夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

  • 早川書房
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本棚登録 : 804
感想 : 111
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152090393

感想・レビュー・書評

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  • イシグロ初の短編集。音楽をテーマとした5編を収録。音楽そのものを楽しむというより、音楽にまつわる人間模様を描いている。どの作品も、ユーモラスな場面設定の中に、哀愁を帯びたイシグロ独特の表現力が混じっており、長編では味わえない喉ごし感があった。けっして気持ちよく派手に着地する作品はないのだが、音楽を聴いたあとのようなメロウな感覚が、読後にじんわり体に伝わってくる。イシグロって、こういう作品も書けるんだと意外に感じた一冊であった。

  • 才能と野心を巡る物語というと、少し身構える。しかし“音楽について”となるとちょっと受ける印象が変わってくる。手を伸ばしても届かない夢と挫折の哀しみが浮かぶから。

    『降っても晴れても』にはミュージシャンは出てこない。大学時代からの友人である男女3人(二人は夫婦になり、主人公は独身を通している)の話だ。これが笑えるし、身につまされる。
    「まだ四十七…その“まだ”ってのが問題。それと“ただ”ね。ただベストを尽くしているだけ。」古くからの友人に向けた言葉としては辛辣だ。でもこの後半は間接的に夫への当てつけだ。前半には、知らずに自分自身への苛立ちが滲み出ている。
    遣り手のビジネスマンだが、妻からのプレッシャーに参っているチャーリー。成功している男性と夫を比べずにはいられないエミリ。レイモンドは大学時代と変わらない気楽さを装っているが、語り口以上に切羽詰まった精神状態なのは明白だ。
    三人のコミカルながらも痛々しいやり取りが露わにするのは、前にも進めず後にも引けず、沈まぬよう必死に立ち泳ぎでもがいている姿だ。47歳という設定が絶妙。

    ラストで、エミリとレイモンドがダンスをする「パリの四月」は、甘い恋の予感を感じる歌詞とはうらはらにサラ・ボーンのヴォーカルは哀愁に満ちている。ーもう戻れない美しい季節を想い、慈しむかのようにー。

  • 読みながら途中で笑っていました。あんまり楽しくて。楽しいだけじゃない、もの哀しさも、こういうしがらみ分かる〜、っていうのもあったけど、短編のせいか気軽に読めました。二編目、楽しかったです。

  • 著者初の短編集だけれど、さすがの上手さ。
    品のいいユーモアと皮肉、人生のシビアさと美しさ。
    それらを縦軸に、音楽と世界の様々な風景を横軸に綺麗に織られている。
    これまでに読んだ彼の長編のように、読み終えた後で胸骨の中で反響し続けるような衝撃は薄いけれど、読んでしばらく経っても情景を鮮やかに思い起こせる。
    最初の短編の女性が再登場していることに、解説を読んで初めて気づいたのが悔しい…読んでいる時に自分で気づきたかった!

  • 翻訳なのに違和感がなくすいすい読めた。
    途中、シュールすぎて笑ってしまうシーンもちらほら…

    「メグ・ライアンのチェスセットって何だ。駒が全部メグなのか」
    笑ったwww

  • それぞれのある数日を切り取ったような、
    それでいて夢の話でもあるような不思議な魅力に
    あふれた本。
    「日の名残り」の原作者。

  • 2022年7月5日読了

  • 音楽と夕暮れを背景に、様々な男女の物語が描かれている短編集。優しい印象のタイトルとは裏腹に
    、作中の男女関係もいずれも現実的でかなりほろ苦め。

  • サラサラ、淀みなく^_^

  • 音楽を題材とした短編集。それぞれ独立した話だが、叶わない夢、危機的な男女の関係、ノスタルジーが共通テーマとしてあるように感じた。
    映画を観ているようで、読みやすい作品だった。
    特に[降っても晴れても]が、喜劇的で面白い。

著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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