黄昏に眠る秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (602ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151797019

作品紹介・あらすじ

霧に包まれたエーランド島で、幼い少年が行方不明になった。それから二十数年後の秋、少年が事件当時に履いていた靴が、祖父の元船長イェルロフのもとに突然送られてくる。イェルロフは、自責の念を抱いて生きてきた次女で少年の母のユリアとともに、ふたたび孫を探しはじめる。長年の悲しみに正面から向き合おうと決めた二人を待つ真実とは?スウェーデン推理作家アカデミー賞、英国推理作家協会賞受賞の傑作ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • スウェーデンの新鋭のデビュー作。
    哀切という言葉が似合う傑作です。

    20数年前、霧深いエーランド島の平原で、イェンスという5歳の男の子が行方不明になった。
    母のユリアは立ち直れないまま。
    少年の祖父イェルロフは元船長だが80歳を過ぎ、老人ホームに入っている。
    その父からユリアに電話があり、イェンスが当時履いていたらしいサンダルが送りつけられてきたという。
    今頃、誰が何のために‥?
    あれ以来、ユリアは父と疎遠になり、父さんと呼ぶこともなくなっていた。
    だが父が気になっている手がかりを追って、二人は島で聞き込みを始める。
    疑いをかけられた一人のニルス・カントは、事件当時既に死んでいるはずだった‥!?

    エーランド島はスウェーデン南東のバルト海に浮かぶ島で、夏はリゾート地だが、通年暮らしている村人は少ない。
    その地で、資産家のカント家の息子ニルスは甘やかされ、時折深刻な事件を起こしていた。
    ニルスの人生が所々にはさまれ、鮮烈な印象です。荘重な悲劇を読むよう。
    短絡的で凶暴ともいえる逃亡者なのに、母とは思いあうのも切ない。

    老いた父イェルロフが不自由な身体で事態に立ち向かうのも読み応えがあり、ユリアの再生と父娘の心の通い合いに胸打たれます。
    予想外の結末で、感心しました。
    題材からベリンダ・バウアーの「ブラックランズ」や、アイスランドの作家アーナルデュル・インドリダソンの「湿地」を連想させる雰囲気ですが、この作品が一番いいんじゃないかなあ。

    作者は1963年生まれのジャーナリスト。
    この作品からスタートした四部作は幼い頃から毎夏すごしていたエーランド島が舞台。
    2007年、この作品でデビュー。
    スウェーデン推理作家アカデミーの最優秀新人賞を受賞しただけでなく、イギリスのCWA賞の最優秀新人賞も外国作家で初の受賞。
    次の作品では北欧四5ヵ国が対象の「ガラスの鍵賞」も受賞、CWAのインターナショナルダガー賞も受賞しています。

  • 今や北欧ミステリは手に入りやすくなってそれ自体は良いことなのだが、中にはこけおどしのようにグロテスクさが強調された物や、土地の独特の雰囲気に頼りすぎた物など、ちょっと頂けないな、と思うものも増えている。
    しかし安心してほしい、本作は良心的且つ品格のある、我々(私のように刺激に弱いタイプ)が期待するところの「北欧ミステリ」だ。探偵役が老人だからということもあるだろう、常に超スローなテンポで物語は進んでいくが、読者にとって、少なくとも私にとってはそれは少しも苦痛ではなかった。読後にはじんわり、じんわりと哀愁が染み渡ってくる。しかも、最後に結構などんでん返しも待っているのだ。四部作全巻を読破する価値があると言える。

  • 北欧ミステリの、これは傑作と呼んでいいのではなかろうか。派手なアクションもないし、大いなる陰謀もなく、かっこいい刑事も美人助手も出て来ない。事件にかかわった人びとの人生を丁寧に、哀切に描いて行く。ミステリのくくりで終わってしまうのはちょっと勿体ないくらい。おじいちゃんのイェロフがかっこよすぎです。

  • 書店で見かけて手に取る。スウェーデンの作品といえば、『ミレニアム』以来。
    あちらは過激な事件だったが、これは一貫して静かなトーンで進んでいく。舞台は季節はずれのひなびた観光地、日照時間の少ないお国柄と相まって、独特の雰囲気を作り出している。
    ラストの真相は、そこまで予測していなかったが、納得。
    4部作のうちの第1巻ということで、続巻も読んでみたい。

  • 二十数年前に起こった少年の失踪事件。少年の祖父のもとに少年が当日に履いていた靴が送られてきて、祖父は少年の母とともに事件の真相を探り始める。

    話のテンポはとてもスローで落ち着いた印象です。スウェーデンの霧の深いエーランド島という場所が舞台となるのですが、自然や気候の描写が巧みで行ったことのない地域ながらもその舞台が非常に想像しやすかったです。

    ギクシャクした祖父と娘の絆の再生の物語としても、悲しみを乗り越える人々を描いた物語としても秀作だなあ、と感じました。テンポの遅さが悲しみをゆっくりと乗り越えていく人々と絶妙にマッチしているからか、非常に心に染み入ってきます。

    祖父と母の事件の真相を負う様子と並行して断片的に挿入されるのが、地元の嫌われ者である青年の話。初めはただ単にこの並行した二つの話が最後にどのようにつながるのか、楽しみに読んでいっていたのですが、徐々に彼の過酷な人生にも思いを馳せるようになってしまいました。

    トリックや展開はある意味わかりやすいのですが、文章・訳、ともにとてもうまくて小説の世界にどっぷりとひたることができました。

    英国推理作家協会賞最優秀新人賞
    スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀新人賞

  • 祝文庫化
    お爺さんが活躍するのかな?

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    「英国推理作家協会賞・スウェーデン推理作家アカデミー賞受賞作! 行方不明の少年を探す母がたどりついた真相とは。北欧の新鋭による傑作感動ミステリ
    霧に包まれたエーランド島で、幼い少年が行方不明になった。それから二十数年後の秋、少年が事件当時に履いていた靴が、祖父の元船長イェルロフのもとに突然送られてくる。イェルロフは、自責の念を抱いて生きてきた次女で少年の母のユリアとともに、ふたたび孫を探しはじめる。
    長年の悲しみに正面から向き合おうと決めた二人を待つ真実とは? スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀新人賞、英国推理作家協会賞最優秀新人賞受賞の傑作ミステリ。
    解説:千街晶之(ミステリ評論家)」

  • ・あらすじ
    スウェーデン エーランド島が舞台
    約20年前の少年失踪事件を解決しようとする母親と祖父
    事件を調査する内に30年程前に死んだ男が実は生きていた…?
    調査パートと死んだ男の過去パートが交互に書かれ真相が判明するタイプのミステリー。

    ・感想
    息子が行方不明になってから立ち直れないままのユリアと、老人ホームに入り手足も満足に動かせないイェルロフが探偵役。
    舞台となる場所(霧深い閑村)や季節(秋冬)、登場人物も老人ばかりなので展開も遅め。
    終始物静かで寒々しい印象があるけどエピローグでは事件解決とともに囚われていた彼らの苦しみが昇華されて、それが季節が春になり霧が晴れる事で描写されていい読後感だった。
    ハッピーエンドではなくニルスがクソ野郎であることには変わり無いけど…。
    娘と父親、息子と母親で対比され母親(故郷)の元へ帰りたかったニルスと事件後目を背けていた故郷、父親との確執を解消するユリアとの対比も良かった。
    犯人はそうかも…?いややっぱり違うかなーそうであってほしくないなって人がそうでちょっと悲しかった

  • スウェーデンの作家「ヨハン・テオリン」の長篇ミステリ作品『黄昏に眠る秋(原題:Skumtimmen、英題:Echoes from the Dead (The Oland Quartet))』を読みました。

    「ヨナス・ヨナソン」、「ミカエル・ヨート」と「ハンス・ローセンフェルト」の共著に続き、スウェーデン作家の作品です… 北欧ミステリが続いています。

    -----story-------------
    行方不明の少年を探す母がたどりついた真相とは。
    北欧の新鋭による傑作感動ミステリ!

    霧深いスウェーデンのエーランド島で、幼い少年が消えた。
    母「ユリア」をはじめ、残された家族は自分を責めながら生きてきたが、二十数年後の秋、すべてが一変する。
    少年が事件当時に履いていたはずのサンダルが、祖父の元船長「イェルロフ」のもとに突然送られてきたのだ。
    病魔に苦しみながらも、明晰な頭脳を持つ「イェルロフ」は、この手がかりをもとに推理を進める。
    一方、急遽帰郷した「ユリア」は、疎遠だった「イェルロフ」とぶつかりながらも、愛しい子の行方をともに追う。
    長年の悲しみに正面から向き合おうと決めた父娘を待つ真実とは?

    スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀新人賞、英国推理作家協会(CWA)賞最優秀新人賞受賞作。
    スウェーデンの民話や幽霊譚をもりこんだ、北欧の新鋭にして実力派による傑作ミステリ。
    -----------------------

    2007年(平成19年)に発表された《エーランド島シリーズ》の第1作… 探偵役の「イェルロフ・ダーヴィッドソン」が外出もままならない老人というこもあり、謎が解けるスピードは遅々としていますが、関係者を訪ね歩き、幾度かの危機をくぐり抜けて、20数年前の衝撃的な真相が明らかになる展開が愉しめる佳作でしたね、、、

    「イェルロフ」と「ユリア」を中心に真相を探る現在の物語と、「ニルス・カント」の人生を辿る1936年(昭和11年)~1972年(昭和47年)の物語がパラレルに進行して、終盤、ひとつの接点に向かう描き方も良かったですね… むっちゃ好みの作品でした。


    1972年(昭和47年)9月、エーランド島北部のステンヴィーク村で、「イェンス・ダーヴィッドソン」という5歳の少年が忽然と姿を消した… この島では珍しい濃霧の中での出来事だった、、、

    それ以降、「イェンス」の母「ユリア」は傷心から立ち直れぬまま島をあとにして苦悩に満ちた日々を送るようになった… 「イェンス」の父とは別れ、姉「レナ」の夫婦や島に残った父「イェルロフ」ともしっくりしない関係になっていた、、、

    事件から20数年後、高齢者ホームで暮らす「イェルロフ」のもとに、「イェンス」が行方不明になった時に履いていたサンダルを何者かが送ってきた… 「イェルロフ」からその報せを受けた「ユリア」は久しぶりに帰郷する。

    長年疎遠になっていたせいで、「イェルロフ」と「ユリア」の会話はぎこちないものに… しかも、かつて船長だった「イェルロフ」は持病のせいで今や思うように動けない身体となっていた、、、

    だが彼らはサンダルの件を契機にわだかまりを乗り越え、過去と再び向かい合うことを決意し、「イェンス」の身に何が起こったかを追求しようとする。

    このメイン・ストーリーに、時々、挟み込まれるカタチで描かれるのが、島北部の広大な土地を所有する資産家の息子として生まれた「ニルス・カント」の人生… 彼は10歳にして海で溺れた弟を見殺しにし、成長とともに数々の悪事を重ねてきたため、村ではあらゆる犯罪や事故が彼のせいということになっている、、、

    既にいないはずの彼の姿が、事件の影から浮かび上がってくるのは何故なのか… 「ニルス」の数奇な運命と「イェンス」との接点は!?

    自己中心的で浅はかな性格、そして若い頃の悪行の数々… 「ニルス」は同情の余地のない人物なのですが、ある人物に利用され、「イェンス」の失踪事件に巻き込まれてしまう終盤の展開には一抹の憐れみを感じましたね、、、

    もっと悪い奴がいたんですからねぇ… それにしても、真相は衝撃的で、深い余韻のある結末でしたね。


    《エーランド島シリーズ》の残り3作品も読んでみたいな。



    以下、主な登場人物です。

    「ユリア・ダーヴィッドソン」
     看護師

    「イェンス」
     ユリアの息子

    「イェルロフ」
     元船長。ユリアの父

    「レナ」
     ユリアの姉

    「リカルド」
     レナの夫

    「エルンスト・アドルフソン」
     彫刻師、元石工

    「ヨン・ハーグマン」
     元船長

    「アンデシュ」
     ヨンの息子

    「ベングト・ニーベリ」
     《エーランド・ポステン》記者

    「レナルト・ヘンリクソン」
     警察官

    「アストリッド・リンデル」
     元医師

    「グンナル・ユンイェル」
     ホテル・オーナー

    「マルティン・マルム」
     マルム貨物の創業者

    「エースタ・エングストレム」
     元船長

    「マルギット」
     エースタの妻

    「ロベルト・ブロムベリ」
     車修理工場のオーナー

    「ヴェラ・カント」
     ステンヴィークの資産家

    「ニルス・カント」
     ヴェラの息子

    「フリティオフ・アンデション」
     ヴェラの使い

  • スウェーデン、エーランド島で霧の深いある日、少年が行方不明となる。祖父である元船長のイェルロフが事件の謎を解く。高齢の祖父のゆったりとした時間の流れとエーランド島の自然がマッチし、物語が丁寧に進められて行く。終盤は悲しい結末へと向かうが、イェルロフの覚悟と落ち着きと共に、静かに受容できる境地となる。

  • 霧深いエーランド島の平原で、幼い少年が行方不明になった。それから二十数年後の秋、少年が事件当時に履いていた靴が、祖父イェルロフのもとに突然送られてくる。イェルロフは、自責の念を抱いて生きてきた次女で少年の母のユリアとともに、ふたたび孫を探しはじめる。物語は一貫して静かなトーンで進んでいく。哀切という言葉が似合う上質ミステリであると共に、親と子の絆が織りなす人間ドラマでもある。通り一遍ではない設定で、どこか人に対する諦めに似た受容の精神を読み取ることができる。

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