ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

著者 :
  • 早川書房
3.48
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本棚登録 : 736
感想 : 108
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152093783

作品紹介・あらすじ

9・11の現場からアフガンまで暴力と絶望渦巻く世界五都市にて、日本製の機械人形の存在を通して人の行為の本質を抉り出す連作短篇集。ポスト伊藤計劃と目される気鋭の新人によるデビュー第2作

感想・レビュー・書評

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  • 人間の業と本質、国家・民族・宗教・戦争・言語がテーマだそう。
    なかなか理解するのが難しい。
    今までに読んだことのない世界観ではある。
    この雰囲気でミステリを描いてくれたら好きかも。

  • 図書館で。SFなんだけど現実の出来事が織り込まれていて所詮フィクションだし、と片付けられない辺りが重い。そして辛い。でも折角再建したビルをもう一回破壊する意図はなんなんだ。
    歌う人形はなんとなく初音ミクみたいなイメージだなあと思いながら読みました。アレはソフトだけでハードは無いけれどもそのうちセットできるギミックとか出来そう。そして何が軍事目的に加工されるかわからない…これ、結構ありえそうで怖い。
    なんかこういうの読むと戦争は既に始まっていた、というようなタイトルの村上龍の作品を思い出す。じりじりと怖い。

  • 表題作を含む5つの短編から成る。SF仕立てだが、時間軸は限りなく現在、あるいは直近の未来。ヒーロー不在のハードボイルドといった趣きだ。とりわけ「ヨハネスブルグの天使たち」と「ジャララバードの兵士たち」は、硝煙の香りのする潤いのない乾燥した世界の中で、今生きていることさえ不確かな、ひりついた状況を見事に描き出す。ここでは、もはやアイデンティティ問うことさえできない。そんな問いは贅沢であると同時に、ここでは空無だからだ。そうした意味で、これは20世紀を突き抜けた極めて21世紀的な小説だと言えるのかもしれない。

  • 子供のころ読んだSFは、化学技術による恩恵で人々はいつまでも幸せに暮らした、というハッピーエンドばかりで人間の知能を超えるロボットや、超高速で走る乗り物が世界に平和をもたらすのだと信じ込んでいた。しかし、時が過ぎ、少し大人になって今度は少し分厚いのを手にした。人間の成長に合わせて、SF作品も成長していく。幸せになるために革新や進歩を求める余り、ごく身近なものが風化されていく事実を目の当たりにするかのように。この物語はそんな「幸福」を求めて見誤った人々によって産み落とされた、負の遺産、すなわちDX9という美しい少女型ロボットについて描かれる。彼女たちに罪はない。ただ愛する人のために歌を歌い、ざらついたノイズのような世界で人を殺す兵器と化し、人々のエゴのために落下と破壊を繰り返していく。歌を歌う少女(=歌姫)という幸福の象徴が、時代を超え、世界のために兵器のために悪魔と化す。戦争が幸せのための手段と言うならば、この世界に救いはあるのだろうか。

  • DX9というロボットを軸として、微妙に時間と場所がずれながらも、短編が繋がっていく近未来SF小説。良く出来ていると思う。思うけれども、伊藤計劃氏や円城塔氏の作品を読んだ後に読むと、ちょっと物足りなさがあると思う。
    それは、書き方や世界観の表現の手法の問題だと思うのだけれども、どうしても似ている感じは否めない。否めないが著者の他の作品を読んでいないので、この本だけが特別なのかもしれない。
    純粋さは記号化された存在となり、個性はノイズとなり排除されていく。いつの時代も人は悩み、現実から逃げ、問題を後回しにして、他人との接触はヴァーチャルな世界となり、ヴァーチャルな世界が、生きていることを実感できる場所となる。ヴァーチャルな世界のテロは、現実の世界に影響は無いが、人の価値観を変えていく可能性がある。繋がりは希薄化し、人は脆い存在となり、機械は耐久性と量産性が重視される。
    SFだけれども、リアルでフェイクな世の中は、人の多面性を排除し、宗教により統一化され、悲劇が連鎖する。信用は連帯に繋がるが、広がりを求めない。人の記号化と個性のノイズ。純粋なデータのみが信頼される世の中に、真の幸福はあるのか。おそらくそれはヴァーチャルな世界の仮想幸福なのかもしれない。苦痛も悩みも無い世界で、無感動で生きていく、何も無い平穏こそが幸せなのだとしたら、思考は邪魔な存在になってしまう。
    人が生きる意味とは何か、死ぬとどうなるのか、考えさせられるが、そこに明確な答えはなく、そしてこの本に求めるべきものではない。

  • 2021/10/23購入
    2021/10/30読了

  • 「スペース金融道」の作者で割と最近ちょこちょこ聞くので、借りてみた。
     DX9というアンドロイドを軸にすすめられる短篇。
     
     2篇目の「ジャララバードの兵士たち」がよかった。
     流浪の日本人、ルイ(本名・隆一)とアメリカの軍人ザガリーの道中。
     殺されたかつてのルイの同級生、ナオミをめぐって展開する軍の暗部。
     
     DX9は単なるアンドロイド、ではなく本来は金持ち用の歌う楽器として流通したが、武器として改造されたり、人格の転写をしたりと多機能。

     余談だが、初音ミクが三次元化するとこうなるんかなーと思ったりした。

  • 小説

  • 2013-6-2

  •  日本SF大賞を受賞した『盤上の夜』につづく、新鋭SF作家の第2連作短篇集。

     本書も『盤上の夜』に勝るとも劣らない面白さであった。どの短編も、じつに知的でスペキュレイティブ(思弁的)。『盤上の夜』と本書は2作連続で直木賞候補にのぼって落選したが、本書で直木賞を得ていてもおかしくなかったと思う(まあ、SFでは直木賞が取りにくいわけだが)。

     連作の舞台となるのは、近未来の南アフリカ、ニューヨーク、アフガニスタン、イエメン、そして東京――。
     異なる舞台をつなぐバトンとなるのは、日本製のホビーロボット「DX9」、通称「歌姫」。富裕層の道楽品として作られた、人間型の「歌うロボット」。いわば「未来の初音ミク」である。

     無数の「DX9」が、さまざまな形で物語の鍵を握る存在として登場する。
     たとえば、「9・11」テロの犠牲となった1人の青年の意識が転写されて。また、内戦の地ではその堅牢さから自爆テロ用の兵器に改造されて。

     単行本カバーの惹句には、「国境を超えて普及した日本製の玩具人形を媒介に人間の業と本質に迫り、国家・民族・宗教・戦争・言語の意味を問い直す連作5篇」との一節がある。

     まさしく、「国家・民族・宗教・戦争・言語の意味」などという大テーマに正面から挑む志の高さ、スケールの壮大さが、この作者の魅力なのである。それでいて、どの作品も先鋭的で刺激的なエンタテインメントとしても成立しているところがすごい。

     SFという狭い枠にとらわれず、いろんな作品を書いていってほしい。たとえば、青春小説や歴史小説の長編を書かせても、きっといいものを書くに違いない。

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著者プロフィール

1979年生まれ。小説家。著書に『盤上の夜』『ヨハネルブルグの天使たち』など多数。

「2020年 『最初のテロリスト カラコーゾフ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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