蝿 (異色作家短篇集 5)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152086969

感想・レビュー・書評

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  • 早川書房の異色作家短篇集ラインナップを見ていて、
    まだ買えるだろうかと探ってみたら新品で手に入った、
    ジョルジュ・ランジュラン(1908-1972)『蠅』。
    名前からしてフランス人だと思っていたが、バイリンガルで、
    フランス語で小説を書いたイギリス人だったというのが一番の驚き。
    しかも、МI5の諜報員だった(ひゃー!)。

    全10編収録。

     蠅
     奇跡
     忘却への墜落
     彼方のどこにもいない女
     御しがたい虎
     他人の手
     安楽椅子探偵
     悪魔巡り
     最終飛行
     考えるロボット

    シニカルな話、恐怖を扱った話、
    はたまたハートウォーミングな話、などなど。

    以下、特に印象的な作品について。

    ■蠅
     有名な映画『ハエ男の恐怖』/『ザ・フライ』の原案。
     物質転送装置を開発しようとした科学者の悲劇。
     序盤、語り手=科学者の兄が、
     電話(データの伝達装置)が鬱陶しいと
     盛んに訴えていたのは伏線だったのだ。

    ■彼方のどこにもいない女
     原子力研究所の主要ポストに就く
     バーナード・マースディンが暖炉で燃やした走り書き。
     兄は灰の中から断片を摘み上げ、
     辛うじて読み取れる文面に目を通した。
     バーナードは深夜、放映終了後のテレビに、
     どこかから送信される電波によって現れた
     美しい女性に恋していた……。
     タイトルから漠然と想像した結末とは異なる
     “行き違い”オチだったので、軽くのけぞった。
     根源は戦争がもたらした悲劇。

    ■安楽椅子探偵
     パーマー家の赤ん坊トゥィーニーが誘拐された。
     犯人は誰か、“おじいちゃん”の名推理が冴える
     愉快なユーモア掌編。

    ■考えるロボット
     18世紀後半に造られた「トルコ人」
     またの名を「メルツェルの将棋指し」と呼ばれる、
     ポオもエッセイで考察したオートマタが題材。
     後年見破られたが、実は中に人間が入って
     チェスをプレイしていたという装置を題材にした
     マッドサイエンティスト短編。
     死んだはずだが棺に遺体がなかった友人ロベールは、
     婚約者ペニーが睨んだとおり、
     発明家兼興行師サン・ジェルマン伯爵によって
     チェス・ロボットのブレーンにされてしまったのか……
     というスリラー。
     1950年代末頃、既にAIに言及していた点が興味深い。
     ※主人公ルイスのセリフ=引用フレーズ参照。

  • 20世紀のフランス語作家(本人はイギリス人)、ジョルジュ・ランジュランの短篇集。2度映画化され、それぞれオリジナル続編も製作された、物質転送装置の実験事故により"ハエ男"となった男の悲劇を描いた名作『蝿』を含む、怪奇作品が10篇収録されている。

    おそらく多くの人が『蝿』を目的に本書を手に取っているのではないだろうか。かくいう私もクローネンバーグ監督の名作『ザ・フライ』に感銘を受け、原作となる本作に当たってみたいと思った次第。実際に読んだ感想としては、期待を裏切らない哀愁漂う良き怪奇作品であった。これは名作と納得すると同時に、原作の主軸を曲げることなく現代風にアップグレードさせたクローネンバーグ監督の手腕の凄さを改めて認識した。より原作に近いカート・ニューマン監督の『ハエ男の恐怖』とも比較してみたいところだ。

    それ以外も古き良き怪奇小説の雰囲気が詰まった作品ばかりで、「世にも奇妙な物語」を手軽に楽しむことができる。個人的には、やはり『蠅』が一番なのは間違いないのだが、死んだ親友と同じ手癖を持つチェスロボットの謎に迫る『考えるロボット』が思わぬ拾い物となった。これは是非とも映画化して欲しい。

  • 「蝿」は本当に好き。独身の時に読み、今回結婚してからの再読。妻の悩みや想いに夫婦愛を感じた。「奇跡」も良かったなぁ。人を騙しちゃいけないよ!という教えが含まれていながら、子どもの本にはなり得ない感じ。もっと読みたいけど、あまり翻訳がないのが残念だー。

  • ランジュラン!

    米英モダンホラーブームのとき、リメイクされたハリウッド映画『ザ・フライ』シリーズが大ヒットしたときなど好機はいくらでもあったはずなのに、なぜもっと日本で翻訳出版が進まなかったのか。残念でなりません。

  • 表題作の『蠅』、『彼方のどこにもいない女』、『最終飛行』が好き。

    『最終飛行』はハートフルなラストで、他の作品とだいぶ毛色が違ったので驚いた。

    『蠅』の映画版を両方観てみたい。

  • 映画「蝿男の恐怖」「ザ・フライ」の原作である「蝿(はえ)」。映画よりも何倍も恐ろしい。まさに悪夢。自らの肉体がグロテスクな未知のモノへと変容していくそのおぞましさ。全身の血が逆流するような感覚。自分にとってこれ以上の恐怖は考えられない。繰り返し読んでしまうのはそれ故。「20世紀に書かれた最も恐ろしい作品」…それも決して大袈裟ではないと思える。

  • 表題作は映画『ザ・フライ』のほうを観たが、古いほうはまた違うのだろうか?
    あとは『奇跡』『他人の手』『安楽椅子探偵』などがまずまず楽しめたが、トータルで見ると微妙に味気なさを覚えた。もう少し意外性やひねりがあるとよかったのだが……。

  • B級、三流、チープそんな言葉がよく似合う短篇集。 映画原作ってこんなんばっかだなと。短篇集「地球の静止する日」読んだ時に感じたのと同じタイプのつまらなさ。 「奇跡」「安楽椅子探偵」は良かったが。 「蠅」からして、映画になってなきゃ完全に忘れ去られてるよなと思うような話だし。 一番くだらないのが「彼方のどこにもいない女」。 1970年にもなってこんな下らないもんがもてはやされてたのかとちょっと驚いた。フレドリック・ブラウンは本当に偉大だなぁ

  • 2012/7/4購入(旧版)

  • 表題の「蝿」は色んな作家に焼き直しされており、映画化も二度されている名作だ。そんなだから、読んだことなかったとしても、「あれ、どっかで知っている話のような」という感覚に襲われる。でも、丁寧なディテールにまで及んだ描写と、精緻な展開はやはり本家。

    SFとはしがきで解説されていたのがちょっと意外だ。
    奇想天外小説であってもSFではない気がするのだ、まぁそれだけくくりが難しいということだろう。

    「奇跡」(電車事故で足を麻痺したと嘘をつく男)
    「忘却への堕落」(自分がなぜ妻を殺していないか忘れた男)
    「彼方のどこにもいない女」(原子爆弾に殺されなかった女)
    「御しがたい虎」(動物と話せる男)
    「悪魔巡り」(悪魔と契約した男)
    と読み続けて、この作者はどんでんがえしが好きなんだと確信した。ちょっと人を驚かして、肩をすかして、人を食ったような終わり方をするのがだいすきなのだ。
    それにしてもこれだけ面白いネタをデザインできるのは才能である。

    この調子のままで行くのなら「蝿」が文句なしの一番だなと思っていたら、下記の二作が後半に潜んでいた。
    「他人の手」(勝手に動く手)
    「考えるロボット」(ロボット化される人間)
    どちらも映画化されてもおかしくないくらい展開のうまさと広がりがある。

    「最終飛行」
    「安楽椅子探偵」
    はどちらかというと童話に近い、後者は意外な毒があるが、子供は気づかないだろう。

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