赤の女王 性とヒトの進化 (ハヤカワ文庫 NF 418)

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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150504182

作品紹介・あらすじ

ヒトにはなぜ性が存在するのか? 男女の「本性」の違いとは? 進化生物学で謎に迫る

感想・レビュー・書評

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  • 『やわらかな遺伝子』などの著作でも有名な進化生物関連のサイエンスライターのマッド・リドレーの代表作。しばらく絶版になっていたが、再版され、Kindle版も出たため手に取った。内容も古くなく、なぜ絶版となり入手できない状態になっていたのかわからない。

    タイトルにある「赤の女王」とは、『不思議の国のアリス』で、”この国では同じ場所にとどまるためには全力で走り続けなければならない”、と言った赤の女王のエピソードから取られた学説を意味する(リドレーが初めて用いたわけではない)。いわく、進化とは、遺伝子間の絶え間ない生き残りを賭けた競争の結果であるという洞察を示している。生物は、寄生者との戦いのために遺伝子的多様性を持つことが必要で、その多様性を保つための効果的な方法が有性生殖と言われている。この観点において、有性生殖には、そのデメリット(相手を見つけないと繁殖できない、など)をしのぐメリットがあるのだ。寄生者は、どんどんとその攻撃手法を変えて成功したものだけを生き残らせる。薬に対して常に耐性ができる病原菌が現れるという事実がそのことを証明している。「性」というものは、遺伝子が変わり続けるために、進化の歴史上必然的に生まれたものだ。変わらないものは、生き残ることができないのだ。

    さらに、性は、寄生者との競争のために導入されたが、競争原理は同種の異性間でさえ適用されている、と続ける。リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』以来認識されている通り、自然淘汰は、種でも個体でもなく、遺伝子において働くのだ。

    「性」の目的は繁殖にあり、その繁殖を司る「性」が淘汰圧を受けていることは当然だ。ヒトを含む生物の特性のほとんどすべてが繁殖成功度を高めることににつながっていることを認めることから始めるべきなのだ。知性や言語能力もその例外ではなく、同性内での競争や異性間の駆け引きを通して、他者を出し抜くいて子孫を紡ぐのに有利であったからこそ人類において爆発的に発達したと言える。
    本書では、さらにヒトにおける性差や美醜の基準についても踏み込んで論じている。特に一夫一妻制/一夫多妻制における両性の戦略の違いについて詳細に論じられている。そのような議論の中では、著者も意識をしているように、時に両性平等のポリティカルコレクトネスに抵触しそうになる。この点についての著者の態度は次のフレーズに集約される。

    「男性と女性は異なる肉体をもっている。この相違は進化による直接の所産である。女性の肉体は、子どもを産み育てるという必要性や食物となる植物を採集するという必要性に合うように進化した。男性の肉体は、階層的社会のなかで台頭し、女性をめぐって争うという必要性や、家庭に肉を供給するという必要性に合うように進化した。
    男性と女性は異なる心をもっている。この相違は進化による直接の所産である。女性の心は、子どもを産み育てるという必要性や食物となる植物を採集するという必要性に合うように進化した。男性の心は、階層的社会のなかで台頭し、女性をめぐって争うという必要性や、家庭に肉を供給するという必要性に合うように進化した。
    最初の文章は平凡だが、二番目の文章は挑発的である。男性と女性が進化的に異なる心をもつという主張は、あらゆる社会学者や品行方正な人々に忌み嫌われる。しかし私は、二つの理由からこの主張は正しいと信じている。第一に非の打ちどころのない論理である。...第二に、動かしがたい証拠がある。」

    「差異」と「差別」は違う。科学的姿勢とは、その二つを明確に区別をすることだと言える。もちろん、「差別」はほとんど常に「科学」の姿をまとって現れる。そのことに対して正当な警戒心を抱くことが、現代における科学的姿勢というべきだろう。ふと、この本が長らく絶版になっていたことを思い出す。しかし本書は、「差別」に利用される危険性をはらみながらも、ライターとしてそのような姿勢を持って書かれていることは確実だ。

    著者は、本書について、「「人間の本性」という特性を探求していくものであり、「人間の本性がいかにして進化してきたいかを理解することなくして、人間の本性の把握はありえない」という論旨に沿って進められる」とはじめに述べる。第一章のタイトルも「人間の本性」だ。そして、最後にて、その「人間の本性」を理解するという目標に対して、「そのゴールに到達することは決してないだろう。そして、そのほうがおそらくよいのだ。それでも「なぜか?」と絶えず問い続けているかぎり、我々には崇高な目標があるのである」という言葉で結ぶ。
    「人間の本性」などというから、まるで凡庸な結びであるように感じる。しかし、もはや進化生物学の援用なくして、ヒトについての本質的な理解はできない、というのが共通理解となったということが重要だと思う。

  • 不倫は文化どころではなく本能であった…

    なぜ雌雄があるのから始まり、なぜ雌雄二つだけなのか、ヒトの異性に対する嗜好も例外ではなく遺伝的なものベースであることなど幅広く、何らかの生物や人間の営みの例を示しつつ解説してくれている。(なので若干回りくどい感じはする)
    全体を通して、何か一つが何かの変化の絶対的な理由ではないし、この説も覆される可能性がある、と言う前提で書かれていると感じた。

    「赤の女王」説は、ともすれば自身で生み出した課題を自身で解決しようとしているIT業界にも当てはめられそう。

  • Astrobiology Clubで東大の市橋伯一先生が勧めていたので。
    生物の生存戦略を性の観点から書いた本。

    面白かった。
    著者のマット・リドレーという方は学者さんではなく、ジャーナリストだそうです。
    素人でも読みやすいのはそういう理由もあるのかな。

    また最後に、「ここに書かれている説の多くが誤りであろう」、とあるのにも好感を感じるし、知性を感じる。
    説は常に覆されるし、一時真実味があるように見えるものも、時間が経てば否定される事も多い。
    それをきちんと踏まえている。

    ちなみに赤の女王とは、『鏡の国のアリス』に登場する女王で、彼女の国はものすごいスピードで動いているので、同じ場所にとどまるためには自身もすごいスピードで移動しなくてはならなく、常に移動している。
    ある説では、(生物の)種は、常に競争に晒され安住することはない。種を変わらず保ち続けるには、ライバルに打ち勝つために変化し続けなくてはならない。
    そこで、生物学界ではこの説を鏡の国のアリスの赤の女王に見立て、「赤の女王説」と呼ぶ。
    マット・リドレーは比較的この赤の女王説に賛同しているようだ。

    しかし、昨今は奇妙な平等主義が蔓延しているけれど、やはり性に違いはありそれぞれ得手不得手がある、というのが私の持論だけど、この本を読んで改めて思ったことだよ。
    男女は違うのですよ。

    そして人間ってやはり特殊な点が多いんだな…。
    種の進化の謎。

    ちょっと厚いけど、面白い。
    そして読みやすい。
    マット・リドレーという人は主に生物学系の本が多そうだけど、ほかもちょっと読んでみたい。

  • 性淘汰が優勢でイケメンや美女の遺伝子が残ってくなら未来人はどんどんルックスが良くなっていくのかな?
    実例が豊富で飽きなかた

  • これわ読んで人生を考えるのが楽になった。



  • とにかく読みづらいけど、面白くはある。

    生物の競争は、
     捕食者
     えもの
     同種
      同性 異性を巡る戦い
      異性 異性を獲得し利用する戦い
     寄生者 病気にうちかつ戦い

    という戦いをしており、
    寄生者との戦いが、性を生み出した。

    赤の女王とは、軍拡競争をさす。

  • カタツムリは学習する。フィンチは道具を用いる。イルカは言語を使う。犬は意識を持つ。オランウータンは鏡の自分を認識する。ニホンザルは文化を伝達する。ゾウは仲間の死を悼む。そしてそれらの全ては、性と子孫を持つ。
    個体が生きるために必要な能力でないため忘れられがちだが、生殖に失敗した個体から種に引き継がれる形質は一つもない。
    すなわち獲物を捉える強力な爪と牙よりも、なんでも食べる消化能力よりも、どんな病気にもならない免疫機構よりも重要なのが生殖能力であり、全ての生物が、複雑で困難な生殖と出産という継承システムを現代に至るまで脈々と成功し続けている。

    そんな進化と遺伝の賜物である生殖能力は、生物のありように強く影響を与えてきた。
    ではなぜ多くの生物は、効率的に数を増やせる単性生殖や生殖の機会を増やせる多性生殖でもないオスとメスの2種のみの性を必要としたのか。
    なぜクジャクは、美しい羽を持ったオスにメスが誘惑されるのか。
    なぜ人の婚姻制度は一夫一妻に至ったのか。
    なぜ男性は若さと体型を求め、女性は社会的権力を求めるのか。
    なぜ男性の同性愛者と女性の同性愛者では性的活動に差があるのか。
    なぜ人間は身体が未完成な状態で生殖可能になるのか。

    全ては競争のためだ。
    生殖コストの低いオスは、遺伝子をより多く残すためにメスや他のオスと戦い、
    生殖コストの高いメスは、優秀な遺伝子と子供の生活のためにオスや他のメスと戦う。
    X染色体は自己を複製して存続するためY染色体と戦い、性別が決定される。
    寄生者は遺伝子をより多く残すために同一個体に特化した成長をし、
    宿主は同一の寄生者に滅ぼされないよう生殖により多様性を維持する。
    そして新しい種は古い種と戦い、子孫を残しやすい方が残り続けることとなる。

    種も個体も細胞も性も、バランスをとりつつ少しづつ変化していく。
    そこに良し悪しはなく、ただ変化し続ける存在があるだけだ。

    本書によれば、人間の知能も創造性も言語能力も、全ては性戦略のために変化を続けた結果とも言えるのかもしれない。
    だからといって各個体がそれを考慮する必要なんて勿論ない。
    現代の地球人類には、遺伝子以外の方法で未来に何かを残す方法は山とある。
    さらに言えば、何かを残さなければいけないなんてことすらない。

    種が存続を目的とするならば、個がそれと戦い、競争することでさらに生まれてくる変化もきっとある。

  • 人間の本性とはなにか。性と人の進化を様々な議論を通してみていく。赤の女王仮説。進化は相対的なものである。

  • 面白い箇所もあるけど、全部は読めない。

  • 原著の発売が1993年と多少古い本ではあるが、今でも
    読み応えのある名著だと思う。

    有性生殖による多様性の確保は突然変異によって刻々
    変化する寄生者(ウィルスなど)に対抗するためのもので
    あり、我々人間は進化の結果として今この時点にいる
    わけではなく、今も、そしてこれからもずっと生存競争
    を続け変化していく存在だという「赤の女王」説は大変
    刺激的であった。MRSAの話を思い出したな。

    ただ性の進化論を読んだ後では人間はもともと乱婚で
    あったという視点が欠けているという感じがどうしても
    してしまう。まぁ簡単に結論が出る話でもないのだが。

  • 性淘汰にフォーカスし、それによってもたらされた人類の進化の変遷について書かれた本です。

    進化というのは個体ではなく種についての話なんですが、性淘汰にフォーカスしてるだけあって、個体レベルでもすごく興味深い。性はウイルスなどの外敵のための保険なんだそうです。
    最近恋愛工学ってのが流行ってますけど、これ読んだ方がいいんじゃないかな…笑

    ただ、なんでもかんでも性淘汰、セックスして子孫残して、に帰ってきてしまうのはやはり違和感があります。
    訳者も最後にちょっと懐疑的な意見を言ってますが。
    間違ってはいないけど、性差別を促進しかねない意見もあるのでしょう。
    「自然だからといって正しいことではないのだ。」これが全てかもなあ。

  • 性差に関する話でもこれは説得力というより想像力を楽しむ本に見えた。面白かった。

  • 「人間の本性 Human Nature」を探求することを目指した書。それは、人間の「性の進化」を問うことにつながるという。つまり、人間の進化は「性的」なものがテーマとなっているからという。
    進化過程においての雄と雌の出現により自然淘汰が起こり、特に性淘汰の場における雄と雌の存在の意味などを解きあかしてくれる。

  • 日本経済新聞社


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    赤の女王 性とヒトの進化 男女の性の戦略を探る
    2014/11/12付日本経済新聞 夕刊

     恋愛や性行為に積極的でない男性のことを「草食系男子」と呼ぶが、なぜ男性だけが色恋や性にガツガツすべきなのか。女性側にそのような要素はないのか? そもそも、なぜ性別があり、セックスがあるのか?


     性別を持たず、分裂によって仲間を増やしたり、メスの単為生殖で子をつくる生きものもいる。だが、われわれは、あえて性別をつくり、セックスによって子孫を残すというシステムを選んだ。より多く、より環境に適応した子孫を残すために。


     「男性の性行動は、卵子に受精させるチャンスをあの手この手を用いて最大限にするようにデザインされているのだ。しかし女性も、自分の望む条件でしか受胎しないように洗練されたテクニックを進化させた。とりわけ、思慮深いオルガスムによって、二人の男性のうちどちらの子どもを妊娠するかを実質的に決定できるのである」


     『鏡の国のアリス』の赤の女王が言うように、男も女も全力で走り続けなければならない。誘惑と不貞の戦略をもって、互いに優位に立つべくしのぎを削りながら。少子化が叫ばれる今、待望の文庫化である。長谷川眞理子訳。


    (竹内薫)


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著者プロフィール

世界的に著名な科学・経済啓蒙家。英国貴族院議員(子爵)。元ノーザンロック銀行チェアマン。
事実と論理にもとづいてポジティブな未来を構想する「合理的楽観主義(Rational Optimism)」を提唱し、ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)らビジネスリーダーの世界観に影響を与えたビジョナリーとして知られる。合理的楽観主義をはじめて提示した著書『繁栄:明日を切り拓くための人類10万年史』(早川書房)はゲイツ、ザッカーバーグが推薦図書にあげている。グーグルには3度招かれ講演を行なった。
1958年、英国ノーザンバーランド生まれ。オックスフォード大学で動物学の博士号を取得。「エコノミスト」誌の科学記者を経て、英国国際生命センター所長、コールド・スプリング・ハーバー研究所客員教授を歴任。オックスフォード大学モードリン・カレッジ名誉フェロー。
他の著作に『やわらかな遺伝子』『赤の女王』『進化は万能である』などがあり、著作は31カ国語に翻訳。最新刊である本書『人類とイノベーション』は発売直後から米英でベストセラーを記録している。

「2021年 『人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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