- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152093851
感想・レビュー・書評
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本書の主張は極めてシンプルだ。収奪的制度をしく国家は衰退する。なぜならイノベーションへのモチベーションが起こらないから。国家を企業に置き換えるととても分かりやすいのではないかと思う。苦労してイノベーションを成し遂げたとしても、単に収奪されるだけで報奨がなければ、モチベーションが上がらないのは当然だ。では何故収奪的制度がなくならないのか。権力の掌握は富の独占を生むからだ。そうした体制において、イノベーションは既存権力を脅かす存在として排除される訳だ。これはリアルでわかりやすい。
興味深いのは、ルーズベルトがニューディール政策を推進するために、最高裁判所判事の任命権を大統領の与える法案を通そうとした時に、米国では、経済的効果が期待できるにもかかわらず、行政権の濫用(=収奪的制度)につながるという理由で通らなかったことだ。現状の日本の状況に似ていると感じるのは気のせいだろうか。日本が収奪的な国家へ向かわなければよいと思うのだけれど。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
非常に刺激的な内容の本であり、著者達の理論には説得力があるように感じた。膨大かつ詳細な事例は、その理論を裏付けるために実に手際よく叙述されている。
今回、同書を電子書籍で読んだのだが、紙媒体の本で読むべきだったとちょっと後悔。というのも、線を引いたり、ページを折ったり、付箋を貼ったり、メモを書き込んだりするのは、やっぱり紙媒体の本が便利。上記のアクションは電子書籍でもすべて可能なのだが、やはり違うね。 -
世界にはなぜ豊かな国と貧しい国が存在するのか? 長期的な経済発展の成否を左右する最も重要な要因は、政治経済制度の違いであることを、歴史的な比較分析で論証する。【「TRC MARC」の商品解説】
関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40188692 -
豊富な事例研究ができます。しかし、上を読めば事足りると思う方や、最終的に偶発性や成り行きを結論にもってくることに対し非科学的と感じる方もいるかもしれません。
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14-16世紀の間、ヨーロッパが東南アジアにおいてプランテーションを、アフリカにおいて奴隷貿易を活発化させ、政治的中央集権化を阻む。
奴隷貿易が収束した後も、アフリカの社会と制度に対して奴隷制の影響が残り始めた。
奴隷貿易の廃絶は健全な社会を生まず、配置転換によってプランテーション農奴として使われた。アフリカの国々がしゅどうして、奴隷労働を拡大させた。
アフリカの二重経済…近代的で豊かな地域と、伝統的で貧しい地域に分割し、ヨーロッパ人が自らの利益のため、先住民を後者に押し込めた。私有地を排除し、労働力を安く提供することを強制された。
こんにちの世界に不平等が存在するのは、19-20世紀にかけ、一部の国が産業革命とテクノロジーの繁栄を享受した一方、他の国はそれができなかったからであり、それはヨーロッパによる収奪的制度の押し付けと、アフリカ人や先住民の、経済・職業的隔離政策にある。
フランスは、フランス革命により近隣諸国に侵攻し、それらの国々の収奪的制度を力ずくで改革することで、自国の制度を輸出し、ヨーロッパで工業化の道を開いた。
日本は外国に対する侵略の脅威から、明治維新により絶対主義を打倒したが、中国では逆に、より内向きで封建的な国家ができた。
【好循環のプロセス】
法の支配という考え方が一度定着すると、エリート層が好き勝手に法を捻じ曲げたり濫用することが出来なくなる。それは法をあらゆる人に等しく適用させなければ、一つの党派が過大な権力を持ち始め、多元主義を破壊するからであり、そうした包括的制度を守るために、エリートが自分に制約を課し法の適用範囲を庶民にまで拡大させた。ここに、包括的で多元的なシステムがさらに多源性を生むという、正のフィードバック・ループが起きた。
そして、この正のループが進んでいくと、エリートが時代を逆行させ、人々を力でねじ伏せることは魅力的でなくなる。包括的な経済制度により市場が発展した今、権力を支配することは自分たちも財産を失うことだし、少数のエリートが、台頭する大衆を力で押しつぶすのが難しくなるからだ。
また、包括的な政治制度は自由なメディアを発展させ、高活的制度の脅威に関する情報を提供し、それに対する抵抗勢力を結集させる。
包括的な政治制度の出現を促す3つの要因
・新たな商人・実業家階級の台頭
・広範な同盟
・議会および権力分担という政治制度の基盤の存在
【悪循環のプロセス】
収奪的な経済制度が収奪的な政治制度のための基盤を整える。同じ種類のエリートが収奪的な制度を支配し続け、そこから恒常的に利益を得続け、富と権力を手に市、政治・経済制度を更に自分本位に構築してくのだ。
また、収奪的な政治制度のもとでは権力の行使そのものへの抑制がないため、前の独裁者を打倒しても、次の独裁者が権力を乱用できる立場であり続ける。
人々の不満が一定以上に達すると、内戦が起こり、さらに社会を破壊していく負のフィードバックループが起こる。
こんにち国が破綻する理由の一つは、国家体制が破綻するから。中央集権化が未熟な国家における収奪的政治、経済制度のもとで、内戦や紛争が置き、国全体が破綻国家と化す。
【繁栄と貧困】
歴史の発展形態には、小さな相違と偶発性を含むため、今後政治的制度の中央集権化により、発展する国を正確に予測するのは困難だ。
中国の成長の基盤は創造的破壊ではなく、既存のテクノロジーの利用と急速な投資であり、中国の政治制度はいまだに収奪的である。そのため、今後持続的な発展は望めないだろう。
破綻国家への対外援助の多くは、経費と腐敗のために浪費され、独裁者の手に渡る。こうした富裕な欧米諸国が多額の開発援助をすべきだという考えは、貧困の原因が独立した経済基盤にあると勘違いしていることから生まれる。真の原因は収奪的制度のせいだ。こうした理由から、現在提供されている対外援助の少なくとも一部を、包括的な政治・経済制度の整備に使うことがカギとなるだろう。
より包括的な制度と漸進的制度改革が成功する要素は?→社会のきわめて広範かつ多様な集団への権限移譲に成功すること。政治権力が社会に広く行き渡ることが大切。これには、ある程度集権化された秩序と、形成された幅広い連合がある程度形成されていることがカギを握る。
また、これらの成功には、自由で腐敗していないメディアの存在も大切である。
【感想】
国家はなぜ衰退するのか を読んで
本書は、国家が何故衰退し、衰退が持続し続けるのかについての一定の原理を、歴史的経緯を綿密に紐解きながら、導き出している。
その理由とは、「国家が衰退する理由は政治制度及び経済的制度が収奪的かつ独裁制であり、多数の権利者の広範に及ぶ連帯がなされていないから」である。
私はこの本を読むまで、アフリカやラテンアメリカの国家が、未だに貧困に喘いでいる理由を、
無知、貧困、内戦などの様々な理由が複合した結果だと思っていた。
しかし、そうした数々の要素は、元をたどれば一つの原理に集約される。
それは「指導者や征服者による人為的な悪政」の結果であり、
これは政治と経済が切っても切り離せない関係にあるために起こる負のサイクルの原因である。
一度権力を手にしたエリートは、国家全体の繁栄よりも、自分の懐を収奪により肥やすことに執心する。
懐が肥えたエリートは政治的権力を握る力ができ、国民が包括的に政治に参加する余地を潰し、
それが更に国を荒廃させることに繋がるのだ。
今日における失敗国家は、いずれもそうした政治的腐敗からの内乱、クーデター、政権交代--独裁者から他の独裁者に首を挿げ替えただけの--というパターンに当てはまっている。
私が感じたのは、包括的経済性がマックスに近い先進国においても、権威主義的な執政者の登場により、
経済的・政治的包括性が退化していく可能性があるということだ。
経済の停滞が政治の腐敗によるものならば、現在多くの先進国を悩ませている既得権益層の固定化が、今後の世界全体の連帯を狂わせるとしてもおかしくはない。 -
シラバス掲載参考図書
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180504 中央図書館
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社会の繁栄と貧困の差は、政治と経済の制度の違いによって生まれたと説明する。
多数の資源を少数が搾り取る収奪的制度では、所有権が保護されず、経済活動のインセンティブも与えられない。少数は、自らの利益のために収奪的制度を維持し、手に入れた資源を利用して政治権力を強固にする。収奪的制度の下でも、政治的中央集権化化によって、ある程度の成長が可能だが、創造的破壊によるイノベーションが起こらないため、成長には限界がある。また、政治権力をめぐって闘いが発生するため、社会は不安定になる。
包括的政治制度では、政治権力が幅広く配分され、法と秩序、所有権の基盤、包括的市場経済が確立される。有史以来、収奪的制度がごく普通だったが、14世紀のペスト流行、大西洋貿易航路の開通、産業革命といった歴史的な決定的岐路において、既存の制度との相互作用によって包括的制度が生まれた。
今後、収奪的制度下でも政治的中央主権下で成長しそうな国は、アフリカではブルンジ、エチオピア、ルワンダ、タンザニア、ラテンアメリカでは、ブラジル、チリ、メキシコなど。中国は、持続的成長をもたらさないため、いずれ活力を失うと予測する。
本書は、ポール・コリアー、ウィリアム・イースターなどから称賛されているが、ジェフリー・サックスは単純な制度決定論と批判している。
近代化とは、収奪システムから普遍システムへの移行であるという説明は、今まで読んだ本の中で一番わかりやすかった。 -
上巻に続き、国家規模の貧富や発展の差がどこから来るかについての研究。資源や文化、人種ではなく、制度であるとする主張とその裏づけが詳しく語られていることや、今世紀に入ってからも同じ愚行を繰り返していることに気づかされとても驚く。国連やNGOなどが貧困対策を講じているがなかなか改善しないことの原因が理解でき、この手の分野に関心のある人は必読。また、国だけでなく会社や組織の成長にも大きく関わる知識である。