東の果て、夜へ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151829017

作品紹介・あらすじ

犯罪組織の命を受け、少年たちは数千キロの旅に出る。人を殺すために……。ミステリ各賞を総なめにしたロードノベルにしてクライムノベルの傑作

感想・レビュー・書評

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  • 暗黒街で育った少年が指令を受けて、長い旅へ。
    若者たちだけで車に乗り、殺人のために…

    ロサンゼルスの一角で、毎夜ひたすら仕事場の見張りをするイースト。
    15歳ながら地道に責任を果たし、ボスには信用されている。
    地域のボスはイーストの叔父で、父のいない兄弟らをそれとなく気にかけていてくれる後ろ盾でもあった。
    頼りにならない母親は、弟のタイの方を気に入っている。ところがこのタイは13歳で既に殺し屋。ギャング以外に生きる道が見いだせないような地区で、怖いもの知らずな存在だった。

    ある日突然、異変が起きて、イーストらはあわただしく街を出ることになる。
    裁判の証人となる裏切り者を出廷前に殺せというのだ。
    20歳の調子のいい元大学生がリーダー格、17歳のおたく少年、15歳のタイ、そして不仲の弟タイ。
    若い子だけで旅行なんかしたら普通でも何か変なことが起こりそうなところ、この目的、このメンツで予想外のことが起こったら…
    中では一番生真面目なイーストが、気をもむことになります。

    思わぬ展開で離れ離れになり、たまたま見つけた住み込みの仕事をこなし、雇い主に気に入られるイースト。
    新たな居場所を見つけたかと思われたが、そこに意外な知らせが…?
    予想もしにくい世界ですが、予想外の展開で、はらはらしつつも一抹の希望が見える方向へ。

    絶望的な状況でも投げやりにならず、自分を保って生きていくイーストに好感が持てました。
    傑作と言っていい。
    と思いますが、自分の好みのど真ん中というわけではなく、誰にでもおススメというわけでもないので、星は4つにしておきます。

  • 四人の少年が旅する話といえば、すぐ思いつくのはスティーヴン・キングの『スタンド・バイ・ミー』。この小説も四人の少年の旅の話から始まりますが、雰囲気は全く違います。

    所属する組織の命令で、裁判の証人になる男の殺害を命じられたイースト。組織のボスはイーストの他に三人の少年を指名。イーストたち4人は、2000マイル先の標的の元まで車で行くことになるのですが……

    文体と話の展開がなかなかに特徴的。ハードボイルドらしさを漂わせる文体は、感情を極力排し淡々と物語を前に進めていく印象。物語自体の雰囲気が暗いことに加えてこの文体がより、作品全体に漂う夜の中を歩んでいく感じを、表現していると思います。

    そして展開について。小説のあらすじだけ知っていたので「4人の少年の友情と成長ものかな」初めは思っていたのですが、そういうわけでもなく……。
    トラブルと想定外の連続、そして少年間の深まる溝。焦りとイライラが物語に伝染し、高まっていく緊張感と、軋轢による崩壊の予感。
    タイトル通り話が進めば進むほど、ますます“夜”へ向かっていくような、そんな印象を受けます。

    そのため話の展開は暗く、文体のため盛り上がりもやや抑制気味で地味な印象を受ける展開が続きます。しかし陰のある文学的な雰囲気が徐々にはまってくるところもあって、ミステリというよりは「犯罪小説」という味わいを徐々に深くしていきます。

    そしていよいよ殺害の決行。この殺害の決行で話は終わると思っていたのですが、ここからの展開が読ませる。殺害は何とか成功するものの、ところどころで予定通りいかず、イライラや閉塞感はピークに。そして決定的な出来事が……

    計画実行後、イーストが一人、街から街へ彷徨する描写もいい。大きな展開があるわけでもないし文体も変わらないのですが、そこに言いようのない魅力を感じます。
    悪いもの、黒いもの、そうしたものが何の飾りもない現世の体験を積み重ねることで、少しずつ白くなっていくような感じというか……。淡々としていた文体もここにきて、さらに大きな意味を持ったように感じます。

    そしてイーストが迎えるラスト。単純にハッピーエンドとは言えないと思うのですが、それでも読後感は、何かから解き放たれたような開放感や清涼感があります。
    イーストの去って行く姿に、洋画のようにスタッフロールと物静かな曲が流れて”Fin”と表示される映像が自分の中で確かに見えました(笑)
    ハリウッド大作ではないけど、ミニシアターで流れる秀作映画を見終えたような、そんななんとも言いがたい抒情が残ります。

    ギャングや銃、そして車での街から街への大移動と、アメリカの作品だからこそ描けた展開と、物語全体の空気感があったようにも感じます。その雰囲気が自分の中に上手くはまった印象的な作品でした。

    2018年版このミステリーがすごい! 海外部門3位

  • 悪の道から足を洗い、自分自身で真っ当な人生を見出す、そんな一人の男の人生観小説だ。人間社会には頼れる人と、頼る人がいる。能力のない、力のない者は誰かに縋り付くことで生きて行く。だが、経験と歳と共に「自分の夢・仕事・生活」を自分の力で想い通りにしたいという時、どうしたら良いのか判断に迷う。 誰もが遭遇する人生のターニングポイント・タイミング「悟り」(自分で判断する)には勇気と行動がいる、ということだ。 (人生のターニングポイント:仕事を決める、結婚する、家族を守る、独立するなど)

  • 2016年発表作。内外で高い評価を得ており、犯罪小説/ロードノベル/少年の成長物語と、様々な読み方ができる作品だ。全編を覆う青灰色のトーン、凍てついた冬を背景とする寂寞とした空気感。筆致はシャープで映像的。主人公の心の揺れを表象する内省的な情景描写も巧い。動と静のバランス、光と影の均衡が、広大なアメリカの乾いた大地と相俟って、強いコントラストとなって魅了する。

    15歳のイーストは、ロサンゼルスの裏町にある麻薬斡旋所の見張り番を務めていたが、警察の強制捜査によって居場所を失う。犯罪組織のボスであり、イーストのおじでもあるフィンが少年を呼び出し、或る仕事を命じる。組織幹部の裁判で証人となった裏切り者トンプスンを、出廷前に殺すこと。その男は、遠く離れたウィスコンシン州へ旅行中だった。同行するメンバーは3人。横暴な元大学生ウィルソン20歳、気弱なコンピューター技術者ウォルター17歳。そして冷酷非情な殺し屋タイは、イーストの腹違いの弟で、まだ13歳。滅多に口を利かず、不仲が続いていた。2000マイル先の標的を目指し、4人はバンに乗り込む。長い旅の中で直面する不知の社会、倦怠に満ちた下層に澱む人の群れ。他世界から受ける刺激に順応できず、加えて寄せ集めに過ぎない一行の関係は終始乱れ、不協和音の中でトラブルが続出する。イーストは、不正義のただ中でも正しくあろうとするが、暴力との境界は容易く崩れる。人を殺す。その代償がどれほど重いか。誰もが半人前の〝仲間〟三人との対峙によって、自らの幼さも抉り出されていく。少年は旅の終着点で〝仕事〟を終えるが、本当に為すべきことをまだ見付けていなかった。

    主人公を含めて主要な登場人物が黒人であることが根幹となり、物語を大きく揺り動かしていく。都会と田舎での偏見/格差。他者の眼は己の黒い肌を否応無く意識させ、実存を揺るがす。犯罪を糧としながらも或る意味では守られていた境遇から、身ひとつで全てを乗り越えなければならない厳しい現実に曝された少年の眼前には、ひたすらに東へと続く道があるのみだった。犯罪組織の末端で生きてきた過去と、長い旅の経験を経て、生きることを見つめ直す心の有り様を、深く鮮やかに描き出している。

    過去/現在/未来の道程を緩やかに繋ぎ、踏み締めていく過程が、三部構成によって繊細且つ劇的に綴られていく。本作品で最も読み応えのあるパートは、何もかもを投げ捨てたイーストが辿り着く寂れた町で展開する、極めて静謐な終盤にある。少年は、主を失ったペイントボール場を引き継ぎ、ひたすらに修復しつつ、旅を回想する。無意味に殺された二人の少女の残像、最後まで分かり合えなかった弟との距離感、ひとときの安らぎをもたらした恩人の死。自分を過去に縛り付け、イーストを引き戻そうとする〝西〟からの誘惑。

    まだ行き着いてはいない東の果て。自分の名〟イースト〟に別れを告げ、一番星の輝くころ、新たな旅を決意する少年の背中。そこに弱さの克服と幼さからの脱却、決別と再生へと向かう心を、見事に映し出して物語は終わる。

  • 本屋で手に取ったときも良いタイトルだなと思ったけれど、読み終わったあとにも改めてしみじみそう思った。

  • クライムノベルであり、ロードノベルであり、ティーンの成長譚である、俺の好きな3要素ががっちり詰まっているなら読むしかないだろ!

    ほとんどの部分、主人公イーストの独白調で物語は進む(ちょっとだけ違う視点で語られる章がある、俺の好みではあの視点は不要と思うが…)、このイーストが生真面目で、一直線で、憂いや哀しみや諦めを心に抱えた可愛いヤツなんだよなぁ。生活環境から犯罪に手を染める生き方を選ばせて(選択肢がそこしかない)いるが、環境が違っていれば、文武両道で頼れるいい子になったんだと思うが…。

    そんな主人公が、エエ加減な男、デブッチョオタク、13歳の殺し屋(弟)とともに、青色のヴァンにのって、LAからはるか2000マイル(3000キロ!)先のウィスコンシンまで、人を殺しに行く。というのが大雑把なあらすじ。

    普通、ロードノベルや成長譚というと、明るい希望があるからこそ魅力的で、ページ繰る手もポジティブになろうというものなんだが、この物語は一筋縄ではいかない。ほぼ全編にわたって明るい希望が見当たらないのだ。後半になって主人公がたどり着いた先で、よーやくボヤーっと見えた「あれはひょっとして明るい未来につながるのかなぁ…」って希望の断片も、ものの見事に踏みつぶしてくえるし、オーラスの話の締めは、「ガメラ3イリス覚醒」に似た「それでも行くのか…」な哀しみを連れた未来しか見えないし…。

    なのに、なぜか、この物語にひかれてしまった。もっとストレートな成長譚、もっと未来につながる旅物語の方が好きなはずなんだが…。絶望は嫌いだが、この作者の小説は、絶望であっても、追いかけてみたい、と思ってしまったんよなぁ。

  • タイトルに惹かれて購入しました。原題ならば手に取らなかったかも。
    幼い頃から犯罪組織の一員としてキャリアを積んだ少年らが、証人殺しの命令を受けて2000マイルの旅路に出る。
    その最中で主人公イーストは、自分が築き上げてきた自信や、辛うじて捨てていなかった清らかさや絆も捨て去らなければならないような体験をする。
    物語終盤になり、過去に犯罪組織の見張りで叩き込まれた規律と忍耐力が、ペイントボール場のオーナーの信頼を得る良い武器となり、多くの人から小さな信頼を積み重ねるように得ていく。そのささやかな成功体験が誰のものでも無い自分自信の考えを見つけ出すきっかけとなる。
    読み易くテンポも良いため、長さを感じさせない良い小説だと感じました。表紙の良さが際立つ。この表紙に対して、星一つ上乗せ。ハヤカワ文庫のデザインは優秀。原作も同じ表紙だったら的外れかもしれないが、カッコイイ!

  • 前半の半人前悪党の少年たちがいざこざを起こしながらだらだらと東に向かっていくくだりは個人的には退屈でなかなかページが進まなかった。
    終盤のイーストの再生物語には惹きつけられ、また、予想していなかった結末までの展開には驚き、なるほど全体としてみると悪くはないと思った。

  • 各方面で絶賛されているとおり、クライムノヴェルでロードノヴェルでかつ、少年の成長モノで、意外な展開が新鮮な感じだった。
    状況についても、登場人物それぞれについても、もっと書き込めそうなのに最小限の情報しか書かないで想像させる、といった感じで、全体的にハードボイルドな、無駄を極力省いたタイトな文章。饒舌な語り好きなわたしとしては、もっともっと書き込んでくれてもよかったかなあと。なんでローティーンの主人公と弟がこういう人間になったのか、とかもっと詳細に読みたかったような。。。
    とにかくハードな状況なのでけっこう読むのがつらかった。いつ「成長モノ」っぽさが出てくるのかと待っていたら、ラスト三分の一くらいでやっとそれっぽくなって、その部分がいちばん好きだった。でも、暮らしている町近辺からたぶん外に出たことすらない主人公からしたら、州外に出て、気候も違う土地に行くってだけでも成長なんだろう。
    ラストがさわやかな印象で救われた。

  • 読み出してしばらくはなかなか流れに乗れず、最後まで読めないかもと思った。ロサンゼルスの暗黒街で育った少年が、人を殺すよう指示されて仲間と共に西へ向かう。その道行の始まりからまもなく、最初のトラブルが起きるあたりで、俄然話に引きつけられ、あとは息を詰めて成り行きを見守ることとなった。

    文章に独特のクセがあり、好みが分かれるだろうが、危うさに満ち、崩壊の予感を抱かせながら進む物語に、この文体はぴったりはまっている。少年の孤独がひたひたと胸に迫ってくる。ドラッグ売買の見張りをすること以外、何も教えられたことのない少年が、ギリギリの所で保っている倫理観は、何に根ざすものなのか。深い余韻を残す一冊だと思う。

    何よりいいと思ったのは、どの登場人物にもリアルな奥行きがあることだ。主要な顔ぶれだけでなく、ちらっと出るだけの電話交換手とかガソリンスタンドのお姉さんにまで物語がありそうだ。続篇があるようだが、「少年のその後」といったストレートなものではないかも。

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