わたしを離さないで

  • 早川書房
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本棚登録 : 3097
感想 : 613
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152087195

感想・レビュー・書評

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  • 重苦しくなりがちな設定だが、主人公の思い出語りを中心に展開する一人称の小説であり、主人公が終始前向きであることで重苦しさをひきずることはなかった。翻訳の良さも手伝ってか、最後までテンポ良く読める。

    いくつかあるテーマのうち、ひとつは他人との隔たりだ。一つの出来事を巡って、思い出される出来事は同じようでも、その実そこへあてがわれる解釈は自らのものとは似ても似つかない。共有されているようで、決定的にずれている。

    そして、見ずに済ませたい、見ていないことにしたい、できればずっと未決のままがいい。そういう未熟な時期から、否応なしにすべてが決まり決めることを要請される時期への移行、つまり時間が進み大人になることに伴う甘く暗い絶望的な苦痛。この描出が見事だ。

    自分の行き先について諦めてしまえば楽になれるのはわかっているが、高潔であれと教えられるが故に受け入れることができない、この葛藤。生まれること、生きること、がいかに膠着した現象であるかを、主人公たちを通して私たちは思い知る。それでもなお繰り返し生まれ、繰り返し生きなくてはならない。
    皮肉なことに、主人公たちはそれを肯定的に受け入れる。だから私たちもまたそれを受け入れるほかない。なぜなら私たちはもう生きてしまっているからで、そしてそれが言祝ぐべきことであってほしいという希望のもとに生きているからだ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「主人公たちはそれを肯定的に受け入れる。」
      そうなのかなぁ、、、私には一番ゾっとするコトでした。
      どう言う風に育てたら、そんなコトになるのか...
      「主人公たちはそれを肯定的に受け入れる。」
      そうなのかなぁ、、、私には一番ゾっとするコトでした。
      どう言う風に育てたら、そんなコトになるのか?本中からは汲み取れませんでしたが、教育関係者なら知りたいと思うんじゃないかな、、、
      2013/06/18
  • お話は臓器提供をする為に生まれてきた子供たちのお話。

    特に臓器提供のおどろおどろしいシーンは一切無く、とある施設にいた提供者となるべき生まれた女性の思い出を語る形で、感受性の豊かな子供たちの平凡な日常を淡々と描きます。

    悲しい未来が判っているが懸命に個性豊かに生きる子供たちの悲しい物語です。

  • キムさん所有
    →浦野レンタル中→10年10月某日返却

    浦野レビュー - - - - - - - - - - - - - - -
    これまで私が読んだベストワン・タイです!
    私、翻訳文学はあんまり好きではないんですが、これは行けました。
    キムさん、ありがとうございます!

    どこがいいって、その筆致ですよ。鬱屈とした気分になる重いテーマ設定にもかかわらず、何なんでしょう、この独特の浮遊感は。主人公の境遇が告白される90ページ過ぎくらいからは、最後まで一気にいけました。

    私、郷愁系の作品に弱いんですけど、本作はその最たるものでした。主人公のキャシーが10代を過ごしたヘールシャムでの日々は、永遠に輝いていて、もう二度とあの時以上に充実した時間を送ることができないなんて。哀しすぎます。

    でも、いいです。
    行間が美しい作品でした。

  • 提供者の設定が衝撃的。でもこういうの、あと数年後には議論されてる気がする。4度目の提供で任務を全うするとか悲しすぎる。淡々と語る主人公の人生も泣ける。すばらしい小説です。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「あと数年後には議論されてる気が」
      慧眼ですね。
      運命とか宿命を信じない私ですが、定めはあるような気がします。でもそれに抗うかどうかは、人そ...
      「あと数年後には議論されてる気が」
      慧眼ですね。
      運命とか宿命を信じない私ですが、定めはあるような気がします。でもそれに抗うかどうかは、人それぞれ、私ならどう決着をつけるだろう?その結論は未だ出ません。。。
      2012/10/15
    • moji茶さん
      >nyancomaruさん
      最近、コメント欄を発見しました。ここに返信を書いていいのか迷いながら書いています(汗)
      大きな流れにのまれている...
      >nyancomaruさん
      最近、コメント欄を発見しました。ここに返信を書いていいのか迷いながら書いています(汗)
      大きな流れにのまれているような感覚になったことはありますね。良い流れにのったこともあれば、悪い流にのったこともあり・・・。私は基本、流されるまま派です。
      2012/10/26
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「私は基本、流されるまま派です」
      それしか出来ないように仕向けられてしまうのでしょうね。。。
      「私は基本、流されるまま派です」
      それしか出来ないように仕向けられてしまうのでしょうね。。。
      2012/11/02
  • 思ったことを忘れないうちに。
    なぜ彼らは逃げないのか。心と知識があって、囚われている訳ではないのに。
    読了後それがひっかかったのだけど、ぱらぱらと部分的に読み返し、また作者のインタビューも読んでみた。
    そして、提供者となることは、私たちの死と同じで逃れられない運命としてただ受け入れるしかないことなのだと思い直した。
    人が死ぬことは皆知っているけど、それから逃れる術を必死に探す人は周りを見渡して、健康で通常の生活を送っている人であればまずいない。いずれ必ず来るとはわかっているのに。健康に気を使う人は山ほどいる。でも死から永遠に逃れることはできないのは知っている。わかっている。
    自分も、自分の大事な人もやがて終わることを。
    提供者になることは「生徒たち」にとってはそういうことなのだ。

    最初、全体が見えない状態で読み続けるのがしんどく感じるかもしれないけど、そこをがんばって最後まで読んでほしい本。
    私は泣くことはなかったけど、静かな哀しさがずっと体に残っています。

  • 最高に良かった。
    抑えた筆致で、全く感情的になることなく、静かに静かに物語を進行させる語り口は、潮がぐぐっと満ちてきてあふれるような感動を誘う。

    物語は穏やかに始まる。
    主人公は、「介護人」をしている女性、キャシー。
    キャシーは、「提供者」の世話をしている。

    どうやら、キャシーと「提供者」であるルースやトミーは、小さい頃「ヘールシャム」という施設で育ったらしい。
    回想部分で、施設での生活が細やかに描かれる。
    体育館、サッカー、「交換会」、健康診断、「展示即売会」……。
    いじめられていたトミー、女の子らしいずるさを持つルース、子供同士の微妙な人間関係。

    淡々と、流れるような文章で、彼らの幼少期が語られる。
    しかし、どこか普通と違う、不穏な空気が漂っている。
    何か「語られていないこと」があるのに、わざとそこから目を背けているような。

    この物語の登場人物たちは、自分たちの運命はもう決まっていることを知っている。
    そして、受け入れている。
    でも、「受け入れる」ことと、「諦める」こと、「絶望する」ことは、違う。
    自分ではどうしようもできない運命の中で、どう生きるのか。
    “希望”が無いということは、幸せではないということなのか。
    かなわないことに、意味はないのか。
    この物語はSF的ともいえる非現実世界を舞台としているが、描いているテーマは普遍的なものだ。

    読み始めてすぐ、なんとなく「こうかもしれない」という予想がつくが、その静かで不穏な予感を感じながら、語り手のキャシーがわざと核心を遠回りするような、そんな流れに身をまかせるのがたまらなく良い。

    徹底的に抑制されていることろに、胸を打たれる。
    本当の“切なさ”というのは、感情的で直接的なところには生まれないと思う。

    この物語のラストシーン。
    イギリスの「ロストコーナー=遺失物保管所」、ノーフォーク。
    「子供の頃から失いつづけてきたすべてのものの打ち上げられる場所」。

    ここが素晴らしすぎて、もうだめだ……。
    じわじわ迫ってきて、本当にもうだめ。
    この小説は「すごい」としか言いようがない。

  • 映画化の話は無事に進行しているのかしら。この記事では今年公開のはずなんだけど。
    http://eiga.com/buzz/20090417/6/

    正直映画化ときいたときにはびっくりした。「日の名残り」はとても映画的・映像的な作品だったけれど、「わたしを離さないで」はとてもミステリアスな構成で、じっくり読み進んでいかないと、主人公たちの置かれている状況が把握できない。そこがまた読み始めるとやめられない(あるいはこのすわりの悪い不可思議さを我慢できない人は途中で挫折しちゃうのかも知れない)イイカンジなんだけど、これを説明的な台詞や映像に置き換えずに、淡々としたいい映画にしてもらえたら、感動だなぁ。是非このタイトルになっている、「Never let me go」も聴きたいし。キーラ・ナイトレイというキャスティングは悪くないんじゃないかと思う。期待しつつ待ってます。

  • いろいろな視点から読める感じ。
    長い長い三角関係の話としても、生命倫理の話としても…
    人為的につくられた運命の残酷さよ。

  • なんだこれなんだこれと思いながら読み進めるうちに、取り返しのつかない結末に一気に引きずり込まれる感じ。おもしろかったです。
    ものすごく救われないメルヘンなんだと思いました。ゆえのカテゴリわけ。
    ただタイトルのダサさゆえに本棚では奥のほうにしまわれてます。

  • 「雨降りの静かな庭」みたいな世界

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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