第三の男 (ハヤカワepi文庫 ク 1-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200014

感想・レビュー・書評

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  • 原作とそう変わらないけど、映画版の方が心に残るラストだった。(本当にほんの少しの違いだけど…)そして原作の結びが大雑把だけど話の全部を物語っていた。

    時代背景も手伝って、まぁ退廃的。
    戦後の混乱が誰にも救いようがない物語を創り出し、下手すれば(当時の)ウィーン以外の似たような場所でも同じような話が出来上がっていたのでは?とまで思えてくる。

    映画版はクラシック映画の中でも名作と言われているけど、小津氏の翻訳もクラシカルで格調高いものだった。あの技法を今再現するのは難しそうだけど、作品の時代に合わせた訳ができたらカッコいいだろうなー。

    「人を理解するにはゆとりを持たなくちゃいけない」
    憧れだった人間が悪の道に踏み込んだ時、事実を受け入れ訣別(あるいは罰を下す)するか、憧れのままその人を受け入れていくかに分かれる。

    観覧車前でライムに再会した際、マーティンズはまだ僅かながら受け入れる希望を残していたように思う。でもライムの本心を知ってしまい、観覧車が彼らの訣別の場になってしまった。
    そのシーンを踏まえ、実在&現存する観覧車を目の前にしたらどんな感情が湧き上がってくるのか、一度試してみたい。

  • とある本屋の推薦文のとおり、まさに「原作と映画の幸せな関係」を体現した作品。

    映画版「第三の男」は、陰影の使い方と、「配置美」といってもいいような計算され尽くした細かな演出と映像がとても見事。カメラワークの意義をとことん感じられる作品といってもいい。

    対して、本書は、文章であるが故に、第二次世界大戦直後、米・英・ソ連・仏によって四分割統治され荒廃としながらも、陰影に満ちた魅力を放つ古都ウィーンの実情を緻密に描写しており、興味深い。

    実はこの作品、先に原作があって映画を作ったのではなく、第二次世界大戦直後のウィーンを舞台にした映画を作ることが決まってから書かれた「原作本」なのだとか。

    小説の原作者であり、映画の脚本家でもあるグレアム・グリーンの手になる序文が本書に掲載されているけれど、彼は、「まず物語を書いてからでないと、シナリオを書くことはほとんど不可能な人間」だったそう。
    映画でさえも、筋立よりは、性格描写のある種の手法や、気分や雰囲気に依存しており、シナリオの無味乾燥な省略的表現で、最初に捕らえることはほとんど不可能で、シナリオ形式で最初の創造はできない、とのこと。

    グリーンのこの信念のおかげで、映画版は歴史に名を残す作品となりました。
    そして、グリーンは、小説と映画の文法の違い、それぞれの表現の限界をよくわかっている人だったのだと思います。
    「第三の男」は、小説版は映画形式では絶対に出せない固有の魅力を持っているし、同様に、映画版は文章形式では絶対に出せない固有の魅力を持っています。

    原作と映画でラストが決定的に異なるのが、これまた印象深い。

    小説版は正直、少し表現が分かりづらかったり、「語り手」視点がぶれていたりする部分もあるのだけど、それでもやはり魅力的。

    原作と映画両方手に取るのをオススメできる作品。

  • The Third Man(1950年、英)。
    名作映画の原作。最初から映画化を前提として書き上げられた。映画は、ラストシーンの名演出と、ツィター奏者アントン・カラス作曲のテーマ曲で有名。

    友人のハリー・ライムに招かれて、第二次大戦直後のウィーンにやってきたマーティンズは、到着の数日前にハリーが交通事故で死んでしまったことを知る。さらに、ハリーが凶悪な闇商人として警察にマークされていたという話も聞く。友人の無実を信じる彼は、事の真相を探るべく調査を開始する…

    第二次大戦と冷戦の狭間の荒廃した都市を舞台に、当時実際にあった出来事を巧みに取り入れた物語。サイコパスじみたハリーの人物造形が、時代の申し子という感じで良い。これでラストが映画と同じだったら、★5つだったかも…。

  • 文句ない。キャロルリードの映画で震えた感動が蘇る。後書きによれば、映画の企画としてグレアムグリーンが書いた原作本だというではないか。マーティンズが友人ハリーの葬儀に参列する墓地のシーン、ウィーンの街、彼の知らないハリーの話。シーンが目に浮かぶ。映画を意識して書かれたことがよくわかる。ハリーは何者なのか?さすがグレアムグリーン。お話としての完成度が高く鮮やか。

  • 映画は見ていないので何とも言えませんがこちらはあっさりとした話の展開に思えました。
    戦争であちこち破壊されて4カ国に管理されたウィーンの街の重苦しさや歴史の重厚さと言ったものが感じられなくて少し寂しく思えました。

    英国から友人に招かれてウィーンに来た男が到着した日にその友人の葬儀があり、そこで出会った警官に友人の犯罪者としての面を教えられ、それを払拭するために独自で調べ出す…と言ったミステリですが時々挟まれる警官である語り主の『私』が読む上でちょっと邪魔に感じてしまいました。

  •  著者グレアム・グリーンは、第二次世界大戦のとき、MI6のメンバーとして、西アフリカやイベリア半島で諜報活動に従事した経歴があり、それゆえに本作品でのスパイ活動は、非常にリアリティがある。しかし、通常の小説とは違い、本作品は最初に映画を作る企画から始まり、そこでグレアム・グリーンが原作者として起用された。そのため、キャロル・リード監督による映画『第三の男』も併せて触れないと、本作品の良さが半減してしまうので、両方とも見るべきである。

  • コンラッドのスパイ小説を思い出す

  • 時々、誰のセリフが分からなくなるのだが、それが一番ミステリーかも。

  • グレアムグリーン渋いねぇ、全くオタク渋いよ。
    最初誰が誰やらこんがらがりましたが、大変興味深く読ませていただきました。
    ただ、本で読むには地味過ぎる気がして…。映画の方が良いですね。アンナが一人毅然と歩くエンディングも、ボルジアの圧政はルネサンスを生んだが、スイスの平和主義で生まれたのは鳩時計だけ。というハリーのセリフも。
    作者が序文で、彼(キャロルリード)の大勝利だった。と書いてある所から、グレアムグリーンめっちゃ性格良いしと思った私は単純な人間です、はい。

  • 超有名映画の原作、と言っても映画化を前提にしたものらしい。
    実は映画はちゃんと通しで見たことがないので、先に原作を読んでみようかと。
    恥ずかしながら当時のウィーンがそんなことになってたとは知らんかったよ。
    あと超有名なラストシーンが実は原作では違ってた、というのも興味深い。
    今度は映画見ないとなあ。

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著者プロフィール

Henry Graham Greene (2 October 1904 – 3 April 1991)

「2012年 『なぜ書くか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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