神の棘 2 (ハヤカワ・ミステリワールド)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 305
感想 : 64
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  • Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152091512

作品紹介・あらすじ

1940年代、次第に狂気を暴走させるナチスドイツ。SS将校アルベルトはユダヤ人虐殺部隊と怖れられた特別行動隊の任務に赴き、この世の地獄を見る。一方、司祭を志していたマティアスも衛生兵として召集された前線で、自らの無力を噛みしめていた。地獄の底で再会した二人は、思わぬ共通の目的の下、ローマを目指す。その先に待つのは、絶望か、希望か。心を揺さぶる衝撃の結末が待つ歴史ロマン巨篇完結。

感想・レビュー・書評

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  • そこひっくり返してきましたか
    いやいやとても完成度の高い作品でした

    しかしながらやはり読んでいて気になったのは
    果たして須賀しのぶさんは宗教に対して肯定的なのか否定的なのかあるいは中立なのかというところでした
    自分が感じたのはその3方向それぞれに揺れ動いているような感じです
    ちなみに中立というのは肯定と否定の間にあるわけではなくあくまで三角形のそれぞれの頂点というイメージです

    そしてあの暗黒の時代に宗教(カソリックと限定してもいい)が果した役割とは何だっのか考えさせられます
    そしてそれこそがこの作品の主題であることは『神の棘』という題名からも明らかなのではないでしょうか

    自分自身は父親の葬式はお寺であげ、新年には神社に初詣に行き、クリスマスに浮かれる典型的な日本人で
    神様の存在は自分にお願いごとがある時だけ湧いてくる人間です

    なのであまり「神」という存在を真剣に考えたことはありませんが
    もしあのユダヤ人の虐殺が『神の棘』だとしたら
    そして命令されあるいはそれが正しいと信じさせられ虐殺に手を染めたことが『神の棘』だとしたら
    そしてそれが「赦される」ためのものだとしたら
    そりゃあないだろうと
    それを納得できる精神構造こそ理解出来ません

    また作中で宗教は常に敵役を求めているという記述があり
    恐ろしいことですが少しだけなるほどと思うところがありました
    悪魔がいなければ神も必要とされないということです
    これは神が神として存在しうるために悪魔を生み出しているあるいは悪魔が生まれるのを歓迎しているともとれます

    ならば今現実の世界で行われている悪魔の所業も神が用意した棘なのでしょうか
    止められない私たちに刺さった棘も一緒にいつか赦されるのでしょうか

  • 革命前夜の時にも思ったが、これだけのスケールこれだけの魅力的なキャラクターこれだけのストーリーで、感情的にもっと盛り上がりそうな気がするのだけど、物凄く抑制された美学、というか、読了後(ああ、そうだったのか)と静かな感動を与えてくれる大人な本(決してつまらないわけではない)でした。1巻でナチスドイツの将校のアルベルトに惹かれてはいけない、いけない!と思いながら読み進め、2巻でのまさかの展開に撃沈。いい男すぎる。(イルゼの告白がちょっとくどかった。)
    須賀さんは1冊の中にその時代全て描き切ろうとするのか、背景の説明に多くページが取られてしまう気がする。

    • お砂糖さん
      「静かな感動」に、まさにその通りです…!といいねを押してしましました。

      時代背景の描写が盛り沢山なせいか、読むのに時間もパワーも入りま...
      「静かな感動」に、まさにその通りです…!といいねを押してしましました。

      時代背景の描写が盛り沢山なせいか、読むのに時間もパワーも入りますよね…!
      こちらもフォローさせていただきました、読書の参考にさせていただきますね(*^_^*)
      2017/02/05
  • 面白かったー。読ませるなぁ。
    ずっしりした内容だっただけに誤字だけほんと残念。

    須賀さんの読みものだなぁとしみじみした。
    『芙蓉千里』とかは少女小説の要素も強いと思うけど、
    これはより全範囲をターゲットにしている。

    こんなことが歴史の中であったのかと圧倒される。
    アルベルトがナチスに入ったのが、ただたんに職業としての選択っていうのが意外だった。当時はその程度の認識だったんだろう。
    だけどこんなに過酷なものに巻き込まれていく。

    歴史には詳しくないけど人間の物語として飽きなかった。
    というか、人間の物語が歴史なんだよなぁと。
    キリスト教もナチスも怖い。

    ラストに向かっていく中でどんどん本当が明らかになっていく。
    溜め息出ちゃうような展開で。アルベルトが悲しすぎて。

    このラストへ向かってミステリーの要素が強くて、
    だからハヤカワから出ているのか、という感想を見てなるほど、と思った。

  • 歴史に詳しいわけではなかったですが、ユダヤ人はなぜ虐げられてきたのか?ナチスに傾倒していったのはなぜなのか?一端が少しわかった気がします。戦争が始まるきっかけや終焉までにはもちろん詳細な事実があり、それぞれ立場が違えは見方も変わると思います。革命前夜、また桜の国で、の2作品を先に読みました。それぞれ時代、立場が違う作品を読んで、この作家さんは歴史の検証をしながら本当にその場にいたかのように登場人物の目を通して書かれているので引き込まれてしまうなぁと思います。
    人ひとりひとりは家族や友人をを愛したり護りたい。それぞれのささやかな幸せを守りたいだけなのだなと思いました。しかし世情への不満、その時の限られた選択で間違った道へも突き進んでしまう。それの行き過ぎた形が戦争、戦争中の差別、虐殺へと繋がってしまう。人間の思考はそんなに変わるものではないと思われるので歴史から学び間違った選択をできるだけしないことが大切だと思いました。神を信じることについても作品の中で登場人物が葛藤するのをみながら自分の宗教観についても考えさせられました。
    この作品はミステリーと名のつく通り、ここで繋がってるのか!と夢中に読み進めました。アルベルトの潔よい人生はかっこいいですが、ならこそ救われて欲しかったと涙が止まりませんでした。

  • 須賀さんの小説は、歴史に疎い私でも理解できるよう背景や宗教観をしっかり描きながら物語が進むので、ずっしり重たく、読み進めるのに時間がかかりました。

    ただ、読み終わったあとに残るのは物寂しい切なさというか。良い意味であっさりというか静かに浸れるような読後感でした。

    上巻の後半辺りからずっとアルベルトの人となりがよくわからなくて。善人、悪人というカテゴリに当てはめるのは無理なんだなと思いながら読んでいました。

    ナチスがどれだけひどい迫害を行ったのか、事実としては知っていますが、ナチス、ドイツ側からたとえフィクションであっても描かれたものを読んだのは初めてだったので色々と考えさせられる部分がありました。
    戦時中の悲惨な様子。結局、米軍の占領下におかれることは、ナチスにとって変わっただけだと言う一般市民たち。ユダヤ人亡命には手を貸さなかったのに、ナチス幹部の逃亡には手を貸すヴァチカンの枢機卿…。

    イルゼの告白以降からは、どうにかアルベルトが絞首刑を逃れて、罪を償い終えた暁に穏やかな人生が待っていればいいのにと願わずにいられない、そんな人物を描く須賀さんの手腕に毎度毎度はまってしまうというか。

    マティアス、アルベルトという、時代に翻弄され、利用し利用され(アルベルトが一方的に利用していたような気もしますが)、憎みあっていたふたりが、あのようなラストを迎えられたこと。
    いろんなものに涙が止まらない一冊でした。

    • chie0305さん
      「神の棘」「革命前夜」どちらもとてもいい本でしたよね。「また、桜の国で」も、もうすこし時間が経ったら読みたいと思っています。(須賀さんの本を...
      「神の棘」「革命前夜」どちらもとてもいい本でしたよね。「また、桜の国で」も、もうすこし時間が経ったら読みたいと思っています。(須賀さんの本を続けて読むのはパワーが要るので…)本棚を拝見させていただいて何冊か気になる本があったので、フォローさせて下さい。
      2017/02/04
  • 1947年9月以降、涙止まらず・・・
    1巻の途中、イルゼが出奔したあたりから、アルベルトの真意というか、この人いつレギメント側になるのかしら?と思いながら読んでた。なるはずはないけど、と思いながらも。

    他人からしてみたら、過酷なことだったのかもしれない。
    でも、アルベルトは自分の信念に従い、最後まで生きた。ナチにありながらも、恐怖と脅しによって上層部からの命令に従うわけでもなく、脅迫と暴力をもって部下に当たるわけもなく。あの時代において、自分の目で見て頭で考えて、なにに流されることなく。
    とはいえ、イルゼのことその1点にかけては、ナチの力に屈してしまったが。

    結局、アルベルトが何を考えどうしたかったのか、は誰にも本心がわからないまま。でも、終章でのイルザの告白によって、アルベルトの本当の強さがわかる。

  • アルベルトは淡々と読者を欺いた。

  • こう言う小説は読み終わった後、なかなかレビュー、感想を書くのに時間が掛かる。書きたい事、言いたい事がけっこうあるのに、書き始めるとあれもこれもと纏まりがつかなくなる。時間を置いた方が冷静に感想書けると思うが、時間を置くと感動もまた薄れるのではないか。
    と言うのもこの小説が、第2次世界大戦時のドイツ及びその周辺国で行われた「ホロコースト」と戦後処理の惨状を描いているからである。
    「ホロコースト」がどういうものであったかは後世の我々はよく知っている。ネットでも、本でも、「ホロコースト」に関する情報は溢れる程にある。そこには、読めば読む程、調べれば調べる程、嫌悪感が募り、吐気さえ催す記事が書かれてある。
    しかし、これは実際、間違いなく人間の行った「蛮行」である。指示した者も、直接手を下した者も、間違いなく人間である。彼らは、どうやって「良心を黙らしたのか」或いはどうやって「良心を欺いた」のか?それとも、元々「良心と言うものは無かった」のか?
    この小説では「指導者原理」に言及している。でも、この小説の中でも「指導者原理」は偽物であることを明言している。
    「ホロコースト」を実行した者達は、この偽の原理を盾に「良心を欺いた」のか?
    この小説の主人公アルベルト・ラーセンもこの「指導者原理」を使っているが、アルベルト自身、この「原理」を信じてはいない。SSの将校である彼は、上司の命令に従って淡々と、任務を冷静に遅滞なくこなす。ユダヤ人や心身障害者を、なるべく恐怖、苦痛が長引かないよう考えてガス室に送る。そこに心理的弱さはない。
    彼は「良心」以上に守らなければならない大事なものがある。妻、イルゼである。
    全ては、妻を守るための行動である。ただ、妻を守りきった後は、今度は何を守ったのか?
    彼の部下だった者は戦後の裁判で、「全ては上司(アルベルト)の命令で、単に命令に従っただけ」と自分の無罪を叫ぶ。その彼は任務遂行時、アルベルトを崇拝し、アルベルトの後ばかり付いて動いていたけど。
    アルベルトは見て見ないふりをして助けた子供達や村のことも何も言わない。見ないふりが出来ず見殺しにせざるを得なかった人達が、それ以上に大勢いたから。彼が守ったもの、守りたかったものは何か? 彼は事実以外何も言わず、死刑台に登る。見える事実と見えない真実は違う!

    もう1人の主人公、マティアス・シェルノは聖職者である。彼は、ナチスの主義主張政策を批判し、ナチスの非人道を暴き、世間に訴えようとしている。彼の言動はナチスに反対する多くの人の力となるが、その反面、彼に関わった多くの教会、修道院や司祭、司教たちがナチスの迫害にあう。
    マティアス、彼は常に崖っぷちを歩いているようなものだ!一歩踏み外せば、死の底まで転げ落ちる。そして何度か踏み外す。死ぬ直前で助けてくれたのは、数少ない仲間だったり、軽蔑していた貴族、ブルジョアだったり、そして敵のアルベルトだったり。マティアスは死の淵から逃れるたび、神を身近に感じる。
    神は「弱い者たち」に寄り添っている、と増々感じるようになる。
    神は寄り添ってくれる。なら、神の代理人は?
    教皇はマティアスに、「ユダヤ人」のため祈ると言ってくれたが、結局しなかった。どんな理由があったのか?どちらにしようがユダヤ人は見捨てられたままだったろうが。
    アルベルトの言葉、
    「教皇が俺よりはましな人間か知りたかったのさ。どうやら違ったようだ。」
    戦後のナチスドイツに対する連合軍の報復が酷かったのは、戦争があまりにも壮絶だったための憂さ晴らし。「ユダヤ人、心身障害者」の恨みを思い図った訳ではない。「非道」はナチスドイツの専売特許ではなく、米軍収容所でのドイツ人捕虜への劣悪な待遇は、明らかに「ジュネーブ協定」に反している。

    この小説の題名「神の棘」とは、一体何を指しているのだろう?
    作者には色々な思いもあるだろうが、小説を読んだ後の感想は読者のもの。
    今現在でも戦争や内乱、迫害、そして人種や性別などによる「酷い差別」も地球上の何処かで起こっている。
    歴史上のこういう「非道」を見る限り、神(私を含めて無神論者が多い日本人には理解しにくいが)は常に「沈黙」している。
    そして現在も神は「沈黙」している。
    しかし、こういう歴史を振り返る時、人が何かしらの「痛み」を感じられるようであれば良いなと思う。大きな「痛み」でなくていい。チクチクと普段はそれ程感じないが、ある時思わず「いてー!」と叫ぶような。刺さっているが気にならないけど、確かにある「棘」のような。人類の歴史に刺さっている「神の棘」のような。

    やはり、読み終わって直ぐ書こうとするとグチャグチャになる。纏まりが付かない、言いたい事が伝えられない、拙い言葉の羅列ばかりになる。
    とは言え読み終わって直ぐの感想は、それはそれで、私にとっては大事なものであろうと思う。まぁ、時間が経ったらもう1度読んでみようか。違う感想になるかもしれない。

  • 戦争の恐怖や愚かさが淡々と綴られている中で登場人物たちがどう考え、行動していったかが繊細に描かれていた。
    是非最後のシーンは自分で読むべきものだと思う。

  • 私はプロテスタントにしか関わらなかったので、カトリックの決まりごとに特に惹かれた。死ぬ間際人々は言葉より物質的なものにすがりたくなる、なんとなくわかるような気がする。
    終わっちまった!
    重かったな~。
    アルベルト、いい人物だった。
    10年後に再読したい。

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著者プロフィール

『惑星童話』にて94年コバルト読者大賞を受賞しデビュー。『流血女神伝』など数々のヒットシリーズを持ち、魅力的な人物造詣とリアルで血の通った歴史観で、近年一般小説ジャンルでも熱い支持を集めている。2016年『革命前夜』で大藪春彦賞、17年『また、桜の国で』で直木賞候補。その他の著書に『芙蓉千里』『神の棘』『夏空白花』など。

「2022年 『荒城に白百合ありて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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