ザ・ロード

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制作 : 黒原敏行 
  • 早川書房 (2008年6月17日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152089267

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ザ・ロードの感想・レビュー・書評

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  • ヴィゴ・モーテンセン主演で映画化もされた(未見)コーマック・マッカーシー最大のベストセラー。

    カギカッコや読点のない独特の文体は、前に読んだ『ブラッド・メリディアン』と同様ですが、格段に文脈がつかみやすく読みやすいです。それは感情描写を排し、ひたすら暴力や略奪、過酷な自然環境のありさまを書き連ねた『ブラッド~』に比べて、主人公の心情に思いを寄せやすいからに違いありません。

    核戦争か天変地異か、ともかく大災害後7~8年でしょうか、荒れ果てた大地をさすらう父と幼い息子。父はひたすらに少年を護る。神話的で力強いシンプルなストーリーです。

    ゾンビ物などをはじめとする同様の舞台設定のディストピアSFでは、暴力的な集団対良心的な人間の戦いや、人間同士の連帯が重要なイベントになるものです。本作ではそうした人間関係の要素は皆無ではないにしろ非常にわずかです。ほとんど全編にわたって、父子はふたりきりのまま。

    そう、生き残ったごくわずかな人類はお互いを非常に怖れていて、争いどころか接触すら起こさないようにひっそりと隠れて生きているのです。なるほど、弱い動物は本能的にまず逃げる。本当の終末の姿とはこうなのかもしれない、と納得させるだけの重いリアリティがみなぎっています。

    綿々と綴られるのは、皮膚感覚に訴える細密なサバイバル描写です。例えば、非常に貴重なアイテムとして靴があげられます。読んでいて、靴がこんなに大事なものだと実感したことはないかもしれません。必要な食料や道具、毛布などを運ぶショッピングカートも心に深く刻まれます。野宿をするたびに、寝床とは離れた場所にカートを隠すプロセスを、マッカーシーは省きません。こうしたディテールを重ねることで、虚構の世界がしっかりと実質を帯びて構築されていくさまは見事です。

    こんなすさんだ世界にあって、少年は他人を気遣う心を失わず、天使のようです。彼は人間を「善き者」と「悪人」に分けます。読んでいくうちに分かるのですが、少年は大災害の直後に誕生し、それ以前の豊かで善にあふれた地上を知らないのです。彼の内面は父の語る「それ以前」からかたちづくられている。
    父は思います。「おまえはおれの心だ」。この言葉は非常に多義的で作品を象徴するキーワードです。少年は感情豊かで善なる人間性の象徴。そして父は、消極的にせよ他人を殺すこともいとわない、獣性(生存本能)の象徴。後者がなくては生きていけないが、前者がなくては生きていく意味がない。どこかで聞いたハードボイルド小説の名せりふのようですね。ともかく、二人合わせて初めて、命ある人間となるのです。

    彷徨の途中には印象的な出来事もあります。中でも心に残るのは夢のように全てが揃った核シェルターにたどりつくシーン。しかし、清潔で安全で快適なこの繭に彼らは長居をしません。偽りのエデンよりも、真実の荒野へ。読者は彼らの行動から内面を読み取り、思いをふくらませます。

    「ここで待っていろ」作中で何度となく繰り返されるこのせりふ。少年は不安でたまらない。父もそんな彼を残して去るのは胸がつぶれそうにつらい。しかしこの描写も少しずつ変化をしていくのです。どういうわけか少年は、ひどくおとなびた語彙をふっと使うようになる。年月が彼を成長させていることに読者は気づきます。彼はひとりでも生きていけるかもしれないと…。

    テーマは普遍的ですが、原発事故後の今、本作に描かれた終末図は、身近な実感をもって胸に迫ります。過酷な環境で私たちに問われるのはなんなのか。家族を失った方々、避難生活を強いられている方々、職を失った方々に向ける人間性とは。希望がほのかにのぞくラストが、より悲しく感じられたのは私が日本に住んでいるせいでしょうか。

  • 文明崩壊後の灰色の世界を、たった二人で歩き続ける父子。
    ほとんどの人間が死に絶え、死者の遺した食物や道具を掘り起こしてやっと飢えや寒さをしのぐ日々が淡々と綴られる。
    ショッピングカートに積めるだけ荷物を載せ、いつ現れるか分からない暴漢を警戒しながらの旅路。
    在りし日の平凡な日常の遺物と、現在の悪夢的な日常が奇妙に混ざり合った超日常。善も悪も意味を為さないような世界で、「善い者」を一つ一つ確かめていく子どもの眼差しにたじろがされる。
    父子がぽつぽつと交わす言葉が印象的で、降り積もる灰を掻き出し道を作る作業にも思えた 。

  • 戦争、天変地異?何らかの事象で迎えた世界の終り。
    塵が降り積もり、死体がおりなすその中を、‘彼’と‘少年’は南へと行く。


    心を奮い立たせ、なんとかページを開けばそこには圧倒的に残酷な世界がある。

    しかしそんな、絶望の中、飢えの中、恐怖の中。

    それでも歩みをとめない親子をどう見つめていけばいい?

    たぶんそれこそが‘火を運ぶ’こと。人間であり続けること。


    読み終わった後、ただひたすら慟哭するほかありませんでした。

  • 終末SFは色々あるけれど、私はリチャード・マシスンの短篇『終わりの日』を思い出しました。

    海外小説の父と子、特に父と息子の関係は、互いを一個の存在とした上での対話(どんな形であれ)が多くを占めているように思います。母と子にはかつて一つだった存在としての否応無しの分かちがたさがあるけれど、父と子はどこまで行っても交じることのない個。だからこそ対話によって個から個へと教え引き継ぎ、受け渡される。

    灰色の世界に生まれた少年はそのままだと闇に呑み込まれたかもしれないけれど、父親が身のうちにある火を差し出すことによって、彼もまた火を運ぶ一人の人間になった。
    それが幸福かはわからない。そのことがなす意味も疑わしい。それでも火は引き継がれた。

    凍えるほどに寒い夜明けのハイウェイ、荒涼とした大地の果ての果て、どこまでも重く垂れ込める夜の闇の向こう側で、ちいさく頼りなげに震える火が見える。周りを照らし、その瞬間だけはほのぼのと暖め、世界の終わりの中を静かに歩み進んでいく灯火が。

  • マッカーシーは確か随分年老いてから、最初の息子を得たはずだ。孫、と言ってもおかしくない歳の離れた息子に対して、父であるということはどういうことであるのか、それを寓話を通して伝えようとしているように思える。

    この作品で描かれる世界は、文字通り絶望に満ちている。何らかの大きな災厄に見舞われ、我々が知っている(と思い込んでいる)倫理的で文化的な世界は滅亡している。人が人を欺き、大人が幼児を焼き殺して喰らい尽くす。そんな世界だ。だが、本質的にその悲惨さは、今の世界と何が違うのか。隠されているだけで、日々幼児は殺され、金を持った人間はブクブクとその死体の上で肥え太る。

    勿論、この作品は現代の文明批判の小説、などではない。決してない。作品は寓意に満ちているが、寓意を無理矢理に現代の比喩として捉えるのは、(それがいかに悲惨な世界を描いているとしても)作品の豊穣さを根こそぎにする。だから問題は、世界と相対した時、父は子に一体何を語り、何を残してやれるか、ということなのだ。破滅後の世界にせよ、今の世界にせよ、父は子に対して残してやれるものは、常に同じはずだ。それは希望であり、肯定であり、祈りであるはずだ。そして、自らの命をかけて、火を決して絶やさないということであるはずだ。

  • カタストロフィ後の世界を放浪する父と子の話…。
    子供を捨てる母親なんて!といつもは条件反射で批判してしまうけれど、私も母親と同じことをしてしまうかも…。日光もろくに届かない世界じゃ農耕だって出来ない訳で、一日一日と飢えをしのぎ、無法者から逃れて生き延びるしか道がないならいっそ死んでしまう方が楽になる、けれど実際に我が子を手にかけることはできないという…。
    句点の無い独特の文章も、詩のように美しく感じる。
    暗澹たる世界をひたすら彷徨うような読書タイムだったけれど、ラストが美しく終わるのがいっそ憎い…!良い話だった…なんて思ってしまう!

  • 暗い。。。鬱になる系

  • オースターの「最後の物たちの国」に
    サローヤンの父子が迷い込んだ世界、かな。

    とても静か。

    花粉が舞ってヒイヒイ言ってる季節じゃなくて
    しんしんと雪が舞う季節に読みたかったなあ。

  • 映画化もされたアメリカのベストセラー小説。

    舞台は、核戦争か何かで荒廃した世界。
    生き物も人間もそのほとんどが死滅している。
    その中を、父と息子が南を目指して歩き続ける。

    息子は変動後に生まれ、以前の世界を知らない。
    飢えや渇きに苦しみながら、生き残った人間からの襲撃を恐れながら、二人は「善き者」として生きようとし、ひたすら歩き続ける。

    絶望と死の匂いに満ちた世界の中で、二人の道行はあまりにも頼りなく、そして切ない。
    か細い蠟燭の灯を両方の手のひらで包んで守るような気持ちで読み進め、そして最後には――。

    読み終わった後の、哀しいけれど温かいような、この何とも言えない気持ち。
    言葉で紡がれた世界の持つ力に圧倒される、その素晴らしさ。
    久しぶりに心揺さぶられる読書体験でした。

  • 世紀末に至る経緯はいっさい明かされず、名も知れぬ親子「彼」と「少年」がひたすら南下する。動植物は死滅し、わずかに生き残った人間が秩序なき世界で今を凌ぐ。どこまでも暗くて寒い荒涼たる道が果てしなく続く。自身が彼となり少年となり、この闇から解放されたいと乞うのだけれど、叶えてはもらえない。人間は希望無くして生きられないことが他の動物との決定的な違いだと思うなら、ここに生き地獄がある。

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ザ・ロードの作品紹介

父と子は「世界の終り」を旅する。人類最後の火をかかげ、絶望の道をひたすら南へ-。アメリカの巨匠が世界の最期を幻視する。ピュリッツァー賞に輝く全米ベストセラーの衝撃作。

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