- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150504670
作品紹介・あらすじ
古代エジプト人を悩まし、現在も年間700万の命を奪う「がん」。現役医師が患者や医学者らの苦闘を鮮烈に綴る名著。解説/仲野徹
感想・レビュー・書評
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男性の3人に2人、女性の2人に1人が罹患する病。そして、たとえ初期に発見されても、必ず死を意識せざるを得ない病。
そんながんと人類との壮絶な4000年の戦いの歴史。
ボリュームが多目だけど、文章は平易で臨場感があり、理解しやすい。
オーディブルにて。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
多くの人々の命を奪ってきた病、がん。原著のサブタイトルにA Biography of Cancer とあるように、本書は正にがんの伝記である。
がんという病はいつから人類とともにあるのか、この病を人類が正確に認識したのはいつか、その病理が理解され、外科的治療、内科的治療、予防へとどのように対策が講じられたのか…。そして、医療者以外の、社会的、経済的、政治的要因。慈善家のラスカー夫妻のエピソードはとても印象的だった。
本書は「がんの伝記」ではあるが、医療者の活動の記録であり、何よりも、著者のムカジーがインタビューで答えているように、がん患者の闘いの記録でもある。現在の我々ががん治療の恩恵を受けられるのも、彼ら無名のがん患者の上に立っているからである。そのことを、本書を読むと強く感じる。
医療職ではないため、読んでいてもわからない単語や薬剤名がないとは言えない。しかし、本書にかぎってはそれは読書を妨げるハードルにはならない。圧倒的なノンフィクションの力が、またおそらくは翻訳の妙が、それらのハードルを取り払ってくれる。
まずは上巻。下巻に進もう。 -
人間が個々バラバラに(時にはチームを組んで)
闘ってきたガンとの戦いの歴史を
ざっと教えてくれる良書でした。
1940年から以降、やっと
勝利の場面が出てきて、
人類の知恵の蓄積に
ありがとうと言いたい。
まだまだ途上であり、まだまだ
ガンには泣かされている実情も
俯瞰できました。
怖い思いをすると、心拍数があがり、魂は縮み、
身体の一部も縮みます。
この本読んでいると、上がりまくり、縮みまくりました。
でも読まずにはいられない。
知らないうちが最も恐怖が拡大すると思うんで。 -
がんは単一の疾患ではなく、非常に多様で複雑な疾患である。
同じ乳がんや前立腺がんでも、ホルモン療法に反応するタイプもあれば、しないタイプもあるし、広範囲に広がる転移型のがんもあれば、限局型のがんもある。
これほど多様な病なのであれば、治療にも多様性が要求されるはずなのに、これまでは同じ治療がすべての患者に無差別に適用されてきた。
それはなぜか?
書は、現役の腫瘍内科医が、日々の回診で患者から受けた質問に答える形で、がん治療を巡る紆余曲折の歴史を綴っている。
ちょうど上巻は、35年にわたる国を挙げてのがんとの闘いが、国民のがんによる死亡率を減らすどころか逆に増やす結果に終わったことを明らかにし、治療偏重の取り組みから予防を含めたプログラムに発展させなければいけないといった所で終わっている。
がんは何か近代以降の病のように思えるが、「4000年」とタイトルにあるように歴史は古い。
現代的に感じるのは、この病が寿命の伸びと相関関係にあることと、検査技術の進歩によるところも大きいが、「がん」という名付けの力も見過ごせない。
それまでは「膿み」だの「しこり」だのとバラバラで呼ばれる、陰で囁かれるだけの病だった。
しかしやっかいな病であることは認識できた。
悪性細胞の抑制のない異常増殖。
体を過剰に細胞で満たすことで窒息死させる、過剰の病。
そしてストップのかからない、成長しろというコマンドを消せなくなった制御不能の病。
罹ったらおしまいの、それこそ座して死を待つだけの政治的沈黙の病だったので、これまでは国を挙げてというよりバラバラの個人的な戦いに終始していた。
それではいつまでたっても勝てない、皆の力を結集して、大規模な資金を集めて当たるべきだという考えが盛り上がってきた時、「がんは“単一の原因と、単一のメカニズムと、単一の治療法〟を持つ病気だ」という思想はとても都合が良かった。
がんは多様な疾患ではなく単一の疾患なのだ、一種類のがんを治せれば、必然的に、別の種類のがんも治すことができる、単一のハンマーが単一の病を叩きつぶすはずだという揺るぎない信念があったからこそ、医師や科学者やロビイストが手を取って結集できたのだし、エネルギーを注ぎ込むことができたのだ。
そしてこうしたかがり火があったからこそ、国民も納得して、多額の予算をつぎ込むべき国の事業として承認したのだった。
しかし、脳卒中から出血から痙攣にいたるまで何もかもひっくるめて「発作」と呼んだ中世の習慣と同じように、がんを一緒くたに扱う考え方はその後思わぬ弊害を生むのだった。
がんと無差別に闘い、がんを全滅させる(「単一の理由、単一の治療法」)という隠喩的な力は、腫瘍医たちの自信とうぬぼれを増長させた。
「手術可能かどうかは、“取り除けるかどうか"にかかっていて、“取り除いた結果、患者を完治させられるかどうか"は考慮されなかった」
完治させるには患者を生死の境にまで追いやらねばならない、人間の身体をその限界にまで追いやることで体から悪性の内容物を除去できるという信仰は根強いものがあった。
根治的乳房切除術のように、より多く切り取れば、より多くの患者を治せるという信念のもと、最小限の切除など論外だった。
50年代の根治手術の大ブームの時は、患者の方から「思いきってやってください」と医師に切望までしていた。
化学療法も同様だった。
ちなみにこの化学療法の概念は、染色産業の製品開発の過程で生まれ、真の発展は第二次世界大戦中の連合軍による自分たちへのマスタードガス攻撃という自爆事故がキッカケだった。
正常細胞に影響を与えることなく、がん細胞だけを取り除くよう完璧にデザインされた毒が必ずあるという信念のもと、がんを殺す化学物質探しが盛んになったが、国立がん研究所(NCI)はしだいに、毒工場へと変貌していった。
投薬攻撃によってがんを撲滅させるという理論は、無差別の化学療法ががんへの攻撃の唯一の戦略だというふうに変転し、単剤よりも2剤のほうが、2剤よりも3剤のほうがと、高用量多剤併用化学療法が主流になっていく。
「総合的治療」とは名ばかりの「総合的地獄」は、患者にとって筆舌に尽くしがたい苦しみをもたらした。
投与回数を増せば薬の毒性も増すという事実は無視され、数値が正常値になるまで、どこまでも頑なに投薬を続けるべきという信念は、患者を癒しているのか、たんに数字を治療しているのかわからなくなってくる。
「無差別な攻撃ではなく、弱点をつく攻撃を」、「がんの生物学的性質を解き明かすことが先決ではないか」という声には、「消化機能について理解していない私は、夕食を食べないでおいたほうがいいのだろうか?」と反発し、がんに総攻撃を仕掛けるのに、がんのメカニズムが解明されるのを待っている余裕も必要もないのだと開き直った。
もうこの辺りから読むのが苦しくなってくるのだが、無慈悲で無軌道な医療処置はさながら実験場のようだった。
卵巣と乳房の不可解な関係に強い興味を覚えた医師は、乳がん患者の卵巣を摘出してみたりする。
卵巣と乳房のあいだのホルモン循環などまったく理解もされていなかった時代、とにかく「やっみよう」精神で切り取っちゃう。
「脳の病変を治療するために肺を摘出するような」所業とあるが、ほんとそれだわ。
「副作用は耐えられないほどのものではない、と医者が言うとき、彼らが問題にしているのはその副作用が命にかかわるかどうかという点だけだ。たとえ目の血管が切れるほど患者が激しく嘔吐したとしても‥‥そんなことはいちいち報告しなくてもいいと医者は考える」
「もっとも重要な任務は一人一人の患者を救うことではなかった。確かに医師たちは、患者の命を救おうと、少なくともできるだけ長く患者の命を引き延ばそうと精いっぱい努力していたが、彼らの根本的な目的は、目の前の患者の命そのものを救うことではなく、別の患者の命を救う方法を見つけることだった」 -
金大生のための読書案内で展示していた図書です。
▼先生の推薦文はこちら
https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=24002
▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB21737260 -
がんについての途方もない歴史がドラマティックに描かれた作品。
専門的な用語も多数出てくるものの、本当に必要な用語については巻末に用語集としてまとめられており、がんにまつわる医学の基礎の基礎はそこである程度カバーできる。
上巻では、まずがんの起源にさかのぼり、がんがどのように対処されてきたかが述べられる。
がんと思われるものは、古くは紀元前2500年にまでさかのぼり、そのころから人間のそばにがんがあったものと考えられるようで、途方もない歴史を持っていると感じた。
また、かつてはがん自体が広く認知されていないこともあり、研究もなかなか進まなかったり、投薬にこぎつくのも時間がかかったりがんとの闘病は今以上に過酷なものであったのだなと感じた。
あわせて、がんと闘うためには医学的な知見があることはもちろんであるが、それだけではダメで、政治的な働きかけも必要不可欠であったことは、(よくよく考えれば当たり前かもしれないが)ハッとさせられた。
上巻の最後にある著者へのインタビューは、「がんとは?」という基本的なところから始まり、がん医療に関してこれから来るであろう領域の考察が含まれており、大変ためになった。 -
野地澄晴 徳島大学 学長ご推薦
がんは誰しもかかる可能性のある疾病である。日本人の2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで死亡していると言われている。地球全体では700万人以上の人ががんで亡くなっている。がんとの戦いの歴史を書いている本である。文庫本としては厚く、しかも上下に分かれている本であるが、読み始めると止められなくなる本である。著者は現在、米国ニューヨーク市のコロンビア大学医学部の助教授で、医療センターの医師である。この本の執筆により、2011年にピューリッツァー賞を受賞している。現在、がんの治療はプレシジョン・メディシンの時代に突入し、遺伝子の変異に基づいた治療が行われているが、ここに至る長くて悲惨ながんとの戦いが素晴らしい文脈で語られている。まさに、ノンフィクションの最高傑作であろう。この本により、がんについての知識が得られるが、魅力的な本の書き方を学ぶこともできる。 -
大切な人が脳腫瘍になった。
彼の病気の根本を知りたい。
知らないことには戦う武器がわからない。
何がなんでも彼の腫瘍が暴れだす前に武器を探してみせる! -
人類と癌との戦いの歴史がこんなにスペクタクルなものだなんて!ページを捲る手が止まらなかった。
医者や研究者だけではない。
古くは古代の女王から、現代に至ってはロビイストや政治家、そして当然市政の人々、まさしく人類総出となって挑む病との戦いの総力戦だ。
医療という分野で人間の底力が発揮されるのはさもありなん、ということに気づかせてくれた本。
人間の叡智や努力が連なり、積み上がり、個々からチームへと結合して難病を攻略していく様にとてつもないカタルシスを感じた。