メランコリイの妙薬 (異色作家短篇集 15)

  • 早川書房
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152087652

感想・レビュー・書評

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  • 一篇はたった5~6頁ほどですが巨匠ブラッドベリの手に掛かれば彩り豊かな宝石箱のような様相を見せます。22篇が収められた短編集は全体的に明るい作品が多め。そして日本語訳の表現も素晴らしい。もっと注目されてほしい一冊。

    『穏やかな一日』
    とある画家の絵画に想いを馳せるひとりの男性。バカンス先で起こった奇跡の出会い。一瞬で湧き上がる興奮とその余韻すら楽しめる心躍る一篇。

    『メランコリイの妙薬』
    娘に舞い込んだ謎の病。この病ばかりは両親にこそ分かり得ない。

    『すばらしき白服』
    仕事も金もない男たちが“共有”した一着の白服を巡るてんわやんわの大騒動。純白のバニラ・アイスクリームのような、八月の月のような…白服の様々な表現が秀逸です。男たちの賑やかなやり取りを経た先にあるちょっぴり切ない、でも心に響くラストは幸せな気持ちになりました。この短編集のなかで一番好き。

    『熱にうかされて』
    僕の体が侵されていく…。前作と風合いは一変、ホラー調。

    『誰も降りなかった町』
    田舎町のプラットホームに降り立ったひとりの男性。緊迫の対峙に背中がひやりとする。

    『金色の目』
    崩壊の危機迫る地球を脱出し、火星へと移住したとある家族。地球から運んだ動植物、そして人間すらも少しずつ火星に“適応”し始める。新しい文化。新しい生き方。

    『旅立つ時』
    死にゆくために家を出ようとする気弱な老夫と、それをぎゃんぎゃんと止める気丈な老妻。相性の良い夫婦。

    『すべての夏をこの一日に』
    太陽はこの日、7年振りに1時間だけ姿を見せる。子供たちの純粋な残酷さ。美しいタイトルに反し心が締め付けられる…。

    『贈りもの』
    地球をあとにしたロケットの中でクリスマスを迎える家族。ツリーを、プレゼントを心待ちにしている息子にどう喜んでもらおうか画策した両親のひと工夫。

    『たそがれの浜辺』
    変わり映えのない毎日に海からやってきた不思議な生き物。あなたならどうする?

  • 1974年9月30日、改訂初、並、帯付
    2014年12月5日、白子BF

  • 知人が、ブラッドベリの死を「さよなら青春」と書いていて。
    翻訳が副業の人なので、ブラッドベリの文章は「これは絶対に邦訳できない」と、翻訳の限界を思い知ったと。

    「ワンダフル・アイスクリーム・スーツ」
    邦題「すばらしき白服」

    白い服、だけれど、ただの白服じゃなくて、「ワンダフル・アイスクリーム・スーツ」なんだと。
    素敵な紹介文を書いていたので、とても読みたくなって、読んで、納得。
    これは、原文で読めるのが、とてもとても、羨ましい。
    以下、ネタバレしまくり。

    メキシコ系アメリカンの青年たちが立てた、とっても素敵な計画。
    彼らは、真っ白な一着の夏用スーツを手に入れる。
    この表現、メキシコ系の彼らの、浅黒いつやつやした肌に、シャリシャリした新品の、真っ白な背広がしゃんとハマっているところが、目に浮かぶ。真っ白だ!

    p64
    「白い! 真っ白だ! それは、純白のバニラアイスクリームのような白さであり、しらじら明けころアパートのホールに置かれた牛乳壜の中の牛乳のような白さだ。それはまた、月夜の夜ふけ、ひとり浮かぶ冬の雲のような白さだ。この暑い夏の夜の部屋で、今それを見ていても、吐く息が白く見えてきそうだった。目を閉じても、それはまぶたに焼きついていた。今夜みる夢は何色か、彼にはわかった」

    この魔法の白い背広を来て、彼らは次々に素敵な体験をする。
    読んでいるだけで、こちらまで嬉しくなってしまって、かつて短編で、たった一着の背広で、こんなに幸福な気持ちにさせてくれた物語があったろうかと踊りだしたくなるほど。
    素敵だった。




    短篇集なので、好みなのも、そうでもないのもあったけれど、何度か泣かされた。
    感動ではなくて、おそらくは、郷愁。
    「初めの終わり」「イカロス・モンゴルフィエ・ライト」「金色の目」「贈りもの」「いちご色の窓」

    「初めの終わり」も、とても好き。
    人間の幼年期の終わり。前進の意思。年老いた父親の、生まれたばかりの、これからという未来への希望にあふれた、一歩。そして自分の手元にある、日常。
    人の心は大地を離れては生きられないけれど、心は、飛び立とうとする。もっともっと遠くへ、前進しようとする種。
    p49
    「おれの齢は十億なんだ、と、彼はひとりごちた――いや、生まれてからまだ一分しかたたんのだ。身長は一インチ、いや、一万マイルかもしれん。……略……こすいて沐浴しながら、彼はあの歌を思い浮かべていた。車輪の歌、信仰も神の恩寵もはるかかなたの宙空にあるというあの歌を。そしてその宙空には、あのひとつの星が、じっと動かぬ百万の星のあいだを縫って、前進し、あくまでも前進しつづけているのだ」

    「贈りもの」
    おめでとう、君に、宇宙のすべての星からの、祝福を。


    火星に住み、地球を思う。前進しなければならない、という意識。なつかしむ故郷。自分の抱える家族。
    私は自分の家族をとても好きで、嫌いになるときがあっても、やはりとてもいとしいもので。けれども、もうひとつのものは自分にはおとずれないだろうと思うから、余計に、前進しようとする意思に、感じいる。
    日本人の原風景は森だというけれど、私の原風景はきっと水だと確信するほどに水に惹かれる自分の、中の、また別な部分が、宇宙に惹かれる。数字の宇宙ではなく、イメージの宇宙と、旅立ちに。
    人の個人ではなく、人という種の全体で前進しようとするものを感じることに、幸福感に、その先に光やしあわせが訪れるだろうことを願って。
    イオルルト――わが遊星地球。

  • 火竜(dragon )なんか、詩的に描写を重ねて世界と心情を作り上げていて、さすがレイブラッドベリだなーと思ったら、その描写自体をオチにするという、割と性格悪い話
    だけど、詩的な表現は一級。憎い

    綺麗な悪女、という本

    あと、ブラッドベリにとって火星とはなんなんだろう。はっきり意味があるのは間違いないがわからない

    白い服は秀逸。テンション高い

  • 「穏やかな一日」「すばらしき白服」「四旬節の最初の夜」「旅立つ時」「いちご色の窓」「雨降りしきる日」

  • 異色作家短篇集の15巻です。
    SF作家で有名な人らしいですが、私は存じませんでした。
    SFは読みませんからね。
    本書はSF、ホラーを中心に収録されています。
    あまり好みの話はなかったです。
    ですが、ピカソを崇拝していると言っても過言ではない男の話の「穏やかな一日」は気に入りました。
    あとは「すばらしき白服」には笑ってしまいました。
    「誰も降りなかった町」は読んでいる最中、不思議な緊張感があり興奮しました。

  • んん〜?なんかメルヘンチックでユルい短篇ばっかりで拍子抜け

  • fantastic!

  • 根強く圧倒的な人気を誇るブラッドベリの魅力を余すところなく紹介する
    傑作集。SF、ホラーを中心に、あまり読者の目に止まらないミステリや普通
    小説などもまじえて、表題作ほか全22の短篇を収録する。

  • 未読。

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著者プロフィール

1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に夢中になる。のちに、SFや幻想的手法をつかった短篇を次々に発表し、世界中の読者を魅了する。米国ナショナルブックアウォード(2000年)ほか多くの栄誉ある文芸賞を受賞。2012年他界。主な作品に『火星年代記』『華氏451度』『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』など。

「2015年 『たんぽぽのお酒 戯曲版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

レイ・ブラッドベリの作品

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