わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

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制作 : Kazuo Ishiguro  入江 真佐子 
  • 早川書房 (2006年3月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (537ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200342

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わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)の感想・レビュー・書評

  • 一貫して、主人公の語りで綴られるストーリー。

    子供時代を過ごした上海の租界でのキラキラした思い出。
    父と母の失踪。
    大学卒業後の探偵としての成り上がりと、社交界での華麗な日々。
    そして、上海に戻って、父と母の事件を調査する様子。
    哀しい結末。

    ストーリーの流れだけを見ると、冒険小説のようだけど、実は全く違っている。
    予備知識なしで、ワクワクドキドキを期待し読んでいたので、少し戸惑った。

    まず、主人公は、推理をしない。びっくり。
    また、主人公は、人間誰しもがそうであるように、記憶を自分の都合のいいようにつくりかえているようで、ところどころ、後半はかなりの部分に違和感が出てくる。

    幼少時代のオールドチップ論争からはじまり、クン警部の伝説化、自分が名探偵だというのも少し疑わしい気がする。
    極め付けは、両親の誘拐から20年近くたっているにもかかわらず、まだ生きていて同じ場所に幽閉されていると信じきっているところ。
    さらに、その事件の解決が世界を救うことになると、自分だけでなく全ての人が信じていることを信じているところ。
    アキラとの再会。

    これには、孤児という拠り所のない立場の主人公が、自分の内的な世界に居場所を求める悲しさがあった。さらに、フィリップおじさんとのラスト近くの会話で、世界が美しいものではなかった、と知るところは主人公に追い撃ちをかける。

    主人公の世界が崩壊してしまうかと思ったけれど、母親や養子にとった家族の存在が、心をつなぎとめ、その時、孤児ではなくなったのだと感じた。

    結論、なんだかよくわからないけれど、深い余韻が残る作品でした。

  • 失踪した両親を探すため、第二次世界大戦前夜の上海の巨大な流れの中で丸腰の主人公の要求が簡単に人を動かすことができる途轍もなさ。
    「呆れる」としか言いようのない都合の良い展開と思えたが、どんな大きな流れでも良し悪しの事象は超個人的な欲望が核心に存在し、力を持つものが機動力を持つのだと分かる気がした。
    (どんな大人物だったとしても、それだって生身の人間なのに、どうして社会はその人物を怖がり、それを覆すことができないんだろう。たとえば、あの国のような指導者についても・・)

    コンプレックスがないと小説は書けないと言うが、カズオ・イシグロの強いコンプレックス(国籍やアイデンティティの問題)をここでも感じる。彼の生い立ちを知らない方がこの小説を楽しめるかも。

    いつもの回想の語り口は昨日のような近接過去でも「今」現在の話としてとらえられない。薄暗闇で手探りしてる表現が時間の感覚を朦朧とさせる。

    無知過ぎた私は、以前、陳舜臣の「阿片戦争」をなぜ中国は麻薬を欲しがったのかと思って読んだら、阿片という悪と戦う話だったのに驚いた。ここでまた「阿片」が出てきてHello againな思いがした。

    中国の「阿片」を考えると闇の深さにのとてつもなさに思い当たる。知らぬが仏。この小説で感じる「呆れ」はそんなところにも通じているのだろう。
    それでも世界を良くしようという人のいることにわたしはときどきびっくりしてしまう。

  • これを「探偵物語」なんて言わないでほしいなあ。
    主人公が大人になって探偵という職業を選んだ、って
    ミステリじゃないんだから。

    ミステリじゃなくて探偵が出てくる辺り、
    ポール・オースター初期作品を思わせますが
    こちらはニューヨーカーじゃありませんから~

    解説氏も書かれていましたが
    読み終えた途端にもう一度最初から読みたくなる、
    というか読み始めてしまった、ちょこっとだけ・・・
    もうちょっと、出たくない世界でした。

  • カズオ・イシグロさんという、日系のイギリス人の小説家さんの本です。2014年現在60歳くらいの男性のようです。
    お名前は完全に日本人なんですが、まあ、何はともあれ母語は英語のようです。これも、翻訳本です。
    正直、名前しか知らなかったんですが、「読んだことのない現在進行形の作家さんを読んでみたいな」という思いもあって。ほぼ予備知識なしで読みました。
    不思議な小説、面白かったのは面白かったです。ラストの喪失感っていうか切ない感じが辛かったですけど。
    英語版が発表されたのは2000年だそうなんで、もう14年前の小説になるんですけどね。

    お話は、
    ●1930年代の、ロンドン。主人公のクリストファー君(20代)は、両親がいないけど、財産に恵まれた若者で、教育を受けて、志望通り「探偵」になっています。
    ●そのクリストファーさんの回想で、15年?20年前?子供だった頃。両親(イギリス人)と上海に居ました。支配者階級イギリス人一家のリッチな日々。父は、英国商社マン。母は敬虔な慈善家で、アヘン撲滅運動をしている。なんだけど、実は夫の会社、ひいてはイギリスが、上海に中国に、アヘンを売りまくっているという矛盾。
    ●それから、その上海の子供時代、隣家の裕福な日本人家庭の「アキラ」という名前の同年配の子との友情。
    ●その上海時代、父が蒸発する。そしてやがて母も蒸発する。孤児になり、独り英国の伯母のところへ。
    ●そんな思い出が続きながら、20代の主人公は探偵になり、かつての上海の両親の失踪を調べている。なんとなく確信を得て、上海へ。久々に上海へ。
    ●日中戦争泥沼の時期の上海。腐敗した支配者階級、悲惨な戦争。アキラと、物凄い偶然の再会。両親の失踪の真実を知る。
    ●大まかに言うと。父は愛人と逃げただけだった。母は中国人のマフィアにさらわれて妾になっていた。クリストファーの安全と財産、それと引き換えに母は自死を思いとどまっていた。なんて悲しい事実。
    ●どーーーんと月日が過ぎて、淡々と初老になってロンドンで暮らしているクリストファー。母とは戦後に再会。だが、母は心を病んで、息子を判らなかった。

    ■と、言うお話が、クリストファーさんの一人称で語られます。これ、大事ですね。客観的には語られません。

    ■で、少年時代の豊富な細かい想い出、20代のロンドン~上海時代の恋愛、引き取った孤児の少女との触れ合い、が、入ります。

    あらすじ、枠組み、で言うと、そういうことなんです。
    なんだけど、あらすじではわからない「味わい」について言いますと。

    ●主人公は孤児なんだけど、どうして孤児になったのか、判らない。本人にも判らない。犯罪の匂いがする。
    ●主人公は、シャーロック・ホームズに憧れて、探偵になる。
    ●そして、両親の蒸発の謎に迫っていく。
    と、言うあらすじなんですけど。なんですけど、細部が無いんです(笑)。
    犯罪捜査の細部が、無いのです。
    だから、なんていうか、「犯罪娯楽小説」「探偵娯楽小説」「冒険娯楽小説」では、無いんですね。
    兎にも角にも、主人公の青年の心理、内面。その震え、動揺、高揚。そういう面白さなんです。

    それで、この小説は、戦争が描かれます。第二次世界大戦。まあ、厳密に描かれるのは上海での日本軍対中国軍の戦闘です。
    そして、この小説は、「支配体制権力が行う、人種差別的な、構造的な悪事」「それを、見逃して、目をつぶって、白々しく上品に暮らす人々」が描かれます。
    そして、その中で小説として起こることは、やりきれないほど辛く、悲しく、絶望的で、救いがない。そういう、隠された事実だったりします。
    子供時代の、美しい無邪気な想い出が無残になります。

    ま、つまり、そういうことなんだろうなあ、と。この小説で渡した... 続きを読む

  • 独特の雰囲気があります。よくわからないけどひきつけられる。訳もいいんだろうなあ。
    「わたしを離さないで」よりはエンタテイメントじゃなかったです。「孤児」の意味が、あとでどんと来ます。

  • どこか不安を持たせながらも、ぐいぐいと読ませていく筆致が素晴らしい。

  • 主人公であるクリストファーバンクスによって物語が語られていくが、主人公はいつでも未来にたっていて過去のある時点がその時によって語られていく。探偵らしいが、事件そのものが語られることはない。行方不明になった両親の行方を追い、故郷の上海へと渡るが、そこで新たな事実と出会う。その事実は本当にマジで容赦ない。今でもたまに思い出すくらいどうしようもない。わたしを離さないででも思ったが、カズオイシグロ凄すぎる。

  • カズオ・イシグロのわたしたちが孤児だったころを読みました。

    イギリス人のクリストファーは上海の租界で貿易関係の仕事をしていた父と美しい母とともに子供時代を過ごします。
    ところが、父と母は失踪したのか誘拐されたのか突然失踪してしまいます。

    大人になって探偵で名をあげたクリストファーは父と母が失踪した真相を探るため戦争中の上海に戻ってきます。
    そしてそこで明かされた真実は驚くべきものだったのでした。

    カズオ・イシグロの小説は面白いのですが、背景を丹念に描きその積み重ねで事実を語るという手法なので、通勤電車で細切れに読んでいるkonnokの読書法とは相性が悪いなあ、と思ったのでした。

  • 落ち着いた文章で、過去の記憶を美しく語るイシグロ節です。

  • 両親失踪の結末
    子供時代の記憶と現実との乖離

  • 3 行でまとめると:

    - 戦前の上海租界のエキゾチックな雰囲気を味わえる
    - 淡い恋心を含めた主人公の隠微な人間関係描写がキモ
    - 主人公は探偵が職業だけど探偵小説でなく純文学 むしろ探偵ってなんだっけ

  • 3冊目のカズオイシグロ。
    読了後、頭を殴られたような衝撃を受ける。
    小さい頃、失踪した両親を捜す為に探偵になったイギリス人男性が主人公の探偵小説...と思って読んでいた。
    大人になり、イギリスで探偵として成功している現在から、幸せな上海での子供時代を振り返る前半。満たされた、美しい、懐かしい少年時代。優しい両親と、アキラという日本人の男の子との大切な思い出。どこか歪んだ印象を受けるけれど、両親が失踪した事を覗けば、幸せな少年時代。そして、探偵として順調にキャリアをつみ、充実している現在。少々退屈してきた頃に、主人公は両親を捜す為に上海へと旅立つ。
    この辺りから「オヤ?」と思う。
    主人公の語る事と、実際におこっている事との違和感。ドロドロと醜い姿を現そうとする現実を、決して見る様子の無い主人公から、コミカルな印象すら受ける。
    終盤、戦場となっている貧民街に突入しても、その態度は変わらない。倒れている日本兵を、特に根拠もなく幼なじみと決めつける態度。そういえば、何十年も前に失踪した両親が、幽閉されているってどこに根拠が?両親が助け出された後の式典って一体なんなの?
    ...ちょっと気づくのが遅かったかな。このアタリから物語の中の違和感が突然形をなしてきて、ゾクゾクッ鳥肌!
    上海に両親を捜しにきてから先は、一気に読み進めてしまった。少し落ち着いたら再読したい。今度は主人公の言う事は鵜呑みにせずに...。

  • 行方不明の両親を捜す男。
    探偵になり、魅惑的な女との絡みが面白かった。瓦礫のなかを捜す場面が思い出されるが、
    途中、これは男の夢の中では?と感じたのは、自分が戦争を経験していないことからくるのだろう。
    家族で住んでいた家は、いまは違う家族が長らく住み続けていた。
    家 という建物の意味以外の大きな価値は、そこを離れてから感じるものかもしれない。

  • モロにセカイ系だったのでバビッた。めちゃめちゃチャレンジングな作家だけど、ラノベまでやってたとは。

  • この本で、本の読み方が一つ身に付いた。書かれていることを全てと思わず、語られていないところにこそ作者の意図があるということ。

  • ああ。静かに感動した。
    語り手の記憶に基づいて進行し、徐々に真相が明らかになる。
    何事よりも自分の「仕事」に徹する様は、「日の名残り」の執事と重なる。

  • カズオ イシグロの小説 私を離さないで が日本でテレビドラマ化されるらしい。そんな事もあって、本棚を覗き、この本を手に取った。

    彼の世界観を語れる程、私は彼の著作を読み込めてはいないかも知れない。しかし、何か共通する底流のようなものが、あるような気がしている。孤児というキーワードは、大人が押し付け抗えない運命により、子供が置かれた状況だ。運命による無力感は、子供だけではなく、戦争状態に置かれた大人、組織の利害の渦中に置かれた大人にも生じる。そう、大人であっても、孤児同様、抗えない運命に左右されるのだ。この事が、日系英国人としての運命を背負ったイシグロの醸す雰囲気の原点なのかも知れない。

    我々は、より大きなものの利害により、自らの選択肢を狭められ、時に選択を強制される。両親の選択、叔父や友の選択。選んでいるようで、実は選ばされている。この物語のどこに救いがあるというのか。いや、あった。物語の最後、彼は自ら孤児を引き取り、暮らしを選ぼうとするのだ。ようやく初めて、タイトルの通り、孤児は過去形になるのである。

  • 孤児は自分の両親がいない世界が、何か悪いものだと思っている。両親が自分のもとへ帰ってくれば世界もっと良くなる、あるいは世界がもっと良くなれば両親は帰ってくる……。その想いを胸に、孤児は大人になっても世界と戦っている。
    もう一度読み返したらもっと理解できるかな。
    イギリス人のクリストファーと日本人のアキラが上海で出会って幼なじみになるという設定も面白いなと思いました。

  • カズオ・イシグロの想像力は現実の枠を超える。そのことは「私を離さないで」を読んでよくわかったのだが、本作でも子供時代の探偵ごっこそのままに探偵になった男が登場する。彼が戦火の上海で20年前に行方不明になった父母を探し始めるに至り、この小説は「私を離さないで」のような妄想を籠めたフィクションなのか、それとも現実の範疇に収まる話なのか、が気になってくる。結果はここには書かないけれども、彼の想像力の巨大さに今回も圧倒されてしまった。その意味で、期待を裏切らない一作だったと言える。

    思えば、カズオ・イシグロ自身が子供時代のごっこ遊びをそのまま頭の中に抱えているのかもしれない。
    「ノスタルジックになるっていうのはすごく大事なことだ。人はノスタルジックになるとき、思い出すんだ。子どもの頃に住んでいた今よりもいい世界を。」
    (444ページ)

  • 上海で暮らし、10歳のある日突然孤児となったクリストファーがロンドンで有名な探偵となり、両親の行方を追う。
    両親がいなくなった時から、まさに孤児のように目の前の厳しい現実と向き合って強く生きてきたクリストファーがたどり着く事実は辛く悲しいものだった。
    しかし、そこには母の長年絶えることのなかった愛情があった。

    母と自分の消えることのない繋がりを見出すことができたクリストファーは、ついに孤児であることをやめることができたのだ。
    切なくて美しい話だった。

  • 両親を幼くして不可解な事件で失い、生まれ育った地から離れ、成長した主人公が探偵として両親の失踪の問題の解決に挑む物語。
    というといかにもなわくわくするストーリーですが、実際はその純粋な志向と相反する華やかで傲慢な世界に身を置き、その中で社会の腐敗の大きさ、戦争の悲壮さを前に無力感を覚え、葛藤しつつも己の生き方を貫くしかない現実を抱える人の物語。

    幸福とか平穏とか、そんなものより、人を生きさせるのは使命でしょう。でも、人はいつまで使命を抱えられるんだろう、と思いました。読んでる人自身が、「わたしたちのような者」だと思い込んでしまう。太宰治みたいな小説。

  • 500頁超をすらすらと読ませるのはすごいし、最後の謎解きもある。ただ、終盤の主人公やそれに応ずる周囲の言動、物語の展開にはやや不自然さを感じる。作者としてはそれも承知の上なのだろうが、何だかすっきりしない。

  • 少年時代のパフィンとアキラが一緒に遊ぶシーンの描写は好きだ。でも、物語自体は全てが中途半端な感じ。

  • 新作『忘れられた巨人』に続いて、カズオ・イシグロの旧作『私たちが孤児だたころ』を読む。主な舞台は戦前の上海、数奇な運命を経て探偵になった男を主人公にしたハードボイルドものの体裁を取っている。もちろん素直なエンタテインメントではなく、全てがイシグロらしい「記憶」のドラマとして描かれている。
    しかし話の展開は緩慢で、一体何を描きたい作品なのかよく分からず、530ページの内478ページまでは「こりゃイマイチだな」と思っていた。ところが最後の50ページで激変。長い物語に隠されていた残酷な真実が、堰を切ったように溢れ出す。そこまでが長くて少々イライラさせられただけに、終盤の感動は強烈極まりないものだった。
    そのような構成なので、終盤の展開や作品の核となる事について具体的には語れない。言えるのは、様々な人の様々な「喪失」が描かれているということだ。イシグロと村上春樹は互いに敬愛の念を抱き、共通した作風を自覚しているようだが、村上春樹に似ているという点では、本作はダントツだ。「カズオ・イシグロ版『羊をめぐる冒険』」などという言葉が、ちらりと頭をかすめる。
    『日の名残り』や『わたしを離さないで』ほど完璧な作品ではないにせよ、紛れもない傑作。カズオ・イシグロという素晴らしい作家と同時代に生きられたことを、心から嬉しく思う。

  • アキラとは何だったのか…。読ませるのだが、ひたすら釈然としない思いが残る作品。解説の古川日出男氏、ちょっと絶賛し過ぎじゃないかな。

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わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)の作品紹介

上海の租界に暮らしていたクリストファー・バンクスは十歳で孤児となった。貿易会社勤めの父と反アヘン運動に熱心だった美しい母が相次いで謎の失踪を遂げたのだ。ロンドンに帰され寄宿学校に学んだバンクスは、両親の行方を突き止めるために探偵を志す。やがて幾多の難事件を解決し社交界でも名声を得た彼は、戦火にまみれる上海へと舞い戻るが…現代イギリス最高の作家が渾身の力で描く記憶と過去をめぐる至高の冒険譚。

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