華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
4.17
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本棚登録 : 977
感想 : 166
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152091635

感想・レビュー・書評

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  • 華竜の宮。というタイトルから連想される華やかさやファンタジックな設定とは全く違い、人類が滅亡へと足掻く中で、それでもなにかを成し遂げようとする、その姿を真摯に描いた作品。
    昨年、日本SF対象受賞作だが、著者は最後まで小松左賞を受賞し作家としてのスタートを切ったことを、誇りにしていたようだ。
    その意味からしても、この作品は、十分にその賞に意味があったことを、少なくともこの作家を、この作品を生み出したことの意味を確信させられることとなった。

  • とても壮大で読み応えのあるSF小説(なんたって586ページで2段組)。
    作りこまれた世界観の美しさが印象的です。
    個人的には、面白くて一気読み!という感じの本ではなく、じっくりと作品世界に浸る感覚が楽しめる感じの本だったと思います。

    急激な海底隆起によって陸地がほとんど水没した25世紀の地球が舞台。
    そこでは、残された土地と海上都市に住む高度な科学技術をもった〈陸上民〉と、広大な海で〈魚舟〉と呼ばれる生物船に乗って自然の中で生きる〈海上民〉がお互いに住み分けて暮らしています。
    やはり豊かな社会に生きる〈陸上民〉の方が、厳しい環境の中で生きる〈海上民〉よりも権力を持っており、そんな両者の政治的な対立がとてもリアルに描かれています。

    とにかく凄いと感じたのは、細かく作りこまれた舞台設定。〈陸上民〉は〈アシスタント知性体〉という人格を持つプログラムを脳内に介入させて高度な情報ネットワーク社会を実現させていたり。
    〈海上民〉は〈魚舟〉という生物船(一体どういう構造になっているのか、ちょっと想像できませんでした。クジラみたいな感じなのかなぁ?)を唄で操って生活していたり。
    さらには、〈魚舟〉が変異した〈獣舟〉という獰猛な生物が地上に上がってきて人を襲ったり。・・・と色々細かい設定が満載。

    正直最初は、設定(特に科学的な説明部分)を理解するのにいっぱいいっぱいで挫折しかけました。
    でも慣れると、この世界観、ハマります。

    重厚な舞台設定もさることながら、この小説は政治的な駆け引きもかなり深いです。
    物語の中心人物が外交官なので、各方面の様々な思惑が入り乱れて世界が成り立っている様子がよく分かります。
    彼がこの物語の中で人類のために成し遂げたことは、その後人類が直面する世界レベルの危機の前ではほんの小さなことに過ぎません。
    そんなわずかな努力ですら、利己的な政治上の理由によって妨害を受け、思うようにならない様を見ていると、結局人間は大きな危機を前にしても足を引っ張り合うことしかできないのだろうか、と悲しい気分になります。
    でも、きっとそんなことはないはず!と信じたくなるラストの描き方には胸が熱くなりました。

    この物語は、日本の外交官である青澄、海上民の長の女性・ツキソメ、海上民でありながら陸上民の政府機関に関わるタイフォンなど様々な立場の人物の視点から描かれています。
    しかし物語全体を通して考えると、主人公は青澄のパートナーであるアシスタント知性体のマキだろうと思います。
    人間ではないマキの視点を通しているからこそ、「人類」という地球で生きる一つの生物が絶滅の危機を前に、種の存続を図ろうとあがく姿を鮮烈に感じられた気がします。

    この作品を手に取ったのはたまたまで、この作家さんも今まで知らなかった方なのですが、どうやらこの作品は『SFが読みたい!2011年版』というランキング本で国内篇1位だったそうな。
    結構SFの世界では有名な作品だったのですね…。

  • 読了してしばらくたった今もまだ思い出す度に興奮する。
    今まで読んだSFの中でもトップに近い!好みの作品。

    未来天変地異が起きた後の地球の物語。

    なにより異形の造形、袋人、ルーシィ、…一枚の絵画のごとくシーンが映像となって文章からこぼれ落ちてくる。
    ただのパニックものではなく官僚・外交官の交渉、末端の人々、獣舟、魚舟、生きるすべてのものが問い掛けてくる。
    滅びを前にどうするのか。
    どう生きるのか。どう繋ぐのか。
    圧倒された。

    人間と知性体との関係もすごく好みなので、この設定でまた読みたい。

  • 最高 世界観、キャラクター、緻密な設定
    とんでもない小説
    この世界観だけで白飯3杯はいける
    二次創作への展開とか、短編集の展開とか、どんどんいける
    これが好きな人は『深海yrr 』とかゲーム『サブノーティカ』とかも好きと思う

  • 世界観が完璧すぎる!!
    多くの陸地が失われた25世紀のお話。
    陸上民と海上民と別れて生きている人間たち。
    海上民は、魚船と共に暮らしている。
    陸と海の民の確執、陸の組織たちの思惑、陰謀が事細かく表現されていて、まるでその世界にいるようだった。
    海上民と魚船の結びつきがとても深く、音でやりとりする様子などは、とても幻想的だった。
    タイファンと月牙の関係も素敵すぎる。同じ時に生まれた、海上民と、魚船。双子のような関係なのか。
    また、と青澄と、マキの関係も単に機械と人間ではなく、青澄の心によりそうパートナーとして、深い結びつきを感じた。
    青澄の外交官としての矜持は、感動してしまった。希望を感じる読後だった。

  • 政治

  • SF作品としては中々に重厚な設定で,地球惑星科学から地政学,交渉術まで幅広い知識を総動員したものとなっている。500ページ超の上下2段組という量を読み切るだけの,バランス感覚としての筆力にも優れる。

    エンターテイメントとしての質は高いことは前提で,-1点したのはcriticalの欠如への疑問による。SDGsみたいで。

  • ダメだった。合わなかった。

  • 世界設定とか生物的設定など本当に起きえるシミュレーション的SFなんだろうけど…硬い!結局は政治とかお役所仕事…。青澄のキャラも実際にいたら友達にはならなさそうなタイプだ。もう少し、青澄のことを知れば見方が変わってくるのかも知れないが。

  • 海と陸に住む。

    この世界も利権者がはびこる世になっていかなければ良いが…

    アシスタント知性体は、これからの未来近いものが出来そうでは。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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