サトリ(下) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

  • 早川書房
3.60
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感想 : 42
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152092090

感想・レビュー・書評

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  • 文章そのものにほんのちょっぴり違和感があるのですが、原著のせいなのか翻訳のせいなのかはよくわかりません。テンポもストーリーもよくてそれなりのサプライズも◎なんですが、主人公がちょっとランボー的なのと、もう少し先まで書き切って欲しかったのとで★一つ減らしました。

  • 賛否両論あると思う。その前提は「シブミ」に対する印象も大きい。「シブミ」を傑作だと思っているムキは、辛口になるのでは。一番痛かったのは、この作品ではニコライ・ヘルが何も「悟れていない」こと。

  • ページを繰る手ももどかしく、一気に読了。今さらながらウィンズロウはすごい。「犬の力」「フランキーマシーンの冬」と立て続けに(しかも世界のまったく違う)傑作を書いた後、今度はトレヴェニアン「シブミ」の世界を蘇らせる本作ときた。

    何より素晴らしいと思うのは、トレヴェニアンへの敬意に満ちていながら、しっかりウィンズロウの作品になっていることだ。視点の切り替えによるサスペンスの盛り上げ方や「若き日のニコライ」という造型、第二次大戦後のアジア情勢の取り込み方等々、当代きっての実力作家の面目躍如の感がある。

    欧米の映画や小説で描かれる日本を日本人が見ると、まあたいていは「は?」「はぁ〜」という感じになるものだ。タイトルから(サトリ、だもんなあ)その手の「東洋の神秘」的キワモノを想像する人がいるかもしれないが、本作は違う。むやみやたらなアジア礼賛ではなく、バランスのとれた書きぶりになっている。こういうのってなかなかないものだ。サイゴンの街の美しさの描写が非常に印象的だった。

    戦慄的な拷問の場面もあるし、中国共産党やらCIAやらが暗躍する血と裏切りに彩られた物語ではあるけれど、それでもなおしみじみとした余韻を感じさせる。

    主人公ニコライの独特な魅力とともに、忘れられないのが渋い脇役達。壮絶な川下りをともにするタセル、おしゃべりなド・ランド(すごく気に入った!)、僧侶の雪心、ちらっとしか出てこない人に至るまで血が通っている。素晴らしい。

  • トレヴェニアン作「シブミ」の前日譚。「トレヴェニアンことロドニイ・ウィテカーは、独創的な大作家で、真似ようとする者は一流コメディアンの芸風を下手くそになぞる三流芸人に見えるのがおちだろう」。ウィンズロウ自らが著者あとがきにこう記している。三流とまではいかないが、本書と「シブミ」を比べるとウィンズロウほどの手練れにして二流の上程度に見えてしまうのは致し方ないところなのだろう。アクションシーンはふんだんにあって映画を観るようにビビッドではある。しかし、そのこと自体、すでに「シブミ」が失われているといっていい。「シブミ」ではニコライ・ヘルの暗殺シーンはほとんど出てこない。暗殺や活劇を極力書かずして「暗殺者の物語」を紡ぐ。そこが「シブイ」のだ。とはいうものの、ウィンズロウが新たに世に問うたニコライ・ヘルの物語にはトレヴェニアンとはまた違った持ち味があることも事実で、チャンドラーの遺作をパーカーが引き取って完成させた「プードル・スプリングス物語」を彷彿とさせる。何人もチャンドラーの真似はできないことを百も承知で開き直って見せたパーカーの潔さと、ウィンズロウの思い入れが二重写しのように滲んでくる。「サトリ」には渋さも侘び寂びもこれっぽちっも感じられなくて、むしろハリウッド的であるのだけれど、「シブミ」とは別物だと割り切れば、これはこれで楽しめます。

  • すごいものを読んだ。

  • 『シブミ』の前日譚という紹介が多いが、厳密に時系列的には『シブミ』の上と下のちょうど真ん中に位置する作品。ウィンズロウに対する期待が大きすぎて拍子抜け。特に上巻冒頭の日本描写の諸々にシラける。 しかしこれを読むために『シブミ』から遡って読んできたというのに、変に間を空けてダラダラ読んでしまったせいもあり、ノリそこねて特に後半話が全然頭に入ってこない。メチャ読みやすいのに。章立ても細かく一気に勢いつけて読むべき作品なのに読み方を誤ったというのは確かにある。でも読み直す程でもないしなあ....。

  • 『シブミ』で卓越した問題解決能力を身につけていた主人公が、チープな駆け引きで運命を他に委ねてしまうようなシーンが多いことにがっかり。

    以前、『ハンニバル・ライジング』での主人公の描き様が『シブミ』に似ているという感想を書いた。そしてこの『サトリ』では、映画のハンニバルシリーズのように、天才を凡庸に描いてしまったと感じる。

    囲碁の話も、日本での話も薄っぺらくなってしまっている。『シブミ』を面白く感じた人は、むしろ思い出を大切にしておいた方が良いかもしれない。

  • この下巻には、堂場瞬一氏驚愕、と帯にあざとく記されています。

    ともかく、児玉清のように常に海外ミステリにアンテナを張って最新作をチェックしているわけではなく、あるいは最近、敬愛する読書案内人・北上次郎の文章からも疎遠になっていて、この作者についてもまったく知らずに、偶然手にして一気に読んでしまったのですが、未曾有の体験でした。

    考えてみれば、こういう陰謀術策渦巻くスパイ・アクションものは、割としょっちゅう映画やドラマで観ているので嫌いじゃなく、どちらかというと大好きな部類に入るのでした。

    っと、待てよ、ドン・ウィンズロウなどという作者の名前は聞いたこともないと思い込んでいましたが、ひょっとしてと思って、北上次郎『冒険小説の時代』(1983年)をパラパラめくると、あれまっ、ありました。

    彼の『シブミ』という1979年の作品に関してかなり細かい分析があって、読んでもいない私はほとんど読み飛ばして、そしてその本に興味も示さずにいたのでした。
    なんという愚かな・・・・・

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著者プロフィール

ニューヨークをはじめとする全米各地やロンドンで私立探偵として働き、法律事務所や保険会社のコンサルタントとして15年以上の経験を持つ。

「2016年 『ザ・カルテル 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ドン・ウィンズロウの作品

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