図書館は逃走中

  • 早川書房
3.13
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本棚登録 : 270
感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152096890

作品紹介・あらすじ

どこにも居場所がなかった少年は、移動図書館車を清掃する母娘に出会う。幸せな交流もつかの間、ある事件により彼らは逃避行を始める

「ここがぼくらの家なんだ」。家にも学校にも居場所がなかった少年。彼はある日、移動図書館車の清掃員の母娘に出会う。本を通じた幸せな交流もつかの間、ある事件によって彼らは移動図書館車に乗って逃避行の旅に出る。イギリスの新鋭による感動の長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 「図書館」というタイトルと装幀に惹かれて購入した本。踊るようなタイトル文字とカラフルな色彩、羽を広げて空を舞う本のイラストに、心躍る物語が幕を開けるのでは、とわくわくしながらページを開いたが、冒頭でいきなり警察に包囲される主人公たちに出鼻をくじかれた。

    物語は、時間軸を前後しながら少しずつ主人公たちの置かれた状況を明らかにしていく。主人公のボビーは、自分に無関心な父親と愛人のもと、理不尽な暴力に耐えながら、家を出ていった母親を待っている。ヴァルは、子供を愛せなかった夫と別れ、移動図書館の清掃を仕事にしながら娘ローザと暮らすシングルマザーである。三人は移動図書館の本を通して交流を深め、満たされない愛情をお互いに補い合っていくが、移動図書館の閉鎖が突然決まり、拠り所を失ってしまう。ボビーの身体に付けられた数々の傷を目にしたヴァルは、移動図書館に乗って現実世界からの逃走を決行するのである。
    誘拐事件としてメディアに連日報道されるなか、大したお金も持たず大きなトラックで走り続ける移動図書館。途中から行動を共にすることになる得体のしれない男、ジョーとも打ち解けて、四人は次第に本当の家族のようになっていく。
    そして最後に冒頭のシーンである。どう考えてもハッピーエンドにはなりえないだろう、と覚悟していたが、物語は思いがけない展開で幕を閉じる。

    物語の中で「移動図書館」というアイテムがあまり生かされていないのが物足りなく感じた。確かに移動図書館はボビーとヴァル、ローザをつなぐ要素となっているし、様々な本を通してボビーが成長していく様子も描かれている。だが、物語の中心は「血のつながりがあるけれど愛せない家族より、血のつながりはないけれどかけがえのない家族」という家族のあり方であり、家族が原因で辛い思いをする主人公たちへの「物語に終わりはない。悪いことからいいことが起こり、いいことから悪いことが起こるけれど、いつまでも続いていくもの」というメッセージであって、「移動図書館」の役割は付随的である。魅力的なアイテムだけに、もっとストーリーに深く関わらせることができなかったのだろうか、と少し残念に思う。

    気になる点もあるが、起伏のあるストーリー展開で楽しめることは間違いない。これからも続いていくであろう主人公たちの物語が、これまでの分を取り返すようにいいエピソードで綴られていくことを願ってやまない。

  • 本は自分を知らない世界へ連れてってくれる。それを改めて教えてもらった。自分が何故本を読むのか、初心を思い出させられたような。自分の世界がどんなに辛いものでも、それが当たり前だと、他の世界を受け入れられない。でも、本を読んで違う世界を知って、現実を変えられると分かった時に、人は変わっていく。主人公のボビーもそうだった。本は知らない世界を見せてくれるだけじゃなくて、自分の可能性にも気づかせてくれる。自分の世界を広げていくために、これからも本を読んでいこうと思う。

  • 母親がいなくなってしまった少年ボビーは、父親と彼が連れてきた女性(継母になる?)との間で、居場所のない生活を送っています。
    学校ではいじめられ、唯一の友人も引っ越してしまい、途方に暮れるボビーの前に現れたのはローザという少女とその母ヴァル。
    二人は「移動図書館」の清掃の仕事をしており、三人は「移動図書館」のもとでともにいる時間を増やしてゆきます。
    しかし、それぞれの「かけている」部分を補うような、居心地の良い時間は長くは続きませんでした。経営的な理由から移動図書館は閉鎖されることが決まります。
    唯一の居場所を守るため、3人は移動図書館のトラックを盗み出し、逃避行を始めます。

    つらい現実から逃れるための読書、という側面と、物理的にも「逃げる」という行為を結び付けた発想は面白いと感じました。
    ただ、翻訳の問題なのか原文の描写の問題なのかわかりませんが、全体的に文章が読みづらかったです。個人的には可もなく不可もなく、といった印象でしょうか。

    彼らが旅(逃避行≒冒険?)を続ける中で絆を深め、人間としていかに生きるか、ということ(「家族」とはどうったものか)を考え成長してゆく様子は、児童文学として定番の物語だと思いますし、「課題図書」として生徒に提案することはできるかな、とも思います。
    ボビーが移動中に図書館のトラックの中で読む様々な作品について、この本をきっかけにして読むのも面白いかもしれません。

  • 本と図書館が大好き。でもってこういう話はほんとに好き。
    主人公たちが幸せになることを心から願いながらページをめくるという素敵な時間を過ごしました。





  • 図書館に関する物語という点と、可愛らしい表紙に惹かれて読み始めたが、
    なかなか重い物語で驚いた。

    虐待にいじめ、知的障害に誘拐..

    読み進めるのが重く辛い場面も多かったが、

    最終的にはまぁ良い方向に纏まったので良かったのかなと..

    ボビーに、ヴァルにローザにジョー、移動図書館から繋がった良い家族..なのか..

    サニーのサイボーグになるシーンはとても衝撃的な、12歳とは思えないシーンで..驚いた。

    翻訳ということを踏まえても、場面の展開が分かりにくく、理解に時間のかかるところがあった。



  • ボーイ・ミーツ・ブックであると同時にボーイ・ミーツ・ボーイであり、ガールであり、ファミリーでもある。本には全てが詰まっている。
    あのジジイのような没落貴族?というのは実際にいたりするものなんだろうか。爵位を子供に継がせたくないという人がいたとして、それは可能なんだろうか。可能だとして、どんな手続きが必要になるんだろう。本当に子供を捨てた人とかいたんだろうか。遺言みたいなのに「息子○○に爵位は継がせない」みたいなことを書いとけばいいんだろうか。僕は日本の平民なのになんでこんなことを気にしているんだろうか。

  • 父親から酷い扱いを受け、学校でもいじめられている少年ボビーの冒険物語。

    物語は、どんな人の人生にもある。
    自分の決断と行動次第で、素晴らしい物語が紡がれていく。
    ハッピーエンドなんてない。だって人生には良いこともあるし、悪いこともある。その代わり、悪いことだけでは終わらない。だって、おはなしが終わっても物語は続いていくから。

    そして、ボビーは家族とは何かについても考えさせてくれる。
    血の繋がりだけじゃない。そこに愛があることが家族なんだ。

    ラストも余韻のある終わり方で、これから続く物語を想像させてくれる好きな終わり方だった。

  • 12歳のボビーは、学校ではいじめられ家庭では父親のDVや同居している父親のガールフレンドからのネグレクトで孤独に生きている。唯一の友人サニーは、二人だけの挑戦で大ケガをおい、ボビーから隔離するようにして引っ越して行ってしまう。出口のない世界でボビーが出会ったのは、移動図書館の清掃をしているヴァルとその娘ローザだった。
    父親のDV に追い詰められていくボビーの状況をただ一人理解しているヴァルは、廃止の決まった移動図書館にサニーと3人で乗り込み町から逃げ出す。
    誘拐犯として追いかけられる道中、軍刑務所から脱走したジョーと知り合いと4人で逃走を続けることになる。まるで仲の良い家族のように。
    追われていくなか、ジョーの過去やボビーの母親の事が徐々に分かり、ますます追い込まれていく4人。最後に4人が選んだ脱出法は?

    現実的に考えれば、このストーリーはあり得ない(と思う)のだが、最終章でホロリとしてしまう。4人+1人のラストシーンを勝手に思い描くとジーンとしてしまったりする。
    でも、結末は実現が難しいと思っても、4人(5人?)の置かれた状況は現実にありそうな事ばかりで、それがこのストーリーを最後まで読みきってしまう要因なのだと思う。
    移動図書館の本が効果的に出てくるのが、本好きには嬉しい。

  • 良い意味で海外の少年主人公…って感じするな…なんとなく…

  • タイトルの楽しさと表紙の可愛らしさに惹かれて読んだら、思っていたのと全然違った!

    第一章のタイトルが「ジ・エンド」
    子供二人を人質に立てこもる女性と、説得を試みる警察。
    え?これ、どういうこと?

    次の章からは主人公ボビーの話が始まる。
    学校では友達にひどい暴力を振るわれ、家に帰れば父とその恋人に無視され、または暴力を振るわれる。
    どこにも居場所がなかったボビーに、たった一人の友人ができる。

    サニーはボビーを守るため、サイボーグになる決心をする。
    身体に金属が埋め込まれていれば、ボビーを守ることも相手を殴り返すことも出来る。
    けれどサイボーグになる方法って言うのが…。

    ボビーもサニーも12歳にしては幼いような気がするけれど、どうなんでしょう?

    サイボーグになったはずのサニーは、夏休みの間に突然引っ越してしまう。
    もうどこにも居場所がなくなったボビーは、移動図書館の掃除婦をしているヴァルとその娘のローザと知り合う。
    ローザは知的障害があり、ヴァルはたった一人で娘を育てていた。

    家を出ていった母親を待ちながら、いろんなことを我慢してきたボビーは、ローザをいじめた子たちに手ひどい仕返しをする。
    一方、予算削減のため移動図書館が廃止となり、生活が追い詰められるヴァル。

    というわけで、図書館は逃走するのです。
    もう全然想定外。
    重くて苦しくて、読んでいて辛い。

    そこにもう一人、悪い人ではないと思うけど訳アリのジョーが加わって。

    結末は、悪くはない。
    登場人物たちにとっては。
    だけど、本当にそれでいいのか?と思う。
    全員が、大人も含めて、社会性に欠けているのが気になる。
    もう少し世の中を信じることはできないのか、と。

    でも、図書館ですよ。図書館。
    訳者あとがきに”移動図書館は識字率の低下を防ぎ、孤立した地域を社会と繋ぐという重要な役割も担っている。”とあった。
    世の中から、家族から、孤立した人々を社会と繋いだのは、確かに移動図書館だった。
    それが積んでいる本の数々が知識を与え、心を救い、彼らが生きて行ける場所へと運んだのだ。

    いや、だけど、本当にそれでいいの?

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