- Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152096395
作品紹介・あらすじ
両親を殺された少女リリイは、同じく親を殺された親友カレンの復讐の旅に付き合う。カレンは記した事柄を忘れられるふしぎな本の持ち主だった。第五回アガサ・クリスティー賞作家の受賞第一作。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
タイトルや本文中の記述から察するに、おそらく「うそつき、うそつき」の時代から三、四世代未来の世界。管理社会は崩壊し、暴力の国と言えるほど荒廃した世界となる。国が犯罪抑止のために強盗を死罪にした結果、それ以上の罰が与えられることはないと強盗に伴い、口封じのために殺人が蔓延った。
まあつまり、前作とはまた違ったディストピアである。続編ではない。
この作品の主人公は、殺伐としたテーマの主人公としては面白いことに、二人の十六歳の美少女。
2人とも国でいちばん品の良いお嬢様学校に通う同級生。
1人は父を殺した強盗たちへの復讐心に燃える、金髪の美少女カレン。もう1人は黒髪で、国いちばんの銃の使い手と名高い、リリイ・ザ・フラッシャーと渾名されるリリイ。
物語は一貫してリリイの視点で語られていく。
2人とも裕福のゆえ過去に強盗に押し入られ、目の前で両親を殺されるという共通の過去を持つ。
己の復讐をするために、カレンは銃の名手のリリイに復讐の相棒となるよう話を持ちかけ、2人は復讐の旅に出る。
さて、この物語の鍵となるのが、忘れたいできごとについて書き込んだら綺麗に忘れることができる、忘れたことすら忘れてしまえる魔法の本、通称「ダイアリー」。カレンの家に押し入った強盗たちの目当ては、このダイアリーだったが、なんとか奪われずにカレンの手元にある。
このダイアリーを用いて、復讐相手に復讐されたことを忘れさせ、相手を殺すことなく禍根を残すことなく復讐を完了させる…はずだった。
美少女×復讐譚ということで、厨二病的な?と思われそうだが、ちゃんとテーマもメッセージ性もある。
人によってはモヤモヤするだろうし好みも分かれる作品だろうが、これだけは言いたい。
これは、決して復讐礼賛譚ではない。
復讐のためにはどんな手段も厭わないカレンに対して、リリイはやりすぎだと何度も諌め、復讐を続けるかどうか、続けていいのか何度も2人は言い合い衝突する。
やったら、やりかえされる。
このよくあるテーマを、この作品は、暴力の国に生きる思春期の少女たちのぐちゃぐちゃになるまでの葛藤を通して描いていく。
よくあるテーマということは、この話はフィクションだが、それだけ私たちの身近にあるテーマでもあるということ。
卑劣な犯罪を行なった人が裁判の末軽い罪になったと報道された時、多くの人が罪が軽すぎる、死刑もしくは無期懲役にすべきだ、などと考えを述べたりしますよね。私たちの心の中には、重罪を犯した者には報復を、という考え…望みとも言える…が少なからず根ざしている。もちろん全員ではないだろうが。
他人の被害はその程度で済むが、もしも自分や自分の大事な人が酷い目にあったら?
心の底から復讐を否定できるだろうか。
そしてテーマはもうひとつ。
「わすれて、わすれて」というタイトルにある通り、忘れること…特に辛いことを忘れることの是非について。
いつまでも覚えていたい大切な思い出も、どうにかしてでも忘れたいほどの辛い思い出も、ひとは抱えて生きていかねばならない。
「ダイアリー」の存在を通して、少女たちは、さまざまな記憶を抱えて生きていくことについて考えていくことになる。
ちなみにこのダイアリーには、魔法のペンも対となって存在する。書き込んだ内容を魔法のペンで消すことで、再び思い出すことができるのだ。
作中で描かれるさまざまなダイアリーの使い方の是非については、それぞれ読み手の心で考えるとして…
もしダイアリーが手元にあったら、あなたはどのように使う?
そのようなことを、本作を読んで私は考えた。
あと私はこの作品とても好み。というか作者の世界観の設定の練り方が好きなのかも。
カレンとリリイのドライなやりとりや、2人とも自分が美少女だという自覚と自信があるところが、なぜか私にはうざったくなくいいなと思えた。
最後にカバーイラストが大好きだ〜ありがとう片山若子さん〜見惚れる。 -
前作「うそつき、うそつき」から、おそらくさらに時は流れて管理社会からは程遠く、世界は犯罪と暴力の国になった。
奪われた少女たちが求めたものは復讐と忘却。
魔法の本の使い道がちょっと残念。
傷ついて、復讐に向かう美しい少女たちは何とも危うい。
ロードノベルで青春小説だけど、ミステリではなかった。 -
記憶を消すことができるノートと、それを修正して思い出すことができるペン。この二つのガジェットの使い方で魅せてくれると思いきや、そこまで予想外でもないので面白味に欠ける。
全体的に驚くような斬新さがない話。それなのに、ところどころの文章で、「私、センスいいでしょう?」という作者のドヤ顔が見えるようで、居心地が悪いと感じてしまう。
これは前作「うそつき、うそつき」でも感じたことだ。作者の考える驚きのレベルが低すぎる気がする。この程度のネタではミステリーは書けないだろう。少女たちの復讐ロードノベルということで、ミステリーを期待してはいけないのかもしれないが……。
また、アクション・シーンの貧相さに苦笑してしまう。想像で補うことが前提となっているようだ。しかし想像すると明らかにおかしいような動きがあるので困りもの。
ラストも「正直あんまり考えていなかったのかな?」と思わせる微妙さ。テキトーだなぁ……と思ってしまった。
色々書いたが、文字数は少ないしサクサク読めることは読める。不思議な雰囲気や世界観も、慣れれば意外と肌になじんでくる。
凄くつまらないってわけではない。ジュブナイルとしてなら悪くないと思う。(だが、児童書にはこれよりも面白いものがいくらでもあるだろうなぁ。)