バレエ・メカニック (想像力の文学)

著者 :
  • 早川書房
3.39
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本棚登録 : 291
感想 : 56
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152090676

感想・レビュー・書評

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  • 昏睡状態の少女の夢想と東京の街並みが、一緒くたになったような感覚は、登場人物同様に、読んでいる私自身も幻想に囚われたかのような、美しさと恐怖を感じました。

    内容の全てを理解したとは思えず、正直、読んでいて難しく感じた部分も多かったのですが、根本は、もう一度会いたい人を、ただひたすらに求め彷徨っている人たちの哀愁がそこかしこに散りばめられているように感じました。

    第三章の、複数形の「トキオ」が、改めて個人の「外起夫」に戻る場面は、上記のこともあり、印象に残りました。

  •  ゼロ年代SFのベスト10に数えられる傑作だと思うけれど、要になっているのは語りだ。

     物語自体は、脳死で昏睡状態の少女が見る夢が都市を覆い尽くすというものなのだけど、幻想的なのはこうしたSF/ファンタジー的な物語設定だけではない。

     たとえば、主人公である少女の父が、退廃的な生活を送る天才芸術家で、娘に強い執着を持っているというきわめてクセの強いキャラクター造型もこの作品の強い魅力となっているのだけど、この主人公のキャラクターにしても、それだけでかなり強力な異化の作用を持っている。

     それに加えて、この小説の語りはこの主人公を「君は~」と二人称で呼びながら語りを進めていくのだけど、この二人称の語りは、幻想の生成、現実と幻想の混交の際にある効果を生み出していく。二人称は最も「実験的」で、つまり最も透明でなく、語り手を前景化する語り方だが、そうした語りを採用することで、読者と物語の距離を自在に操作してる感が強い。

     たとえば、おかしくなった世界で交通が不便な状況を打破するために、主人公はある方法をとるのだが、それ自体がきわめておかしく幻想的なもので、この場面を見た読者は、何がおかしくて何がおかしくないのか、めまいに似た感覚を覚えるはずだ。語り手についての情報がもたらされたときにも同様の感覚は起こるが、この小説にはそうした類のいくつものズレが挟み込まれている。

     不自然な語りは、読者が歪んだレンズを通してしか小説の世界を見ることができない感覚をもたらす。この小説における真の〈幻想〉は、少女の夢などではなく、語りがもたらしているものであろう。

     〈幻想〉の機構をあからさまにさらけ出した幻想文学の傑作と言えるだろう。

  • かねてから読みたかった、大脳を失い植物状態の少女が東京そのものを脳とする話。美しく生々しい混沌。極彩色の九龍城のよう。特に第一章は小説的というよりは長い長い詩のようで、前後がわからなくなることもしばしばあったけれど、文章を追うのにまったくストレスを感じなかった。最後の邂逅のシーンがたまらなく美しい。二章はもう少し読み込みたいが、第三章に至っては更に難解。手元に置いて脳に染み込ませたい一冊。「彼女」が好き。

  • SF。ファンタジー。幻想。連作短編。
    幻想小説の印象が強い。
    個人的に、物語が進むにつれて、だんだんと理解できなくなっていく感じが独特。
    基本的には苦手な作品。
    評価の高い作品だと思うので、自分の想像力が足りなかっただけでしょう。

  • “君”と“わたし”が誰なのか気を付けながら読まないと迷子になる。さらに、登場人物が今いる場所がリアルなのかどうかもよく分からないままストーリーが進行するので、迷子確率はそもそも高い。著者の空想が空想世界を創造した物語の中で、読者はその空想世界を漂うような感覚に陥る。著書の手のひらの上で弄ばれている感があるが、それがむしろ気持ち良い。

  • 脳死状態の理沙を探す人々の物語。内容を説明することがひどく難しい、SFというか幻想小説というか。
    目に見えるものが現実なのか、目に見える幻想なのか、そのラインが曖昧で、軸足の置き方も曖昧で。多分何度読んでもよくわからないだろうっていう、そういう感じがよいのかと。死に行くものはみなそれなりに満足していたのだろう。

  • 頭の中の普段使ってない部分を通して世界を知覚してるみたいな、不思議な時間を堪能した。読んでる最中に感じる牽引力とは裏腹に、読後感は静かで切ない。好きだな。良い読書体験だった。

  • 私の稚拙な頭でもっては話の半分も理解することができないが
    第1章のその混沌はあのPSの迷作『LSD』を思い出させる。
    理沙という少女の、可憐で確かに美しいさまだけは手に取るように感じられた。

  • 情景がずっと頭に残っている。主人公の最後、というか過程がすごくイイ。

  • わからなかった。でも嫌いではない。
    酩酊。混乱。幻想小説かな。

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著者プロフィール

1964年広島市生まれ。青山学院大学卒業。“津原やすみ”名義での活動を経て、97年“津原泰水”名義で『妖都』を発表。著書に『蘆屋家の崩壊』『ブラバン』『バレエ・メカニック』『11』(Twitter文学賞)他多数。

「2023年 『五色の舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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