千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 早川書房 (2015年12月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150504526
作品紹介・あらすじ
古今東西の神話・民話に登場する英雄たちの冒険を比較・分析し、その基本構造と共通性から人間の心の深層に迫る神話論の決定版
感想・レビュー・書評
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本書は、依然比較神話学の古典であり、「スターウォーズ」その他に多大な影響を与えた英雄伝の指標である。この度、新訳として手頃な価格で文庫本が出ていたので、とりあえず上巻を購入した。しかし、実際買ったのは今年の2月8日。なんとか読み終えたのは8月20日という、私としてはたいへんな遅読となった。内容が少し専門性がある、濃い、というのもあるが、いつか日本の弥生時代を舞台にした英雄譚をモノにしたいと目論んでいる身にとって、刺激があり過ぎたからである。
「指輪物語」を引き合いに出すまでもなく、英雄は日常から召喚され、旅立ちをし、死地に向かい、様々な試練に逢い、そして勝利或いは大きな恵みを与えられ、英雄は帰還してその物語を終えるのが一般だ。
キャンベルは、第一部において、それを更に細かく分類する。「出立」は、「冒険への召命」(英雄に下される合図)、「召命拒否」(神から逃避する愚挙)、「自然を超越した力の助け」(下された使命にとりかかった者に訪れる思いもよらない援助の手)、「最初の境界を越える」、「クジラの腹の中」(闇の王国への道)という具合である。次の舞台「イニシエーションの試練と勝利」では、「試練の道」(神々の危険な側面)、「女神との遭遇」(取り戻された幼児期の至福)、「誘惑する女」(オイディプスの自覚と苦悩)、「父親との一体化」、「神格化」、「究極の恵み」と移ると云う。「英雄の帰還」は更にこのように分類される。「帰還の拒絶」(拒絶された現世)、「魔術による逃走」(プロメテウスの逃走)、「外からの救出」、「帰還の境界越え」(日常の世界への帰還)、「二つの世界の導師」、「生きる自由」(究極の恵みの本質と役割)となっている。上巻では上記のうち「イニシエーション」までが書かれている。
すべての神話がすべての要素を持っているわけではない。しかし、確かに、ヤマトタケルから桃太郎まで、驚くほどにその構造をなぞっているのに、気がつくのである。
以下、上巻で面白かった部分の一部を記す。
○クジラの腹の中というのは、子宮のイメージを持つ。英雄は、未知のものに「呑み込まれ」、1度死ぬ。そして再生する。
○障害物や人食い鬼などすべてを乗り越えたあとの最後の冒険は、一般的には勝利を手にした英雄の魂と世界の女王女神との神秘的な結婚で表現される。
○男でもあり女でもある神は、神話の世界では珍しくはない。
2017年8月読了詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
スターウォーズの元ネタとも言われる神話学の本で、さまざまな脚本術の本で言及されています。
世界中の神話を分析して物語の基本構造を炙り出すという内容。
第1部「英雄の旅」のうち、第1章「出立」と第2章「イニシエーション(通過儀礼)」まで。
古今東西の神話が引用されていますが難解すぎて全然理解できてません。
少年は母親という安住の地から引き離されて父親という壁を乗り越えなければいけないというのは分かりました。 -
神から仏まで英雄を取り上げた本。
神話の知識がないとなかなか理解が難しい。 -
『なぜなら人の世界とは、比較的すっきりとこぢんまりまとまった意識と呼ぶ住まいの床下で、思ってもみないアラジンの洞窟へ下りていくものだからである。そこには宝石もあるが、危険な魔物(ジン)も住んでいる』―『プロローグ モノミス―神話の原形』
時代や地域を超えて人類には幾つもの共通の物語がある。例えば有名な話では、旧約聖書のノアの経験した洪水の記憶が、シュメールのギルガメッシュ叙事詩に描かれる洪水の記憶と対比される、など。それを七千年ほど昔の最温暖期における海水準上昇の史実と結びつけて解釈する向きもあるが、比較神話学の大家である著者ジョーゼフ・キャンベルはその共通項の心理学的な側面からの説明を試みる。すなわち、膨大な数の伝承の中から共通の構図を抽出し、その物語を欲する深層心理や、集団的社会活動の要請から立ち上がる物語として、その構図を再解釈しようとする。神話や伝承に対する心理学的な解析は、一歩踏み誤れば、都市伝説を語るような危うさを秘めているとは言え、著者の考察はとても興味深い。
『その光景が、実際にあったことなのか、疑いたくなるかもしれない。だが、疑ったところで何の役にも立たない。というのも、今問題にしているのは、象徴の問題であって、史実の問題ではないからだ。リップ・ヴァン・ウィンクルやカマル・アル=ザマン、さらにはイエス・キリストが実在していたのかどうかに、特にこだわる必要はない。重要なのはその物語である。こうした物語は、世界中に広く分布し、さまざまな土地で、さまざまな英雄たちと結び付いている』―『第三章 帰還』
神話に表れるモチーフや物語の構図は、文明の違いを越えて共通するのみならず、時代も越えて何度も繰り返されるという。確かに、指輪物語やスターウォーズ、ハリーポッターに至るまで、キャンベルの説く英雄譚に共通する構図に照らし合わせて見てみると、驚くほどに人は同じ物語を聞きたがっているように見える。であるなら、それは何故かという問いが必然的に湧き上がるだろう。これに対して、集団生活における人類共通の深層心理のようなものを炙り出そうというのがキャンベルの狙いであることは容易に理解できるし、説得力もあるように思える。
しかし、どこか結果を先取りしたような説明になっているような気がしてならないのは何故か。神話や宗教などの文化的側面がキャンベルの説く英雄譚の構図や宇宙創成の円環に沿って説明可能であるのは解るとしても、やはり何故そうなっているのかという問いに対する答えに迫っているようには感じられない。
『個人というのは必然的に、人間の全体像の一断片であり、全体像を歪曲したものにすぎない。個人は、男か女かのどちらかでしかありえない。(中略)したがって、全体性(人間の完全性)は個々人ではなく、全体としての社会のうちに存在する。個人はそれを構成する一器官でしかありえない。個人は自分が所属する集団から、生きる技術、考えるために必要な言語、生き延びるために必要な発想を得ている。個人の身体を形づくる遺伝子は、彼が生きる社会が過去から受け継いできたものを通じて伝えられてきた』―『エピローグ 神話と社会』
自分には、人類に共通する物語が存在するのは、ある事象に対する人類の脳の機能に特有の反応があるだけであるような気もする。それが有史以前の記憶の断片に根差すものなのかどうかは、はっきりと結論することは困難だろう。とは言え、多くの人々が現在よりもよい視力を持ち、暗い夜空の中で今よりも鮮やかな星々を眺めながら多くの物語を紡いだのは、地理学的な知識の有用さや、地球の公転と四季の変化を結び付けて定住型農耕生活に資するためだけであったとは思えない。人は、根本的に物語を見出す生き物なのだ。本文や注釈の中で挙げられた数多くの物語が、時代や地域を越えて同じような主題を奏でるのは、人の特質が変化を捉えることに拠って立っているからであり、その変化の理由を同じような経験則に従って与えたがるせいなのだと思う。そのような考察はキャンベルの張っている論陣には入れようもないかも知れないが、人は物語を理由付けとして生み出し、必然と捉えてしまいがちな生物なのだと思う。本の感想とは離れてしまうが、今のような変化が速く多様化し先が見通し難い時代にあっては尚のこと、そのことを肝に銘じておくべきことだと思う。 -
上巻読了
段々わけわからんくなってくる
神話構造は上巻の途中までで充分発見できる
そしてそれは素晴らしい
イニシエーションは、それを授けられる子にとって大きなイニシエーションだけど、それを授ける父にとっても重大なんじゃないかと思う
イニシエーションを受ける前後、だけでなく、イニシエーションを授ける前後、というのがあるんじゃないか
そんなことを思う -
いろいろな神話を読むのはまあ面白い。夢分析とかユングを援用しつつ、そこから共通の要素を抽出して云々というところは、言われればそんな気はするが、そこまで腹落ちしない。
なんとなくキリスト教一本槍で来た文明が、他の世界の多様性を目の当たりにしてそれを受容しながら世界観を再構築するプロセスとも読めた。 -
世界各国の神話を,その内容を引用しつつ,幾つかのパターンに分類した書.「全ての神話は人の無意識から紡ぎ出されている」というユングやフロイトのような前提に立っているが,たしかに,長年神話が語り継がれ,支持されてきた理由としては,説得力がある.原著の初版の出版は1949年という,超古典.
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2023/12/4 読了
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難解。挫折。