インヴィジブル・モンスターズ (ハヤカワ・ノヴェルズ)

  • 早川書房
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本棚登録 : 103
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152084934

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  • 「自分が愛する人と、その人が愛する人は、決して、決して一致しない」

    『ファイト・クラブ』以前に書かれたチャック・パラニュークの処女作。事故で顔を失った元カバーガールの「わたし」は、美しきドラァグクイーン・ブランディに新たな人生を与えられる。性的倒錯者の男性セスを加えた三人は、富裕層の屋敷から盗んだ薬物を売りさばきながら旅を続けるが……
    本作は物語のラストシーン、燃え盛るウェストヒルズの大豪邸から幕を開ける。物語は現在の「わたし」が死の淵にいるブランディに対して過去の出来事を回想する形で語られるが、その時系列は錯綜しており直線的でない。作中で「ファッション雑誌のカオス」に例えられるハイパーリンク的な語りの手法は、現実世界の混沌を明確にする。我々は商用にパッキングされた出来事をインプットするのでなく、与えられたパーツを組み合わせ事実を読み取らなければならない。作中ではあらゆる物事が偽装され、見かけどおりの真実など存在しない。構成は細分化されているが、ストーリー自体はサスペンス調のロード・ムービーといった感が強く、物語が進展するたびに「わたし」の過去に関する真相が明らかにされるのでテンポよく楽しめた(中盤の叙述トリック的などんでん返しは確かに衝撃的だ)。

    パラニュークの文体は非常に独特である。思考を許さず畳みかける短文の連続。固有名詞と猥語のマシンガン。頭の中のフォトグラファーが語り手の感情を代弁し、そのたびにフラッシュが焚かれる。狂った比喩が世界を侵食する。性差や人格の境界は取り払われ、読者は悪夢の閉回路へ追い込まれていく。恐ろしい出来事を冷静に描写する「わたし」は、その醜悪な外見を隠すためベールを身に着けている。膜を通じて世界と対峙するかぎり「わたし」は誰にも見られることなく、観察者として存在できる。
    主人公がベール越しに過去からの逃避を試みるのと同様に、「わたし」を取り巻く人々も何かから逃避している。旅を続ける三人は固定的な存在でなく、八ヶ月で全ての細胞が入れ替わる人体のように名前や肩書を次々と交換する。両親は息子を失った事実から逃避し、元親友のエヴィも退屈な日常からの逃避を望んでいる。ただし逃避の先に待ち受けてるものは破滅でしかない。「人生の土台を過去や現在に置いてはいけない」のである。パラニューク作品には常に破滅への欲求と死の影がつきまとう。分割された出来事は加速し、やがて最期の瞬間へと収束していく。悪夢を超えた先の未来で“見えない怪物”である「わたし」が下した決断は、肥大化する現代的な自己中心主義への警鐘ではないだろうか。

  • 愛に飢える少女が、憎しみの対象からいかに愛されていたかを知り、愛することを知るまでの、取り返しのつかないストーリーです。

  • 顎が吹っ飛んだ描写位平気、という方は是非。死んだと思っていたお兄さんとの再会。最後のシーンが切ない。名作です。

  • チャック・パラニュークの『インビジブル・モンスター』読了。主人公を想像するとヒルトン姉妹になってしまう。バービー人形よりもスタイルがよい別の生き物。『ファイト・クラブ』より後出の作品だが、以前に書かれたものらしい。設定等は全然違うが、主人公がストーリーテラーで脇役かのように振る舞い、最後にスポットライトが当たるという作りは『ファイト・クラブ』に通じるものあり。時間が交差して中盤まで話が頭に入りづらいが、途中からくるくるとつながってくるのでそれまで我慢。

  • 「あたしには顔がないのよ」

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