遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫 イ 1-2)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200106

感想・レビュー・書評

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  • 先に名前のインパクトのある、素直に素晴らしいだろうと思い実際に文学に触れた重篤感があり、なにより読み易い。なんだろうかこの感覚は、たしかに不思議な登場人物に終わらせ方に ラストもページ捲ってありゃまあニキのお見送りが終わりかいってなあーってこと。ニキもそうだが掴みきれずに 万里子も、うーむだし、景子の誕生シーンも二郎との別れもなかったが。それでも読み終わるのは要所要所に大切なものが詰まっていたから。あっ佐知子の伯父の家に戻らないのと自分がアメリカ行けないことを分かっているのに神戸に行くという場面が全く理解出来んのよ。これもう一度読むと違いがわかるんかなあー

  • 再読。いやこれめちゃくちゃ怖くない?なんで昔読んだときは気づかなかったんだろ?ぜんぜん女性の自立とか復興への希望みたいないい話じゃないじゃんか。解説書いた人トチ狂っとるんか?
    「信用できない語り手」という補助線を引いて読むべきだった。語り手による語りは信用できないものだということは緒方さんの饒舌さが常に示唆している。
    最初に万里子を探しにいくときに主人公の足に絡んだロープ、ブランコの夢、長崎の街を徘徊し児童を殺して木に吊るす殺人鬼、万里子を訪れ脅かす謎の女、神戸に旅立つ前夜に万里子を追いかけた主人公が手にしていたもの。終盤、大切な思い出についてさえ嘘をつくことで主人公自身が信用できないことは決定的になる。そのとき、景子は本当に自死だったのか?という疑念が限りなく黒に近いグレーで迫ってくるよね。いやほんとに怖いよこれ。
    ニキはブーツを3足も持ってきてたって?そんなに履くものばかり持って何から走って逃げてきた?お前さんのパパはいったいどこにいったの?そしてなにより、穏やかに老いた風にしている優しいお母さん、「悦子」さん?アンタ一体何者なの?

  • 戦後の騒乱の中で生きた女性の物語。
    戦前、戦中に良いとされていたものは覆され、戦後には戦前の地位や名誉はなんの意味もなくなる。
    愛国主義を掲げて教壇に立っていた義理父は戦後、落伍者となり息子にも相手にされず、ひっそりと隠居生活を送る。
    戦争で旦那を亡くした佐知子は、娘の万里子とともにアメリカ人の愛人とアメリカへ渡る夢を描く。
    そういった出来事を、現在は英国人の旦那をもち、英国で暮らす主人公の悦子が、景子という娘を自殺で亡くしたことをきっかけに、過去のこととして回想する。

    結局、佐知子や万里子は、自分であり景子だったのであろう。そう思わせる箇所は作中いくつかある。
    悦子から見て、当時奔放に見えていた佐知子は、現在の悦子とシンクロする。

    そう考えていくと、親のエゴに振り回された万里子は景子であり、結局は自殺する。
    自殺の原因が自分にあるとは感じながら、その罪悪感に直視できず、歪んだ過去が佐知子と万里子になったのではないか。

    ともあれ、これは日本人の血をひきながらも幼少から英国で育ち、日本語を母語としない著者の小説である。
    他国からみた日本、といっても差し支えないと思うが、
    「日本人には本能的な自殺願望がある」

    という英国メディアの表記に驚いた。
    他国から見て、日本人はそんな風に思われていたのか。

  • 全体的な暗さの中に確かにある希望、それを感じる事ができる。カズオイグロの小説に一貫するメッセージ性であると思うが初期作品はやや暗さが目立つ。素晴らしい小説。

  • とても読みにくい本だったと思います。いや読む事は出来たんだけど、読み解くというか理解するのが困難でした。佳境となる部分は分かるんだけど、この会話や展開が意味する事はつかみ切れなかった気がします。だけど、そんな不確実さがこの本の魅力だったりするのかなとも感じてなんだかよく分かりません。とりあえず、時間を忘れて夢中になれたので良かったです。

  • カズオ・イシグロの処女作。
    叙述トリックというのか、文を連ねるうちに、人物の背景が明らかになる。あっという間に迷路の行き当たりにぶちあたったような地点があり、そこが訴えることの意味(日本の戦後の卑屈な欧米主義、自虐史観による教育の骨抜き)が立ち現われてくるときの、驚きに目を啓かれる。

  • 女性の男性からの独立や、不条理なパラダイムシフトで没落した人々のもがきといった、複数のテーマが書かれている。

    回想の中で過去と現在を行き来し、「いい母親」よりも非隷属的な、自立した女性になることを選んだ自己を、同じ選択をした過去の友人に重ね合わせる。友人に対する非難は、過去の自分からの、現在の自分に対する非難でもある。
    また、友人や男尊女卑の古い価値観に囚われた人々との生活を思い出すことで、そのような従属的な環境の中にも幸福を見出していたことを確認する。

    しかし、だからといって現在の主人公は、イギリスでの生活に不満を抱いているわけではない。

    過去の自分による現在の自分に対する批判、そして独立した、現代的な女性である娘の言葉によっても行われる、現在の自分による過去の自分に対する批判。
    この二つの批判を通して行われる、主人公の過去の精算こそ、この小説の真の主題なのかもしれない。

  • 2021年6月24日読了。英国で暮らす悦子は、娘ニキの訪問を期に長崎で友人家族や義父と過ごした時間を思い返す…。「日の名残り」と似たテイストだが、相変わらず非常にテクニカルな小説と感じた。自分が信じ打ち込んできた成果・過去が後で否定されたとき、自分はどうそれを昇華してその後の生活を送ればよいのか・周囲はどうそれを扱えばいいのか、というあたりが、本心をはっきりと語らない・何かをほのめかすような語り手のトーンに終始やきもきさせられながら最後まで読み進まされた。「あの時代は誰もが一生懸命生きていたのだ」と考え、納得できなくても納得するしかないんだよなあ…。

  • 物語は、イギリスに住む日本人の悦子とその次女ニキとの会話、そしてニキが帰省したきっかけに思い出した、まだ長崎に住んでいた、朝鮮戦争の頃の出来事で進む。回想部分の遠い終戦直後は、当事者の古式ゆかしい上品な日本語の会話で進み、読み終わるとなにか圧倒する昔の風景や息遣いが周りに満ちてきて、一瞬その風景の中に自分もいるような気になった。若干28歳でこのデビュー作を書くとはイシグロ氏恐るべし。

    次女ニキは30歳前後で、すると現在は1980年頃で、この本は1982年発表なので、現在の部分は著作時の同時代ということになる。

    次女ニキとの会話は成人した娘と母の、ある部分はかみあい、ある部分は反発する、という2018年にこれを読む例えば60歳の女性は、悦子でありニキである。

    回想部分の、自分たちの住む集合住宅に泊まりに来た義父と悦子の会話は、まるで「東京物語」の笠智衆の父と原節子の次男の未亡人との会話が再現されているようだ。また悦子の夫と義父との会話も「東京物語」の山村聡の長男と父との会話を彷彿とさせる。そしてダメ押しに義父は「もうそろそろ帰る時かな」と言う。

    近所の佐和子とその娘万里子と私・悦子の関係もおもしろい。佐和子は夫を亡くし、アメリカ兵の恋人とアメリカに行こうとしている。方や悦子は長女を妊娠中で佐和子や万里子の行動に振り回されている感じだ。そしてそこはかとなく、夫とも十分に分かりあえていないのではないかという気配も漂っている。義父は戦後の変化についていっていない。一転無茶な佐和子が実は悦子だったのでは?と思ってしまう。

    発表当時イシグロ氏は28歳位である。5歳でイギリスに家族と渡った氏の周辺から想像をふくらませたのだろうか。イシグロ氏とは同世代だが、イシグロ氏の周りに戦前の考え方と戦後の生活にずれが生じている人が身近にいたのだろうか? 発表の1982年は今から36年前だが、1982年は1945年から37年目だったのだ。戦後は今よりずっと身近だったかも。

    2001.9発行2017.11.10、15刷を購入

  • 主に、舞台となる場所が日本であることから、これまでに読んだカズオイシグロ作品(「クララとお日さま」、「日の名残り」など)とは随分異なる印象を受けながら読んだが、読了後に振り返ると、一人一人の登場人物の存在から感じるメッセージの美しさには通ずるものがあると思った。

著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

カズオ・イシグロの作品

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