リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152090362

作品紹介・あらすじ

テロ、死を運ぶ伝染病、環境を汚染する化学薬品、ネット上の小児性愛者…。ニュースでは毎日新しいリスクが報じられている。だが、本当にそのリスクは恐れるほどのものなのだろうか。よく検討すれば、実はそれほど危険ではないリスクも多い。たとえば、ある年の暴力犯罪件数がこの十数年で最大の増加を見せたというさも恐ろしげなアメリカでの事例は、増加は実は数パーセントなのに、これまでの犯罪件数がずっと減少または横ばい状態だったことによる。また、癌の発生件数がこれから増加していくという不吉な予想は、癌の最大のリスク要因である高齢化の影響が大きい。では、なぜそういうリスクにこれほどまでに影響されてしまうのか。私たちがどのようにリスクを判断しているのか、それによって企業、政治家、メディアに恐怖を操られてしまうのかを、多くの実例とともに解説する。

感想・レビュー・書評

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  • 認知バイアスについてしっかり社会学として言及したのは本書が初ではないか。正しいリテラシーは決して派手ではなく、時間もかかるが、科学的に多角的に検証した結果でのみ得られるという示唆には括目すべきだろう。ただし、この翻訳はひどい。句読点の付け方の乱れ、二重三重否定「無関係でなくはないのだ」など。「曝露」もしくは「被曝」を何度も「暴露」としていたり、訳すセンテンスが英語順に並べられており、これは訳の正確さを期すためと好意的にとるよりおそらくは手抜きであろう。全体の情報量がとにかく多いので、読みづらいとどうにも苦痛だ。良書なだけに本当に惜しい。星二つ減点は翻訳者に因する。

  • オリンピックではドーピング検査が何度も行われる。薬物摂取による運動能力強化は、人体に危険であると言われるが、著者はスキーのエアリアルなど一部オリンピック競技の方が、ドーピングよりも人体に損害を与える確率が高いと指摘する。9.11事件後、アメリカの人々は飛行機に乗るのは危険だと思って、車で長距離移動するようになった。現実ではテロにあう確率、飛行機事故にあう確率より、自動車事故にあう確率の方が、はるかに高い。しかし人々は、ニュース映像に恐怖して確率計算を誤り、自動車を利用した。当然の結果として9.11後、全米で自動車事故死する人が急増した(しかし、メディアはこれをニュースとして伝えず、テロの危険を煽り続ける)。


    人間は「頭」で合理的に考えて危険の確率を計算するより、「腹」で本能的に直感して、物事の危険度を判断する場合の方が多いという。

    目にしたもの、耳にした情報から直感的に危険度を判断して行動した方が、頭でじっくり考えるよりもよかったのは、石器時代以前の話である。テロにあう確率はイスラエルとパレスチナ以外の国ではきわめて低いのに、テロ事件のニュースを見れば、人々は自分もテロにあうのではないかと恐怖する。この非確率的な直感の判断は、石器時代の名残だと指摘される。人類が文明を手にしたのは、人類の歴史の中で、ほんの短い期間に過ぎない。文明なく生活した時代の方が長いから、人は今でも直感で危険の確率を見誤ってしまうのだという。

    著者は、現代は人類史上最高に安全な時代であるのに、メディアが危険を煽ってばかりいるとも指摘する。例えばマスメディアは、アフリカの未開民族の大自然に包まれた生活を称揚する。しかし、専門研究者の調査によると、一見温和そうな彼らの間には、紛争や犯罪などを原因として死亡する危険が、現代都市で暮らすよりもはるかに高いのだという。

    何故メディアは危険を煽るのか。危険が迫っているという情報を流した方が、平和が広まっているという情報を流すよりも、人々の注目を集めやすいためである。

    人間は生き延びるために、危険の情報を摂取しようとする。危険を告げて、その危険はこうすれば回避できますと宣伝すれば、政治家は選挙で当選するし、企業は商品が売れる。

    人工化学物質は体に悪い、天然の素材、食品がよいという現代文明批判が多いが、著者は、天然の化学物質の中にも人体に有害なものはたくさんあるし、化学物質まみれで不健康なはずの現代人は、寿命が人類史上最長であると反論する。健康になりたければ、食生活を変えたり、運動時間を増やしたり、睡眠時間を長くしたりと、生活習慣を変えるのが一番だが、生活習慣を変えることは、「腹」にとってはとても面倒なことだ。故に「この○○が健康に悪い」という「腹」にとって心地いい仮説がマスメディア上で広まるのだという。

    テロリストが大量破壊兵器を開発しているという説にも、著者は否定的だ。イスラエルとパレスチナはずっと紛争を続けているが、大量破壊兵器を使用して、敵対民族を完全抹殺することは、現実的におきそうもない。大量破壊兵器を作り出し、管理維持し、実際に使用するには、研究開発費、兵器の材料、施設と、知識豊富で優秀な技術者と、兵器管理のノウハウが必要になる。よっぽど強大でお金のあるアメリカみたいな巨大国家でなければ、大量破壊兵器を作って実用化することは不可能なのだ。

    アルカイダなどのテロ組織に大量破壊兵器を作ることは不可能、過去最大に技術と兵器を蓄えたテロ組織は、日本のオウム真理教だったという指摘が面白かった。ハルマゲドンを起こそうとしていたオウムのレベルでも、最大に成功した地下鉄サリン事件で死者は12名のみ。テロリストは、政治家やメディアが恐怖をはやしてたてるほどには、殺傷力を持っていないのだ。

    現代世界は過去の歴史上最高に平和である。人類が六十億人以上もいるのだから、ほとんどの人が遭遇しえないような凶悪な事件、事故、テロは、世界のどこかで毎日起こりえる。それをニュースにすれば、メディアは注目を集める。

    「世界は毎日平和です。今日こんな良いことが起きました」というニュースの方が、凶悪事件のニュースよりはるかに多く発生しているにも関わらず、グローバル展開している大手マスコミは、そんなニュースを絶対流さないだろうという悲しい結論にいたる良書だった。

  • ふむ

  • 途中で見るのをやめた

  • 人間のリスク認識が原始狩猟生活時代に発達した認識能力に依存していること
    アメリカにおいて、いかに人が原始時代のリスク認識能力のまま、現代のリスクを評価していること
    例:係留規則、典型的なものに関する規則、実例規則(=利用可能性ヒューリスティック)、良い・悪い規則
    そのために、マスコミが報道する特殊な事態のリスクを重視し、本当に人間を殺している因子を正当に評価しないこと
    恐怖を煽ることで儲ける人はいるが、恐怖を否定することで得をする人はあまりいないこと
    リスクの過大視で稼ぐ人々の実例(犯罪、発がん性物質、テロ)
    ====
    全てアメリカの話だが、他の国では取り上げるリスク要因が異なるだけで、似たような事態は起きているよね。

  • 社会
    思索

  • 恐怖を使って如何に人をミスリードに導くかが良く分かる本。
    様々な観点から詳しく検証されており、また機会を見つけて再読しようと思う。特に化学薬品のところは、また気になると思われる。

  • リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理

  • 人間はなぜこうも、リスクというものを正しく認識できないのかということを、認知心理学を切り口にした本.9/11同時多発テロ、エイズ、鳥インフルエンザ、核戦争、などの実例を基に、それに対する人々の反応が実際の発生可能性から考えるとあまりにも過剰であることが、これでもかと書かれている.正直冗長である.しかしながら、現在福島原発の事故の後、周辺で生産された農産物の風評などの本質的な原因はすべてここに書かれている.ある意味、人間はそういう風に行動してしまうこまった生き物であるということであろう。

  • あぶない、あぶない、といって保険屋ははしりまわる!

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