どちらでもいい

  • 早川書房
3.29
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感想 : 42
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152087331

作品紹介・あらすじ

夫が死に至るまでの、信じられないような顛末を語る妻の姿が滑稽な「斧」。廃駅にて、もはや来ることのない列車を待ち続ける老人の物語「北部行きの列車」。まだ見ぬ家族から、初めて手紙をもらった孤児の落胆を描く「郵便受け」。見知らぬ女と会う約束をした男が待ち合わせ場所で経験する悲劇「間違い電話」。さらには、まるで著者自身の無関心を表わすかのような表題作「どちらでもいい」など、アゴタ・クリストフが長年にわたって書きためた全25篇を収録。祖国を離れ、"敵語"で物語を紡ぐ著者の喪失と絶望が色濃く刻まれた異色の短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • <老いて失われるものたち>



    『夢・アフォリズム・詩』という、カフカの日記やノート等からこれはという言葉を選び出してまとめた拾遺集と出会い、その読後にたまたま目に入ったのが『どちらでもいい』でした。これが今度は、アゴタ・クリストフのノートやメモから、習作を選びまとめた拾遺集! 何かの縁があるのかな★

     こういうノートを覗いて、面白くなかったことは一度もありません。作家としては、磨きぬいた刃物のような言葉だけを人目にさらしたいのが本音でしょうか!? でも、作家のノートって書きかけほど興味深いのです! 『どちらでもいい』も、限りなく未整理くさい。めくる時にばつの悪さが漂いつつも、A・クリストフに関心があって、読書を進めてしまいました。

     ハイレベルな短編から本当に書きつけ的な断片まで、色々入り混じったこのショートショート集では、作者が長らく長編小説を発表していない理由を窺い知れてしまいます。登場人物の多くは生に疲れ、著者自身が感じているであろう、寄る年波を語るのです。

     職を失う、夫を失う、正気を失う、思い描いていた未来を失う、加齢によりさまざまなものを失う――★ 若い時分には焦りや恐れを生じさせる、喪失感。でも、長きにわたって喪失し続けた者が陥るのは不感症のようです。
     待っているものが来ても来なくてもどちらでもいいし、そこにいる老人が生きていても違っていても、どちらでもいい……? 明るい性格の人が読めば、ここから軽妙さやユーモアを読み取ることができるかな。私にはできませんでした。引きずられるような重さを感じます。もしかしたら、軽くても重くても、どちらでもいいのか!? でもなぁ……。

     未来にむりに望みを託そうとしない人たちの疲弊を、余さず描き切ったクリストフは、執筆の気力さえ枯れなければズバ抜けたセンスなのです。ただこのままでは、書くことに不可欠なはずの、その気力が保つのかという不安も感じます。

  • 母親
    ホームディナー にパンチを食らった気分

    男性が読んだらどう 感じるのだろう?
    特に何も思わないから、これだけ国も時代も風習が 違っていても共通してしまう場面となるのだろうか
    むしろ、この男性は これだけ愛されてるんだ!とか思うのか?

    ────────────────────
    取り返しのつかない喪失へのこだわりは、現在に対して、すなわち「今、ここ 」の生に対して、人を消極的にする。「 どちらでもいい」という投げやりな姿勢に帰結する。これを敗北だといって責めるのは易しいが、人生の現実は───まして この作家が 生きた現実は───そう与しやすくはない。いずれにせよ A・クリストフの文学は、未来への希望だの、生きるゆうき勇気だのを与えてくれる健康な文学ではない。
    だが、それにもかかわらず、彼女のテクストから、より正確には彼女の文体(スタイル)から、われわれはある種の勇気を受け取り得るのではないだろうか。なぜなら 、人生の最期に待っているだけでなく、人生の時間の中に遍在している死(=孤独・喪失・別離・疎外・絶望......)を、着色抜きの、モノクロームの言葉で、これほど端的に直視させる文章を書くのは並大抵のことではあるまいからだ。
    死を前にして、もし宗教に頼ることも、種々の「 気晴らし」(パスカル的意味の「 気晴らし」)で事態をごまかすことも潔しとしないのならば、われわれは、生き延びるために自らにさまざまな「練習 」を課したあの『悪童日記』 の 双子に倣って、まずA・クリストフの言葉と向き合うことから鍛練を始めるべきなのかもしれない。

    p173-174
    ────────────────────

  • これでアゴタクリストフの小説は制覇。
    これ以上ないのかと思うと少し寂しい。

    あとがきにあるように、前作と重複する作品もチラホラ。
    箇所によっては全く同じなところもあったので
    構想中のもだったりしたのかな。

    喪失感虚無感は内容もそうだけど
    徹底された無駄のない文体からもにじみ出てくる感じ。

    その中の「先生方」がお気に入り。

    普段あまりしないけど
    この作家の作品はいずれ全部再読すると思う。

  • 「我が家」が良かったです。鬼束ちひろさんの「every home」という曲を彷彿としました。

  • ぼーっと散歩するのが好きな人は 好きそう
    ぼーっと本を読むと 「えっ それがどうしたの? 何か起こった?」ってなるヴァージニアウルフよりはわかりやすい本。 ムムムどう言うこと?ええッとーって考えながら躓きながら前のページに戻りながら繰り返し読まないとなって本でした。
    [街路]に共感できた。

  • ゆめみたい

  • ごく短い散文のような短編集。
    どの短編の文体にしろ、シンプルで無機質、
    しかしその狭間には不穏な気まずさが感じられる。

  • アゴタ・クリストフさんの25篇の短編集です。
    短編とはいえ、1つ1つはとても短くシンプルで、ショートショートや詩のような雰囲気でした。
    その1つ1つから、著者が抱える闇の深さが感じられました。

  • 短編集。さらっと読めるが、後に何か暗いものが残る。

  • 読んでから10年以上経っても鮮烈な印象の残る「悪童日記」作者の短編集ということで、ざっくり斬りつけられる覚悟で読んだのだけど、かすり傷も負わなかった…。
    もちろん、衝撃だけが小説の力ではないけれど、読んで数日でほとんどの内容を思い出せなくなってしまったのは悲しい。
    タイトルがタイトルなので、そういう風でもいいのかも知れないけど。
    一編、「街路」は健気かつ少し不気味で、美しい短編映画を見たような充足感があった。好み。

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著者プロフィール

1935年オーストリアとの国境に近い、ハンガリーの村に生まれる。1956年ハンガリー動乱の折、乳飲み子を抱いて夫と共に祖国を脱出、難民としてスイスに亡命する。スイスのヌーシャテル州(フランス語圏)に定住し、時計工場で働きながらフランス語を習得する。みずから持ち込んだ原稿がパリの大手出版社スイユで歓迎され、1986年『悪童日記』でデビュー。意外性のある独創的な傑作だと一躍脚光を浴び、40以上の言語に訳されて世界的大ベストセラーとなった。つづく『ふたりの証拠』『第三の嘘』で三部作を完結させる。作品は他に『昨日』、戯曲集『怪物』『伝染病』『どちらでもいい』など。2011年没。

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