ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ文庫 NF 411)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150504113

感想・レビュー・書評

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  • マイナスはプラスを圧倒する。
    上巻と同様に問いや例がふんだんに織り交ぜられているため、体感型の学習ができる。
    損失vs費用、メンタルアカウンティングを中心に、上巻よりも焦点は絞られている。
    本書を読むことでパラダイムが書き換わり、自身の選択に意識が向くようになることが最大のメリット。
    無意識を学び、在り方を変革させる至高の一冊。

  • 私たちの思考は、直感的で速いシステム1が主役になっていることで、おおむねうまくいっているが、
    意思決定や判断においては、致命的なミスをおかすことも多い。

    私たちは、見たものがすべてという錯覚におちいりやすく、自分の判断に過度に自信過剰になる。
    対策としてあげられるものとして、外部情報の活用や事前に失敗する場合の理由を想定すること(プレモータル、死亡前死亡診断)は、覚えておきたいと思った。

    また、私たちは決して経済的主体のように合理的ではなく、価値判断にも偏りがある。
    参照点をどこに置くかによって、何かの価値は変わるし、リスクを回避するためには、わずかな可能性のために非合理な判断をしたり、確実性のあるメリットを求めるために、有利な条件を放棄したりする。

    本書の最終盤では、記憶と経験のズレについて述べられていた。
    記憶はピークエンド効果により、ピーク時の感覚と最後あたりの感覚の平均で捉えてしまい、実際の経験とは異なることも多い。
    これは人生の満足度にも言えることで、日々経験していることを評価していけば幸福なのに、人生全体の満足度を考えると、最近あったインパクトの強い出来事にひっぱられ、経験よりも低い満足度になったりもする。

    上巻と合わせて、私たちの思考のクセを知り、よりよい判断をできるように、繰り返し読みたい。

  • 上巻に続き、意思決定の「妙」についての解説。経済学では人間は「合理的」となっているが、「現実を生きる経験する自己」と「記憶をもとに選択する自己」では意思決定が異なり、非合理的選択をすることも多い。長い時間心地よい音楽を聴いていても、最後に雑音が入るとすべて台無しと判断してしまうことや、嫌な状態が続いても最後にいいことがあると許してしなうことなど。こういうことは人や組織を動かす時に知っておくべき知識だと思う。

  • ◆この本の一貫したテーマ
    認知的錯覚。
    直感的に信じてしまう認識の誤り。

    ◆全体としての感想
    ・正しい選択をしているようで、していない自分が絶対にいることを知った。
    ・自分が意思決定する際に、いかに自分を”俯瞰的”、”客観的”に見るかが、大切かということを学んだ。
    ・どんだけ実験したんだよ。もはや怖い。相当な年月を踏まないと完成しない本

    ◆学んだこと
    ①意思決定にはシステム1(早い思考)と2(遅い思考)が存在する。
    システム2で熟考しても、色々なバイアスがかかり、正しく判断できない場合も。
    例:バットとボール、感情ヒューリスティック、認知的容易性(クジ、白玉赤球)
    ②人間の記憶は、経験よりもよっぽど強い(2つの自己)
    ・コンサートのラスト音源が聞こえなくなる
    ③確実に得をするときは確実性を選び、確実に損をする時はリスクを負ってでも勝負。
    ギャンブラーの特徴。実体験がありすぎて、印象に残りました。笑


    ◆どう使えそう?
    人は普段から正しいと思っていても、間違った選択をしている時もあるんだよ。
    それはこんな時に、こんな理由から生じるんだよ。
    といった事実や現象を知っているだけでも、いい勉強になりました。
    要は、自分をさらに俯瞰的、客観的に見る力が身に付く本かなと感じました。

  • 2014/10/31

  • 感想は上巻

  • 下巻では、「見たものが全て」を前提として判断するヒューリスティックなシステム1の引き起こす錯誤の例を、行動経済学の概念から、また豊富な実験結果を通じて紹介しています。

    興味をひかれたのは、人間のヒューリスティックな側面は、経済学が規定する合理的な人間(エコン)と相いれないという指摘です。経済学は、人間の行動が合理的で一貫性があることを前提としていますが、実際のところバイアスのかかった判断を多くの人間がとることから、経済学や社会学では人間の行動特性を良く踏まえて論じることが必要との主張です。そこで、人がなるべく長期的にみて最善の選択をできるようにナッジする「リバタリアンパターナニズム」という行動経済学のセイラーとサンスティーンの提唱する考え方が紹介されています。以前に読んだフリードマンらシカゴ経済学学派の選択の自由と自己責任という概念とは一線を画しています。

    また単純な限界効用理論に対して、参照点との比較や損失回避という人間の心理的要素や、一旦手に入れたものを手放したがらない「保有効果」、また選択に際して人は富の状態でなくて、得か損かを重視し、更に利得の確率が高い場合に人はリスク回避的に(a)、低いときはリスク追求的に(b)、また損の確率が高いときはリスク追求(c)、低いときはリスク回避的(d)になる四つの類型を盛り込むプロスペクト理論を提唱しています。(b)がなぜ人が宝くじを買うのか、(d)が保険を掛ける理由そして(c)が何故窮鼠猫を嚙む的な行動の説明とされています。

    サンクコストに人がとらわれてしまうことを「メンタルアカウンティング」という概念から説明したり、臓器提供への同意状況が欧州の国で大きく違う理由がその選択を問う「フレーミング」(例えばOpt out方式による確認かどうか)によることなども紹介されていますが、こうしたこともヒューリスティックなシステム1によるところが大きいようです。

    自分の人生への思いをはせたのは、「経験する自己」と「記憶する自己」という二つの自己です。人は記憶を重視して過去の出来事を振り返りますが、それは往々にして最後に起こったことに基づいており、その経過や実際の時間の長さを無視してしまう傾向にあるようです。「終わり良ければ総て良し」ということでしょうか。しかし、経験する自分を重視すれば、楽しかった瞬間の大事さを分かるのではないかと思います。最近注目をあびているマインドフルネスというのも「経験する自分」に思考の起点をおくことの大事さを人が認識していることのあらわれかもしれません。

    上下巻を通して人間の行動の面白さを楽しむことができました。考えてみれば、読書もその過程の経験と読後に残る感想という、経験と記憶の二つの要素があることに気付かされました。

  • 上巻と比較して行動経済学に関する話題が多く少し読むハードルが高くなった
    エコン(homo economics)と比べヒューマンは合理的でないということと、振り返った時の印象と当時の実感との乖離を主に述べていたように思う
    本文中にも述べられているように誰でも何となく知っていたことを言語化し、裏付けを得て、理論として構築したことは脱帽の限りである
    これも述べられているが合理的になることは不可能であるため少しでも合理的になるようにこれから、日々の生活で出来るだけ意識してシステム2を働かせる、周囲の人とともに本書の内容の理解を深め互いに批判しあえるような関係を築く、などをしていきたい
    いうまでもなく良書なので読んでない人は是非上巻下巻ともに一読してもらいたい

  • 下巻の前半はプロスペクト理論の説明。
    プロスペクト理論の特徴は
    1)参照点がある
    2)感応度逓減性:100ドルが200ドルに増えればありがたいが、900ドルが1000ドルに増えてもそこまでのありがたみはない
    3)損失回避性:損失は利得の1.5−2.5倍に感じられる

    そのため、利得も損失もありうるギャンブルでは損失回避になり、リスク回避的な選択が行なわれる(損失の方が利得の二倍程度強く感じられるため)
    確実な損失と、不確実だがより大きな損失というように、どちらに転んでも悪い目の出るギャンブルではリスク追求的になる(900ドル失う苦痛の方が1000ドル失う苦痛の90%より大きいため)

    保有効果はプロスペクト理論から説明できる。何かを所有している場合にはをれを手放す苦痛があり、持っていない場合にはそれを手に入れる喜びがある。手放す苦痛は手に入れる喜びを上回る。

    最近行なわれている「貧困下での意思決定」の心理学では、貧しい人には保有効果が働かないことが示唆されている。「貧しい」ということは参照点以下の生活を送っているということであり、常に損失の状態にある。この状態では僅かなお金を得ても損が減るだけで参照点に少し近づくものの価値関数の傾きの大きい領域にとどまっている。

    ・Hansen(J Personality and social psychology 1988)によると、怒った顔は大勢のニコニコ顔の中から飛び出して見える。逆に、大勢の怒った顔に混じった一つのニコニコ顔は見つけるのが難しい。人間にかぎらず動物の脳には、悪いニュースを優先的に処理するメカニズムが組み込まれており、このおかげで捕食者を一瞬で感知できる。

    ・分母の無視
    伝染病のワクチンについて「麻痺のリスクが0,001%ある」というとリスクが小さく感じられるが「接種した子供の10万人に一人に麻痺がおこる」と聞くと
    どうだろうか。「この病気にかかると一万人に1286人が死ぬ」というのと「この病気にかかると100人に24.2人が死ぬ」だと前者の方が危険な感じがする。
    腕利きの弁護士はDNA鑑定に疑義をとなえたい場合「誤鑑定の確率は0.1%である」とは言わず「死刑判決1000件に1件の割合で誤鑑定が起きている」という

    ・フレーミング
    決定1 次のいずれかを選んでください
    A 確実に240ドルもらう
    B 25%の確率で1000ドルもらえるが、75%の確率で何ももらえない
    決定2 次のいずれかを選んでください
    C 確実に750ドル失う
    D 75%の確率で1000ドル払うが、25%の確率で何も失わない

    では73%が決定1でAを、決定2ではDを選び、BとCの組み合わせにした人は3%にすぎなかった。
    しかし

    AD 25%の確率で240ドルもらえ、75%の確率で760ドル失う
    BC 25%の確率で250ドルもらえ、75%の確率で750ドル失う

    の二つを比べるとBCは無条件でADを上回る。
    利得と損失の形で表した単純な選択は、いかようにも選択肢の組み合わせとして再構成し、一貫性を欠く選好を誘導することができる。決定する側としては、複数の決定を一つにまとめて扱える場合は、いつでも広いフレーミングの方がよい。

    ・フレーミング
    McNeil(NEJM 306:1259-62, 1982)によると
    手術に際して
    「術後一ヶ月の生存率は90%です」
    「術後一ヶ月の死亡率は10%です」
    の二つの説明を受けると、内容的には同じであるにもかかわらず前者の方が後者よりも手術を選びやすい(84%vs50%)
    フレームの再構成(リフレーミング)は努力を要するので、明白な理由のない限り、私たちの大半は意思決定問題をフレームされたとおりに受身的に受け止める。自分の選考が客観的事実ではなくフレームに左右されているおとに気づく機会はめったにない。

    ・自分たちの研究は「人間の選択が不合理であることを示した」と言われるが、そうではなく「合理的経済主体モデルではヒューマンをうまく記述できない」というべき。システム1のエラーに多くの記述をさいたが、私たちが行なう正しいことの大半もシステム1のおかげである。

  • プロスペクト理論、死亡前死因分析…
    こんな視点があったとは…

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著者プロフィール

心理学者。プリンストン大学名誉教授。2002年ノーベル経済学賞受賞(心理学的研究から得られた洞察を経済学に統合した功績による)。
1934年、テル・アビブ(現イスラエル)に生まれへ移住。ヘブライ大学で学ぶ。専攻は心理学、副専攻は数学。イスラエルでの兵役を務めたのち、米国へ留学。カリフォルニア大学バークレー校で博士号(心理学)取得。その後、人間が不確実な状況下で下す判断・意思決定に関する研究を行い、その研究が行動経済学の誕生とノーベル賞受賞につながる。近年は、人間の満足度(幸福度)を測定しその向上をはかるための研究を行なっている。著作多数。より詳しくは本文第2章「自伝」および年譜を参照。

「2011年 『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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