- Amazon.co.jp ・本 (948ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151200410
作品紹介・あらすじ
世界的ピアニストのライダーは、あるヨーロッパの町に降り立った。「木曜の夕べ」という催しで演奏する予定のようだが、日程や演目さえ彼には定かでない。ただ、演奏会は町の「危機」を乗り越えるための最後の望みのようで、一部市民の期待は限りなく高い。ライダーはそれとなく詳細を探るが、奇妙な相談をもちかける市民たちが次々と邪魔に入り…。実験的手法を駆使し、悪夢のような不条理を紡ぐブッカー賞作家の問題作。
感想・レビュー・書評
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ある町の危機を救うために、世界的なピアニストがスピーチと演奏をしにくる話。約950ページの小説はさすがに長かった。かなり分厚い本だったが、わざわざ上下巻にわけるほどの小説ではないというのが個人的な意見。本当に何を伝えたかった作品なんだろう。しっかりとしたオチはないというのがイジグロの特徴なのだろうが、最後の最後にどうしても期待してしまう。しかし、案の定何もなく終わってしまう。まぁ、とにかく、出てくる人物ひとり一人が、ドラクエの敵のように、主人公の行く手を阻むというRPGのような作品だった。
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カズオ・イシグロの4作目。ハヤカワ文庫で948P(厚いし重い。物理的に読みづらくて手こずった)。
不条理ゆえか、焦燥から喪失、郷愁‥‥いろいろな感情がよぎった。今までにない不思議な読後感。 -
この本はすごい。ほとんどもしくはすべての登場人物が自分のことしか考えられない。もどかしい思いで何度も本を閉じたのだが、読みきったあともう一度それぞれのエピソードを読んでみると、噛めば噛むほど味が出てくる。吸い尽くせないほどに。頑張って読み切る価値がある。
自分は果たして本当に誰かのことを知りたいと思ったことがあったのか? そう思っていたと感じていたときでも、ただ自分のことを誰かがどう思っているかを知りたかっただけではなかったのか? 時に誰かに優しくすることはできるが、結局いつも自分のことばかりだったんじゃないか? そんなことを思う。
最初は荒唐無稽で夢のような世界の話だと思うのだが、読み終わって数日が過ぎたあたりから、だんだんとそれが世界の本当の姿なんじゃないかというふうに思えてくる。みんな言いたいことだけを言っていて、すべての人同士がすれ違っている世界。でも、それは全くもってありのままの現実なんじゃないかと。 -
驚く程に読み進まない小説でした笑。通勤時に進めるものの、時間が出来ても余り手に取りたいとは思えず多分一月位かかって読了。文庫で900ページ越えはシンドい。
私こういうの知ってます。nightmareです。経験あります。今まで何度も見た夢なのだが、就職決まってあとは卒業だけってタイミングで必須教科を取りこぼしてるのに気づくんです。この小説を読んでてこのnightmareを何度も思い出したことか。
たった数日間の話が900ページ強の中で微に至り細に穿ちで綿々と綴られていくのですが、著名(?)なピアニストのライダーがアチコチで街の住人に振り回される様は相当なストレスを読者に与えます、多分それをイシグロさん狙ってましたかね。。。
いやそれでも最後まで読んでしまうのは私がどっぷりとイシグロ沼にハマっているからなのでしょう。イシグロバージンさんは決してこの小説から初めないで頂きたい。私はこれを読み、益々他の作品も読みたくなる沼(笑)。 -
まさに、不条理文学。みんながサイコパス。
物語って、なにか目的があってそれに向かって進んでいくものだけど、これはその途中でいろいろな別の目的がうまれて、結局当初の目的は果たされずに終わる。
しかもみんな話が長く、別のエピソードを勝手に語ったりするので、語り手と同じように読みながらイライラしてしまう。
でも不思議なことに、最後まで読めてしまった。すごいなカズオ•イシグロ。登場人物があまりに、予測不能なので、クスッと笑ってしまうところもあった。
結局、この世界は何だったのか。夢??
登場人物は結構、語り手と似ているところもあった。 -
とても風変わりな作品。私はこういうの好き。
夢の中のように脈絡なく続くストーリー、歪んだ時間、辿り着かない目的地、見知らぬ知人達(矛盾してるけど"見知らぬ知人"が正しい表現だと思う。)
永遠と続くワンカットシーンのような小説。
読後は長い夢を見終わったような気だるさ。
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巻末の解説によると、発表当初から賛否が大きく分かれたという本書。デビューからそれまでに寡作ながらいずれも高い評価と栄誉ある賞を得た作家が、本当に書きたかったものを書いたそうです。
出だしから登場する人たちの長いセリフ、それに続く非現実な場面転換。序盤から、読み進める側は、この奇妙な小説をどう受け止めていいのか、戸惑います。否定的な感想を持つ人は、おそらくこの戸惑いを消化できなかったのではないでしょうか。そうした気持ちも当然と言えるほど、風変わりな小説です。
自分は、その風変わりさが、ルイス・キャロルのファンタジー小説に通じるものとして呑み込み、非現実な進行も含めて楽しむようになり、中盤からは予想もつかない展開にスリリングな興奮を感じるようになった口です。※なお、補足すると三月兎やハンプティダンプティ的なものは登場しません。あくまでもひと同士の想いのズレや行き違いを描いたものです。
もっとも印象深い小説のひとつ。そう評したいです。 -
カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』が面白いと話題なので読んでみようかと思ったのだが、そう言えば『充たされざる者』が未読だったのを思い出して、読んでみた。
時間も空間も歪んだ世界で、登場人物は何重にも重なり、悪夢のような(というか悪夢そのものの)不条理が延々と続くが、個々のエピソードが魅力的でグイグイと読ませる。大きな話の筋は世界的ピアニストのライダーが「町の命運は音楽藝術の解釈次第にかかっている」と信じられている町に招かれて演奏と講演を行うというストーリー。その枝葉として、やがて彼の義父であることが明らかになるポーターのグスタフとその娘ゾフィーとの不条理な関係、その関係と相似する名指揮者グロツキーとその元妻コリンズの関係、その関係と反比例する平凡な(しかし自己欺瞞の権化のような)ホテル支配人ハフマンとその婦人との関係、ライダーの幼少期と重なるゾフィーの息子ボリス、ライダーの青年期と重なるハフマンの息子シュテファンなどが描かれる。場面転換のたびに「あー、そちらに気を取られて本線を外れてはいけない」と思いながらも、話は枝葉から枝葉へと迷い込んでいく。
長らくカズオ・イシグロで一番好きだったのは『わたしたちが孤児だったころ』だったのだが、『充たされざる者』はそれを上回るかもしれない。願わくば原著で再読してみたいところだが、長いからなぁ…。