予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 早川書房 (2013年8月23日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150503918
作品紹介・あらすじ
ゆかいな実験が満載の行動経済学ベストセラーが、文庫に! 推薦/大竹文雄大阪大学教授
感想・レビュー・書評
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面白かった。
中でも、コンピューターゲームに強い学生に「消える扉ゲーム実験」をした結果が面白かった。
パソコンに、赤、青、緑の3つの扉が現れる。
ひとつの部屋に入ったら、クリックするごとにある金額が自分のものになる。
どの部屋からいくら獲得できるかは入ってクリックしてみないとわからない。
クリックできる回数は全部で100回。
画面には現在の獲得金額が表示される。
最大にお金を稼ぐには、もっとも高い賞金が用意された部屋を見つけて、制限時間内にできるだけ多くクリックすること。
部屋から部屋へ移動する方が高い賞金の部屋を探すのにいい戦略であるが、お金を稼げたかもしれないクリックの回数を減らしてしまうというデメリットもある。
そして、1回クリックするごとに他の扉が少しずつ縮んでいき、そのまま放っておくと消えてしまう。
学生は、他の扉の金額分からないので、消えてしまわないように他の部屋もクリックし、元の大きさに戻す。
部屋が小さくなる度に部屋を移りクリックする。
選択肢から選択肢へと飛び回る。
この行動は不経済で、とてもストレスになる上に、消えない部屋の実験結果に比べると、獲得金額が15%減少した。
ほんとうは、どの部屋でもいいから選んだ部屋でひたすらクリックしていればもっと賞金を稼ぐ事ができた。
選択肢が自由で多いが故の難しさ。
なかなか勉強になりました。
買い物をする時の商品を選ぶ時も、結構時間をかけて似たような商品で悩んでます。
確かに、手に入れてしまえばどちらを選んでも大差ないです。
その選んでいる時間に出来た事を考えると、早く手に入れて活用した方が何倍もお得です。
他にも興味深い実験がたくさん。
不合理な行動に、自分もだ!と当てはめて読んでいました。笑
人間て面白いなぁ。 -
行動経済学者が明かす、人間の行為はどれだけ合理的ではないか。
人気の本だけに、さすがに面白かった。
「はじめに」に筆者が記す以下がこの本のテーマ
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この本は、人間の不合理性、つまり、わたしたちがどれほど完璧とははど遠いのかについて描いている。
(中略)
わたしたちは不合理なだけではなく、「予想どおりに不合理」だ。つまり、不合理性はいつも同じように起こり、何度も繰り返される。
(中略)
わたしたちの不合理はでたらめでも無分別でもない。規則性があって、何度も繰り返してしまうため、予想もできる。
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■1章 相対性の真相
相対性はわかりやすい。
相対性の比較の選択の際、選んでほしい商品より少し劣った方向性が同じおとりを選択肢に含めることで選んでほしい商品が選ばれる。
「相対性は身のまわりのどこにでもあり、わたしたちはあらゆるものごとを相対性の色メガネで-バラ色だろうがなんだろが-見ていると自覚することだ」
■2章 需要と供給の誤謬
私たちは最初に示された値段にアンカリングされてしまう。
他人がとった行動によって善し悪しを判断することを「ハーディング」という。
自分の過去の経験によって判断することを「自己ハーディング」という。
スターバックスは、ダンキンドーナツのように低価格にアンカリングされなかったのは、入店の経験がほかとはちがったものになるように、高級感を演出するためにできることをすべてやった。
同じ経験でも恣意的にとらえ方を左右することができた。筆者が朗読に対して聴衆にお金を払うか、お金をもらえるかそれぞれ前提を変えて質問すると、払うか聞かれた側は払うように、もらえると言われた方はもらうように考え出す。
「消費者が支払ってもいいと考える金額は簡単に操作されてしまう。」
「ふつうの経済学の枠組みでは、供給と需要の力が互いに独立していると仮定するが、アンカリングの操作は、実際にはふたつが互いに依存していることを示している。」
■3章 ゼロコストのコスト
無料の魅力。
自分のほんとうに求めているものではなくても、無料になると不合理にも飛びつきたくなる。それは人間が失うことを本質的に恐れるからではないか。
■4章 社会規範のコスト
社会規範と市場規範のバランス。
プレゼントは社会規範として機能する。経済効果(市場規範)としては効率が悪いものの、社会の潤滑油として機能する。
市場規範で考えるなら、プレゼントをあげるより、現金を上げた方がよい。
「企業が社会規範で考えはじめれば、社会規範が忠誠心を育てることに気づくだろう。さらに重要なことに、社会規範は人々を奮起させる」
「人は給料の為に働くが、そのほかにも仕事から無形の利益を得ている。」
■5章 無料のクッキーの力
クッキーを無料で提供すると、皆、社会規範の重要さを念頭において、1つか2つクッキーをもらうが、有料にした途端、たくさん買う。
お金を求めることで市場規範を持ち込み、無料のくっき0の時に作用していた作用していた社会規範を追い出してしまった。
もう一つの実験では金銭をかかわらせず、労力でクッキーをもらるようにしたが、無料と有料の間だった。
労力を伴う取引が金銭的取引に比べて社会規範を維持できるのだから、どうすれば人々がサービスに対してお金を払う代わりに、自分たちの労力をもっと投資するようになるかを考えるべきだろう。
■8章 高価な所有意識
自分の所有物を過大評価してしまう傾向は、、人の基本的な偏向であり、自分自身に関係のあるものすべてにほれこみ、過度に楽観的になってしまうという、もっと全般的な成功を反映している。
■9章 扉をあけておく
選択の自由の何がこれほどむずかしいのだろう。たとえ大きな犠牲を払ってでも、できるだけ多くの選択の扉をあけておかなければならない気がするのはなぜだろう。
■10章 予測の効果
知識が先か後かで経験が変わる。
予測とビールの味
あらかじめバルサミコ酢を入れたビールを飲んでもらう時に、バルサミコ酢が入っていると飲む前に教えるとおいしくないと思う。飲んだ後に教えるとそれほどおいしくないと思わない。
あるグループにステレオタイプを抱くと、こちらの反応が変わるだけではなく、ステレオタイプ化された人たちのほうも、押し付けられたレッテルに気付けば反応が変わる(心理学のことばで言うと、レッテルに「プライミング」される)
高級料理を汚い部屋で出してもおいしいと思えない。
クラッシックのプロの演奏家が朝の出勤時にストリート演奏してもほとんどの人が気付かない。
肝心なのは、芸術でも文学でも演劇でも建築でも料理でもワインでも、とにかくなんにつけても、それを経験し評価するうえで、期待がどんな役割を果たすのか、ほんとうのところはわかっていない。
11章 価格の力
プラセボ効果
値段が高い薬の方が効果がある
12章 不信の輪
「共有地の悲劇」はふたつの競合する人間の理解につきる。一方では、長期的な観点から、個人は共有資源の持続可能性を気にかけている。その個人を含むすべての人が共有資源から利益を得ているからだ。だが、同時に、短期的に見ると、個人は自分の公正な取り分以上とることで、すぐに利益を得る。
13章 私たちの品性について その1
世の中には2つの不正がある。
1つは、強盗を連想させるような不正。
もう一つは、自分が正直者だと思っている人たちが犯す不正だ。
あらかじめ十戒を読んでから実験をすると不正が減った。十戒で正直の概念を呼び起こせる。
14章 私たちの品性について その2
不正の機会が与えられたとき、得られるものが現金の場合より、代替貨幣の時の方が断然不正が増える。
15章 ビールと無料のランチ
独自性要求
独自性を表現することに関心のある人ほど、テーブルでまだだれも頼んでいないアルコール飲料を選んで、自分がほんとうに個性的だと示そうとする傾向が強い。 -
タイトルにある「行動経済学」という学問は名前の通り経済学を下敷きにしているが、この本は行動経済学のお堅い教科書ではなく読み物として楽しめた。
伝統的な経済学では、人間は非常に合理的な存在であると考えられてきた。しかし、実際のところわたしたちの意思決定は不合理なところがあるのは誰もが認めるところだろうし、自分もそうだ。しなければいけない電話やメールをいつも先延ばしにしてしまうし、配信サービスなどは無料期間の後で解約すればいいやと思って契約したはずなのに、そうした試しが一度もない。著者はこのような意思決定の不合理さには、一定の法則性があるという。行動経済学は、このような不合理な意思決定の「クセ」を実験を行って明らかにし、これを経済理論に取り入れようという学問である。
本文でたくさん取り上げられる不合理な行動のほとんどが身に覚えのあるもので、薄々感じてはいたが言葉にすることができなかったことが明快に書かれているので、目の覚める思いだった。ベストセラーになるのもうなずける良書だと思った。この本を読んだからといって合理的な存在になれるわけではないが、自分がいつ不合理な判断をしそうか、どうやったらそれを止められるかを考える契機にすることができるのではないだろうか。 -
ちょっと前から積んでたんだけど、ランキング上位に返り咲いた理由とは何なんだろう?(おかげで探しやすかったのですが)
印象的な部分だけかいつまみ。
二章。
筆者が自分の朗読に対して、あるグループでは「お金を払う」、別のグループでは「お金をもらう」をデフォルトの選択肢に設定して実験をした。
アンカリングによって、前者はお金を払い、後者はお金を要求する結果になる。
これ、応用出来ないかなー。
価値があるというアンカリングを上手く出来れば、消極的な気持ちも動かすことが出来るかも?
四章。
無償で手伝ってもらえるようなことに、少しのお金を提示すると、社会規範が市場規範に切り替わり、請け負ってもらえなくなる内容。
意欲に報酬を結び付けると、意欲が削がれてしまうのもこの論理。
だけど、ちょっとしたプレゼントなら社会規範に留められるというのは初めて知った。
九章。
所有を手放すことへの執着。
一つの扉で多くの利益を得るよりも、他の扉を閉じない執着の方が強くなる。
選択肢で迷う時、迷っている時間による損失を考えてみる、というのは面白い。(クレジットカードを氷漬けにするよりも、笑)
十三章。
不正に対して、何も手立てを打たなかったグループと、『十戒』を思い出させ、内容を書かせたグループでは、後者に不正がなかったという実験。
よく道端に警告の看板があるけれど、あれって罰則の金額を書くより、道徳心に訴える文言の方が効果があるんだろうか?
ちょっとした疑問。 -
この本は、「行動経済学」について書かれた本で、「人間の選択は不合理なものだ!」ということを様々な実験を通じて検証しており、読み物としても、とても面白かったです。
行動経済学に火をつけたベストセラー本です!
ぜひぜひ読んでみて下さい。 -
行動経済学は、心理学と経済学をあわせたような学問でとてもおもしろい。様々な実験から、人間はいかに不合理か、操られやすいかということを教えてくれる。自分の思考や行動パターンを見直すきっかけになる本だと思う。
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行動経済学が認知されて久しい。ずっと読みたかった本ではあるが、マーケティングを直接の仕事としていないこともあり、なかなか時間が作れなかった。
この本の価値は「今まで経験上は感じていたけれども、伝統的な経済学では否定されていた点について言語化された仮説を提示した」点、および、「実験の上でその仮説を実証した点」の2点にあるように思う。
経済学と銘打っているが、実質的には心理学である。何が人の心にどういった影響及ぼすかについての考察が深く述べられており、実生活と合わせて考えると納得感が高い。
また、この本の凄いところは、きちんと仮説が実験で実証されていることところにあり、説得力が上げている要因の一つとなっている。
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個人的にも納得感が高かったのは「第12 不信の話」である。
企業広告には嘘が多い、と言うのは今はもう言い過ぎだろうが、ネガティブをポジティブなワードに包んでに誤魔化したり、不利な事は意図的に隠して後でバレたり、というのは往々にして見かけるところである。
実際、値段はそのままでではあるが紙パッケージを小さくした牛乳や、容器を底上げして容量を少なくしたコンビニ弁当の例は論を待たない。
これらは実質値上げであるにもかかわらず、「持ちやすくなって新登場!」「食べやすくなって新登場!」とされ、アピールされているが、ここで騙されるほど顧客はバカでは無い。
一度失った信頼を取り戻すのは非常に難しく、いまでもことあるたびに「同じことをしていないか?」といった疑いが向けられることになった。当然、不信感から顧客離れが発生する。
本書ではそういった「不信を生ませない方法」も留意すべき点の一つとして取り上げられており、この点を他者に伝える上で非常に参考になった。 -
1.行動経済学の第一人者の人なので絶対に読もうと決めてました。
2.本書はファスト&スローのファストの部分、つまり、感情の面で人間がどのような行動をとるかについて述べられている。
人間は基本的には合理的な判断を下すものの、ある状況下では不合理な選択をすることがわかっており、保有効果やアンカリングなどがあげられる。
人間の直感は頼りになるのだが、完璧ではないため、多くのミスをしてしまう。本書では、起こったミスに対して、どのような解釈がされているのかが述べられています。
3.不合理な選択をしてしまうのはある意味人間らしいと思います。人間の不合理さによって商売が成り立つ部分があったり、喜びがあったりします。この時に、自分はどのミスに陥っているのか、このお客さんはどの選択をしてるのかを分析できれば理想的なマーケティング担当や営業担当になると思いました。 -
2023/12/22 読破
まとめ:不合理さの証明と実験結果に合わせた解釈
・人間の不合理さと、言語化できない行動を多くの実験結果から証明してくれる
・合理的に動くのは経済学、不合理に動くのは行動経済学
・まるで自分の行動が見透かされているような、そんなお話しがありました
読み物として、とても面白かったです。ただ、ページ数の割に、内容が濃いので、読み進めるのが大変でした。読むのに疲れる方は、かいつまんでもいいと思います。
人の行動原理や人間観察が好きな方は面白いですよ -
途中までですが、忘れたくないところの、忘れないための抜粋と要約。
アンカリング
相対性でしか価値をはかれない。何かと何かで迷った時は、ぜひ、なんとなくのイメージではなく、できるなら計算をして決めたい。
スタバの話は興味深い。高価なはずのスタバだが、一度店のゆったりとしたソファやお洒落なインテリアでコーヒー休憩の経験をすると次も選択しやすくなるという。たしかに。この前スタバ行ったから今回も行きたいとなるかも。それが習慣になり、ドトールよりスタバが好きになってしまう。初めてのハードルを超えてしまうと次の選択枝にも影響を及ぼしてしまうということですよね。
無料の偉大さ
値段において、1円と0円つまり無料は、1円と2円の差と同じではない。もっと歴然とした違いがある。
「無料になった途端、少しばかり興奮しすぎる」らしい。ここでもやはり、冷静になって計算してみれば本当の得が見えてくるのでは。配送料無料ラインに届くように、今必要ないものまで買ってしまうなど。冷静になれば、配送料を払った方がお金の減りは少なかったりする。必需品だからと洗剤や米を選ぶにしても、スーパーの価格と比べればネットの方が割高な事が多い。
社会規範と市場規範
社会規範→人と人の繋がり
市場規範→経済的な繋がり、というところでしょうか。2つは同時に存在できず、社会規範の繋がりの中にいったん市場規範が持ち込まれると社会規範は壊れてしまう事が多い。ボランティアに賃金が支払われる事がないように。
先延ばしの問題と自制心
将来に素晴らしい結果が待っているとしても、目の前にあるものに勝つことは難しい。野菜サラダが将来の健康の為になると分かっているのに、目の前のドーナツに手を伸ばしてしまう。禁煙すれば確実に健康に近づくと分かっているのに決断できない。
アメリカの死因の第一位は病気ではなく、賢い選択ができずに自滅的な行動を取ることだという。早死にに繋がる選択をしてしまうのは悲しい真実だ。
扉をあけておく
我々は選択肢を捨てられない。2つの似通った選択肢から1つだけを選ぶ時、そのものごとの類似点、わずかな相違点を比べる為にどれだけの貴重な時間を費やすのか?費やした時間その間に訪れたかもしれない機会、経験できたはずの生活を犠牲にしている事を忘れてはいけない。2つのわずかな相違点、どちらを選んでもそう大差はないはずだという事実にきづくべきだ。 -
こういうことを学生時代に研究したら面白かっただろうなと思わせる本。
色々研究内容がありますが11章のプラセボ効果が一番良かったですね。
自分の経験で言えば、、、この2点が実例なんでしょうね。
私は演奏会の本番前にエナジードリンクを飲むのですが、それがただの味付き飲料だったとしてもきっと効果あるのでしょう。実際の成分よりルーチンワークが大事ということ。
同じように何かを心配している人がいたとして、なんの根拠もなかったとしても「大丈夫だよ、きっとよくなる」と言ってあげるだけで相手が安心するのでしょう。実際の根拠よりその人自身の暗示やその人に寄り添ってもらえる人の存在が大事ということ。 -
人は理性があり合理的に行動する。しかし実際には薬の成分が全く同じでも価格に差をつけると高額な方が効く。不合理としか言いようのない人間の行動に驚くばかりだったが、それ以上に人に愛着を持てるようになった。行動経済学は何とも面白い。
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「行動経済学」の入り口本。面白かった!読みながら、あんな言葉で高級官僚の座を棒に振ったあの方、トップアイドルとして走り続けたのにお酒で理性を失った高い好感度の彼の行動や、我が家が上手に貯蓄できない理由等、この学問で随分説明がつくなあと、苦笑い。人はいかに完璧からほど遠いものか。様々な実験結果をもとに、人の意思行動決定が相対比較や、思い込み、過去の経験等々に大きく影響されることが分かり易く説明されています。小説に私が求める人間の弱さ脆さのデータ満載でした!
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アメリカでベストセラーになった行動経済学を扱った一冊、らしい。たしかに2016年11月下旬現在のアマゾン・ジャパンでも、本書は「経済思想・経済学説」部門ランキングで第一位となっており、おまけにベストセラーの札も付いている。普段経済書など読まないわたしは、とりあえず前ならえで本書をお買い物カートに入れた。すばらしい!わたしはこの場面で、本書の第一・二章のとおりの行動をとったようだ。すなわち、経済学に明るくないためにどんな本を読むべきかの判断基準を持たないわたしは、相対的に評価の良い本書にハーディングした(群れた)。わたしはなんと「予想どおりに不合理」なのだろう。
本書で扱われいる事柄は、誰しもが薄々感づいていることなのかもしれない。不必要な消費とわかっていて、それが企業の思惑と知っていても、損でないならその手にのる。自分の癖は百も承知で、同じ失敗を繰り返す。人間とはじつにじつにおもしろい生き物である。しかしながら、著者やその研究仲間によるさまざまな実験によってその不合理性が明らかにされてはじめて、わかっていてもみないことにしていた事柄をより客観的に評価できる。ヘタな自己啓発本よりよほど示唆的である。相対的な選択も今回は当たりである。
個人的に教訓を得たのは、第九章である。本章の副題には、「なぜ選択の自由のせいで本来の目的からそれてしまうのか」とある。著者は実験によって、的を絞ったほうがより良く利益を得られることが明らかな場合でも、人は選択肢を残して力を配ることを証明する。結果的に不利とわかっていて、自らその道を選ぶとはどういうことなのか。著者は選択肢を残すことはなにかを手放していると指摘する。残しておけば失うものはなにもない一安心ということはなく、その代償になにかを必ず失っている。それがどうでもいいことならいいのだが、往々にして気づかぬうちに重要なことを捨ててしまう。人は普通、経験則としてこのことを知っている。しかし、実証は語る。行動経済学は人に冷静な判断などないことをよく理解させる。
「経済」と聞くと、わたしなんかは悪寒がする。小さいころからの理数への劣等感がわたしに経済学を嫌悪させるのだが、社会や人を理解したいと思えば思うほど、経済を抜きにしてはそれは不可能であることを渋々認めざるをえない。しかし本書は、わたしの背中を寒くはさせず、むしろ何度も笑わせた。それは彼の語り口がアメリカンなユーモアに満ちていたから(著者はイスラエル人ではあるが)というのもあるが、なによりこの学問がおもしろいと思えたからである。数字の羅列ではなく、だれもが身に覚えのある違和感が問題となっている。わたしにもあなたにもなにがしかの収穫があるだろうし、わたしは自分の関心のある分野に行動経済学の知見を活かせるのではないかと、読中読後わくわくしている。もう少しこの分野に足を突っ込んでみようと思う。 -
経済行動学から見ると、人間の行動、特に経済行動はどのように評価されるのか、伝統的経済学が前提とするホモエコノミカスのように本当に合理的な行動を取るのかなどについて、実際の場面場面を例にして、一般向けに分かりやすく書かれている。
しかも人間行動は単にデタラメなのではなく、「予想どおりに不合理」なのであって、これは多くの人間に共通する心理的基礎に拠っているからであることを、様々な実験から導かれるデータに基づき科学的に論証していく。
よくこんな実験を考えついたなと興味深く思えるものも多いし、またアメリカではこんな実験までできるのかと感嘆するような実験もあり、そこだけでも大変面白い。
判断する際に何かと比較してしまう“相対性"の問題、無料❗️となると不合理に飛びついてしまう習性、好意、楽しみでしていた行為に金銭が介在すると途端に性格を変えてしまう社会規範と市場規範の関係、今しなければいけないことを先延ばしにしてしまう「現在バイアス」、ちょっとした情報で予測が影響されてしまったり、プラセボのような暗示と価格の力、そして非常に重要な問題である、人間が正直であるかどうか、不正を働かないようにするためにはどのような方法が効果があると期待できるか、といった項目について論じられる。
私たちが予想どおりに不合理であることを知ることは、より良い決断をしたり、生活を改善したり、また有効な政策立案に資するものである。
どの章を読んでも啓発されるところ多いが、著者の文章はユーモアもあり、楽しく読めるだろう。 -
「ファスト&スロー」では期待値など数学に関連した議論が展開されていたが、こちらは実験がメインなので読みやすい。語り口も「Factfulness」に近いものがあり、気楽に読める内容になっている。そうはいっても、内容は盛りだくさんで飽きさせない。
昭和の時代は社会規範が上手く機能していたが、令和になり世の中は市場規範で動くようになった。また昭和の時代には存在していた相互信頼も衰退してきている。このような状況で、労働を含めた経済活動を円滑に進めるには多大なコストを必要とする。先行きは暗いと言わざるを得ない。 -
2周目。この本ほんとに面白い。これは流石に古本屋に売れない。喫茶店事業をやろうと思っているので、値段設定などのためにまた読み返している。
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とても面白かった。
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◯行動経済学の入門の入門といった感じの本。著者の興味深い実験と軽妙な語り口に、経済学?と思わず訝しんでしまうくらいに面白く読める。
◯ユーモアさやエピソードから感じる西洋感がなければ、訳出された本であると思わないほど読みやすいのも特徴的。
◯肝心な中身についても、幅広く興味を持ってもらい、ここから次につなげる一冊としては学部生向けであり、忙しい社会人でもさらっと読める良い本。 -
自分の行動は100%自分の意思による決定だと思ってきたけど、実はそうでもなさそうだ。特に金銭や損得が絡む場合。売り手がちゃっかり罠を仕掛けてきている。その罠に気づかずに商品を手に取り、レジへと向かう。そして家に帰って袋を開けた時に、なぜこれを買ってしまったのかと嘆く。これはひとえに自分の意思が弱いからではない。売り手の方が1枚上手だったのだ。
この本を読み、いくつか学んだことがある。
・ポイントや値引きがあるから購入する、といったことは今後は一切しない。定価でも欲しいと思ったものを買う。というのも、値引きされてると価値や効果まで引かれるように感じられるからだ。
・複数人でランチ行く時は1番最初に頼む。自分が好きなモノを食べたいからだ。相手に譲るまい。
自分軸を大切にしようと思った。 -
食べ物を分け合う時、最後の1個が残りがちである。このような人間の習性についてまとめた本。行動経済学が元になっているが、堅苦しいものではなく、気軽に読むことができ、面白い。
個人的に面白いと感じたのは、相対性について、社会規範と市場規範、選択肢が多いほど本来の目的からそれてしまうことの3つである。
相対性についてー人間は何かを測る時、絶対的な基準を持たない。何かを決めるとき、必ず何かと比較してしまうのである。そのため、選択肢を増やすことで相手をその比較に注力させてしまうのである。
社会規範と市場規範ー社会規範は思いやりのようにお金が関わらないときの行動、市場規範はお金が関わる時の行動である。これらの規範の切り替えによって、人は動いており、どちらの規範に傾いてるかによって人の行動は変化するのである。
選択肢が多いほど本来の目的からそれてしまうことー「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざにもある通り、優柔不断なのが人間の常である。これは、より良い可能性を捨て去ることに対する不安からくるものである。しかし、多くの場合はどちらも非常に似通った選択肢であるため、早々に決断したほうが得をするのではないだろうか。 -
冷静に考えて判断しているつもりでも、ずいぶんおかしな行動をしてしまっていることが多い。それは不合理。行動経済学、って面白そう。
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良書!行動経済学おもしろい!無意識だと思っている選択が実は他人に操作されてるってわかる。
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著者 ダン・アリエリー
イスラエル生まれ。18歳の時に全身70%の火傷を負い3年間の入院生活の経験から、痛みへの人間の対処行動などに関心をもつ。「痛みの研究から視野を広げ、経験を積んでもそこから学ぶことなく失敗を繰り返してしまう状況について研究しようと決めた」
◆相対性
・同じ⚫︎であっても、自分の⚫︎よりも"大きな⚫︎"か"小さな⚫︎"どちらに囲まれているかで⚫︎の大きさは(自分の中で)変わる。
・値の張るメイン料理をメニューに載せると、たとえそれを注文する人がいなくとも全体の収入は増える。
→大きな⚫︎があることで、相対的に他の⚫︎が小さく感じ手に取りやすくなる
・わたしたちは、身の回りのものを常に他の物との関係でとらえている。そうせずにはいられないのだ。物だけでなく、結婚相手、休暇、教育、感情、態度、形の無いものにも言える。
→少しだけ自分より見た目が劣る人物と並ぶと、相手側から自分が良く見える。
◆需要と供給
・人に欲しがらせるには、それが簡単には手に入らないようにすればよい
・基準、アンカー(錨、恣意の一貫性
商品やサービスを買おうと思った時、はじめてアンカーが脳に刷り込まれる。
最初のアンカーはその時の買い物だけでなく、その後の判断にも無意識に影響を及ぼす(車、家賃、ガソリン代...
・アンカリングへの対処
埋め込まれたアンカーがあることを意識、思い起こし、冷静に判断すること。弱点を自覚すること。自分が繰り返している行動に疑問を持つよう訓練すること。自分の決断に疑問を持つこと
サービス提供側(売る側)は、今までの経験とは違ったものになる様にする→スターバックスの様にコーヒーではなく空間やファッションとして販売する(新しいアンカーが埋め込まれる
◆無料のコスト
1円と無料の違いは莫大。
お客を集めたければ、
何かを無料に、買い物の一部を無料に、安くするのではなく無料に。
◆社会規範のコスト
社会規範→共有、協力、ボランティア、プレゼント
市場規範→経済活動、金銭
恵まれない地域にボランティア(無報酬)で働く医師。100円でもお礼や手当としてお金が発生したら、自分の時給と比べだし奉仕活動を辞めてしまう。(善行は変わらず医師も得をするのにも関わらず市場規範に考えが移行してしまう。社会規範が消えてしまう)
→従業員にはお金ではなく、モノでのお土産や感謝の言葉の方がモチベーション維持向上になる
→お土産やプレゼントの際には、値段やかかった費用などは口に出してはならない
◆無料の力
社会規範が支配する状況で金銭による支払いを申し出ると、金銭が加わったせいで相手の意欲がなくなる可能性がある。
◆予測の効果
(コーヒー、レストランなど)雰囲気が高級そうだと、味も高級に感じる。
前もって美味しそうだと信じた時は、たいてい美味しく、不味そうだと思って食べた時には、たいてい不味い。
肯定的な予測は、ものごとをもっと楽しませてくれるし、周りの世界の印象をよくしてくれる。何も期待しないことの害は、それ以上何も得られずに終わってしまうかもしれないということだ。
◆価格の力
値引きされると、直感的に定価のものより品質が劣っていると判断する。 -
面白かった。対象と比較、アンカー、予測の効果、共有地の悲劇などが良かった
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行動経済学について、理論だけでなく実例を用いて分かりやすく伝えてくれる1冊。
世の中には、自然と行動変容につながる仕掛けがありふれていて、様々な仕掛けが知らないうちに人々の行動を変えている。 -
●主張の総括(と感じたこと)
私たち人間は自然物であるため、感覚や思考には、特有の誤差や偏差がある。このため、不合理な行動を規則正しく取ってしまう。
一方で、規則性がある誤りは予想可能でもある。よって、適切に対処できれば克服できる。
●覚えておくこと
ヒトは…
①物事を比較する事で、評価し判断できる。
余り良くない物も、より悪いものと並ぶと良いものと思ってしまう。比較対象には自分の過去も含み、整合性(時に不要な拘り)を持ってしまう。
⇨プレゼンで通したい意見の横には比較例を並べる
②ゼロ(無料)は失敗の恐れがないため、過剰に嗜好してしまう。
⇨無料の選択肢を見たら警戒する
③お金が絡むと、社会規範が市場規範に塗り替えられてしまう。人は社会規範の中の方が安寧に過ごせる。
④感情が昂ると、平時には全く取らない行動をしてしまう。これは抗い難い事実。これを避ける方法の一つは、興奮状態に陥る場に近づかないこと。
⑤自制に打ち勝つ方法は、やるべき事と、楽しみなことをセットにする事。これにより、進んでやるべきことを選べるようになる
⇨ランニング用にオーディブルを備えておく。
⑥予測は本文の内容も歪めて認識してしまう。
⇨プレゼンの初めに要旨を付ける。予測の間を与えない。
⑦現金を盗む等の明確な不正はしないが、ペンを拝借する等のちょっとした不正は簡単に犯してしまう。しかし、直前に道徳心を思い出させる言葉があれば誠実に行動できる。 -
【導入】
人間は想定よりはるかに不合理に行動する。そして、それには規則性がある。
【結論】
規則性があるからこそ、それを理解して自身の行動を良い方へ導こう!
【アクションプラン】
突発的に行動しそうになったら、理由を探してみる
【概要】
人間が不合理な行動をする要因は下記の六つ
①相対性
②アンカリング
③損失回避
④社会規範と市場規範
⑤自身への誤解
⑥先入観
①人は価値を判断する基準を持っていないため、相対的な判断をする。
相対的な基準も比較しやすいものから選択するため、行動が不合理になりやすい。
(ex.商品のプランや他人の容姿の良さなど)
②人は最初の経験が基準となる。同じ物でも、初めて買った値段が基準となる「恣意の一貫性」。
ただし、経験は供給側の意図により誘導されやすい。
(ex.携帯電話の料金など)
③人は所有物を手離すことに恐怖を覚える。高価な物が安くなっているより、安いものが無料になる方が魅力的に感じる。
自身の所有物は手離す覚悟を含めた値段をつけてしまうため、買い手と評価が合わない。
物に限らず思想や行動選択の幅についても同様に手離すことを拒む。
結果として、所有物に振り回されてしまう。
④報酬が無い(社会規範)からこそ、自身の意思決定として行動できる。そこに金銭が発生する(市場規範)と行動に価値がつけられてしまい、労働に成り下がってしまう。
社会規範は精神的な報酬性が高い。
また、一度失われた社会規範は簡単には戻らない。
⑤冷静な時に感情的になっている自身を想定することは不可能。先々の行動を自分の中で決めてもその都度の考え方は変わってしまう。
周囲への決意表明や行動パターンの中に組み込むなどの外的要因が必要となる。
⑥人の予測は知覚に影響を与える。不味いと思って食べれば必ず不味く感じる。
効くと予測すれば偽薬でも効果が出る。
どれだけ良い予測をしてもらえるかというブランディングが大事。
一度信用を失えば、そう簡単には信用を取り戻すことはできない。
【感想】
各章のサブタイトルに書かれている疑問の答えを探しながら拾い読みをすると読みやすいです。
厚めの本であり実験内容が大半なので、そこをじっくり読むと疲れてしまうので、実験は興味のあるところだけ読んで、得た知見をよく読んだ方がいいかと思いました