第三の嘘 (ハヤカワepi文庫 ク 2-3)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200168

感想・レビュー・書評

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  • (悪童日記)が面白く続編、続々編へと読み進めた。しかし(第三の嘘)に行くと、はたしてこれは三部作と言うものだったのか?と疑問を持ってしまうことに。
    3作の関係性は別としても、不自由な時代背景のもとで父親の不義から始まった家族の崩壊、新しい出会い、そこで生まれる人間関係、しかし何処までも消えない喪失感ばかりが付き纏う。寂しすぎる。

  • 本書はアゴタ・クリストフの傑作『悪童日記』三部作の完結編。

    一気にこの三部作を読了したが、非常に考えさせられるものがあった。

    1作目の『悪童日記』では第二次世界大戦の戦中、戦後の混乱のなか、双子の兄弟が必死に生き残っていく姿が淡々と描かれた。

    2作目の『ふたりの証拠』では、別れ別れとなった双子の青年期を東側諸国となったハンガリーに残ったリュカの目を通して描かれた。

    3作目の本作では、別れた双子が涙の再会をするのかと思えば、そう簡単な話ではなかった。

    この双子の存在自体が虚構であったのではないか、あるいは、いままで述べられてきた物語は全くの空想であったのではないかと読者に思い起こさせるような展開となっていく。

    ただ、この三部作については実際のところ、この双子の兄弟にどのような事実があったのかを突き詰めることはまったく必要のないことだと思う。

    どのエピソードも事実であり、実際に『誰か』の身の上には起こった物語なのであろうから。
    そこを読者がどうとらえるかということなのだろう。

    本書は著者の自伝的要素も多分にあり、著者は西側諸国へ運よく来ることができたが、もし東側に残っていたらこういう人生もあっただろうということを想像し、東側に残ったかもしれない「もう一人の自分」の物語を書いていったのだろう。

    そう考えると、この戦争が分岐点となり、自分が二つに分かれてしまって、その二人がそれぞれの人生を歩んでいった想像の姿が、この物語に記されていった考えたほうがわかりやすいのかもしれない。そこにはまた更なる分岐点がたくさんあったはずであり、その分岐点の末端をそれぞれすくい上げて、文章に書き記していったと考えると腑に落ちることもたくさんある。

    非常に心を動かされた3部作であった。

    • りまのさん
      kazzu008さん
      フォローに御答え頂き、ありがとうございます!
      「悪童日記」三部作は、とても好きな、愛読書であります。kazzu008さ...
      kazzu008さん
      フォローに御答え頂き、ありがとうございます!
      「悪童日記」三部作は、とても好きな、愛読書であります。kazzu008さんの、素晴らしいレビューを読み、嬉しく思いました。
      どうぞよろしくお願いいたします。
      2021/01/16
    • kazzu008さん
      りまのさん。こんにちは。

      この「悪童日記」三部作は非常に感慨深いものがありました。
      ご丁寧なコメントをいただきましてありがとうござい...
      りまのさん。こんにちは。

      この「悪童日記」三部作は非常に感慨深いものがありました。
      ご丁寧なコメントをいただきましてありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。
      2021/01/16
  • 本作品は『悪童日誌』『ふたりの証拠』に続く、アゴタ・クリストフ三部作の完結編
    しかし話は完全に繋がってはいない

    ベルリンの壁の崩壊後、双子の一人が何十年ぶりかに思い出の地に帰って来る
    彼は何十年も前の「あのこと」から別れたままの兄弟を捜し求める
    そして、双子の兄弟がついに本作品で再会を果たす
    読み進めているうちに何が真実で、何が創作か全くわからなくなるが、もうそんな事はどうでもよくなる

    双子の一人リュカは自分を捨てた母を捜し、もう一人のクラウスを捜した
    自分を愛してくれる存在、自分への愛を求めた
    自分はリュカであり、クラウスでもある
    一方のクラウスは母が起こした「あのこと」により、リュカが行方不明になったことを知る
    その際、母とも生き別れるが母を探し出し一緒に暮らす
    しかし母は、自分のせいで行方不明になったリュカのことばかりを思い続け、愛していた
    そんな母に愛されたかったクラウス
    クラウスにとってリュカは、愛しさと憎しみが混在した存在だった

    大切な人達の死、愛されたい気持ち、苦しい思い、どうにもならない絶望的な気持ち
    同じ人間なのに、こんな悲しい人生もあるんだと思うと胸が痛い
    とても悲しい愛と、愛するが故の憎しみの物語
    読了後も心に残る作品
    再読したらまた違うかもしれないが、ちょっと悲し過ぎるかな
    三部作とも間をあけずに続けて読むことをおすすめします


  • 『悪童日記』3部作の完結編。2人の兄弟のその後を描いている。今まで読んできた兄弟とは設定が多少異なるため、過去の作品との繋がりが薄く読んでいて混乱してしまった。(そういうものとして読めばまた違ったのかもしれないが)兄弟は本当の兄弟なのだろうか、それとも現実から逃避するために造りだした別の人格なのだろうか、、そのようなミステリアスな部分を残したまま幕を閉じてしまう。いかようにも解釈はできるのだろうが、個人的には謎を明らかにしてほしかった。ただ物語に引き込む文体は、さすがと感じた。

  • ネタバレ含みます。

    アゴタ・クリストフの「悪童日記」「ふたりの証拠」に続く、三部作の第三作目。前二作と同様に、一気に読み終わったが、正直、肩透かしを食った感じがする。
    第一作、第二作と読み進めるにつれて、物語全体に対しての謎が深まっていく。第一作と第二作には矛盾している内容も多く含まれるが、それを第三作が一気に解決してくれることを想定して読み進めたが、その期待は裏切られる。
    同じモチーフであるが、三作はそれぞれ別の物語として考えるべきであろう、的な解説もあった。あぁ、そうなんだという感想だ。
    本作が物語として面白くない訳ではなく、上記したように一気読みした。しかし、それぞれが別の物語という前提で読むと、最初の「悪童日記」が飛びぬけた傑作で、あとの二作は、それなりに面白いというレベルのものかと思う。
    少し残念な読後感。

  • ふたりの証拠の最後で「えーっ?」と思って急いで読み始めた第三の嘘。疑問がするする解けると思いきや、更にえっ?あれ?と混乱。どこまでも陰鬱で、心を削られるような哀しみが続くのに読まずにはいられない魅力がある。


  • (※ネタバレ)

    ⚫︎受け取ったメッセージ
    実際には離れ離れだった双子。
    二人が一緒にいられた「悪童日記」は、
    二人が一緒にいられない現実から逃避する手段であった


    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    ベルリンの壁の崩壊後、初めて二人は再会した…。絶賛をあびた前二作の感動さめやらぬなか、時は流れ、三たび爆弾が仕掛けられた。日本翻訳大賞新人賞に輝く『悪童日記』三部作、ついに完結。

    (あらすじネタバレ)
    クラウスとリュカには悲しい事実(と思われる)があった。2人が4歳の時、父は浮気相手と一緒になりたいと話し、2人の母は父を撃った。その流れ弾がリュカの脊髄を損傷し、離れ離れに暮らすこととなった。2人の母は精神の病にかかり、またリュカはリハビリが必要となり、一家はバラバラになる。クラウスは4歳から愛人に育てられることとなる。腹違いの妹とともに。クラウスは本当の家族は母とリュカだけと思い続ける。8歳のとき、自分は愛人に育てられていたのだと知り、愛人を責める。腹違いの妹と近親愛に陥る前に愛人の元を去り、精神の病を患ったままの母と暮らし始める。ことあるごとに「リュカなら…」と妄想のリュカを褒め続け、クラウスには愛情を一切示さない母に、クラウスは何も言えない。そのまま55歳になっている。そこへ、リュカが現れるが、人違いだと告げるクラウス。2日後リュカは電車に飛び込み自殺。クラウスは父の墓の横にリュカを埋葬することに決める。この先母が他界したら、生きている意味もなく、4人一緒になれる日も近い、将来電車に自分も飛び込むかもしれないという余韻をのこして、完。

    ⚫︎感想
    「第三の嘘」によって、二人が会えるチャンスがあったのにタイミングが悪く、悲しい。ついに会えても、双子の気持ちは引き裂かれたまま。クラウスは55歳になってからでなく、もっともっと早くリュカに会いたかった。なぜ今になってしまったんだと思う気持ちで、リュカを追い返してしまう。しかし互いを求め、思う気持ちは「悪童日記」で描かれる二人で一人のまま。双子を引き裂く悲劇的な出来事に加えて戦争が落とす混乱。
    いつの時代も、大人が引き起こしたことに巻き込まれ、犠牲になるのは子どもをはじめとした弱者である。

  • リュカとクラウス、どちらでもあってどちらでもなかった「悪童日記」での関係性が好きだった。

  • 後書きにも、ありましたが、
    何が、真実で、何が、
    嘘なのか?それとも、すべて、嘘なのか?
    わからなくなってしまう。

    殆ど一気読みに近い、真実を、知りたい!
    と、思いながら、どんどん引き込まれます。読了あとも
    余韻が、残り、あれは、真実?
    これは、嘘?と、読み返してしまいました。
    伏線になりそうなところには、付箋紙貼って、
    結局、付箋紙だらけになったのですが。笑。

    読み応えのある、3部作でした。最高!

  • 「悪童日記」から始まる三部作の最終章。評価が分かれる作品だと思うが、自分は一作目のインパクトが余りにすごくて、残念ながら二作目、三作目では最初の衝撃を超える事が出来なかった。この本は第二次世界大戦をドイツや旧ソ連の支配下で過ごした人々の悲哀と諦めと無力感を描いた作品として広く欧州諸国で受け入れられているのだろう。ただ、少なくとも「悪童日記」は是非一読をお勧めしたい。

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著者プロフィール

1935年オーストリアとの国境に近い、ハンガリーの村に生まれる。1956年ハンガリー動乱の折、乳飲み子を抱いて夫と共に祖国を脱出、難民としてスイスに亡命する。スイスのヌーシャテル州(フランス語圏)に定住し、時計工場で働きながらフランス語を習得する。みずから持ち込んだ原稿がパリの大手出版社スイユで歓迎され、1986年『悪童日記』でデビュー。意外性のある独創的な傑作だと一躍脚光を浴び、40以上の言語に訳されて世界的大ベストセラーとなった。つづく『ふたりの証拠』『第三の嘘』で三部作を完結させる。作品は他に『昨日』、戯曲集『怪物』『伝染病』『どちらでもいい』など。2011年没。

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