繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(下)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152091659

作品紹介・あらすじ

交易なくして農耕は成り立たなかった!「自給自足」はいかなる豊かさも生み出さない!都市化と化石燃料と化学肥料がもらたらされたからこそ、労働・生活環境は向上し、食糧危機を免れ、しかも自然をここまで保つことができた!そして技術革新を促すのは、資本でも知的財産権でも政府でもなく、「共有」である-。人類史上の各種の定説や常識を、著者は膨大な資料とデータにもとづいて次々と覆していく。人類の歴史はつまるところ革新の歴史だ。そしてイノベーションは累積的に拡大する。では、これらを踏まえた先にわれわれを待ち受ける未来とは?名著『やわらかな遺伝子』の著者が、圧倒的な説得力で謳いあげる「合理的楽観主義」宣言の書。

感想・レビュー・書評

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  • ザ・楽観論。

    次々と悲観論的テーマに対する論破を試みる態度は小気味良い。また、大半は書かれている通りで、拠り所となる「過去との比較」において、現代が良くなっている事に異論はない。しかし、「未来の予測」について、楽観論が通用するかというとこの点の根拠は乏しい。地球温暖化は起こり得ないか、起こっても大した事ないという言説は確かにそうかも知れないが、実際どうだろうか。やや、確証バイアスっぽい語り口だ。

    そもそも、人類の発展は「悲観的なアクシデントと悲観論的予測」から、軍事防衛や教育、機械安全や衛生、予防医療などの社会制度やインフラを備えてきた。楽観論は悲観論に裏打ちされた態度であり、ノーテンキであっては直ぐにこうした基盤が瓦解する。悲観し過ぎない程度、が良いだろうか。

    とは言え、著者が言う通り、悲観的遺伝子は楽観的遺伝子より多いらしいので、気にせずとも人間は楽観的過ぎて失敗するようにはできていない。よく考えずに狩猟に臨んだ人たちが真っ先に死んでいった結果だろう。

    人口増え過ぎ問題について。出生率は世界中で低下している。1960年以後に出生率が上がっている国は皆無だとし、この理由には、赤ん坊の死亡率の低下、富裕化、女性解放、都市化を挙げる。どれも良い事に見えるが、それらが齎す人口減という結果は、良い事か否か。食料問題を回避できそうという一点では良いかも知れないが、「人口が減る」というのは人類が望む事なのか。少なくとも、資本主義には有り難くない現象だ。例えば、このテーマにおける楽観的立場とは何か。楽観とはそもそも何か。人類の目指すものという視点に照らして考えねば。

  • 悲観的な主張が、メディア・世論を牛耳っている。「未来は明るい」なんて、声を大にして言えない空気が蔓延している。
    この本を突き動かしているのは、「楽観主義」。言い換えれば、酸性雨や食糧難など、実際のデータとはかけ離れた予測で人びとを恐怖に陥れてきた「悲観主義」への筆者の怒りであり、挑戦なのだ。
    読後感はとてもよい。「楽観主義」には、人に前を向かせる力がある。「悲観主義」はあきらめしか生まない。あきらめからは何も生まれない。人が前を向き、テクノロジーの発展を止めたら未来はない。
    世界の厳しい現状と、未来への絶望しか子供たちに伝えられない世界より、「“地球温暖化”だって“アフリカの現状”だってきっと解決できる。未来は明るいんだよ。君たちがもっとテクノロジーをつないで、すばらしい未来を作っていくんだ。」そう伝えられるほうが、どんなにいい世界だろう。

  • 数冊置いて、上巻を受けての下巻を読む。
    著者に言わせれば、悲観論を唱えていればもてはやされ、楽観論を提唱すると馬鹿だと思われるのだという(いや、そこまで直截な表現は使ってないけれど)。根深い悲観論に真っ向から対峙し、人類の「繁栄」の歴史を楽観的に辿る歴史観の完結編。現代の代表的な悲観論である「温暖化」と「アフリカ」も克服可能と謳う。

    前巻同様、曇りなく歯切れのよい明るさである。
    気持ちよくさくさく読みながらも、どこか納得いかなかったのは、著者にとってなぜそれほど悲観論者が「敵」なのかが今ひとつ見えなかったためだ。アンチテーゼはテーゼが強大であってこそ意味があるものだろう。著者が長じるまでに悲観論に苛立ちを覚えてきたのはわかったが、だからといってここまで戦うべき相手なのかがよくわからない。
    だが最終章で、著者の目指していたものがちょっと見えたような気がした。楽観論の立場を取っているからといって、著者は現代社会に問題が皆無だと言っているのではない。乗り越えなければならない大きな問題ももちろんあるけれど、ノスタルジーに任せて退行するのでもなく、ないものとして無視するのでもなく、「解決できる」と信じて、事に当たろうと主張している。
    一番大きな目標は、絶望せず、思考停止に陥らず、合理的に問題を解決しようということなのだ。
    最終章でちょっとじぃんとした。私は合理的楽観論者にはなれないかもしれないけれど、根本のところでこの著者の姿勢は信じられる、と思う。

    *しかしこの大災害を見てしまうと、楽観的であれ悲観的であれ、未来についてあれこれ考えるより、予測を超えたことが起こっても絶望せずに対処する力をつけるのが先決かもしれないなぁとも思う。予測する努力はし続けるとしても。

    *本の内容とはまったく関係ないのだけれど・・・。図書館で借りたこの本、製本の具合が今ひとつで、開いた後、表紙の部分が引っかかってなかなか閉じないことがあり、ちょっと難儀した。本がちゃんと閉じるって、実はきちんと作ってあるってことなんだなと変に感心してしまいました(^^;)。

  • 上下巻通してなかなかおもしろい。未来の予測はどうなのか判断できないけど、悲観的な人間におすすめ。





    しかしこういうのってなんだか一人の人間の力を超えている感じもする。人雇ってプロジェクトチームみたいなのを作って書いてるんじゃないのかな。









    「高級フランス料理の世界は三つの規範によって成り立っているという。・・・第一に、シェフは他のシェフのレシピをそっくりそのまま真似てはいけない。第二に、シェフが別のシェフにレシピを教えた場合、教えられたシェフは許可なくそのレシピを他のシェフに漏らしてはならない。第三に、シェフは最初に技術やアイディアを思いついた人に敬意を払わなければならない。こうして三項目におよぶ規範は、特許、秘密保持契約、著作権と同じ機能を果たしているのだ。」p.115

  • 人類の歴史を都市化、イノベーション、地球温暖化という視点で見た興味深い1冊。交換と専門化、マルサスの罠、人口転換、イノベーション、DDT,ヒートアイランド現象、気温3℃上昇、技術革新は共有から、人口増加がイノベーションを阻む等新たな視点が得られた。

  • 人口増加がイノベーションを阻む考え方は独特。

  • ・人間開発指数が0.94を超える24カ国のうち18カ国で、繁栄が一定レベルに達すると出生率がわずかに上がる第二の人口転換が明らかになっている。例外は日本と韓国。
    ・自然資源を所有・利用・利益を得る権利を地元の人に与えれば、資源は大切に保護される。所有権を認めなければ、その資源は破壊され、無駄にされる。
    ・気候変動と費用を検討したスターン・レポートでは、二酸化炭素の費用を2倍高く設定し、2%前後の低い割引率を用いた(22世紀の損害の見かけの費用を100倍に見積もる)。IPCCのシナリオでは、2100年には現在の4〜18倍豊かになっているとしている。
    ・海洋のpHは8.1で、2050年までに7.95まで下がると考えられるが、過去1億年ほどの大半と比べて相当に高い。酸性度が高くなり重炭酸イオンの濃度が上昇すると、サンゴなどの生物による炭酸イオンとカルシウムの析出が促進され、成長を促進する。
    ・放射性廃棄物の放射能レベルは、2世紀で10億分の1に低下する。

  • 自由交易は相互の繁栄をうむが、保護主義は貧困を生む。

    リカード理論

    人間には交換と専門化の習慣があるため、古き良き時代のマルサス的人口抑制がじつは人間には当てはまらないことを示唆している。つまり、食糧供給量に対して人数が多すぎるとき、人間は飢餓と疫病で死ぬのではなく、専門化を強めることによって利用できる資源で生存できる人の数を増やすことができる。マルサスの危機は人口増加の結果として直接生じるのではなく、専門化の衰退によって起こるのだ。

    人間の繁殖力が低下した原因とは?
    逆説的な話だが、子供の死亡率の低下だ。
    赤ん坊が死ぬ可能性が高ければ高いほど、親はたくさん産む。
    もう一つの要因は富である。収入が増えるということは、多くの赤ん坊を養えるということだが、ひっきりなしに子を産む気などなくすような贅沢もできるということだ。女性解放、都市化。
     人間という種は、個人が自給自足をしようとするよりむしろ、みんなで物資とサービスを交換し合うまでに分業が進むと、自らの人口拡大を止めるのだ。
    私たちはみな相互依存して暮らしが豊かになればなるほど、地球の資源でやっていける範囲内に人口を安定させる。

    再生可能でない、地球にやさしくない、クリーンでないエネルギーに頼るようになってはじめて、経済成長が持続可能になった。

    もし化石燃料がなければ、青銅器時代の帝国が実際そうだったように、1パーセントのひとがまともな生活水準を保つためには、99パーセントのひとが、奴隷として生きなくてはならなかった。

    土地をむさぼり食うモンスターのような再生可能エネルギーを地球にやさしいだの、人道的だの、クリーンだのと呼ぶのは私には奇妙に聞こえる。

    バイオ燃料
    貧困者は収入の70%を食べ物に費やしているのだ。事実上車を運転するアメリカ人は自分の車のタンクを満たすために、貧しい人々の口から炭水化物を奪ったのだ。

    自然に均衡はない。あるのは絶え間ない活動のみだ。

    イノベーションは、短い間に激しく燃え盛り、どこかに飛び火してして消えてしまう山火事みたいなものだ。
    どの国も知識を生み出すリーダーの座にながくとどまってはいない。一見して、この事実には驚く。
    ことの問いに対する答えは社会制度と人口だ。
    社会にイノベーションが起きると、一定の土地に対して人口が増えすぎ、発明家が必要とする自由な時間や富、市場が減ってしまった。また官僚はあまりに多くの規制を課し、支配者はあまりに多くの戦争をはじめた。
    繁栄と成功はさまざまな略奪者や帰省者を生み出し、ついにこれらの人々によって金の卵を産むガチョウは殺されてしまった。

    科学はテクノロジーの母というより娘だ。
    あなたなら携帯電話や検索エンジン、ブログをいったいどの科学者の功績に上げるだろう。
    産業革命後期も、原理がまるで理解されないままに発達を遂げたテクノロジーの例には事欠かない。

    イノベーションを生み出す方法は資本と人材を揃えることだ。
    企業の研究開発費は現状維持にしか興味のない経営陣に牛耳られている。
    企業が成長していく上でもっとも危険な瞬間は成功を収めた時だ。なぜならそのときイノベーションを忘れてしまうからだ。
    企業が採用できる一つの解決法は、社員に起業家のように自由に振舞わせることだ。

    今日のアメリカで新たに特許をいちばん多く取得しているのはパテントトロールと呼ばれる一連の企業だ。彼らの意図はこれらの特許を利用して実際に製品を製造することではなく、自社の特許権を侵害する相手に対して訴訟を起こして金を稼ぐことにある。

    イノベーターの仕事とは「共有」することなのだ。
    ほとんどのすべてのテクノロジーは雑種なのだ。これが文化の進化が遺伝子のそれに対して持つ利点だ。
    拡散効果ー他者があなたのアイデアを盗むという事実ーは発明家にとってたまたま起こる厄介な欠点などではない。それがイノベーションの真骨頂なのだ。

    人生がよくなっていると信じまいとうる集団心理
    人々は自分個人に関しては楽観的である反面、社会全体に関しては悲観的だ。

    ここまで私たちは、人間の営為の明るい側面を眺めてきた。人口爆発はいずれ終わりをつげ、エネルギーはにわかには枯渇せず、人間がモノやサービス、アイデアを交換し続けられる限り、公害、疾病、気が、戦争、品行はいずれも減少してゆく、と主張してきた。
    事実を真摯に見直すなら、この先90年でアフリカは繁栄するし、悲惨な気候変動も起こらない可能性のほうがはるかに高い。
    援助によって経済が成長した証しのある国を見出すことはできなかった。
    世間を騒がす警告の数々は、優生学や酸性雨、精子数、癌のときと同じく誇張されすぎている。来世紀に起きる地球温暖化は悲劇的というよりは穏やかなものだ。
    本書は気候に関する本ではなく、人類と人類が持つ変化に対処する能力に関するものだ。
    地球の気温は今世紀中に3℃上昇するを文明は生き延びることができるのか?

    世界の貧困層が二酸化炭素を放出し続けながらも、いまよりずっと豊かに1世紀にわたって生きられる可能性が99%あるのなら、その可能性を彼らから奪い去るし書くが私にあるだろうか?

    人間社会をトップダウンの決定論の産物として解釈するのではなく、遺伝子の代わりに文化の変異体が自然淘汰されてきた長い歴史のさんぶつ 。そして個々の取引の見えざる手によって発生した双発的な秩序として解釈しようと試みた。

  • 現代は過去より確実に良い世界だ。未来も必ず現代より良い世界になるだろう。必要なことは自由な経済活動と自由な社会。という論。そしてそれを証明するエビデンスをひたすら例証していく。世の中には悲観論が満ちているが、それは過去からずっとそうだった。だが結果として人類はより幸せになっているじゃないか!という本。確かに。人間って批判しないと何かした気にならないとこがあるよね(会社のえらい人を見てるととてもそう思う)。だから悲観論のほうがなんとなく、インテリっぽいっていうところはあると思う。

  • 歴史
    社会

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著者プロフィール

世界的に著名な科学・経済啓蒙家。英国貴族院議員(子爵)。元ノーザンロック銀行チェアマン。
事実と論理にもとづいてポジティブな未来を構想する「合理的楽観主義(Rational Optimism)」を提唱し、ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)、マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)らビジネスリーダーの世界観に影響を与えたビジョナリーとして知られる。合理的楽観主義をはじめて提示した著書『繁栄:明日を切り拓くための人類10万年史』(早川書房)はゲイツ、ザッカーバーグが推薦図書にあげている。グーグルには3度招かれ講演を行なった。
1958年、英国ノーザンバーランド生まれ。オックスフォード大学で動物学の博士号を取得。「エコノミスト」誌の科学記者を経て、英国国際生命センター所長、コールド・スプリング・ハーバー研究所客員教授を歴任。オックスフォード大学モードリン・カレッジ名誉フェロー。
他の著作に『やわらかな遺伝子』『赤の女王』『進化は万能である』などがあり、著作は31カ国語に翻訳。最新刊である本書『人類とイノベーション』は発売直後から米英でベストセラーを記録している。

「2021年 『人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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