わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 7210人登録
  • 3.89評価
    • (754)
    • (905)
    • (652)
    • (125)
    • (41)
  • 1021レビュー
制作 : 土屋政雄 
  • 早川書房 (2008年8月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200519

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • すごかった。びっくりした。
    涙が出るってよりは、胸が締め付けられて苦しいって感じ。
    激しく心を揺さぶられて上手い感想が思いつきません。

    とにかく圧倒的な描写力。
    書かれているのは日常生活にある本当に些細な出来事なのに、
    色や匂いを伴うくらいに鮮明に頭に描けます。
    SFってことに全く気付かなかったくらい。

    そして、このお話のある秘密。
    何となくな予感を促すポイントがあちこちに散っていて、
    せっかちな私は先に急ぎたくなるんだけど、
    絶妙なタイミングで躊躇いもなく明かされます。
    もう操られてるんじゃないかって思っちゃう。

    使命を終えるまでの短く儚いスケジュール。
    淡々と運命を受け入れて暮らす登場人物たち。
    そのリミットのない私たちは生きている間に
    何をし、何を考えるのか。静かに残酷に問う作品でした。

  • 遅まきながらノーベル文学賞受賞おめでとうございます!
    日本人3人目ということで、これまで読む機会がありませんでしたが、カズオ・イシグロの本を読む良い機会になりました!

    独特の世界観の下、物語の詳細な背景や理由はついぞ明らかにされないものの、現実には哀しく辛いテーマであり社会的にも重たいテーマであるにもかかわらず、終始一貫した作者の温かい眼差しのおかげで、何とも言えない深い余韻のうちに物語を読み終えることができました。

    主人公で語り部であるキャシーが介護人をしながら回想する「寄宿学校」ヘールシャムでの思い出は、時系列にではなく、縦横無尽に時間を往来します。しかし、それによって物語の筋は大きく崩れるわけではなく、むしろ読者であるわれわれの物語への深度が強まるのは、作者の卓越した文章力のためであるでしょう。
    当初は普通に幼少年期の思い出を辿っているのかと思いきや、合い間合い間に次第に登場する違和感のある単語たち。
    日常の物語に紛れその違和感を何となくスルーしてはみるものの、用法が明らかにおかしい言葉が増すにつれて、だんだんと尋常ならざる世界が見えてきます。
    普通でない世界で展開される主人公を取り巻く学校生活の描写は、それなりに面白く、ぐいぐいと引き込まれていきます。
    そんな中、主人公のキャシーと友人のルース、そしてみんなからバカにされながらも感性が豊かな男の子トミーの三者の関係が提示され、物語の輪郭が徐々に見えてきます。
    最初から全てを説明せず、ゆっくりと浸み込ませるように輪郭を明らかにしていく手法はさすがに上手いと思いました。

    その後、輪郭が明らかになった後も以前として引っかかるもどかしさを抱えながら、舞台はコテージに移り、そしてさらにノーフォークへ。
    主人公のキャシーとトミーが連れだって、『私を離さないで』の曲を見つけ出す場面などは、映画のワンシーンのようでとても楽しかったです。ヘールシャム時代、まだ幼かったキャシーが『私を離さないで』の曲とともに踊っていたシーンも印象的でした。
    舞台がコテージに移ってからは、ルースとトミーのカップルと主人公のキャシーの関わり方、これに先輩カップルが加わって関係が一層絡まっていきますが、セックスの話が増えだして、これは終盤に向けての「生」への前振りかなとも思ったのですが、これには見事に作者に裏をかかれてしまいました。

    コテージを後にしたキャシーが介護人になってしばらくしてからのルースやトミーとの再会は、むしろ辛さが先に立ちますが、相変わらず柔らかい視点での描写が程良いオブラートになっていて、彼女らの最後の勝負に向けての勢いも増していくので、物語への興味が失われることはありません。
    しかし、最後に明らかになったことは、結局、エミリー先生とマダムがしてきたことは、例えていうと、養殖の高級魚にキャビアとかトリュフを与えて世話をしているようなもの?あるいは豚や牛や鶏にフォアグラを与えて世話しているようなもの?さらにはそのアヒルを広い庭の中で自由で快適に暮らさせているようなもの?とも思え、まさに放逐されたルーシー先生が読者の葛藤を代弁していたんですね。
    改善を努力してきたというエミリー先生とマダムって・・・。何とも言えない感覚になりました。
    そしてここに至り最後は「運命」に諾々と従うキャシーとトミーの2人。
    諦観とやるせなさと大切な「時間」とお互いを思いやる気持ちが複雑に入り混じり、深い余韻のままに物語が終わります。

    この作品では絵とかカセットテープとかの小道具から、「寄宿学校」やコテージ、船などといった大物まで、印象的な造形物が巧みにシーンの中に「柔らかさ」として使われていて、さらに生徒同士、先生や仲間との会話に繊細さと迫真さがこめられながらも全体として抑制が効いていて、物語の構成上の「優しさ」が滲み出ていた作品でした。
    インパクトとしては半減したかもしれませんが、心に刻み込まれた分、事あるごとに印象として再現してくるのかもしれません。

    さあ、果たして日本人4人目は・・・?

  • 淡々と運命を生きる子どもたち。
    人生に多様性があることを漠然と知りながら、人種が違うのだと透明の壁の中で生活の様子。生活するからには食べるし寝るし、笑うし怒るしセックスもする。ヘールシャムでは教育も受けるし創作もする。
    その意味とは何だったのか、敷かれたレールのことしかわからないし、他のレールのことは存在を知らない。そして使命を終えていくことだけが人生で決まっていること。

    途上国にもこんな感じの閉鎖感があるのかもしれない。そう思うと、SF感覚で読むべきじゃないのかもしれない。

  • 物語に力がある小説というのは、よくも悪くも余韻がある。
    読み終えた後に、何度も何度も物語の意味を考えたり、登場人物の書かれていない行間に潜めいた感情を思ったり、物語の中に取り残される。
    この話にはそんな力があると思います。
    読んで数日、私はこの物語のことばかりを考えてしまいました。
    幸か不幸かはこの物語は大して重要じゃない。
    読み終えた後、もやもやする方も、意味が分からないと匙を投げたくなる方も、切なさや悲しみを覚える方も、結局の所この物語が持つ引力に引き込まれたのでは。
    そんなよくも悪くも「嵌って」しまう魅力がある一冊です。

    多くの情報を入れずにこの話を読むことをお勧めしますが、
    個人的には、「ノーフォーク」という場所のエピソードが胸に刺さりました。
    ノーフォーク、遺失物保管所。
    亡くしたものが必ず見つかる場所。
    彼らが失ったものは一体なんだったのか、見つけたものは何だったのか。
    見つけたものは思い出のテープだけなんかじゃなかったし、彼らがノーフォークで本当に取り戻したかったものはそんなものでもなかった。

    日本の小説とは違い、細部まで抑制の利いた語りすぎない物語です。
    個人的にはいつも海外物で気になってしまう訳し方も気にならず、素敵な文章でした。
    映画とセットで見るのもいいと思います。
    映画を見てから小説にたどりつくのも悪くない。
    この映画の風景を取り出しているすばらしい映画だったと思います。

    ぜひとも自分なりの出会い方で出会ってほしい一冊。

  • この物語は、主人公キャシー・Hの回想という形をとって書かれています。
    彼女の育った施設であるヘールシャムでのことと、ヘールシャムを出てからの日々のこと、「介護人」として「提供者」を看る日々の事が実に細やかに、そして淡々と語られていきます。
    のっけから「提供者」「介護人」といった謎の言葉が出てきて、なんの説明もなく不可解なまま読み進めることになるのですが、キャシー・Hの様々な体験談を読んでいくうちに、謎が明かされていきます。
    キャシーを始めヘールシャムや他の施設で育った人々は「臓器の提供者」であること。
    そして「提供者」はクローンとして生まれたのであり、人間たちの病気を治すため臓器を提供することだけが使命であること。

    このように書くとホントーにベタなSFのようにも思えてしまうのですが、この作品の厚みと深みは、決して既視感のあるものではなかったです。

    キャシーの言葉で語られる、ルースとトミーという二人の親友との日々。時に傷ついたり、傷つけたり、微妙に変化していく友情関係。
    3人は「提供者」としてその運命をまず予感し、そして確信し、やがて痛切に不安を抱いていきます。
    そんな「気持ちの揺れ」が友情のそこここに影を落とすさま、そしてまた人間らしい温もりで乗り越えていくさまが、丁寧に描かれています。

    読み手はキャシーに寄り添うことで、「傲慢な人間とクローン人間」という対置の構図ではなく、あくまで当事者の「内面の世界」を辿っていくことになります。

    提供者を育てていったヘールシャム側の人間はどうだったのか?
    それはラストで明らかになりますが、ヘールシャムを支えてきた人間であるマダムがキャシーとトミーに対して言った
    「かわいそうな子たち」
    という言葉が印象的でした。「かわいそうな子」という言葉自体が自分勝手です。しかし、できる限りの手をつくすことで、精一杯だった、と。

    このシーンではとてももどかしい気持ちになりました。

    読み終えた後は、とてもじゃないが救われない気持ちになりました。
    こんな救われない感は、ポランスキーの映画「チャイナ・タウン」を10年前に観た時以来です。

  • 介護人キャシーの回顧録。
    彼女が幼い頃を過ごした施設ヘールシャムは他の人から身構えられる程謎めいた場所。彼女の記憶を辿る内にその実態が明るみになっていく。
    静かで淡々とした文章には不思議な説得力があり、もしかしてその施設は実在するのでは…と錯覚してしまう。
    極めて異質な設定。なのに彼女達の日常は我々と少しも違わずそこがちょっと怖い。

    「わたしを離さないで」タイトルにもなっている彼女の悲痛な叫びが、何時までも心に残り切ない。
    ラストのワンシーンで、悲しみのあまり涙は流すけれど、自制し決して泣きじゃくることのなかった彼女の強さ潔さがとても好き。

    これがカズオ・イシグロ初体験。
    更にイシグロの世界観を追ってみたくなった。

  • 非常に月並みな表現だが、人間であるというのは一体どういうことなのか、そんな命題に正面から向き合って、物語は綴られている。
    設定こそショッキングなものの、細部では奇を衒わず、どんでん返しも大仰な事件も仕掛けられていないが、本筋だけで充分読ませるだけのパワーを持っている。

    どんよりと低く雲が垂れ込めた、英国の暗い空が似合う作品だ。

  • 不思議な物語。
    読み進むと全容が明かされる流れになっている。
    この作風はすごいと思う。

    提供者か介護人になるためだけに、生まれ、生き、看取る。

    生きることの意味を考えさせられる。将来の子どもたちの未来についてである。
    ヒトと呼ぶべきか?)クローン技術の成功で、このような未来があるかもしれない。奴隷制度と同じような印象をもった。
    宗教色や倫理観は感じない。生活感もない。日々過ぎていくだけ。
    セックスは快楽のためか?愛情表現なのか?


    現在の医療では、臓器再生の可能性が見えてきた。朗報と受け取りたい。

  • 翻訳本は苦手なのだけれど、知らずに買ってしまった。著者名詐欺…!

    介護人、はもちろん老人介護や障害者介護だと思って読み進めた。だけど段々、誰を介護するのか、被介護者が何を提供するのかがわかってくる。そうと知っていながら、そうある自分を全うする登場人物たちが送った青春時代。昔見た「アイランド」という映画を思い出した。倫理を問う小説ではなかった、と感じたけれどどうだろう。そういう状況下でしか生まれ得ない美しさを描きたかったのかな。

  •  提供者と呼ばれる人々の世話をする介護人のキャシー・H。彼女は生まれ育った施設”ヘールシャム”の友人たちの介護もしながら、これまでの日々を回想する。

     一人称での語りと過去の回想話って本当に相性がいいよなあ、としみじみ感じた作品です。にじみ出る郷愁を美しい語り口で回想されると、読者も知らず知らず感情移入して、どこか懐かしい、そして寂しい気持ちになってしまいます。

     この心情は、決してイヤなものではありません。切ないけどどこか心地よくも感じます。寂しさと懐かしさの混じり合ったそんな不思議な感情です。

     キャシーの青春時代の回想は、どこか自分たちにもつながるものがあるような気もします。自分たちの運命やこれからの将来をなんとなく受け入れながらも、一方で青春時代を生きている。それは環境や状況は全く違うのですが、どこか社会に出る前の、学生時代のモラトリアムを楽しんでいる、自分の現状と被るところがあったのかな、というふうに思います。

     話の引っ張り方も巧いです。施設の保護官の言動や、時々訪れるマダムの存在など謎を提示し、それに対する情報を、日常生活の回想の中で小出しにしていくことで、ついつい物語に引っ張りこられてしまいます。

     謎の解決については、そこまで意外、というものでもないです。しかし、これまでに語られた日常が効いているためか、物語が閉じられるころには、様々な思惑に踊らされた子どもたちの悲哀が伝わってくるような気がします。

     青春や恋愛小説の面に加え、ミステリやSFの面もある、不思議で重層的な小説だったと思います。

    2007年版このミステリーがすごい! 海外部門10位

全1021件中 1 - 10件を表示

カズオ・イシグロの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
アゴタ クリスト...
村上 春樹
有効な右矢印 無効な右矢印

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)に関連する談話室の質問

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)に関連するまとめ

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)を本棚に「積読」で登録しているひと

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)の作品紹介

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく-全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)の単行本

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)のKindle版

ツイートする