日の名残り (ハヤカワepi文庫)

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制作 : Kazuo Ishiguro  土屋 政雄 
  • 早川書房 (2001年5月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200038

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日の名残り (ハヤカワepi文庫)の感想・レビュー・書評

  • 3年ほど前に一度中座してからの再読。何気なく読み出したら惹かれて惹かれてやめられなくて、時に泣きながら読み終えてしまいました。
    きっと、私自身が日々と年齢を重ねたことで、主人公と同じように、自身の人生の転機における選択や発言が正しかったのか自問した瞬間や、何気ない意思の不疎通で会うことがなくなってしまった人、身近な人の死などに想いを馳せながら読んで感情移入したからだと思います。

    あらすじとしては、老境のイギリス人執事であるスティーブンスが、自身の人生や仕事観に想いを馳せながら国内の風光明媚な土地を旅する7日間を描いた作品です。

    スティーブンスの理知的な語り口と、「残照」(「黄昏」とか「終焉の足音」と言ってもいいかも)とも言うべきイメージの多重性の美しさに魅せられた作品でもあります。
    老人となったスティーブンス自身の人生の残照、二度の世界大戦後に世界の覇者の地位を譲り渡すことになったイギリス(グレートブリテン)の栄華の残照、失われていくイギリスの貴族制度とそれに伴う執事文化の残照、敬愛してやまなかった前の主人ダーリントン卿が誰よりも紳士であるがゆえに大戦の混乱にある世界を救おうと尽力して果たせず悲しい末路を迎えた真実の姿を知る人々のわずかな記憶の残照、かつては歴史に名を残す著名人が多く滞在した屋敷が時代に取り残されていく残照…等、多くの「残照」的イメージが絡まり合いながら、抑揚や感情を抑えようとする落ち着いたスティーブンスの一人称で語られていきます。

    そして、「イギリスらしさ」と自身の職務に傲慢なほどに強い誇りを感じているスティーブンスの現在の主人がアメリカ人であるということを彼が受け入れている矛盾も物語に趣を与える重要な要素の一つとなっています。

    物語のラストは、旅に出る前のスティーブンスが思い描いたものではなかったけど、優しくも前向きな気持ちになれるもので、ひどく感傷的にはなりましたが、穏やかな気持ちで読み終えました。

    最後に、訳者さんのあとがきから。
    タイトルの「日の名残り」の原題は「The Remains of the Day(過ぎ去った一日を振り返って、そのとき目に入るもろもろのこと)」ですが、一語変えると「What Remains of the Day(一日のまだ残っている時間)」なのだとか。

  • ああ、なんて素晴らしい本なんだろう。さすがブッカー賞。
    「私を離さないで」を読んだとき、読後なんともいえないショックを受けたが、これも同様。
    カズオ・イシグロは本当にすごい人だ。そして訳者の土屋氏も。

    「私を離さないで」も「日の名残り」も、悲劇だ。でもどちらも静かで淡々とした叙情で、不思議なことに爽やかさまで感じる。

    そしてタイトルも私は好きだ。
    どちらも話の中で登場する言葉であって、話全体を象徴する言葉にもなっている。
    特に「日の名残り」は…


    実は、映画も見たが、本のエッセンスの100分の1も表現されていないように感じた。
    だいたいTSUTAYAでこの作品が「恋愛」コーナーに置かれているところから何だか違うと思う。少なくとも「ヒューマン」カテゴリあたりに置いてほしかったが、中身を見て…なるほど、かなり浅い、わかりやすい内容にすりかわってしまったのだ、と理解した。

    また、アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソンほか素晴らしい役者揃いだが、原作は執事の考え方や感情を一人称で綴るところが効果的といえるので、第3者の目線になってしまうこの映画のつくり方だと、まったく原作の良さが活かされず、不当に地味な映画になってしまった印象だ。


    スティーブンスは、一貫して品格を追求し、自身がそれを貫き通せた誇りを綴ってきた。
    しかし旅の終わりで「そんな私のどこに品格などがございましょうか」、と泣くのだ。
    この言葉は大変衝撃的だ。今までの全否定なのだから。

    スティーブンスによると、執事の品格とは、執事のマントを公衆の面前では決して脱がぬこと。
    だからこそ、彼にはミス・ケントンとの恋愛もなかった。彼女の気持ちに気付く気付かない以前に、足を踏み込む一寸のスキも自身に与えなかった。

    そこまでしてプロフェッショナリズムを貫いた執事としての仕事だが、自らのすべてを捧げてきたダーリントン卿は破滅の道を辿ってしまう。
    自分のやってきたことは一体何だったのだろうか。
    「ふりしぼろうにも、私にはもう力が残っておりません」

    栄光に輝いていた過去、そして公私の両方で涙がこみ上げる現在。

    でもそこに「夕方が一日でいちばんいい時間」というキーメッセージが届くのだ。
    スティーブンスにとっての今、この瞬間が人生で一番いい時間、という肯定的なメッセージ。だからこその「日の名残り」だ。

    悲劇なのにどことなく爽やかさを感じるのは、こういうところにあるのだろうし、本当に素晴らしいタイトルだ。また、ここまで考えると、執事のスティーブンスが一人称で語るスタイル、また現在から始まり過去の追憶、現在、と辿る構成がいかに効果的か痛感する。
    素晴らしく洗練されている。

    この名作が広く、多くの人に支持されているのはさすがであるし、私もまた読み返したいと思う。

  • 古き良き時代のイギリスが舞台。英国執事とその主人、そして女中頭の物語です。
    尊敬する主人に仕え続けた執事が、晩年初めて旅をしながら自分自身の人生を振り返ります。

    「品格」を体現した生真面目な執事が語る主人との催事や会議がすばらしくてときめきました。
    執事の役割もそうなのですけど英国貴族の役割もね。とてもよかったです。

    それから、抑制されつくした口ぶりで語る女中頭との恋愛模様も、つつましやかすぎて愛おしくて、少し切ないけどなんとなくほっこりするような。これも生真面目で偏屈な執事ならではの語りが効いていてときめきます。

    また、翻訳が上手で、全く違和感のない、それどころか美しい日本語が物語の雰囲気にぴったりでした。
    上質な作品。

  • 書店から軒並みその著作が姿を消している、最新のノーベル文学賞受賞作家から。自分の中では、”百年の誤読”で目星をつけて、受賞決定前に購入しておいたものを、このタイミングで読んでみました、って感じ。実は「わたしを~」に対して、心の底から喝采を叫ぶ、ってほどに好きにはなれなかった関係で、本作を買いはしたものの、何となく後回しにしてしまってました。で、これがまた素晴らしかったのです。最近、「海外文学」ウエルカムモードに個人的になっているせいかもしらんけど、かなり深く味わわせて頂きました。特に何が起こる訳でなく、ある執事の小旅行の模様が描かれているだけなんだけど、その回想を通じて明らかになってくる物語が素敵で。終わった後もしばらく余韻に浸っておりました。

  • 沈みゆく一瞬の輝きでしか見えないものがある。傾いた陽が、やがて勢いを忘れブラッドオレンジの絵の具のようになる頃、その柔らかな光の影でしか見えてこない形がある。大抵は、そうした影がようやく見えた頃には、もはや後戻りできない夜が目前にある。輝いだ喧噪も午後の無為な時間も同じように覆い尽くす夜である。夕暮れの光のなかに知っていたはずのシルエットを見て、あたかも初めてそれに気づいたと感じたとしても、そのシルエットを為すそれは以前から間違いなくそこにあったのだ。ただ、日々の忙しさの中に忘れ、無意識に記憶から追い出し、夕暮れの時間になって初めて思い出した。それだけのことなのだ。そうやって気づいた影は、間も無く漆黒に沈んでいく。秋の夕暮れである。

    一日を振り返るとか、思い出にひたるとか、あるいは、過去にふと気づくというのは、存外容易なことに違いない。映画や小説で見るフラッシュバックは、そうした容易さがあるから受け入れやすいのだろう。その容易さがゆえに切ない。そういうものである。

    とりたてて触れるべき事はない。世界的に知られた英国作家の代表作のひとつである。何が起きるわけでもない。なんども読み返すような深い描写が繰り返されるわけでもない。ある人に会いに旅立つ。ただそんな話である。英国の斜陽と簡単に片付けることもできなくはないが、それ以前にひとの日常と傾きかけた陽の光が周囲を覆う。ただ、最後の1行まで読み切らなければわからない。それだけのことである。

    (2017年9月より前に読んだものですが、今回は例外で登録)

  • 執事スティーブンスが回想する、古き良きイギリス。
    スティーブンスが、イメージそのままの執事だった。
    度々出てくる「品格」という言葉。スティーブンスは執事てあろうとし過ぎて、自分のことを蔑ろにしているように思えた。
    翻訳ではあるが、非常に読みやすい。言葉遣いも執事にふさわしいように感じた。

    切なく、落ち着いた話。

  • お屋敷奉公の内幕(?)の本、
    「おだまり、ローズ」を読んでいるあたりから、
    この小説が実在の執事をモデルにしている、
    と言うのを知り、読んでみようと思った。

    一流の執事になることを目指し、
    実際その地位を確立した、スティーブンス、

    長年仕えたダーリントン卿亡き後、
    屋敷を買い取り、引き続きスティーブンスを雇うことになった
    新しい主人から、ある日、
    自分の留守中、たまには休暇を取って出かけるように言われる。

    そこで、過去に一緒にお屋敷で働いていた女性に
    会いに行くことにするが…

    「品格のある執事」を目指すスティーブンスが
    やることなすこと自分の感情をなくして
    「執事はこうであるべし」で行動するから、
    御立派ではあるけれど、
    なんだかいちいちしち面倒くさいお人だなあ…と
    少々うんざりして、
    でも実際こんな人生ってさぁ…と思ったとき、

    「あ、そうか、スティーブンスもそれに気付いたんだ!」
    と言う事がわかった!

    敬愛していたダーリントン卿がある策略に利用され、
    名誉を失墜したまま悲劇的な方法で亡くなってしまった今、

    かつてお屋敷で開かれていたような華やかな行事もなく、
    使用人の数もわずかとなり、

    自分の選んだ道が最良だったのかな?と折々考えてしまう気持ち、

    「もしかしたらあの時、ああだったかも?」
    「あの人、こう思ってくれていたのかも?」
    なあんて、思いめぐらせて、

    そして、今回の旅行で会いに行く女性がくれた手紙を
    何度も読み返しては、
    自分の都合のよい解釈をどんどんしてしまう感じ、
    あるなー。

    実際に再会したら、
    自分の想像とは拍子抜けするほど「違う」んだけれど、
    (これも、あるなー。)

    救いのある部分もあった。
    だから余計に戻らない時間が切ない訳だ…。

    「わたしはこうして執事になった」のエドウィン・リーがモデル、
    と言われているけれど、

    「わたしは…」を読む限り、確かに「執事界のレジェンド」と
    言われた男だから、一側面ではあるんだろうけれど、
    リー氏はもっとお茶目でユーモアのある印象、であった。

  • 昔大学の講義で習った、信頼できない語り手(しんらいできないかたりて、英語: Unreliable narrator)、という言葉を思い出しました。
    20イギリスの執事の回顧録。いかに自分が品格があり、理性的で、主人の仕事に盲目的に従っているかを蕩々と語っているが、その文章の節々から女中頭へ慕情、怒濤の時代の変遷を読者はうかがうことが出来る。
    執事の語られていないところで多くの事象が動いている(ex:女中頭の恋、政治経済の動向、父親の心境)のにも関わらず、それを一切排除し、私見に寄った語りを進めるので、重いと感じる人もいると思うし、逆に執事になりきって没頭出来る人もいると思う。

  • ある一人の執事が往年雇い主に仕えた日々を、女中頭への淡い恋心とともに振り返るという、特にストーリー的にも盛り上がることなく終わる物語なのだが、
    イギリス貴族の重厚な雰囲気と洗練された文章が読んでいて実に心地良い。
    訳文は、下手な受験生の関係代名詞の直訳のような意味の分かりづらい日本語なのだが、それがまたオールドキングスイングリッシュの古めかしい匂いがプンプンして、より一層戦前の大英帝国の雰囲気を醸し出してくれていた。
    2016/09

  • 人生の黄昏に差しかかった老執事が自動車旅行をしながら、仕事に生きた半生や仕えてきた主の思い出を語る。一見地味なこの小説が極めて高い評価を得て、また幅広い人気を誇っている理由は何だろう。

    完全な一人称小説で、邦訳でもスティーブンスの言葉遣いが慎重に構築されている。ここで語られるのはあくまでスティーブンスの目から見たこと・語ってもよいと判断したことだけ。技巧や仕掛けをついつい勘ぐりたくなってしまうのを抑え、まずは虚心坦懐に読んだ。

    スティーブンスは古き佳き英国を体現する人物。彼の語りは実直な人柄をそのまま映し、自らの職務への矜持と昔の主人への敬慕が溢れる。しかしそこに感情の氾濫はない。夕陽を受けて鈍く輝く思い出の数々は、すでに色あせている。邸で開かれた数々の国際会議も、ミス・ケントンとの交情も、劇的なところは全くなくあくまで静かにしみじみと語られる。

    終盤まではただただ「巧いなあ、渋いなあ」と感心しながら読み進めた。しかし最後の最後に感動の大波が来た。旅の目的地に達し、省察を終えたスティーブンスが静かに流す涙に込められた意味は計り知れない。信念を貫き誠心誠意職務に邁進した。今でも誇りを持っているし後悔もない。それでも「これでよかったのか」という思いが襲ってくる。

    三十余歳の作家の視点は驚くほど老成しており、筆力も確か。ただこの小説の滋味は誰でも堪能できるごくシンプルで間口の広いもの。これが本書の最大の強みなのではないか。

  • 過ぎ去った日々に思いをはせる、夢をもう一度見る。イギリスの執事を取り上げている。伝統があるが、現代にはそぐわない感じもする。また、今の時代にどのようにして仕事を続けていくのか?本書では「品格」という言葉で表現している。時代は大戦の前後、旧貴族の生活が大きく変化をした時代背景。ダーリントンホール。卿の裏方としての活躍、世界にどれだけ影響を与えたかは良く分からず。ミスター・スティーブンスの執事として使命は主人に尽くすこと、それが品格であると語られる。屋敷を切り盛り、維持すること、主人の命令には忠実であること。執事として、自分を出してはいけない。感情というものを持たない。父に対しては尊敬、死にもあえず。ミス・ケントン、女中頭、仕事は有能である。感情はある。執事に対して、愛情を持つと思われる。30を境にして、結婚することを選ぶ。旧家屋敷をアメリカ人が購入。主人が米国に帰国する時、執事は1週間、休暇を取り、ミス・ケントン(ミセス・ベン)を尋ねる旅行をする。旅行時の回想で、日々が語られる。1人称の語りであるが、ミス・ケントンの愛が感じられる。執事は、この愛を感じ取っていたのだろうか?愛を感じつつも、品格を優先したと考えるべきか?それは最後に示されている。執事はダーリントンホールとともに役目を終えた。品格を伝統を紳士を守るために、愛することをしなかった。そして今は、家敷と伝統を米国人に買われた。自由を重んじる国に売られた。自分を見ていた。それは過ぎ去りし日々の自分であった。後悔はしない、名残なのだ。

    書かれた時代背景で、イギリスの斜陽時代か?
    男と女の対比であるが、仕事に生きるか生活に生きるかの対比としても受け取れる。それは性の違いとしても描かれる。
    名残、自分を許すこと?

  • 「私を~」もなんか残る作品だったけど、こちらはまた、前半ちょっと辟易するほどの「ザ・英国紳士」感が後半に物凄く聞いてきて読後に染み入る事半端ないわ。じわじわと来る。

  • 美しい情景とともに、主人公の切ない想いが胸に迫る。哀愁漂うけど爽やか。心が洗われるような読後感でした。

  • 再読
    イシグロ氏、ノーベル文学賞受賞おめでとうございます。ということで、また引っ張りだして読んでみた。昔読んだ時は断然「私を離さないで」派だったけど、今読むとこっちの方が好きかも。
    クライマックスのウェイマスの桟橋の夕日のシーンは言わずもがな。もうね、小説の構成が、もうね。全てはこの、隣に居合わせた見知らぬ男に、このセリフを言わせんが為の前振りに過ぎなかったんだなぁという、気持ち良いしてやられた感。
    …と、まあ王道な読み方でも楽しめるし、もちろんちょっとしたイギリス歴史小説としても楽しめるし、私はこの小説、世間知らずのスティーブンスの「初めてのおつかい」的な、コメディタッチの冒険譚としても楽しめるのではないかと。
    主人公のスティーブンス氏って、頑固でプライドが高くて、変に見栄っ張りで、イケ好かない奴なんだけど、馬鹿真面目に努力しても、その努力の方向性がズレズレだったり、憎めないキャラクターなんだよね。
    以下、私が読みながらツッコんだところ。
    旅行1日目、通りすがりのオッサンの挑発に乗り「絶景の丘」にすたこら登るスティーブンス氏。
    ナショジオでしか見たことない世界の景勝地より、やっぱりグレートブリテンの景色には品格があるぜ(ドヤぁ)
    レジナルド様に「生命の神秘」を説こうとシャクナゲの茂みに隠れる、が未遂に終わる。
    気になってるミス・ケントンの前でついついいけずな態度を取ってしまうスティーブンス氏。
    仕事終わりにミス・ケントンの部屋で行われるココア会議(おまいら中学生か!)
    ガス欠になったり、つい見栄張って素性を偽ってしまったりと、失敗した後は素直に失敗を認め、たかと思いきや往生際悪くエクスキューズを並べまくる。(で、毎回言い訳の文がその後2〜3ページ続く。)
    新しいアメリカ人のご主人様にアメリカンジョークで応戦するも、盛大にスベり、ラジオを聴いてネタを仕込むも、田舎の農村の酒場にて(しかも同じ鳥ネタで)場を凍りつかせ、極め付けはラスト「お帰りになったファラディ様を、私は立派なジョークでびっくりさせて差し上げることができるやもしれません。(ニヤリ)」(なんだその鋼のメンタル)
    これ、絶対イシグロ氏も狙ってる〜。
    とか、低俗な視点で楽しんでました。天下のノーベル文学賞に対してスミマセン。
    でも面白かった〜。

  • 1989年英国最高の文学賞ブッカー賞受賞作。
    30年間、品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスの第一次世界大戦から第二次世界大戦の間を中心とした回想録。
    長年仕えたダーリントン卿への敬慕、邸内で催された重要な外交会議の数々、執事の鑑だった亡父、女中頭のミス・ケイトンとのやりとり等々。

    「品格の有無を決定するのは、自らの職業的あり方を貫き、それに堪える能力だと言えるのではありますまいか」

    翻訳とはいえ控えめながらも力強い語り口が絶妙で、物語の世界に引き込まれる。
    一人称の語りにより、徐々に明らかになっていく、ダーリントン卿や女中頭のこと、自らの生き方・姿勢。
    なんと形容したらいいのか、余韻の残る作品である。

  • 執事スティーブンスは、ダーリントン卿に長年仕えてきましたが、ダーリントン・ホールがファラディ様の手に移った後も屋敷に残り続けました。そして、新しい主人ファラディ様の提案により、スティーブンスはイギリス国内をフォードで一人旅することになります。

    スティーブンスは旅のなかで、イギリスの田舎の素晴らしい風景や、その土地の人々に出会います。その途中で、ダーリントン卿に仕えていた時代のことを何度も思い出します。

    偉大な執事とは「品格」を持っていることであると考えていたり、ダーリントン卿を信頼して忠実に仕えていたりしたことがわかりました。執事目線の小説は初めて読んだのですが、当時のイギリスで世界を動かす重要な会議が開かれており、自分もその手助けをしているような、誇り高い雰囲気を感じることができました。

    女中頭のミス・ケントンとの思い出の場面では、スティーブンスが仕事一筋だという印象が強かったです。そこが彼の良いところでもあり、悪いところでもあると思いました。ミス・ケントンの気持ちになると、少し切なくなりました。

    旅をしているはずなのに過去を振り返った話が多く、物語を通して過ぎてしまった日々に対しての哀愁を帯びていました。しかし、スティーブンスがジョークの練習に取り組もうと意気込むところなど、笑える場面もありました。

  • これほど丁寧語が徹底されて、イヤミ感も皆無な文章は初めて読んだ。
    自分の恋愛感情も深く押し殺して、最後まで執事としての職務を全うする姿勢に感動した。
    AmazonのCEOが心に残る一冊に上げていたので読んでみたけど、一流の人は一流の文学を読んでいるんだなぁ。。。

  • 階級社会での独立というのは、個人的にとても面白いテーマなのだけど、長い間執事として生きてきた主人公が追い求めた品格は、本当に人としての品格だったのか、人生も終わりへの曲がり角に近い時に出かけた旅の終わりに得た答えは面白かった。
    また、善良だが実は自己中自己愛過剰な執事さんを、嫌われキャラにさせずにユーモラスに描いていく辺りに作者の技量を感じてしまった。

  • 日本語の表現が英語でどうやって表現されているのが気になる時がある。差支えないのではあるまいか、なんて言われても、英語ではどうなってしまうん?isn't itくらいしか分からん。てかこの執事のしゃべり口の原文がどうなっているのか、適当に執事って言ったらこうだよねって、って言って訳したのか。でもやっぱ執事って言ったらこういうしゃべり方だよなー。まぁ戦国武将っぽくもあるけど。
    ともあれ実に執事らしい執事というか、まぁ本物なんて知らないんだけど、でも戦国武将とか知ったような気になってる程度に執事のことを知っていて、まぁその執事っぷりは、紳士の国というか、実はいまやフーリガンとかトレインスポッティングとか、明らかに例えが古いけど、腹切り芸者なみに、外国のことなんか良く分からんという自分にとっての昔の英国っていえばこうだよなー感が完璧で、なんだか分からんけど妙に読ませる。

  • 執事の目線が新鮮で面白かった。同僚との人間関係を本筋にしながら、しっとりと回想や日常の出来事が織り込まれたりして、時間的にも物理的にも旅情を感じられた。

  • amazonのジェフベゾス氏愛読書。なるほど読んで納得です。またいつか読みたい。

  • 英国執事が旅行の中で、昔を振り返る。自分が最も執事として輝いた瞬間、それは人生の分岐点であったことを知ることとなる。晩年に差し掛かろうとするところで、見知らぬ老人から、夕方が一番いいと言われ、次の課題に取り組もうとして物語は終わる。
    小説の舞台となる時期が執事という職業そのものが終わろうとする時期であることと重なる。感傷的であるのはそのためか。

  • 初めて読んだカズオ イシグロ作品。全く予想していなかった文体、ストーリー、内容で一気に引き込まれた。執事という仕事に誇りを持ち、より高みを目指し、Jokeですら学ばなければと考える真面目一辺倒なMr.Stevens. 「品格」という言葉と、そこに思いをいたすこと。同士との和やかな、真摯な議論。仕事を言い訳に、抑えてしまったMs.Kenton への思いと、20年後の結末。
    「品格」を、人ではなく、まずイギリスの美しい田園風景に見出すこと。なんて鮮やかなのだろう。
    Mr.Stevensが語るように、「最良のイギリスを見る機会」に触れられたと思う。あまり好きではなかったイギリスへ興味が持てるようになった。折に触れ、何度も読み返したい作品。

  • 静かで穏やかな筆致の中に緩やかな人生の喜哀両方を感じる。味わい深い。

  • 余韻の大きな作品。淡々と抑制が効いて、だからこそ伝わるものもある。

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品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々—過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。

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