あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

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著者 : 長谷敏司
  • 早川書房 (2009年8月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152090621

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)の感想・レビュー・書評

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  • 感想を書くのに苦労する話でした。
    普段ならば一回読めばそのまま感想を書けるのですが、この本は都合三回読みました。最初に何も考えずに読み、暫く期間をおいて再読して、そして感想を書くために読みました。それでも何を書くかに悩みます。

    面白いか面白くないかで言えば面白いのですが、何が面白いかと尋ねられると言葉に窮します。

    死の物語は読者の関心を強く引きます。それは死が万人にとって不可避なものであり、その事柄に一種の陶酔と憐憫を呼び起こさせることに起因しています。それをこの本は怜悧的に死を分解していきます。
    主人公であるサマンサは過去の栄光や道徳を投げ捨てて、自らの病気から逃避するために足掻き続けます。しかし病気は淡々と肉体を蝕み続けていきます。本著では激痛を伴いながら死へと近づいていく様子と必死に悪あがきを繰り返す主人公の様子が淡々と描写されています。
    それらに陶酔や憐憫を一切なく、それ故に闘病系の物語でありながら、ありがちな感動や同情は一切ありません。
    むしろ自らが打ち立てたカタストロフを自らが打ち崩しく事で、意図的に「感動した。泣けた」だけで終わらせる事を拒んでいるようでもあります。
    その執拗な描写からは、美化された死にまとわり付く甘美な陶酔を完膚なく破壊したがっているようにも見受けられました。

    「そして、サマンサ・ウォーカーは、動物のように尊厳なく死んだ」

    物語を締めくくる最後のこの一文に、本著のすべてが凝縮しています。死という終焉を前に、主人公の努力は一切何も報われません。
    そしてその結末が、物語中で仮想人格“wanna be”がサマンサに対して言ったように「言語から解放される一瞬」を作り出して居る事に成功しています。


    表題とは裏腹に、残酷な話でした。

  • 感想まとまらないからITPテキストで書き出したい…。「あなた」が誰かによって見かたが変わるとこがおもしろかった。

  • 肉体を持たず意味と感情で構成された知性にとって、恋をしてひとりであることをやめるとは、個体を失うことと同義だったのだ。恋とみずからの消失とは、《彼》にとっては、今日よりずっと前から結ばれていた。
    (P.267)

  • 本作のITPは脳神経をいじるナノマシン言語ということで、イーガンのTAPと比較されるものだろう。SFガジェットとしての意味合いはそっくりなのに両者の結論は大きく異なる。その違いはどこから来るのだろうか。

  • 優しそうなタイトルとは裏腹のハードなSFでした

    余命宣告された女性科学者が、自らが研究する人工知能を通し、迫りくる死と向き合う物語。人工知能に「物語を書かせる」という実験が物語に通底し、さまざまなイマジネーションをふくらまさせてくれる。
    自らの脳を人工知能に移して永遠の命を画策する主人公の姿を通し、結局は人間とは「身体」あっての「生」であることを痛感させる。そして、それゆえに「死とは何か」を描き出したこの物語は、読み進める辛さを感じさせながらも、「人間の生の素晴らしさ」を教えてくれているような気がします。

  • 割と天才な女性の死までの内的な葛藤がほとんど。SFなんだけど純文学的な。

  • サマンサは絶対的な死を前に物わかりよく悟ったりはしない。
    恨み、怯え、怒り、あらゆる醜態を晒し続けます。
    救いの手を拒み、無垢な愛情を受け入れられず、どこまでも孤独。
    ここには『尊厳ある死』などという幻想は存在しません。
    一匹の虫の死と変わらない、ひとつの命の終焉です。
    サマンサの死からジョブズの死を連想してしまいました。
    『灰色』に侵蝕されるとき、カリスマは何を思ったのか。
    少し知りたいと思いました。

  • サマンサ・ウォーカーが主人公。彼女は人口神経の最大手企業ニューロロジカルの創業者兼大株主、擬似神経工学の権威で研究チーム群の長。時は西暦2083年。彼女のチームは、ITPという言語で書かれた擬似人格が創造性を持ちうるかの検証のため、擬似人格wannabeに小説を書かせる実験を始めようとしていた。ほぼ同時期に、彼女は治療不可能な自己免疫疾患で余命が1年もないことを知る。
    wannabeが彼女のための物語をつむぐ一方、彼女は残された人生をITPの商品化の障害である感覚の平板化の解決に取り組む。
    物語の前半は面白いのだが、後半はやや説教くさいというか、重くてくどくて、エンターテインメント性は低い。読み手によって評価は分かれると思う。同じ作者なら『Beatless』の方がお勧め。

  • 間違いなく、この物語を読んでいる最中、私は言語を奪われていた。
    一人の女科学者が“死”に抵抗するも、社会の“慣性力”――人間を人間たらしめる“肉体”の軛 に屈服せざるを得ない行程が描かれる。

    彼女の最後の物語における重要な登場“人物”は、ITPテキストにより組み立てられた仮想人格。
    自らの希望とする未来をITPに見いだし最後の時間を捧げてきた彼女が最終的に辿り着いた結論には、虚脱感とともに一抹の切なさが残る。
    あちこちに哲学的思索への糸口となりそうなキーワードがちりばめられており、物語のさらに奥へと引き込まれた。

  • 経済的に成功した一人の女性の物語。脇役は仮想人格 wanna be。タイトルの「あなたの」は wanna be によるサマンサへの物語という意味だろう。でもでも、読者に対して、傲慢になるなよという継承を含んでいるのかも。穿ちすぎかな?

    なんか、読んだ後、説教された感じ。何か言いたいことを遠回りに物語にして悟らせているような...

    死を取り上げた物語なので、面白いという感想は微妙だが、読んで損はないかも。

    ただ、ITP があるのに苦痛をシャットダウンできないというのは矛盾しているような気がする。苦痛がないと物語が成り立たないのでしょうがないかもしれないけど。

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あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)の作品紹介

西暦2083年、ニューロロジカル社の共同経営者にして研究者のサマンサ・ウォーカーは、脳内に疑似神経を形成することで経験や感情を直接伝達する言語-ITP(Image Transfer Protocol)を開発していた。ITP使用者が創造性をも兼ね備えることを証明すべく、サマンサはITPテキストによる仮想人格"wanna be"を誕生させ、創造性試験体として小説の執筆に従事させていた。そんな矢先、自らも脳内にITP移植したサマンサは、その検査で余命半年であることが判明する。残された日々を、ITP商品化への障壁である"感覚の平板化"の解決に捧げようとするサマンサ。いっぽう"wanna be"は、徐々に彼女のための物語を語りはじめるが…『円環少女』の人気作家が挑む本格SFの野心作。

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