。
    脳の退化の中で、自らの身体を傷つけ、それでも迷路に向かっていくアルジャーノンを「明日の自分」として見つめるチャーリィ。

    短い時間の中で得た膨大な知識と、知識によって認められた人としての威厳が、加速度的に剥がされていく恐怖に、人は耐えられるのだろうか。

    でも。それでも。最初に知りたいと願うチャーリィも、間違いじゃないと思うのだ。
    そして、幸せは、知恵の多寡だけが生み出すものでも、きっとない。

    最終のシーンでチャーリィが、「家族があること」や「みんなみたいな人間」だと分かったことに、変化がもたらしたものがあるのだと、少しだけ息をついた。

  • アメリカの文学の面白さが伝わってきます。難しい観念や解釈を並べるのではなく、客観的な描写で物語を積み上げていく文体で、最後まで一気に読んでしまいますね。前半の故意的な読みづらさ(読後は再読したくなる)を乗り越えたら、もう止まりません。

    悲劇ながらベストセラー。障害者を題材としながら、自分の人生の成功、幸せとは何かを共感しながら再考したくなります。

    次の世代にも伝えたい一冊です。

  • 伝えようとしている最も大切事は物凄くシンプルなんだけど、それを理解する事がどれだけ大変な事なのか、、など、色々考えさせられた一冊でした。

  • 面白かったです。この物語は天才的な知能を手に入れても幸せになるとは限らないと言うことを伝えているのだと思いました。

  • チャーリイの知能が高まるにつれて難しい言葉や話が行き交ってきて「むむむ、分からん分からん!」と眉間に皺寄せていったけど、過去のチャーリイに苦しめられて身動きできない様やアルジャーノンを通して自身が辿る未来を悟ってからの心理的描写がとても辛くて後半は涙腺緩みっぱなしだった。読み終わってすぐこのレビュー打ってる今でも正直眼球潤ってきてる。チャーリイ…。チャーリイ……。

  • タイトルもあらすじも知っていて、以前にも一度読もうと思ったことのある作品だったけれど、やっと読み終わった。

    自分の好きなものには、「アルジャーノン」をモチーフにしたものがちらほらあって、
    冲方丁の「マルドゥック」シリーズの金色のネズミ、ウフコックもそうだし、
    最近には、ヨルシカの「アルジャーノン」という曲がある。

    さて、読んでみて、主人公チャーリィの経験は、一生を早回しにしているかのようだと思った。
    世界のことがよく分からないところに、それがだんだんとわかってきて、いい面だけでなく、汚い嫌な面もあると知り、自分のことを知ろうとし、孤独に苛まれ、自分に残された時間の少ないことを知り、他の人たちのために貢献しようとし、失っていく。

    やっぱり、とても切ない物語だと感じた。
    特に、チャーリィが手にした知能がやがて失われるとわかって、失いたくないとしがみつこうとするところは特に。
    死ぬ時には、何もかも失うとわかっていても、同じようにしがみつこうとしてしまうのだろう。

  • 2023読み納め。

    ずっと知っていて、ずっと読もうと思っていて、読んでもいないのに長女におススメしたら先に読んじゃって、「よかったよ」と言われてやっと読んだ。

    なんというか、読む前に思い描いていた印象とは違う展開に戸惑いながらも読み応えがあった。

    人が人として成長するには、知識と情緒のバランスが必要なのだというのが、ようやくまとまった感想だが、うまくまとまらない感想もたくさんある。

    再読したらまた別の感想が生まれそう。

  • 知能の急速な発達にそれ以外の部分が追い付かなかったこと、そしてまた急速に低下していくことを予知していること。過去の自分に起きた出来事がどういう意味を持っていたのかを正確に知ってしまうこと、人の愚かで弱い面を知ってしまうこと、弱いけれどよいこともあること。いろんな出来事と気付きをリアルに追体験できた。

  • 読み始めた時、チャーリーの幼稚な文体が非常に読みづらかった。ひらがなが多く、句読点が多い文章がここまで読みづらいとは。改めて気付かされた。一方で、原著を訳す際に、幼稚な文体を日本語で再現するという技量に感心した。もはや訳者なりの解釈で表現するしかなかっただろうに、幼稚さが忠実に見える良い訳だったと思う。

    チャーリーが手術を終えて、段々と賢くなっていく描写が文体から上手く伝わってきた。文章の微妙な違いでそれをうまく表現していた点に非常に感心した。

    最終的に幼稚に退化していく様も、文章を通じて上手く伝わってきた。

    最後の最後で、"アルジャーノンに花束を"というフレーズが出てきて、読了後にタイトルを見ると重みを感じるようになっており感慨深いと感じた。

    これは原著の作者ももちろんだが、訳者の技量も相まって良い作品だったなと思う。


    P363, 15行
    "人間的な愛情の裏打ちのない知能や教育なんてなんの値打ちもないってことをです"
    このフレーズが最も印象に残ったフレーズだった。

    現代社会はコロナの影響で大きな変化を遂げている。
    かつての高度経済成長期の日本は、1つの会社で働きあげスキルをつけた、プロフェッショナルな集団の大きな知識・力によって、世界にも通用する力を持っていた。
    しかし、現代は専門的知識のみではやっていけない。もちろんそれが不要とは言わないが、最終的に生き残る最も強い人種は、幅広い知識を持った人間的魅力のある者たちだと思う。
    インターネットが発達し、SNSが台頭し、製造物が複雑になった現代、1人の力でトレンドになる物を作るのは、以前に比べてはるかに難しい。
    しかし、人間的魅力で個々が繋がり協働すれば、世界中の人と繋がれるようになった現代では、誰もが素敵な物を作ることができる。

    私も将来は、専門知識を持った上で、人間的魅力を兼ね備えた人物になりたいと思った。

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