ボリス・ヴィアン全集〈5〉赤い草

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152002556

感想・レビュー・書評

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  • ボリス・ヴィアンの作品といへば、『うたかたの日々』『北京の秋』あたりがお薦めで、あとは陰鬱ながら『心臓抜き』といつたところがまづ浮かぶのであります。
    それらは存在感の薄い主人公が、現実と非現実の境界が不確定な世界で彷徨ひ、読者は感情移入しづらく言葉遊びの中で心地良く翻弄されるといつた作品群と申せませうか。

    『赤い草』も一応ストオリイらしきものはあります。しかし一般的な支持を得さうな浪漫的な話ではありません。
    主人公たちが記憶除去機なるものを開発するにあたり、まづはその記憶をどんどん遡つてゆくのでありますが、それにつれて彼らは死に向つてまつしぐら。流線型で終末へ吸ひ込まれてゆくのでした。記憶除去機の周囲にはタイトルとなつた赤い草が生えてゐます。これは意味があるのか、何の寓意もないのかよくわかりませんが、多分深く考へなくてもよいのでせう。

    主人公ウルフにはリールといふ妻が、相棒技師であるサファイヤ・ラズーリにはフォルアヴリル(四月馬鹿と訳される)なる恋人がゐます。しかし最後には彼女たちは男どもを捨てて(男たちは死ぬことで完全な存在となると考へてゐた)、リールとフォルアヴリルの二人で旅に出るところで小説は終つてゐます。

    セナター・デュポンといふ言葉を話す犬や、そのセナターが好むウアピティなる謎の生物とか、まことに気になります。しかし、作中には一切詳しい説明がないので、どうしてこんな犬がゐるのか、ウアピティとはいつたい何か、さつぱりわかりません。安部公房の「ユープケッチャ」も魅力的ですが、こちらはまだ説明があるだけイメエヂしやすい。しかしヴィアンはおかまひ無しです。その解釈は読者に丸投げなのです。いや、解釈して貰ふつもりすらないのかも知れません。自由だ。

    もしこれからヴィアンの作品を読まうとする人がゐるなら、あまり本作は正統派ではありません。『うたかたの日々』(『日々の泡』の邦題もあり)をまづ読んで、この世界が肌に合はないと感じたら、本作は手に取らない方が良いでせう。寂しいけど。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-521.html

  • ヴィアンの愚痴。いちばん彼の素にちかいところ。しかし『赤い草』って題名は出ないのか。

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著者プロフィール

(Boris Vian) 1920年、パリ郊外に生まれる。エンジニア、小説家、詩人、劇作家、翻訳家、作詞・作曲家、ジャズ・トランペッター、歌手、俳優、ジャズ評論家など、さまざまな分野で特異な才能を発揮した稀代のマルチ・アーチスト。第二次大戦直後、「実存主義的穴倉酒場」の流行とともに一躍パリの知的・文化的中心地となったサン=ジェルマン=デ=プレにおいて、「戦後」を体現する「華やかな同時代人」として人々の注目を集め、「サン=ジェルマン=デ=プレのプリンス」 とも称される。1946年に翻訳作品を装って発表した小説『墓に唾をかけろ』が「良俗を害する」として告発され、それ以後、正当な作家としての評価を得られぬまま、1959年6月23日、心臓発作により39歳でこの世を去る。生前に親交のあったサルトルやボーヴォワール、コクトー、クノーといった作家たちの支持もあり、死後数年してようやくその著作が再評価されはじめ、1960年代後半には若者たちの間で爆発的なヴィアン・ブームが起こる。

「2005年 『サン=ジェルマン=デ=プレ入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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