わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

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制作 : 土屋政雄 
  • 早川書房 (2008年8月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200519

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わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)の感想・レビュー・書評

  • すごかった。びっくりした。
    涙が出るってよりは、胸が締め付けられて苦しいって感じ。
    激しく心を揺さぶられて上手い感想が思いつきません。

    とにかく圧倒的な描写力。
    書かれているのは日常生活にある本当に些細な出来事なのに、
    色や匂いを伴うくらいに鮮明に頭に描けます。
    SFってことに全く気付かなかったくらい。

    そして、このお話のある秘密。
    何となくな予感を促すポイントがあちこちに散っていて、
    せっかちな私は先に急ぎたくなるんだけど、
    絶妙なタイミングで躊躇いもなく明かされます。
    もう操られてるんじゃないかって思っちゃう。

    使命を終えるまでの短く儚いスケジュール。
    淡々と運命を受け入れて暮らす登場人物たち。
    そのリミットのない私たちは生きている間に
    何をし、何を考えるのか。静かに残酷に問う作品でした。

  • 淡々と運命を生きる子どもたち。
    人生に多様性があることを漠然と知りながら、人種が違うのだと透明の壁の中で生活の様子。生活するからには食べるし寝るし、笑うし怒るしセックスもする。ヘールシャムでは教育も受けるし創作もする。
    その意味とは何だったのか、敷かれたレールのことしかわからないし、他のレールのことは存在を知らない。そして使命を終えていくことだけが人生で決まっていること。

    途上国にもこんな感じの閉鎖感があるのかもしれない。そう思うと、SF感覚で読むべきじゃないのかもしれない。

  • 非常に月並みな表現だが、人間であるというのは一体どういうことなのか、そんな命題に正面から向き合って、物語は綴られている。
    設定こそショッキングなものの、細部では奇を衒わず、どんでん返しも大仰な事件も仕掛けられていないが、本筋だけで充分読ませるだけのパワーを持っている。

    どんよりと低く雲が垂れ込めた、英国の暗い空が似合う作品だ。

  • 不思議な物語。
    読み進むと全容が明かされる流れになっている。
    この作風はすごいと思う。

    提供者か介護人になるためだけに、生まれ、生き、看取る。

    生きることの意味を考えさせられる。将来の子どもたちの未来についてである。
    ヒトと呼ぶべきか?)クローン技術の成功で、このような未来があるかもしれない。奴隷制度と同じような印象をもった。
    宗教色や倫理観は感じない。生活感もない。日々過ぎていくだけ。
    セックスは快楽のためか?愛情表現なのか?


    現在の医療では、臓器再生の可能性が見えてきた。朗報と受け取りたい。

  • 物語に力がある小説というのは、よくも悪くも余韻がある。
    読み終えた後に、何度も何度も物語の意味を考えたり、登場人物の書かれていない行間に潜めいた感情を思ったり、物語の中に取り残される。
    この話にはそんな力があると思います。
    読んで数日、私はこの物語のことばかりを考えてしまいました。
    幸か不幸かはこの物語は大して重要じゃない。
    読み終えた後、もやもやする方も、意味が分からないと匙を投げたくなる方も、切なさや悲しみを覚える方も、結局の所この物語が持つ引力に引き込まれたのでは。
    そんなよくも悪くも「嵌って」しまう魅力がある一冊です。

    多くの情報を入れずにこの話を読むことをお勧めしますが、
    個人的には、「ノーフォーク」という場所のエピソードが胸に刺さりました。
    ノーフォーク、遺失物保管所。
    亡くしたものが必ず見つかる場所。
    彼らが失ったものは一体なんだったのか、見つけたものは何だったのか。
    見つけたものは思い出のテープだけなんかじゃなかったし、彼らがノーフォークで本当に取り戻したかったものはそんなものでもなかった。

    日本の小説とは違い、細部まで抑制の利いた語りすぎない物語です。
    個人的にはいつも海外物で気になってしまう訳し方も気にならず、素敵な文章でした。
    映画とセットで見るのもいいと思います。
    映画を見てから小説にたどりつくのも悪くない。
    この映画の風景を取り出しているすばらしい映画だったと思います。

    ぜひとも自分なりの出会い方で出会ってほしい一冊。

  • 翻訳本は苦手なのだけれど、知らずに買ってしまった。著者名詐欺…!

    介護人、はもちろん老人介護や障害者介護だと思って読み進めた。だけど段々、誰を介護するのか、被介護者が何を提供するのかがわかってくる。そうと知っていながら、そうある自分を全うする登場人物たちが送った青春時代。昔見た「アイランド」という映画を思い出した。倫理を問う小説ではなかった、と感じたけれどどうだろう。そういう状況下でしか生まれ得ない美しさを描きたかったのかな。

  •  提供者と呼ばれる人々の世話をする介護人のキャシー・H。彼女は生まれ育った施設”ヘールシャム”の友人たちの介護もしながら、これまでの日々を回想する。

     一人称での語りと過去の回想話って本当に相性がいいよなあ、としみじみ感じた作品です。にじみ出る郷愁を美しい語り口で回想されると、読者も知らず知らず感情移入して、どこか懐かしい、そして寂しい気持ちになってしまいます。

     この心情は、決してイヤなものではありません。切ないけどどこか心地よくも感じます。寂しさと懐かしさの混じり合ったそんな不思議な感情です。

     キャシーの青春時代の回想は、どこか自分たちにもつながるものがあるような気もします。自分たちの運命やこれからの将来をなんとなく受け入れながらも、一方で青春時代を生きている。それは環境や状況は全く違うのですが、どこか社会に出る前の、学生時代のモラトリアムを楽しんでいる、自分の現状と被るところがあったのかな、というふうに思います。

     話の引っ張り方も巧いです。施設の保護官の言動や、時々訪れるマダムの存在など謎を提示し、それに対する情報を、日常生活の回想の中で小出しにしていくことで、ついつい物語に引っ張りこられてしまいます。

     謎の解決については、そこまで意外、というものでもないです。しかし、これまでに語られた日常が効いているためか、物語が閉じられるころには、様々な思惑に踊らされた子どもたちの悲哀が伝わってくるような気がします。

     青春や恋愛小説の面に加え、ミステリやSFの面もある、不思議で重層的な小説だったと思います。

    2007年版このミステリーがすごい! 海外部門10位

  • 冒頭から介護人という単語が出てきたので、これは福祉的な…そういう感じの重いやつか……と、若干身構えて読み始めたのですが、これが驚くほど心地よい裏切りがありまして、気がつけばどっぷりとその世界の中に浸っていました。

    10ページ目ぐらいまで読んで、なんか変だこの話は……ということに気付いてしまったら、あとはもう作者の思う壺で、仕掛けられた謎を知るためにぐいぐいと読み進めてしまいます。

    物語の核心となる状況に対し、なぜこんなことがあるのか、なぜ誰も抗わないのか、といったことには一切触れられないのも良かったです。物語は、あくまで主人公たちの小さな世界を中心に語られるのです。セカイ系。

  • 翻訳とは思えない、素晴らしくこなれた文章。静謐な文体で会話から溢れ(こぼれ)落ちた感情の機微を丁寧に描いている。繊細な感情描写をしているのだけど語り手キャスがその時どう感じていたのか?が上手く逸らされているなぁという気がした。物語の感想としては、人というのは結局のところ自分の置かれた環境というものを受け入れるしかないのかなぁ、と思った。絶対的に差別された存在だとしても。それって悲しいなあ・・・。

  • 重く衝撃的な内容にも関わらず、感情を抑えた語り口で淡々と進む。
    だが、それが良い。

    透明な膜が周りに張り巡らされたような、そしてその膜を破ろうにも破れない心持ちがして辛い。

    いや、辛いというよりは虚しい…のかな…

    そんなにみんな長生きしたいの??

    ひょっとしたら反抗したり逃げられるかもしれない状況なのに、誰もそう思わない。それがとても怖かった。

  • ドラマ化され見始めたものの映像として捉えるのは私にはハードで原作を読むことに。
    翻訳作品は雰囲気を感じるのでいっぱいいっぱいになり、どうも苦手なのだがドラマでなんとなく掴めていたからかスムーズに読み進めることができた。
    人間の身勝手さから生み出された提供者達。
    ツラく重すぎる物語。
    絶対に現実に起こってはいけないこと。

  • 残酷な運命が待ち受けているにも関わらず、キャシー視点で淡々と端正な文章で語られるというのが、空恐ろしく感じる。
    人間に食べられるために生まれて死んでいく家畜と同じだから運命を受け入れているということなのだろうか?
    だとしたら、家畜とは違い偏っているとはいえ、教育を受け、子供時代の思い出がある分だけ彼らは幸せだったと言えるのだろうか?
    自分の幸福は他者の不幸によって成り立つとしたら、自分自身はどんな選択をするのだろうか、など科学と倫理の問題について読後も考えさせられてしまいました。

  • かなり衝撃的な内容。
    始終淡々とした語り口調なのですが、だからこそ異様な雰囲気が目立ちます。
    目立った事件などはないのですがジワジワとくる恐怖。

    私はSFと言う認識で読んでいましたが、もしかしたら私が知らないだけで
    どこかでこういう事がもうすでに起こっているかも知れない、遠くない未来起こるかも知れないと
    震える思いで読み終えました。

    何とも悲しい子供たち。
    普通に感情を持ち、他の少年少女と変わりなく成長していくのがまた悲しい。

    やはり人間が手を出してはいけない領域が確かにあると、強く感じます。

    読み終わった後に題名と表紙のカセットテープを改めて見直すと、何とも言えない切ない思いに襲われました。

  • 一見のどかなヘールシャムでの子ども時代。そこに見え隠れする小さな違和感。少しずつ少しずつ知らされる、自分たちの存在意義。
    そのレールに乗って、大人になった生徒たちは使命を果たす。定められた運命に抵抗する事もなく。
    しかし、彼らの魂もレールの上を走ったのだろうか。
    生命や倫理や人間の人生、人が生きるとはどういう事なのか、幅広い視点から考えさせられる1冊。視点が多く、読む人によって印象が大きくかわりそうな作品。

  • 衝撃的な内容だった。人間として生きる意味を再考させられた。
    クローンとして生まれて、どんなに希望を持っても、どんなに教養を身につけても臓器を提供することで死ぬ(殺される)運命にある若者たち…
    私はどこかこの小説に登場する人物に違和感を覚える。彼らはクーデターを起こすのでもなくただ生まれた時から周りに決められた自分の運命を受け入れて死んでいくのだ。
    ただトミーは違う。マダムやエミリ先生からどんなに努力をしても臓器の提供者として死ぬしかないと聞かされた後、彼は野原で喚き、拳を振り回し、蹴飛ばして荒れ狂うのだ。語り手はその行為を癇癪として非難しているが、私はその行為こそが人間味のある行動に思えた。一見トミーの行動は無駄で幼稚でわがままだと思われるかもしれないが、周りに決められた運命に抵抗しながらもがき生きることが自由なのではないか、人文主義としての生き方ではないかと私は思った。

  • 物語は終始キャシーの独白体で進行していく。あくまでキャシーの視点で進行していく。周りの風景、描写、相手の思考や行動、それら全てがキャシーの視点で語られている。キャシーが見た、キャシーが感じた事だ。それらはとても淡々としている。熱を帯びていない、と言おうか。しかしそれでいて思慮深く、時に繊細で、それはとても慈悲深いものでありもする。

    物語の序盤から中盤にかけて、大きな秘密が明かされる(序盤から既にそれとなしに漂わせているので、感づく人はすぐにでも分かるであろうが)。

    長い小説ではあるが、非常に丁寧な文章で、とても読みやすい。また、キャシー一人だけの視点から成る物語なので、話があちらこちらに飛ぶことも無い。

    読み終えたとき(又は読んでいる際のふとした瞬間)に、どっと感動が押し寄せてくる様な類の本では無い。しかし、心の奥底で常にじんわりと同じ温度の温かさを感じる。

    素晴らしい一冊に出会えた事がとても幸運だと感じた。

  • 読了。
    わたしを離さないで
    カズオ・イシグロ

    ブッカー賞受賞作家の代表的一冊。語り口調で綴られる始終淡々とした文章だが、それがあまりにも計算しつくされていて見事としかいいようがない。
    内容は、クローンとして生まれ臓器提供のためだけに生きる運命を背負った人々の人生を描いた作品。SFなのか、ファンタジーなのか、と思う気もするけれど、今の科学で言ったら影でこんなことが行われていてもおかしくないな、となんか微妙に現実味を帯びていて、じわじわと怖い。
    生きる意味を考えさせられる一冊。

  • 最近カズオイシグロさんが新作を発表したんですけど(来日もしてました)読むのがもったいなくて・・・
    積読リストにあったこちらの本を先に読むことにしました。。

    期待どおり、繊細で美しい文章にうっとり。
    ですが、内容は深く重く、余韻の残し方もハンパじゃない・・・さすが世界のイシグロです。

    寄宿舎のようなある特殊な環境で育った生い立ちを、ゆっくりゆっくり丁寧に、主人公が回想という形で語る物語です。
    牧歌的な雰囲気でさえある小学生時代から始まる物語は、少しづつ不気味な真相にたどり着いていきます。
    主人公を待ち受ける悲しい運命を読者に衝撃的に明かすのではなく、このような展開で明かされていく作品は他ではあまりないのではないでしょうか。本当にうまい。

    生まれ持った運命を受け止めるとはどういうことなのか・・・
    人は希望がないと生きられないなどと言われがちですが、幸福な記憶があれば自分を支えていける、私はそういうメッセージを著者から受け取りました。
    ああ切ない。

  • 新作が話題の著者であるが、その新作を読む前にまず読んでおこうと読み始めたら、止まらなくなって一気読み。
    最後のノーフォークの場面には思わず涙。小説を読んでこんなに心を揺さぶられたのは久しぶりである。
    それにしても、なんという物語であろうか。あらためて、小説の持つ力を実感させられた。
    訳者の力も大きい。訳文という違和感を一切感じることなく読了することができた。
    読後、本のカバーのカセットの絵を見てまた涙。
    今年の私的上半期ベスト1である。

  • なんというか、とんでもない話を読んでしまったな、と思わずにいられなかった。

    話は、一人の「介護人」を名乗る女性が、彼女が世話をする「提供者」との会話から昔過ごした「ヘールシャム」という場所のことを思い出すところから始まる。
    読者にはその「提供者」や「ヘールシャム」の実態が予め明かされることはなく、そこで子ども時代を過ごした主人公達と同じく、「保護官」や彼らのつく数多の嘘と噂に守られながら、「教えられているようで、教わっていない」事実を、熱いココアでも飲む時のように、少し冷めた縁から、僅かずつすすっていくことになる。
    だからだろうか。
    真実を知ってしまった時、まず寄せてくるのは「ああ、やっぱりか」という息苦しさだ。ちょうど、上の方の、ちょっと熱い部分を飲み込んで、「ほら、やっぱり熱かった」となる感じ。
    でも、「思ったよりはましだったな」なんて油断していると、冷めた部分に隠れていた、やけどしそうなくらいの熱さに涙目になる、あの感じ。

    多分、この話で本当に打ちのめされるのは、最後の、ルースが残してくれた「最善」の結果だ。
    こんな社会にしてはいけない、こんな社会はあってはいけない、そう思うのに、頭のどこかで、すでに大なり小なりそれが起きてしまっていることを理解してしまっている。
    そのことに、一番、打ちのめされるのではないだろうか。
    読み終えた今、せめて今なら同じ世界をつくらずにいられる岐路に立っているのだと、そう信じたくて仕方ない。

  •  物語の「落ち」が一種の謎で、そこにショッキングなおどろきがあるとは思わない。確かに核心は伏せられたままで話が進んでいく。しかしそれは、単にミステリ風な味付けをしているとかサプライズを狙っているとかそういう要素は感じられず、主人公たちの思いを読者に追体験させるという意図だと思う。読者も最初は薄々と、物語が進むにつれかなりの確信を持って主人公たちの運命を予想する。それは、主人公たちが自己存在の意味を成長と共に知ってゆくことにぴったりと重なる。だから、推理小説的な意味で「意外な結末」の趣向ではないが、文学的な意味合いで「ネタバレ不可」の作品である。(ここまで書いたこと自体がネタバレだとなってしまったらごめんなさい)

     とても静かで美しい青春小説である。主人公の語り口がよいのだろう。流れにすっと乗っていくことができる。冒頭から、すぐに物語に入り込んでいけた。この感情移入が、物語が進むにつれて胸を締め付けてくるもとになるのだけれど。伸すトラジックな追想の美しさにだまされてはいけない。裏にあるのは、押し殺した強い憤りである。怒りである。読んでる最中や読み終わった直後よりむしろ、時間をおいて何度も心をよぎってくる。そしてそれと同時に、生きていることのかけがえのなさや、生きる中で出会うほんのちょっとしたことへのいとおしさが心を締め付けてくる。

     傑作だと思う。

  • 静かに、淡々と語られる介護人キャシーの独白…。少しずつ、明らかになっていく真実。彼女の冷静な語り口が、この世界の奇妙な不思議な雰囲気を際立たせている。

    まるで私もヘールシャムで過ごしたかのような気がした。それくらいに、幼少のころから青春期までの、感情や人間関係が身近で苦しい。
    ルースのようにプライドの塊のような子もいたし、トミーのようにまっすぐすぎる子もいた。

    眩しいくらいの希望を持ちながら、現実はとてつもなく残酷だ。
    この物語の秘密は序盤で明らかになるが、前情報なしに読んでほしい。

    久しぶりに寝る時間を削って、読書をした。読ませる力を感じる本だった。

    ☆あらすじ☆
    優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる 人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘール シャムの親友トミーやルースも提供者だった。 キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐら す。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診 断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態 度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明 かしていく―全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー 賞作家の新たなる代表作。

  • 諦めるということは、逆に言うとほんの僅かの希望が残っているということだ。そのほんのちっぽけな希望もないことを知りながらそれでもその希望を大切にする。主人公たちにはそれしかできないから。

    仲間を介護し、最後は自身も人間への提供者として生きることしかできない彼女たちの「わたし」は魂であり、そして希望なのだ。
    人は彼女たちを離し、彼女たちは小さな希望を離し、残滓のような思いは様々な形になり最後に流れ着き集まる。人にとってはガラクタのような形でも、それが彼女たちの生きていた証だ。

    人が神の領域に達し、人間の傲慢さや我儘が自分たちが作った作品に、魂を込めながらも、それ自身が魂を持たないことを望みコントロールできなくなると勝手に慄き、隔離する。作られた側は、決まった段階を経て死に至る。その過程は人と同じだ。ただ、そこには小さな事件はあっても、大きなハプニングはなく、それに苦しむことも
    楽しむこともなく、淡々と処理されていく。それは生きる目的の喪失だ。生きる努力の放棄だ。

    それでも、生まれてしまった人も彼女たちも、死を身近に感じ始めた時に「生きる」ということに正面から向き合う。それは、速いか遅いかだけでなく、重さも軽さも伴う。死を先延ばしにし現実を生きる人間と、現実の死に直面しすぐに終わる未来を生きる彼女たち。理不尽な生命の食物連鎖は人も動物もそれがロボットであったとしてさえも頂点に君臨するものに捧げられる。下層の者達はただその魂を離すことさえも自由ではない。その無常感こそがこの物語を読んだ人たちの性別や年令、国籍も越えて支持される普遍性の根源なのだと思う。

  • 『日の名残り』以来の、カズオ・イシグロ作品になります。
    本当は、もっと読みたいんですが、海外文学は少々お高くて・・・。
    蜷川幸雄氏の演出で舞台化されるという事で、やっと購入しました。

    そして、何故もっと早く読まなかったのだろう、と。

    淡々と語られる文章が、やはり、淡々と運命を受け入れる生徒たちの心情をあらわしているようで、かえって悲しさを感じます。
    そうなるに至ったのは、保護官たちによる教育の結果なのか、ひそかに恐れられている、「普通」とは異なる彼らの特性なのかは、わかりませんが・・・。

    大好きな『ミネハハ』に通ずる雰囲気もあるので、あちらが好きでこちらを未読な方には、是非おすすめしたいです。

  •  SFで「提供」とか言っている時点で、すぐに主人公がどういった人物かということは初っ端から分かるので、他の人たちがいうほど「後半の主人公の置かれている状況に驚愕!」みたいなおもしろさはないですが、主人公のような人たちは「介護者」になる、という設定はおもしろかった。
     主人公のキャシーの語りによって進行していく小説。その語り口は淡々ともの静かで、その静かさが、「そういうものだから」と受け入れているのか、それとも全てを諦めてしまっているのか…。
     「わたしが主人公の立場だったら耐えられない」という感想をよく見かけますが、それはもう既にそういう立場ではない環境で育ってきているからで、もし生まれてからずっとキャシーたちのように育ってきたのならどういう気持ちになるのだろう…と考えさせられました。

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わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)の作品紹介

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく-全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。

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