騎乗 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-37 競馬シリーズ)

  • 早川書房
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150707378

感想・レビュー・書評

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  •  例によって再読。

     フランシスの小説としてきわめて異色なのは、主人公が17歳の少年であるということだけではない。政治を取り扱った作品も初めてだし、ある意味で主人公が二人いる物語も珍しい。

     17歳の少年が主人公といっても、視点となるのは後の「私」なので、それほど主人公が子供っぽいわけではない。むしろ皮肉のひとつも言いたくなるほど、大人びている。
     それでもなお、ある意味で真の主人公とでも言うべき父との関係は、例えば「骨折」などで描かれたものの単なる逆というのではない素直さを持っていると思う。成長物語としてもすてきだし、本当の主人公の姿を浮き彫りにする手段としてだけだってなかなか効果的だ。

     政治を扱っているのは、常に新鮮な舞台を指向するフランシスらしいといえばそうなのだけど、どうやらそれだけではない。いわゆる推理小説の「殺人事件が起こりその犯人を捜す」という枠からは完全に外れた、ほとんど政争がメインになっているような雰囲気は、この物語の根本を支えている。むしろ、こういう構造を描き出すために、戦いのリングとして政治を選んだのではないかと思いたくなる。それほど、効果的だ。

     実はたくさん出てくる女性も、そして敵役もそれぞれにインパクトがあり、とっても楽しく読めた本である。それでも、もう一つのめり込めないのは、たぶん「時間の流れ方」が僕の好みではないのだ。物語のテーマとして、こういう仕掛けを作っていくのはわかるのだけど、それでもちょっと冗長な感じがするし、仕掛けのねらいほど生きていないかなと思ってしまった。

     すごくおもしろいんだけど、フランシスならばもっと書けたんじゃないかっていうのが正直なところ。あと、こればかりは菊池光訳ではない方がおもしろいかもしれない。村上春樹だったら、どんな風に成長を表現するかな、って考えてみたりもする。

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