猫的感覚: 動物行動学が教えるネコの心理

  • 早川書房
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152095022

作品紹介・あらすじ

ネコは私たちをどう感じているのか? ネコの愛情表現とは、ストレスとは? 身近だけれど謎に包まれたその生態や進化の歴史、接し方のヒントを動物行動学者が明かすNYタイムズベストセラー

感想・レビュー・書評

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  • 帯の裏には「どうすれば人なつこいネコになる?」「ネコが飽きないおもちゃとは?」「ネコはわたしたちをどうみている?」というような飼い主の素朴な疑問をわざわざ載せていて、それらの疑問にずばっと答えてくれる本のように思えるのだけど、飼い主として知りたいそれらの話題は、全体からするとごく一部でしかない。

    猫の祖先となる世界中のヤマネコの話や、歴史的にいかに人間社会に入り込んでいったのか、その過程の犬との差異や、身体のつくり・器官について、どういった要素が遺伝によるのか、などがメインの学術的な本である。

    図表・図解なども少なくイラスト以外は文章だけで構成されているので、「ネコの飼い方入門」とは違うと思っても、「うちの猫は何を考えているのか」「あの行動には何の意味があるのか」という具体的な疑問を胸に読んでも、解決はされないかもしれない。
    ペットの猫との暮らしに即座に役立てようというよりは、猫を生き物として深く知りたい人のための読み物と思った方が良いだろう。

    子猫の時期の、飼い主や親兄弟との関わりと経験が、社会化(つまり人間に対する態度など)に強い影響を与えるという話や、猫同士の関係性などの記述は興味深かった。

    ちなみにゴロゴロは甘えているとか喜びの表現と一般的に言われているが、そうとは限らず、人のいないところでも猫は一人でゴロゴロいっているそうである。我が家の飼い猫と照らし合わせて大いに納得する部分があった。

    この本でもっとも考えさせられたのは、飼い猫・野良猫の繁殖と去勢についてである。

    猫を都会で飼うにあたっては、基本的には去勢したうえでの室内飼いが推奨されている。
    この本から垣間見える欧米での猫事情と日本のそれとはまた若干状況が異なる。オーストラリアなどでは、飼い猫のハンティングが野生動物を絶滅に追いやるとして非難の的になっているところがある、というのは初めて知った。
    しかしペットの雄猫への去勢が積極的に薦められているのは日本もかわらないし、野良猫の去勢の活動も行われている。

    飼い猫の病気のリスクやスプレー・家出・発情期の騒ぎなどの問題行動をふせぐには、子猫のころに去勢してしまうほか対処法がなく、それさえ済ませれば非常に共生しやすいパートナーになってくれる。
    しかしこの可愛い相棒の血を継いでくれる、直系の子どもはもう望めないのだ。
    その一方で、自然な繁殖を繰り返す猫たちというのは、荒くれ者で人間に対する警戒心の強さゆえに生き残っている野良の猛者たち(もしくはブリーダーに管理された、ともすると問題のあるDNAを伝え続ける純血種の猫)なのである。

    飼いやすい人なつこいネコたちが去勢されて一代限りで人のパートナーの役割を終え、人から逃れ続ける猫たちだけが繁殖し続けると、未来の猫の性質はどうなってしまうのだろう? 地域猫活動のありかたと合わせて、真剣に考えたい問題である。

  • 「生物学的に」猫を研究した本。

    避妊・去勢が当たり前になっている今、野良猫が減るのは本当にいいことなのかな? って考えさせられたえ。

  • 英国の著名な人間動物関係学者による、猫に関する分析結果をまとめたもの。猫の生態や進化の経緯、イヌとの違いなど、猫について科学的な調査結果を基に、その生態について詳細に書かれている。ネコはイヌとは違い、狩りへの執着があることと、縄張り意識が強いために、人間と仲良くなりにくいことがわかった。
    「イエネコは「人間の親友」であるイヌよりも多く、数にして3対1ぐらいだ。アメリカの1/3の家庭は、1、2匹のネコを飼っている」p19
    「ネコは愛情深いと同時に、独立独歩の生き物である。ペットとして、イヌに比べネコは手がかからない。訓練も必要ない。自分で毛づくろいをする。1日じゅう放っておいてもイヌのように飼い主を恋しがることはない」p19
    「イヌは表現力が豊かだ。尻尾を振り、飛びついてあいさつするので、幸せなときはまちがいなくわかる。また、つらいときは、それを躊躇なくわたしたちに知らせる。かたやネコは感情をあらわにしない。感情を胸に秘め、空腹のときに食べ物をねだる以外は、めったに要求を伝えない。ネコが喉をゴロゴロ鳴らすことは満足を表現していると長い間信じられてきたが、最近になって、もっと複雑な意味があることが判明した」p23
    「飼い主の納屋でネズミを繁殖させてしまったネコ、あるいはヘビが家の中に入るのを許し家族の誰かを噛ませたり毒殺させてしまったネコは、長く生きられなかっただろう」p56
    「ネコは徐々に人間の家と心に入り込んできて、野生のネコからイエネコへと、何千年もかけて変化していったのだ」p58
    「(ネコは肉食)ネコ科の動物は栄養的にも肉をとらなくてはならない」p111
    「主としてのネコは多くの社会的環境に適応できるが、個々のネコは一般的に適応できない」p170
    「ほとんどのネコは、人間の関心それ自体をほうびとはみなさない。かたや、イヌはほうびだとみなす。第二に、イヌは本能的に人間にとって役に立つような行動をする。たとえば、牧羊犬のヒツジの番は、イヌの祖先、オオカミが狩をしたときの行動から成り立っている。必要なときに特定の獲物にイヌの関心を向けるのは、わたしたちの責任なのである。ネコの行動には、訓練によって磨きをかけられるような役に立つ特徴はほとんどない。人間が望んでいようが望んでいまいが、ネコは穀物倉庫に侵入してくるネズミを探すだろう」p181
    「ネコはすばやい決断を下せる。逃げるべきか、毛糸球で遊ぶべきか、飼い主の膝で丸くなるべきか。しかし、ネコはイヌほど社会的に発達していない。まちがいなく知性はあるが、その知性はもっぱら食べ物を手に入れ、テリトリーを守ることに活用されている。相手との相関関係から生まれる感情、たとえば嫉妬、喪失、罪悪感はおそらくネコの能力を超えているだろう。そのため、ネコは他のネコと親密に暮らす要求に、なかなかうまく応じられない。だが、家畜化が進むにつれ、ネコはそういうことを求められるようになった」p207
    「歴史的にネコはイヌのように人間に対して親密な愛着を形成する必要がない」p243
    「(ネコ嫌いの人間)ネコは部屋に入って数秒で、人間の嫌悪感に気づいたようだ」p290
    「持ち込まれたほとんどの場所で、ネコは捕食動物と戦って勝ちをおさめている」p296
    「生後3週間ぐらいまでの育て方で、どういうネコになるのか決まってくる」p328

  • 猫がどのように人間社会に関わるようになったのかという歴史的見地と、猫の狩猟本能と、現代社会で猫が求められる役割の相違についての見解。猫の観察実感からなる猫の行動の本当の意味が(にちがいないという記述が多いが)理論的に記載されている。
    猫を飼っていて、擬人的な要素を猫に見いだしている人には現実を直視しなければならないかもしれない。
    ても猫に対する愛は変わらないかな。
    今後猫を飼うときには注意しよう。

  • 役者あとがきに「猫を幸せにする本だ」と書かれていた。うん、その通りかもと思う。真面目に猫の将来を考えている本。

  • 猫は肉食。
    犬は雑食。

  • よく知っているようで知らない猫の側面を科学的に、かつ愛情たっぷりに書かれた本です。直接的な飼育書ではありませんが、猫好き、猫飼いさんはぜひ読んでみてください。
    そもそも猫がどのように人のそばで生活するようになったのかという歴史的背景からはじまり、猫がどのように世界を知覚しているのか、また感情や思考がどのようになっているのかについても記述されており、深く猫について知ることができ面白かったです。

    今のような室内飼いがあたりまえになったのも、人と猫の長い歴史からすればごく最近のこと。人と猫の関係は、今の状態が普通のものと思いこんでいましたが、長い歴史の中で徐々に変化しており、そしてこれからも変化し続けるものなのだと認識を改めることができました。
    例えば今や去勢手術が猫のため、人のために良いこととされていますが、それが将来的に猫という生き物にどう影響してくるかは未知であるとも筆者は言います。
    人と猫がより良く共に生きるためにどうしていけばいいのかを考えるきっかけになりました。

  • 文庫アリ。翻訳今一らしい??

  • 表紙から想像した内容とも期待していた内容とも違っていたけれど、歴史的科学的根拠を基に猫についてまとめられている内容は、これはこれでとても興味深い内容で、とても満足しました。
    論文や参考URLなど、注釈の情報量も膨大です。

    うちの子は何故あのような行動を…?と不思議に感じていた疑問に対しての答えのヒントもありました。
    改めて、猫は猫であって人間ではないという現実に引き戻してくれます。
    (なのに愛は冷めない、どころか益々愛しくも感じるから不思議だ)

    犬がとても発達しているということも興味深かったし、未来の猫についてはとても考えさせられます。
    虚勢や避妊で猫たちはどう変わっていくのか。
    一度も考えたことがありませんでした。
    このままいくと、人懐こい猫は絶えて、荒くれ者だけが残る事になってしまうのでしょうか。
    真面目に考えるべき問題だなと感じました。
    それでも答えは出ないのですが。

    それはそうと、こういった歴史の歩み的なものなどを読むと、人間って…と毎回なってしまいます。

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著者プロフィール

ブリストル大学獣医学部の客員研究員で、人間動物関係学研究所の所長。25年にわたりペットの犬や猫の行動を研究し、数多くの科学論文や研究報告書、レビューを発表している。

「2016年 『犬はあなたをこう見ている』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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