ヒトラーのオリンピックに挑め(下)若者たちがボートに託した夢 (ハヤカワ文庫 NF 471)
- 早川書房 (2016年7月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150504717
感想・レビュー・書評
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1936年開催のベルリン・オリンピック大会に出場し金メダルを獲得したワシントン大学のボート競技選手を描いたドキュメント。「エイト」と呼ばれる漕手8名+司令塔のコックス(計「ナイン」!)で構成されるボート競技の花形で、ジョー・ランツはじめ選手の多くは労働者階級の出であり、恵まれた体格と運動能力を生かし、世界の頂点に上り詰めた姿は印象的だ。一方でそれがナチスのプロパガンダとして利用された大会だったという点も忘れてはならない。スポーツの感動や高揚感を政治利用された側面は否めないが、決勝戦でのドイツ贔屓のコース割当にもめげず優勝した彼らの技術と精神力は素晴らしい。
ジョー・ランツやボート職人のポーコックも魅力的だが、常に難しい意思決定を迫られ冷静な判断を下すウルブリクソン・コーチもなかなか魅せてくれる。ボート競技は日本人に馴染みが薄いが(そして本書では日本人がやや馬鹿にされやや驚嘆されているが)、スポーツにアメリカンドリームを賭ける青春群像劇として面白い本だ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
上巻から一気に。人間の成長をテーマにした神話みたいな物語。オリンピックは世界最大のスポーツの祭典、というだけではなくて、オリンピズムという精神を体現する舞台である、と聞いたことがありますが、多分、この9人がたどり着いた境地はクーベルタンの目指した地点なのかもしれません。卓越、尊敬、そして友情、それが成立したのは、選手すべてが一体化しないと記録がつくれない、エイトという競技だからか?それにしても札幌オリンピックでシュランツを選手村に入れなかったミスターアマチュアリズム、ブランデージがナチスの排ユダヤ思想とこの時代から共鳴していたのにはなんとなくさもありなん。ノブレスオブリージュ的貴族主義とエンターティメント重視大衆主義は古くて新しいテーマ、その狭間に咲いた花がワシントン大学のこの9人なのかもしれません。またリヒャルト・シュトラウスの「オリンピック賛歌」や聖火リレーがベルリンオリンピックから生まれたことはオリンピックが政治的イベントであるDNAはこの時埋め込まれたのかも…