見てしまう人びと:幻覚の脳科学

  • 早川書房
3.55
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本棚登録 : 280
感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152094964

作品紹介・あらすじ

幻覚は狂気の徴候でも不名誉でもない。比類なきカテゴリーの意識であり精神生活なのだ。人間のありようの根幹を伝える驚くべき実例を共感をもって紹介する、サックス渾身の「幻覚のアンソロジー」。

感想・レビュー・書評

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  • 見てしまう人びと、やばい人の話っぽいタイトルであるが、医学的にはよく知られた幻覚について、書いた本です。患者の体験をいきいきと描くのが、オリバーサックスさんのスタイルで、この本でもそれが生きていると思います。著者自身が見てしまう人びとだからか、自身の体験が多く出てきますが、僕自身は、熱が出ても何も見えないし、寝たり起きたりしても何も感じないし、宗教も信じない人なので、脳疾患の人々以外の部分に関して、これほどあるのかな~と疑問を感じました。脳のメカニズムに関して、一部記載がありますが、手紙などからの体験が多く、もう少し脳について語ってほしい気はしました。

  • 「HALLUCINATIONS」不思議の国のアリス症候群は知識として持っていたけれど、脳の機能として(脳を誤情報が通過する際の間違えとして)要塞スペクトルというのが走ってしまうという事が脳に予めインストールされているというのは驚いた。私は予期発作の前兆として輪郭の極端なまでの強調が「嫌悪」と同調して起きる。この本には様々なHallucinationsの事例として独立した「幻覚」と感情を伴う「共感覚付き幻覚」(通常、人が見る夢は大半が感情と接続されている)が大量に事例が上がっており、私のこの輪郭強調と嫌悪の共感性は「そういうものなのだ」とやっと納得出来た。また、私は長年の睡眠障害(昨年、非24時間睡眠覚醒症候群だとついに解明しほぼ全ての睡眠の苦しみから開放された)から文中にあるマイクロスリープが余りにも多く、数こそ少なかれどこれも文中にあるとおり「あまりの強烈さに一度経験しただけで忘れる事が出来ぬ」激烈さを持って体験した事が出眠時幻覚(激烈なる恐怖と嫌悪の共感覚付き)であったことが分かってこれも良かった。また、幼少時に限った際に数度起きた数字が指数的に積み上がっていて宇宙の秩序を破壊してしまう恐怖を伴う譫妄(私の場合は宇宙ではなく子供なのに「借金」のようなものとして解釈した)が「算数譫妄」という用語としてズバリそのまま出てきたことに大変に驚いた。こんなマニアックで説明し難い体験が世界中で起きてるとは言わなくても、ままある譫妄の一つ、少なくとも類型化可能な程度にはよくある、ということが判明するこの驚き。私が頭を二度打っている事は私の人生には何か影響があったのか、これはもはや分かりそうにないけれど若干に興味が湧いた。一つは7針の大怪我で、特にもう一つ気になる方は外傷こそないが私はただ普通に立ったままで、走り込むように近寄ってくる母、救急隊に促されるままに横になる自分を非常に冷静に感じており、何一つ問題が起きていないのに、家族の中では「大事故」、私の中では「遊び」という食い違いが起きた頭部への衝撃だ。私は間違いなく「自分の意思で喋られない・応答しないことを選んだ」確信があったが、母曰く、私が頭部CTやらMRIやらの画像を指差して「それは誰の頭?」と私が言い出すまでの時間は地獄のような恐怖だったらしい、私は今でも頑なに「自分で喋らないことを選んだ確信がある」が、本文中にはこのような客観的に誤った状況についてどれだけ理性的に説明し場合によっては状況を本人が理解しても本人が頑なにそれを認めない状況が繰り返し登場する。私の場合はどちらだったのだろう?これだけは本書を読んでも最後まで謎が解けなかった。不思議の国のアリス症候群についてはもう慣れたので別に良い、害は無い。本文中のシャルル・ボネ症候群と同じなのでこれも実に体感としてよく分かる。本書はある意味「幻覚=精神異常者」との偏見修正との戦いの一冊でもあると言える。人間には四肢が予めプリインストールされており、人間の脳にはどれだけ理性的に思考しようとも贖い難い確信(決定的肯定)・恐怖(回避不能な嫌悪)の決定機構が備わっており、その他ありとあらゆる脳の生理学的な現象が、芸術・一般的に受け入れられやすい模様・更には幽霊・天使・悪魔・ドッペルゲンガー・臨死体験・神そして宗教を形作っていることが読みとれ、実に面白かった。そしてそれは前述の贖い難い確信・恐怖の決定機構から、一度こうだと自分で「分かって」しまえばそれは容易には覆られず、これが人間の数千年に渡る宗教制度を形作り、ジャレド・ダイアモンドやユヴァル・ノア・ハラリの云う「共同幻想」という人間の大反映を決定的にした機構なのかもしれない(それは偶然獲得したものなのか、何か必要に迫られたのか、これは進化論や進化心理学更には考古学が関わってくる為更に解明は困難であろう)。

  • 今話題の不思議の国のアリス症候群についてもちらっと
    見えちゃう人に対してはつい合わせちゃうんですけどね~・・・

  • サイエンス

  • 見てしまう人びと:幻覚の脳科学

  • 人間がものを見たり、聞いたり、触ったり、味わったり、嗅いだりすることができるのは奇跡的なことのようだ。体の各部位と脳との精緻なネットワークでそれが実現されている。そのひとつでも欠けたり不具合が生じると、目や耳に異常がなくても、見たり聞いたりすることが正常にできなくなってしまう。そんな自体にも脳は一生懸命に解決しようと働く。そのときに幻覚や幻聴が現れる。

  • 幻覚の様々な症例。感覚器官に障害を得たこと、癲癇等の脳の器質的原因、薬物接種等による幻視、幻聴、幻嗅、幻肢。
    「居るはずのない人が見える」などの症例は一見オカルトと片付けられそう。だが医学的に見れば、情報処理システムとしての人体がエラーを起こした状態として説明できる。それはシステムの主体たる当人にとっては現実と同じで、同じように楽しかったり怖かったり愛しかったりする。
    [ http://booklog.jp/item/1/4042982115 ]や、[ http://booklog.jp/item/1/4152084332 ]で読んだこととも関連。
    「さまざまな感覚器官からの入力が混乱するだけで、脳による身体の表象が往々にして惑わされるのはまちがいなさそうだ。視覚と触覚の言っていることが一致しているなら、それがいかにばかげていても、生まれたときからの固有受容感覚と確実な身体イメージでさえ、受け入れてしまうことがありえる(p322)」。こんな指摘を見ると、少なくとも成長途上の子どもにはVRをあまり使わせない方がいいのかもしれない。

  • オカルトチックな内容ではなく、数多くの症例を収集し、まとめた本。
    幻覚等の話は聞いた事はあるけど、ここまで多岐に渡る様々な症例の中で起きているのであれば、もっと身近な話題なのかもしれない。
    我々は目で見ているのではなく、脳で見ているのだという事を改めて教えてくれる本でした。

  • 本書の内容は訳者あとがきに尽くされている。

    幻視、幻聴、幻嗅、幻肢などの幻覚は一般に思われている以上にありふれていて、脳が何らかの因子に反応している、ということだ。

  • オリバー・サックスの本は、臨床事例は豊富だが、その症例に関する脳神経科学的考察がないことが多く、知的疑問に答えられていないことが多い。本書もその例にもれず、幻覚をテーマにした多数の事例が紹介されているが、最近の知見であるfMRIやPETなどによる脳の生理学的な側面からの検証もほとんどなく、また統計的な分析もない。シャルル・ボネ症候群、感覚遮断、パーキンソン病、片頭痛、癲癇、薬物中毒、入眠状態、など症例はさすがの質と量を誇っているのに、常に肩透かしをもらうような感じを受ける。

    中でも視覚を失ってからもないはずの目を通して見るように幻覚を見るというシャルル・ボネ症候群の症例は重要なのだろう。この場合、患者は幻覚を幻覚であると意識をして見ているところが特徴的だ。一方では、幻覚を幻覚として認識しない症例も多い。その場合には、そのことによって生じる矛盾についても何とか取り繕おうとすることも多いようだ。いずれにせよ、幻覚は、正常な感覚入力を失ったときの、脳の働きについて何かを教えてくれる。

    こういった事例をたくさん集めてみると、幻覚や幻聴というものはそれほど珍しいものではないのではないかというのが著者の主張でもある。昔の人は幻覚・幻聴が聞こえて、普通にその内容が人びとの生活において重要な役割をはたしていたのではないかという説もある。本書でも触れられているが、ジュリアン・ジェインズが『神々の沈黙』で唱えた説だ。彼によると約1,000年ほど前に意識の誕生とともに「声」は内面化して自分自身のものとして認識されることで、幻覚・幻聴が抑圧されることとなったという。著者も比較的肯定的にこの説を取り上げているが、幻覚はもっと身近なものとして捉えられるべきものではないかという。実際に著者が薬物によって幻覚を見た例も取り上げられている。

    おもしろくないとまでは言わないが、おもしろくないと言えば面白くないかな...。もっとおもしろくできるんじゃないの、と思う。


    『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4314009780

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