国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源 (ハヤカワ文庫 NF 464)

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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150504649

作品紹介・あらすじ

豊かな国と貧しい国の違いとは? 国家盛衰のメカニズムに迫る研究。解説/稲葉振一郎

感想・レビュー・書評

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  • 豊かな国と貧しい国を分けたものは何か。

    簡潔な要旨と、歴史上の事例を元に二人の政治経済学者が、この問いに挑みます。

    上巻で挙げられる事例は、古代帝国から中世ヨーロッパ、産業革命のイギリスなど多種多様で、歴史的な事にも結構ページが割かれているのですが、要旨自体は一貫して書かれているので、内容は理解しやすい。

    著者が挙げる問いに対する回答は、まとめるととても簡単です。開かれた政治と経済、そして民主主義が豊かな国に必要とのこと。
    誰にでもチャンスがあるからこそ、新たな発想が商品やサービスとして、社会に提供され、経済をより豊かにする可能性が高まる。

    逆に独裁的な国家や政治、社会主義的な国家・経済だとそれが生まれず、経済が停滞するとします。それはなぜか。

    社会主義ならば資産が持てず、階級も変わらない。そのためそういう状況では人は、新たな発想を生み、社会を変える可能性を感じられなくなる。

    また新たなイノベーションは時に、既存の権力を揺さぶります。現代でもAIが既存の仕事を奪う、という議論が度々出てくるけれど、そのように新たな発想や発明は、現代の状況を一変させかねない。権力者側にとってそれはとても都合が悪いことです。

    新たなイノベーションによる社会不安が、国家を揺るがすかもしれない。産業構造を塗りかえるかもしれない。それにより、今まで権力を持っていた人や、資産を持っていた人が敗北者になるかもしれない。

    そして権力者が取る手段は、新たなイノベーションの芽を摘むこと。それが独裁であったり、政治や経済の硬直的な制度へとつながります。

    だからこそ、開かれた政治、個人を代弁する選挙が必要だと著者はしています。
    名誉革命により、国王の権利を制限し議会が生まれたイギリス。後にイギリスで産業革命が起こるわけですが、権力者の権利を制限し、庶民が活躍できるよう議会が制度を整えていったから、ということになるわけです。

    こうやって読んでいると現代日本にもつながりそうな話。コロナ禍で日本のデジタル化に関する遅れが一気に露わになりましたが、それも硬直した制度や考え方が足を引っ張ったからのように思います。
     
    そして、この考え方は国や政治という大きな枠組みだけでなく、会社などの組織、そして個人にも繋がるような気がします。

    新しいものを恐れ、古いやり方に固執した先に待つものは何か。ますます不透明になっていく世界において、この本の考え方は、色々なところで応用が効くもののように感じます。

  • 国家が衰退する理由を制度に求め、成長をもたらす制度と衰退をもたらす制度について論じた一冊。
    制度を切り口にして分析を述べているので、筆者も言及している通り、多少ディテールが犠牲になってはいるが、主張を伝えるという意味ではこれでよいと思った。
    中国の今後は、この本の主張の良い試金石になると思う。たとえ、それがこの本の主張に反する結果になったとしても、主張自体の価値は大いにあると思う。

  • アリゾナ州ノガレスとソノラ州ノガレス、北朝鮮と韓国を比較することから始め、国家の衰退が政治的制度と経済的制度の相互作用によるものだということを見ていく。

    例えば、ジャレド・ダイヤモンドのような地理説は現代世界の不平等を説明するのに敷衍できないし、マックス・ウェーバーに端を発するプロテスタントの倫理が近代的工業社会の隆盛を促す重要な役割を演じているとした文化説も、結局は制度による帰結が文化や心性となるあたり等、他の説との考え方の違いなどを見ていくのも勉強になる。

    また、より良い経済政策を知らなかったという無知説について、この間違いを犯す理由は、無知によるものではなく、貧困を生み出す選択をしている、つまり故意であるという話も面白い。

    繁栄を達成するためには、いくつかの基本的な政治問題を解決する必要があり、それは安全な私有財産、公平な法体系、公共サービスの提供(物品を運ぶための道路と輸送ネットワーク)、契約と取引の自由等といったものになるが、マックス・ウェーバーが示した国家の本質「合法的な暴力の独占」に対して、包括的な経済制度を取れるか収奪的な経済制度となるか、その違いが決定的な差となる。

  • 様々な国の歴史を通して国家はなぜ発展し繁栄するのか、もしくは衰退するのかの原因を歴史を通して克明に詳細に考察し描いている。いろいろな書籍の中で国の経済が発展する理由と政治との関連性などが詳細に克明に描かれていてなかなか面白い本です。

    どのような組織体系、国の成り立ちや在り方が繁栄へと導かれていくのか大変勉強になり事業経営者など組織のリーダーにとっては現実の複雑な社会の中で応用できるものと思う。

  • なぜ世界には繁栄する国とそうでない国があるのか。繁栄が続かないのはなぜか。立場の逆転は何が原因か。
    本書では、それらは制度によるものだとして考察している。
    ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』が面白かった人には一読の価値がある内容かと思う。



    ラテンアメリカは現在も貧しい国が多く、それらはスペインの収奪的制度の影響によるとしている。その中でも先住民がほとんどおらず、鉱物資源の乏しいアルゼンチン、チリは他の大半の国よりうまくやってきた。一方でアステカ、マヤ、インカの各文明に領有されていた土地には金を持つ王がおり、スペイン人の支配が及んだ。
    また、アフリカの多くの地域では奴隷売買から相当な利益が得られ、その為アフリカの王やエリート層により奴隷の輸出が一層盛んになった。

    日本もかつては金銀が豊富に取れた。石見銀山は最盛期には世界の三分の一の銀を産出していたともされる。ほぼ同時期にスペインが支配したボリビアのポトシ銀山と共に二大銀山と呼ばれていた。
    またアフリカ諸国と同様、戦国時代にスペインとポルトガルの宣教師が布教にくると共に、それらの国の商船が日本人を奴隷として海外に売り飛ばしていたことがある。
    つまり当時の日本はアフリカやラテンアメリカの国々と非常に近い状況にあったといえる。これらの国々と日本の違いはどこだろうか。

    本書で取り上げられているコンゴを例にみると、
    コンゴの王が自分の利益のため積極的に奴隷貿易を行ったのに対し、日本では豊臣秀吉がキリスト教の布教と日本人の奴隷の売買を厳しく取り締まっている。
    またコンゴも日本も銃を買い入れたが、この使い道が両国では異なる。コンゴでは絶対的な権力をもつ王によって、奴隷を捕らえて輸出し、また反乱を抑えるために使われた。一方日本では戦国の国どうしの戦のために取り入れられた。一時は世界最大の銃保有国となり改良も急速に行われ、これがスペインやポルトガルの脅威ともなった。
    こうしてみると、日本植民地化の危機は幕末より先に戦国にあったともいえる。また、戦国時代という一見不安定で不利にみえる時代も、海外からの侵略を討ち払うのにうまくハマった側面があるかも知れない。
    スペインはラテンアメリカの支配において、中央集権的な強い政治権力を持たない先住民の抵抗に遭い、より支配しやすい地を求めて撤退している。
    仮に日本が中央集権のもとキリスト教を受容し、一部の権力者だけが利益を得られるような日本人奴隷の輸出や銀と武器の取引が定着していた場合、今日のアフリカやラテンアメリカのような収奪的な政治や経済のスパイラルにとらわれていた可能性は充分にある。


    また中国は急成長している国であるが、収奪的政治制度をとる国であり、かつてソ連も収奪的制度のもと冷戦時代に成長しそして崩壊したように、中国も同じ道筋を辿ることを危惧している。
    なかなか興味深い。

  • 包括的な政治制度が経済成長を産む。産業革命を産んだイギリスとフランスは何が違うのか、歴史的な背景含めて面白かった。下巻も楽しみ

  • 集団や組織が繁栄していく法則は、制度にある。
    それは本書が示している包括的制度である。
    包括的制度とは、中央集権的でありながらあらゆる連合によって政治が保たれているものである。包括的制度の逆にあたる、収奪的制度は、一党独裁である。また政治は1つの手段によって組織されている。
    それにより1部のエリートは利益を得るようになっている。こう考えると、今なぜ日本が不況に陥っているかがよくわかる。政治はほぼ一党独占状態にあり、税金によって国民から利益を巻き上げる仕組みになっている。日本が不況から出るためには、包括的制度に移行しなければない。

  • 感想
    世界史学習者が一度は抱く疑問。なぜ隆盛を極めた国が現在発展途上国として認識されているのか。発展の速度と大きさの間に逆相関があるのだろう。

  • Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty
    https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/112578.html

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50006412

    なぜ世界には豊かな国と貧しい国が生まれるのか――ノーベル経済学賞にもっとも近いと目される経済学者がこの人類史上最大の謎に挑み、大論争を巻き起こした新しい国家論。 (生命融合科学分野 大塚正人先生推薦)

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著者プロフィール

ダロン・アセモグル
マサチューセッツ工科大学(MIT)エリザベス&ジェイムズ・キリアン記念経済学教授
マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部エリザベス&ジェイムズ・キリアン記念教授。T・W・シュルツ賞、シャーウィン・ローゼン賞、ジョン・フォン・ノイマン賞、ジョン・ベイツ・クラーク賞、アーウィン・プレイン・ネンマーズ経済学賞などを受賞。専門は政治経済学、経済発展と成長、人的資本理論、成長理論、イノベーション、サーチ理論、ネットワーク経済学、ラーニングなど。主著に、『ニューヨーク・タイムズ』紙ベストセラーに選出された『国家はなぜ衰退するのか』(ジェイムズ・ロビンソンとの共著)などがある。

「2020年 『アセモグル/レイブソン/リスト 入門経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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