バートラム・ホテルにて (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-14)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150700140

感想・レビュー・書評

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  • ※新訳版読了後。
     推理小説の探偵物でよくある光景が警察官が無能であり、探偵の足を引っ張る構図だ。探偵を邪険に扱い(場合が場合なので仕方ない部分もあるが)、的外れな推理をしてんで真実に辿り着けない様な人物や事柄を重宝し、しまいには探偵が解き明かした真実を受け入れ犯人を我が物顔で逮捕し、探偵に笑顔を振り撒いて一件落着する。ある種のお約束だ。さて、では、もし探偵がいる中で警察官がとても優秀だったらどうなるのか。答えは「面白味に欠ける」だった。
     今作に出てくるオヤジさんこと主任警部のフレッドは優秀であり、完全にマープルが脇役になっている。読者は当然、探偵の活躍を見たい訳で、勿論、今まで上記の様な不平不満を言ってきた訳だがあくまで探偵役、真実を解き明かすのはマープルであり、警察官は彼女の推理に感嘆するというのが大好きだった事に気付いた。今回はバトル警視の様な形が良かったのではと感じてしまう。マープルの存在感が余りにも小さかった。
     事件発生までバックボーンにある強盗事件などが取り上げられ、どうやら登場人物達に関係がありそうだという事がわかる。更には昔の様式を現代に受け継いでいるバートラムホテルが舞台となり、マープルは子供の頃訪れたこのホテルを姪からのプレゼントで訪れる事になる。
     美しい秩序あるホテルが舞台であり楽しい印象を得る。荘厳ではありながらも何処か現実的ではない何かを感じるホテル。従業員達は一流であり、滞在客は昔の時代からやってきた様な年寄りと外国人達。そこで始まっていく事件。序盤中々何事もおきず、中盤からようやく物語が進行していく。
     今作の母娘は印象的で、娘についてはリドルストーリー的な雰囲気で幕を閉じる。後見人など、彼女の幸せん願っている事に間違いはないが、最後は何とも悲劇的な幕切れだった。改めてマープルの関わり方が不明。
     作中でマープルがロンドンを満喫している様子は滅多に見られない描写で嬉しく思った。
     余りにも広範囲の事件になる為、やはりノンタイトルで整理されたら一級品だった様に思う。ドンデン返しの犯人は想像を超え、最終章だけならクリスティ作品の上位に挙げても良いくらいだ。

  • 強打、射殺、自殺(自損事故) 下手人はそれぞれ別

  • 事件そのもの、謎解きというよりは、古きよき英国のホテルの雰囲気を楽しみながら読む作品。

  • ミス・マープルシリーズのラスト3作とあって
    いよいよ老境

    ミステリとしては正直ごちゃついている。
    同時に進行する謎としてはエルヴァイラの母娘くらいで
    ペニファザー牧師の失踪もそれに伴う巨悪も
    やたらスケールの大きな話のわりにそれも全然書けていない。

    だけど、バートラムホテルの時が止まったような
    古き良き大英帝国のうっとりするような描写、
    またそれを望む心理や維持する為のネタばらしのアイロニー。
    ミス・マープルのいう「人は過去に戻ることも、過去にもどろうとしてもいけない、人生の姿は前に進むことだということ。ほんとに、人生って"一方通行"なんですね?」
    光り輝いていた愛すべき時間が「過去」になるという事。
    極上の老境小説なのだ、これは。

    それにしても、20世紀初頭に生まれたとして、1980年頃まで生きたとしたら、
    体感する世の中の変化のスピードはすごいものがあるよなぁ!
    ラスコム大佐の「例の髪を長くしたビートルズとか何とかいった連中」の下りでハッと舞台は60年代だという事に思い至ったけれど、もっと、それこそ20世紀初頭のような印象なんだよなぁ、クリスティの小説は。

  • なかなか事件が起きない

  • #赤背表紙のクリスティーを再読するプロジェクト

    古き良き大英帝国時代の名残を留めた、居心地の良いホテルで織りなされる人間模様と、一見無関係な事件の幾つかが繋がると大きな犯罪設計図がみえてくる話。
    マープルものにしてはスケールの大きい物語。でも今回の彼女は脇役どまり。

  • ML 2014.9.19-214.9.25

  • 317p 1983・7・15 13刷

  • 以前、ミス・マープルの登場する作品を読んだ時、
    彼女の大いに脱線するおしゃべりに少々辟易したものだが、
    70代になって、すっかり大人しくなってしまった
    マープルおばあさんを前にすると、
    今度はそれに物足りなさを感じてしまう。

    まるで古き良き時代のイギリスが甦ったようなホテルを舞台に、
    複雑な人間関係による愛憎劇の幕は開き、
    優しい姪の計らいによって二週間の滞在を楽しむミス・マープルも
    その愛憎劇に巻き込まれていく。

    本作では、敏腕刑事のデイビー警部が実働部隊であり、
    彼らがあちこちを飛び回り、
    事件関係者や犯罪組織の巧妙な隠蔽工作や
    うそやに苦しめられながらも、
    地道な捜査活動で、着々とその真実へと近づいていくが、
    そんな彼すらも一目おいているミス・マープルの鋭い指摘や
    彼に与えるアドバイスは、見事なまでに事件の核心をつき、
    問題解決の突破口へとなっていく。

    クリスティー自身も70代の時に執筆した作品とあって、
    様々な内容が盛りこまれているにも関わらず、
    読者を混乱させることなく、すっきり違和感なく
    まとめてある職人技はさすがとしか言いようがない。

    ミス・マープルの洞察力の冴えと同様に、
    いくつになっても衰えることのない、熟練の腕を感じさせられる。

    ミス・マープルが完璧なまでに「昔と変わらないホテル」に対し、
    どこか違和感を覚え、デイビー警部に言う言葉が心に残った。

    「はじめ、ここはすばらしいところだと思いました・・・・・・
    ちっとも昔と変っておりませんからね・・・・・・
    まるで過去へ舞い戻ったようで・・・・・・
    昔じぶんが愛し楽しんだ過去へ帰ったようで」

    「でも、もちろんほんとはこんなんじゃありませんでした。
    私は、これまですでに知っているつもりだったんですけれど、
    あらためて悟りました。
     ─ 人は過去へもどることも、
    また過去へもどろうとしてもいけないこと 
     ─ 人生の姿は前へ進むことだということ。
    ほんとに、人生って“一方通行”なんですね?」

    以前ほどおしゃべりではなくなったけれど、
    年を重ねたからこそ言える含蓄のある台詞。
    さすがミス・マープル。

  • ハヤカワミステリ文庫 HM-1-14 カバなし

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