マークスの山 (ハヤカワ・ミステリワールド)

著者 :
  • 早川書房
3.85
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本棚登録 : 1499
感想 : 208
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  • Amazon.co.jp ・本 (441ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152035530

作品紹介・あらすじ

昭和51年南アルプスで播かれた犯罪の種は16年後、東京で連続殺人として開花した-精神にを抱える殺人者マークスが跳ぶ。元組員、高級官僚、そしてまた…。謎の凶器で惨殺される被害者。バラバラの被害者を結ぶ糸は?マークスが握る秘密とは?捜査妨害の圧力に抗しながら、冷血の殺人者を追いつめる警視庁捜査第一課七係合田刑事らの活躍を圧倒的にリアルに描き切る本格的警察小説の誕生。

感想・レビュー・書評

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  • 1993年 441ページ

    第109回直木賞受賞作です。
    高村薫さんの作品初読みです。
    高村薫さんは改稿が多い作家さんのようで、『マークスの山』も文庫版ではかなり改稿されているとのことです。私が読んだのは単行本で改稿前の作品です。
    長いお話でした。難解な表現が多く、重厚な物語でしたが、面白かったです。レビューでよく言われるところの硬質な文章に、最初、作者は男性かと勘違いしてしまいました。
    警察内部の人間や事件の捜査の描写は緻密に描かれていて、リアリティと迫力がありました。同じ捜査班でも真っ先に手柄を上げようと相手を出し抜こうするところ、喧嘩腰のやり取り、上層部からの圧力、そしてここでも出てくるマスコミ関係者のあしらいなど、きれいごとでは済まない人間ドラマがあります。
    一昔前の作品で、今では使われていない精神分裂病という言葉が出てきます。現在は統合失調症に変更されています。
     
    マークスは子供の頃に両親が車内でガスによる無理心中をはかり、1人脱出して辛くも生き延びた。母親の精神疾患の遺伝とガス中毒による後遺症により重度の精神疾患を患う。3年ごとに躁状態と鬱状態を繰り返している。マークスが入院中、献身的に看護した真知子とは、再開して恋人同士の関係となる。その頃、連続して殺人事件が発生していたが、被害者は何の関係性もないような人物たちだった。しかし、凶器が同じものである可能性が高く、同一犯による犯行ではないかと推測された。警視庁の合田雄一郎、他捜査員たちは犯人の手掛かりを追って奔走するが、謎の犯人にはなかなか辿り着けない。そして、第3の殺人が発生する。

    この物語は、犯人の手口が情け容赦なく凶悪です。また、被害者サイドが周辺を嗅ぎ回られたくないようで、捜査に対する隠蔽工作を行っています。結末にはどんなエピソードがあるのだろうか、といろいろ考えながら読みました。
    謎が明らかになった後は、哀切感とやるせないような気持ちになりました。完全な悪人はいなくて、全ての登場人物に対する不快感がなくなりました。

    テーマは山。山を愛する男たち。明るい山と暗い山を行き来していたマークス。最後は、壮絶な山の厳しさ、壮大な山の美しさが全てを浄化するような描写でした。
    山へ登るという行為について登場人物の印象的なセリフがありました。
    「現実的であると同時に厭世的で、自己陶酔的で、限りなく献身的で利己的で、且つ……繊細なところが」

  • 出だしの緊迫感や重厚さ等さすがですね。分厚さを物ともせずに引き込まれて行きます。1993年の作品だから25年も前になるけどタイトルだけは記憶にありましたよ。やはり時は流れているので、当時の先端だったらしいポケベルが結構頻繁に出てくる警察内のやりとりが微笑ましい。しかし終盤にかけて真実が明らかにされていく辺りから急に失速感がいや増すので残念でした。タイトルの意味合いもな〜んだ!でしたし 笑。

  • 合田がかっこいいのと最後のシーンがはまりまふ。

  • 硬質で、細かい文章と重厚な展開すべてがきちんとまとまっていた。夢中で読んだ。警察内部の軋轢や、犯人の思い。ところどころでいらっとさせられるけれど、それもそれで。メインの登場人物たちが男くさくて、それもまたこの雰囲気にプラスされていて、いい。ちょっと胸やけもしたけれど、たぶんそれもこの本の魅力なのでしょう。
    最後あたりの犯人の行動には、心を打つものがあった。純粋すぎたんだろうなあ、きっと。生きてきた中でのはじめての希望。なんだかすごく胸が苦しくなった。最終的に、ひとごろしでもなんだか憎めない犯人だったなあ。いっちゃん悪いのはあっちなんだと思う。でも、いろんな要因が絡み合ってこの展開を生み出したっていうこともある。最後に犯人は光を見れたのかなあ。いっしょに見たいひととは見れなかったとか、さびしすぎる。
    今度は1日かけて一気に読破しようと思える作品だった。じゃないと、おもしろさが伝わってこないと思うんだ。

    (441P)

  • 93年に直木賞を獲得した
    「女帝」高村薫の合田雄一郎シリーズ一冊目


    高村さんの中では最もミステリ色が強い作品ですが
    あくまでもこれは“警察小説”であり
    支柱は謎解きではなくて社会悪と人間の情念です

    「とても女性が書いたとは思えない硬筆」
    「偏執的なまでに緻密な描写」
    「ホモソーシャルとホモセクシャルの倒錯」
    高村さんの本を読んだ時に誰しもが必ず抱くであろうこの三点は
    もちろんこの作品も例外なく当該しています
    全ては作者の頭の中での「うそばなし」なんだ、と頭では分かっていても
    余りに紙の中の世界の流れにリアリティが有りすぎて
    一瞬これは何処かであった実際の事件の記録ではないのか?などと錯覚するくらいの重厚な読み応えでした

    先にLJを読んでいたせいか若干の生硬さを感じる箇所もありましたが
    やはり人物の心情の変化をスケッチすることに物凄く長けた作家さんだという印象が強いです
    人間の情念の変動全てに言葉を与えてやらんでか!という偏執的な熱が文字からびりびり伝わって来ます


    高村作品=インテリ中年まみれ の鉄則通り
    今作も登場人物はとりあえずオッサンだらけです
    冷血漢で口が悪くてキレモノの合田を筆頭に
    顔を合わせればメンチを切り合うチーム七係の睦み合いには毎度にこにこが止まりません
    そして菩薩顔で義弟を過保護しまくる浮き世離れした義兄が登場するたびに心の中でハードカバーをぶん投げていました
    そりゃ根来さんも三年後に河原でいぶかしむよ...! 大笑

  • 昔の松本清張やら横溝正史の時代に比べたら、今は犯人や刑事の精神に重きが置かれるのだと思う。その結果、水沢があのような造形になるのだが。とにかく、熱量と緻密っぽさで一気に読ませてくれる名作

  • 私は改稿された文庫版より単行本の方が好き
    単行本では水沢の真知子への想いの深さが拙い言葉の端々や行動から感じられ、より悲しみと苦痛が心を覆う

    マークス(水沢裕之)は最期安らかに逝ったのかな
    雪山の頂で亡くなっていたマークスの死があまりに悲しく切なかった
    佐野の最後の叫びは読者の叫びでもあった

    緻密で濃厚な警察小説の傑作と言われる本作は、泥臭い人間の業と山への畏怖と険しくも神々しい描写の対比が圧巻だった


    余談だが合田の義兄の加納は合田に身内以上の愛情を持ってるよね
    ブロマンス的な
    合田も無意識下では同じように感じているのではないかなぁ
    「照柿」では合田と加納のその後が読めるので楽しみ

  • ■およそ5~10行で1段落を構成しており、展開がリズミカルにかつ明快に進行する。迫真の警察小説という重い設定なのに大変読みやすい。
    ■文章は簡潔を心掛けているようだ。だがそれに優先しているのが作者の女性らしい細やかな心理描写。この小説の内容にかかわらず”冷たく硬い”という印象は全く受けなかった。
    ■そしてその作者が見つめる暖かい視線の先にあるのが主人公、本庁捜査一課の刑事合田雄一郎だ。不眠不休で捜査を続ける合田に、次から次へと難題を差し向ける作者の肚の中にあるのは果たして、合田に対するサディスティックな情愛か、それとも無条件の信頼か。
    ■ただし終盤、事件のカギを握る弁護士に吾妻ペコがポルフィーリー並みの詰問で迫るあたりから合田の影が薄くなる。しかも問題解決の決定打が、”弁護士が浅野の遺書を証拠隠滅のため燃やし損ねた”というのも、合田の活躍を期待していた読者にとってはあっけない結着であった。
    ■岩田による殺人、木原による殺人、両者とも結局は単なる勘違いによる殺人であった。だからもうひとつの事件、連続殺人犯水沢マークスが誕生するに至った一家心中の詳細と、この男の人間性の解明がなされることなく物語が終わったことには肩透かしをくらった感じがした。

    □――昭和51年10月のほぼ同時期に、南アルプス北岳東の山中で親子三人による一家心中(男の子は生存)と、飯場に寝起きする土木作業員による殺人事件(相手を熊と間違え殺傷)が発生する。平成元年、今度はその殺人事件の現場の近くの山道から一体の白骨死体が発見される。平成4年、都立大裏で元暴力団員が、所持する拳銃を盗まれたうえで頭に数か所穴をあけられて殺害される。数日後、ある官僚が王子にある自宅マンションの前で同様の手口で殺害される。事件の真相を追う捜査一課の刑事合田は、心中で生き残った男の子と土木作業員の不思議な接点、主要な関係者が同じ大学の山岳部に同時期にかつて在籍していたという事実を突き止めるが、霞が関から事件の隠滅をしようとするなんらかの圧力が働いているのに気づく……

  • いわずと知れた直木賞受賞。中井貴一主演で映画化もされている。中井=合田刑事は、個人的にピンとこない。
    古本屋でハードカバーを買って読んでいたのだが、今回の文庫化でまた読んだ。
    法曹界、私学経営、医学界で活躍するおやじだちの若気の至り。ひょんなことから、それを知った親子無理心中で助かったが一酸化炭素で頭をやられた青年。同じ理由で男で失敗する看護婦(ラブストーリーだったりもするのだ)。警察内の軋轢。
    推理小説とかミステリーなどとカテゴライズしてしまってはもったいないほど、いろいろ盛り込まれてる。
    ポルフィーリィ(ドストエフスキーの「罪と罰」に出てくる検事)というあだ名の刑事が出てきたりして、作者はドストエフスキー好きなのかな。特に「罪と罰」以降の後期の作品。
    上質なエンターテイメント。この人は男の人だとずーっと思っていた。

  • 合田雄一郎シリーズの第1作品、レディージョーカーから照柿と読んできた。
    ミステリー色が強いように感じたがミステリー作品として読むと何か消化不良のように感じる、遡って読んできて第1作のこの時点で合田はすでに陰鬱な雰囲気を出しているしシリーズといっても謎解きのヒーローでもないし。
    警察組織の内部の問題、外部からの圧力などを描きながら真実に辿り着く様、面白かった。
    でも最後林原どうなるのかー、気になる…と言ったらダメなんだな。
    三つ読んだ中では照柿が一番好き。

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著者プロフィール

●高村薫……1953年、大阪に生まれ。国際基督教大学を卒業。商社勤務をへて、1990年『黄金を抱いて翔べ』で第3回日本推理サスペンス大賞を受賞。93年『リヴィエラを撃て』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『マークスの山』(講談社文庫)で直木賞を受賞。著書に『レディ・ジョーカー』『神の火』『照柿』(以上、新潮文庫)などがある。

「2014年 『日本人の度量 3・11で「生まれ直す」ための覚悟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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