バルザックと小さな中国のお針子 (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200403

感想・レビュー・書評

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  • 映画で一度感想を書いているのだけれど、また語りたくなる。

    この本も映画「小さな中国のお針子」の監督が作者だから内容は全く同じ、なのに映画とは別の感動がある。

    禁書。社会主義体制堅持の中国ではあたりまえ。本の毒による西欧かぶれは敵。

    禁止されればよけいつのるではないか。苦労して手に入れた西洋の本の数々。

    バルザック、ヴィクトル・ユゴー、スタンダール、デュマ、フローベル、ボードレール、ロマン・ロラン、ルソー、トルストイ、ゴーゴリ、ドストエフスキー、ディケンズ、キプリング、エミリー・ブロンテ…。

    文化大革命の「下放政策」でものすごい田舎やられた二人の青少年と、地元の小さな可愛いお針子の女子にとって、むなぐるしいほどの光明。本の世界に魅せられ、めまいがしそうな思い。

    それだけではない、もの悲しい青春の輝きも加わって、そうして近代の、現代の運命に流れ着いてしまう…。

    やはり、このみずみずしさは映画に勝るとも劣らない。文学好きにはたまらない一書。

    *****

    映画の感想

    『ダイ・シージエ監督が自らの体験をもとにフランス語で執筆したベストセラー小説「バルザックと小さな中国のお針子」の映画化。』と、やはり作成した監督(中国人で文化大革命を経験した)の思い入れのある作品。

    ストーリー
    1971年、文化大革命真っ只中の中国。2人の青年マーとルオは、反革命分子の子として再教育を受けるために山奥に送りこまれた。彼らを待っていたのは過酷な労働だった。そんなある日、彼らは年老いた仕立て屋の美しい孫娘のお針子に出会う。3人は仲良くなり、彼らは文盲のお針子に内緒で手に入れた外国文学を読み聞かせるようになる。外国の文化に触れ、しだいに自由な感情に目覚めていくお針子。そして彼女はついに…。(BSジャパンHPより)
     
    私が見た中国の桂林ではないだろうが、似たような中国の山奥。尾根に石畳があり、過酷な農業をしなければならない風景が美しく映し出される。南画に出てくるような山の上の小屋。

    そんな村での素朴な生活。そこへ繰り広げられる異色の世界文学の名作の数々。美しく可愛いお針子に読み聞かせる青年二人。

    「罪と罰」ドフトエフスキー
    「アンナカレーニナ」トルストイ
    「ジャン・クリストフ」ロマン・ロラン
    魯迅、「紅楼夢」等々文学者が文学作品が画面に飛び出す。

    そしてバルザックの作品がお針子の心をもっとも捉える。
    「従妹ベット」「ゴリオ爺さん」「谷間のゆり」

    バルザックの作品の次々と朗読され、その印象的な一節に観ている者にも染み込んでいくようだ。

    人間は感情のままに生きるものにあらず、文字によって観念というものがあるのを知る。
    ああ、かたちの無いものに目覚めてしまった小さな可愛いお針子。

    映画は青春の輝きをも照らす。観終わって心に残る映画のひとつだ。
    私はひそかに本棚のバルザックを取り出してしまう。

  •  文化大革命中に下放された少年二人のお話。一見悲惨に思える環境であってもその中で暮らしている当の本人たちは落ち込んでばかりもいられないのか、悲壮感はあまり感じられずユーモアがあった。そんな文化から隔絶された暮らしの中で出会った本が二人に生々しい感情、豊かな情緒をもたらす様子は鮮やかで、本の持つ魅力を改めて実感する。どういう環境であれ人は物語を欲したり恋をしたり嫉妬したり性に目覚めたりするもので、それらに対して思春期ならではの熱さ、瑞々しさでぶつかっていく二人が清々しくもほろ苦い青春小説。

  • 読みたい本が自由に読めない。だから人に隠れて本を読む。罪を犯していると知りながら、それでも読みたい気持ちを抑えられない人々が大勢いた時代の話。1966年、文化大革命によって、中国では西洋文学が禁書になった。持ち主から盗んだバルザックやフローベルなどの禁書を隠れて読み、初めて愛や性を知った二人の青年。村一番の娘に惚れた二人は、彼女にこっそりバルザックを読み聞かせる。ところが、バルザックの偉大な力は彼女をも変えてしまう…。読みやすかった。

  • 「バルザックと小さな中国のお針子」ダイ・シージエ/新島進 訳
    仏文学。泥色。

    文化大革命の時代、山間の最貧村を舞台にした、再教育中の青年2人と村娘1人の物語。
    全体主義の抑圧に隠れながら、反革命的な西欧の物語を心の潤いの源泉として、彼らは青春を紡ぎ出している。
    常に画面のトーンが抑調されながらも、青年群像の感情描写が印象的な読了感でした。
    小裁縫の最後の決断に対する「僕」の心象のリアリティが、物語を締めていて読み良かったなあ。(4)

  • 映画が好きなので読んでみた。

    二人の青年と美しい“小裁縫”の物語。

    山の空気感、文革時代の雰囲気を背景に、三人の恋模様と本(知識)との出会いが美しく描かれていて良かった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      私も映画から入りました。
      ダイ・シージエは、他に2作ほどが訳されているのですが、文庫にならないので読む機会を逸している。
      さゆさんのレビュー...
      私も映画から入りました。
      ダイ・シージエは、他に2作ほどが訳されているのですが、文庫にならないので読む機会を逸している。
      さゆさんのレビューを読んで急に読みたくなってきた。。。
      2012/06/20
  • 文章が苦手な私でもあれよあれよと言う間に読んでしまいました。

  • 文化革命の時代の中国を描いた作品。作者自身も、ここの主人公たちのように地方で再教育させられた若者らしい。
    その後フランスで、フランス語で書かれた本書。

    小説って人生で大切なものだな、という事を再認識させてくれるので、小説好きの人は一度読んでほしい作品。

    小裁縫が最後にする決断が、なんとも素敵で、後味も良かった。

  •  文化大革命時の中国。反革命分子の息子として、再教育と称して山奥の村に送り込まれた僕と親友の羅(ルオ)。2年経っても街に戻れる確率は1000分の3、早朝より起こされ、重労働に明け暮れる日々の中、2人は美しい仕立て屋の娘に出会い、恋に落ちる。
     やがて、ひょんなことから禁書のバルザックを手に入れた2人は、字を読めない彼女に、物語を語って聞かせるが……。

     厳しい状況の中での、友情あり、恋ありの青春小説。どんなことをしても手に入れたい本への憧れと、親友の恋人への恋心。思いもよらぬラストも、時間が経てばじんわりとしみてくる。少し照れそうだけど、映画も見てみたい。

  • 最後は肩透かしだったけど、小説を手にいれるために奮闘する二人の姿にはとても心を動かされた。最近、文化大革命のときのことを語っている弁護士の男の人の記事を読んだのもきいているのかもしれない。文化は誰にもとめることは出来ないと思う。

  • 〜お薦めお返事〜
    お薦め有り難うございます!これは映画の原作なんですね。あの映画に原作があったことは知らなかったので、びっくりしました。この時代のノンフィクションは、こうやって書籍媒体か映画媒体でしかしることが出来ないので、凄く興味が湧きました。書店で探してみようと思います!お薦め有り難うございました!>たもつ

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